86話:暴走する野望
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それではお待たせしました、第86話更新です!
「認めない、認められルか……! 僕の野望を、終わらせテたまるかぁあああああ!!!」
レナータちゃん達に問い詰められ、学園長にモンスターフードの製造停止を言い渡された彼は、突如としてその態度を豹変させた。
洗脳の魔法で苦しめられていた魔物のように、その瞳には理性が失われ、怒りと憎悪で満ち溢れている。
「め、メルツェル先生……!?」
その形相はまさに獣、それをみたレナータちゃんは驚愕の表情で気圧される。
いつもの理知的で、落ち着き払ったいつもの様子とはまるで正反対のその姿に、この場のほぼ全員が固まってしまっていた。
「モンスターフードの力で、僕は、僕ハ――」
メルツェルはそのまま、勢い良く腕を振り上げ、そして。
「何よりもまず先に、てめぇはレナータに謝れよ、おい」
その腕が振り下ろされるより早く、リアーネさんの右拳がメルツェルの鳩尾へ深々と突き刺さっていた。
「それができなきゃ――死ねやぁ!!!」
「ガッ……!? あガ―――!?」
地面を蹴り駆ける音、拳が体へと衝突する音、あらゆる音を置き去りにした神速の一撃。
リアーネさんは渾身の力で拳を振り抜き、メルツェルは刹那のうちに――咲いているパールセノンを巻き込みながら――遥か彼方まで殴り飛ばされていった。
(う、うわぁ……メルツェルが何かする前に潰しやがった……)
メルツェルは抵抗する素振りを見せたものの、まさかこうも一瞬でカタガつくとは……。
見れば、他のみんなも一瞬で終わるとは思っていなかったようで、俺と同じく唖然とした表情になっている。
しかし、リアーネさんはその不機嫌な表情を崩すことはなく――
「ちっ、仕留めそこじった! お前ら気を付けろ!!!」
「「「「!?」」」」
――すぐに、俺たちへ警告を飛ばす。
「……まだ……おわ……ない……!」
メルツェルは吹き飛ばされた先で立ち上がっていた。
パールセノンを植物魔法で紐のように操り、そのボロボロになった体を無理やり縛り上げて動かしている。
まさか、パールセノンをクッションがわりにしたのか!?
「来るぞ!」
全員に警戒を促すリアーネさん。
メルツェルが腕を振り下ろした瞬間に――――
「アオーーーン!!」「ギチチチチ!!」「シャァァ!」「バウバウバウ!!」「クマァァ!!!」「ブグブグブ」「ヒヒィィン!!!」「ガォォォォッ!!」「クァッ。クァーーーッ!」
――百の獣が、植物園へとなだれ込んできた。
メルツェルの命令により植物園に乱入して来た魔物どもは、俺たち目掛けて一斉に襲いかかってくる。
「やぁっ!」
「ガ、ガグゥゥッ!」(き、キリがないっ!)
俺はまとわりつくトリ型魔物を尻尾で薙ぎ払い、腕を奮ってクマ型魔物を殴り飛ばしたりと応戦。
背中に乗せたレナータちゃんもまた、植物魔法で作り出した竹槍で魔物共と戦っている。
……けれど、いくら戦っても魔物の数は減ることが無い。
かつて夜のメル草原で魔物の群れと戦ったが、メルツェルの魔物の数はそれ以上だ。
「――! ティコ、飛んで!」
「ガウッ!」
レナータちゃんの命令にすぐさま従い、翼を振るう。
途中で魔物が何匹か俺を押さえ込みかかったが、無理やり飛翔した。
「ギャァァァッ!!」
(さ、サンドワーム……! 飛ばなかったら食われてた……!)
ミミズのような巨大なヘビ型魔物が、さっきまで俺が立っていた地面から顔を出し、開いた大顎を閉じる。
「ニャル、ナーオ、植物よ、根を張り、動きを封じよ!」
「ギャム……!」
すかさずレナータちゃんは、植物の種をワームの元へ投げつける。
みるみるうちに成長した根っこがサンドワームの口を縛り上げていった。
……魔物の種類は多彩、ビーストマスターズ予選でも見ることのなかった魔物の方が多いくらい。
その上、ご主人であるメルツェルがあんな状態にもかかわらず、ある程度統率が取れている様だった。
(くっそ、皆は大丈夫かっ)
俺も人の心配をする程余裕はないのだが、飛んだついでに周囲を観察する。
「ジンクスー! 封印魔法ででっかい奴を捕まえろー!」
「チュウチュウチュウーッ!!!」
エリーちゃんはジンクスに命令して、一際大きな一つ目の巨人を封印魔法の鎖で雁字搦めにしていた。
「グゥッッ……!?」
ジンクスのこの魔法はかなり強力らしく、力自慢のサイクロプスは身動き一つできなくなっている。
エリーちゃんはサイクロプスを縛る鎖を腕に抱えると……。
「よくやったジンクスー! よーしくらえ、サイクロプスハンマァァァァ!!」
「グギャァァァアァァ!?!?」
まるで鎖付き鉄球の如く、縛り上げられたサイクロプスをブンブン振り回し始めた。
サイクロプスの巨体が縦横無尽に跳ね回って、周囲の魔物達を吹き飛ばしていく。
「ははははー! どうだー! あたしは目を瞑ってるからなんともないぞー!」
「ふつーに危ないわよバカエリー!!! 吹っ飛んできた魔物にぶつかりそうになったじゃない!!?」
ココの背に乗ったシャーロットが、危うくぶっ飛ばされた魔物と激突しそうになっていた。
「「「ギャァァァス!!」」」
「ったくもう! ワイバーンしつこい!」
そのシャーロットは大量のワイバーンやトリ型魔物達と空中戦を展開している。
普段ならばココが飛ぶ速度の方が速いのだが、押し寄せる障害物が多すぎて、速度が出せない様だ。
「ココ! 連続ブレス!」
「スぁーーー……カカカカカァッ!!!!」
ココの口からブレスが何発も放たれ、追走するワイバーン達を蹴散らしていく。
しかし……。
「「「「ギャァァァス」」」
「あーもー! 何匹いるのよ! こうなったらブレスに引火させて……!」
「ダメだよシャーロットちゃん!? ここ植物園! 大火事になっちゃう!?」
「むぎぎぎぎ……!」
次々と湧いて出てくるワイバーンに痺れを切らしかけるシャーロット。
ビーストマスターズ予選の時と同じくブレスへの引火攻撃をしたいものの、レナータちゃんのいう通りこの場所でその手を使えば、間違いなく死者がでるだろう。
(無事だけど、応戦するのに精一杯か……!)
倒しても倒しても向かってくる魔物達。
このままではこっちの体力が保たないだろう。
決着をつける方法はただ一つ、こいつらを操っているメルツェルを直接叩くことだ。
現状でそれができるのは――
「ったく雑魚共がうじゃうじゃと……」
「アオォォーーーン!」
――メルツェルと同じく英雄と呼ばれる、リアーネさんくらいだろう。
リアーネさんの前に立ち塞がるのは、ウルフへジン。
しかも10匹を超える集団の真っ只中に、彼女は居た。
(嘘だろ……メルツェルのやつ、ウルフへジンをあんなに……!?)
生まれながらの戦闘生物と謳われる魔物を、徒党を組ませられほどの数を従えている事に戦慄する。
1匹ならリアーネさんは余裕で倒せるかもしれないが、この数では厳しいか……!?
「ガァォンっ!」
1匹のウルフへジンが突っ込んでくる。
両手を前に構え、リアーネさんに向けてその拳を放つ。
走る速度と、ウルフへジンの獣の瞬発力を合わせて放たれる俊速の拳。
ウルフへジンが繰り出す技で最速だろうソレは、リアーネさんの顎を正確に――
「おせぇ」
「がんブ……ッッ!!?」
――ごがん、と鈍い音が響いた。
拳による打撃音ではない、ウルフへジンの頭が地面へと叩き伏せられる音。
ウルフへジンの拳は届く事なく、リアーネさんのカカト落としで文字通り頭から潰されたのだ。
クレーターを作って地面にめり込んだ1匹のウルフへジンは、既に動かなくなっている。
「「「〜〜〜〜ッ!?」」」
「今はお前らで楽しむ気分じゃねぇ」
仲間の一匹が瞬殺された事に、ウルフへジン達は戦慄している。
「そこを退け、メルツェルぶん殴るのに邪魔だ。退かねえなら――皆殺しだぁっ!!!」
赤い髪が炎の如く揺らめいて、リアーネさんは怒号と共にウルフへジンの群れへと突っ込んでいく。
直後、起きた事象をなんと言ったらいいだろう?
身長二メートルはあろうかというウルフヘジンの巨躯が軽々と宙を舞い、吹き飛んでいくその様を。
1匹の振るった拳を手首を掴み、そのまま握力で砕き、ボロ布のように振り回して複数匹をなぎ倒す。
後方から鋭い蹴りを放つ一匹を、振り向きもせずに肘打ちで足を粉砕する。
掴んでいる個体を別の個体へ投げ飛ばし、直後にドロップキックで吹き飛ばす。
そこから先は、もはや俺の視力では捉えきることが出来なくなり――――ひたすら暴力の嵐が展開されるのだ。
ウルフヘジン達の群れが、あっという間に赤く染まっていく。
その赤を構成する物質に、リアーネさんの物は毛髪以外存在しないという現実!
筋力、瞬発力、反射神経、動体視力、本能――戦闘に繋がる総ての能力において、リアーネさんのソレは他の生物を大きく凌駕していた。
徒手空拳を得手とする筈の彼らが、リアーネさんの前ではまるで赤子そのものであった。
「ガ……ぁ……」
「ちっ、つくづく運がねぇぜ。虫の居所のわりぃ時じゃなけりゃ楽しめたんだがよ……」
ウルフヘジンの群れを全滅させ、リアーネさんは毒づく。
「……終わらせるぜ、メルツェル」
彼女を遮る魔物は今のところいない。
メルツェルの元までたどり着くのに、彼女なら数秒とかからないだろう。
「ま……ダ……! 来いルフ!」
ピィぃぃぃ! と懐から取り出した笛を吹き鳴らすメルツェル。
辺り一帯に暗い影が落ち、そして、その笛の音で君臨するは。
「クアアァァァァァア!!!」
ロック鳥、またの名を怪鳥ルフ。
「!」
突如として現れた巨体にリアーネさんが注意を奪われたと同時に――ルフは雄叫びを上げながら、その両足でリアーネさんの真上へと着地、彼女を踏みつぶした。
まずいっ……ルフの奴、ビーストマスターズ予選の時みたいな手加減を一切していない!
「お母様!?」
思わずさけぶレナータちゃん。
そんな、リアーネさんがこんなあっさりと……!?
「ク、クアッ……!!?」
「――くっ、はっははははは! 軽いぜ、デカブツ!」
ぐ、ぐぐ、とルフの姿勢が崩れかける。
足元を見れば、踏み潰されたと思われたリアーネさんが、巨大なその足を持ち上げていた。
「そういやてめぇ、最近ルフを手懐けたって言ってたなぁ。……ああダメだ、こんな手応えありそうな奴と戦えるなんて、楽しくなってきやがる! どおりゃぁぁぁぁっ!!!」
「クアァァ!!?」
それまで不機嫌だったリアーネさんの表情は、一転して獰猛な笑顔へと変貌していた。
怪鳥ルフを前にして、猛る闘争心を押さえ切れていないらしい。
咆哮すると同時に、彼女はルフの巨大な足を放り上げてしまった。
ば、バケモノだ……。
「おいレナータ! あとその友達!」
「「「はっ、はい!」」」
「メルツェルはお前らで仕留めろ、オレはこのルフを叩きのめす!」
どうやらリアーネさんは、怪鳥ルフを引き付けるつもりらしい。
彼女はレナータちゃん達にメルツェルとの決着を託すと……。
「シャッピー! 来い! とっととコイツを片付けんぞ!」
「ナァッ!」
自身の相棒、魔猫キャスパリーグを呼んだ。
それまで周囲の雑魚を蹴散らしていたシャッピーは、その一声を聞くなり大きく跳躍する。
その姿はまるで白雲の如く、白く、軽やかで、とても災害級の魔物とは思えないほどの美しさだった。
シャッピーは両手の爪を剥き出しに、そのままルフの元へと一直線に飛んでゆき―――
「ンアナァァァァォォ!!!」
「ククゥゥァァァ!!!」
同レベルのその巨体で、ルフの身体に飛びかかっていく。
衝撃で転倒する両者、もみくちゃになる中で繰り出される蹴爪と鋭爪、その影響で粉々に破壊されていく周囲。
まさに、神話の怪物同士が争っていた。
「おーし! オレも混ぜろ!」
そこへさらにリアーネさんまで乱入していって、向こうの戦闘はさらに混沌を極めていく。
これが、災厄使いリアーネと百獣使いメルツェルの戦いか……。
「ねえレナータ! どうすんのよ! リアーネさんに任されたけどっ……私達でどうやってメルツェルを止めるの!?」
「メルツェル先生はもうボロボロだから、一撃でも攻撃できれば多分、止められる――でも」
「ど、どうやってこの数の魔物を突破するんだー!?」
うじゃうじゃと群がる魔物どもに対処しながら、レナータちゃん達はメルツェルにどうやってとどめをさすか話し合う。
そう、リアーネさんのおかげで俺たちがルフに蹂躙されるという事態は避けられたが、まだメルツェルの魔物達は大量に残っている。
おまけにルフ級とまではいかなくとも、その中には強い魔物もゴロゴロいる始末。
3人で力を合わせても、無事に突破できる気がしなかった。
「――ワシに任せなさい!」
「クアアー!」
そのとき学園長の声が上から聞こえ、に周囲に雷撃が走る。
学園長の雷の魔法が、魔物達を感電させ動けなくしたのだ。
「周囲の魔物はワシとホーボックで抑えよう。その間に、君達はメルツェルの元へゆくのじゃ」
「学園長先生……。でもっ、メルツェル先生の所までは距離があります。幾ら周りの魔物を倒しても……」
グリフォンに乗った学園長は、どうやら魔物の処理を引き受けてくれるらしかった。
だが、レナータちゃんの言うとおり、こちらに向かってくる魔物達を幾ら倒したところで、俺たちの身の安全が一時的に保障されるだけに過ぎない。
必要なのはメルツェルに至るまでの道にいる、魔物全てを倒せるような火力だと思うのだが……。
「ほっほっほ。レナータくん、君はまだ耄碌するような歳ではあるまい。君はもうとっくに、この場を収める術を知っておるよ」
「え?」
「……ガウガウ??」(……なぜ俺を指差す??)
学園長は笑って俺を指さした。
何か、俺に出来ることがあるとでも言うように。
「良いかね、今必要なのは一刻も早くメルツェルくんの元へ辿り着く速さじゃ。ほれ、速さといえば、随分前のレナータくんとシャーロットくんの試合でみた「アレ」……アレは凄い速さじゃったのぉ?」
「アレ、って……もしかして……!」
「ガッ!」(あっ!)
学園長にそう言われて、俺とレナータちゃんはようやく思い出した。
なるほど、確かに、あの戦いで使ったあの魔法なら――あっという間にメルツェルの元へたどりつけるに違いない。
「……なるほど、アレね」
「??? アレってなんなんだー?」
幸いにも、この場には心強い仲間がもう2人いる。
俺たちはさっそく、準備に取り掛かるのであった。
「ティコ、シャーロットちゃん達と戦った時に使った、変わった結界魔法を張って」
「ラフ、ラム、結界の縁は硬く、内側はとても柔らかく」
俺はレナータちゃんに言われるがまま、結界魔法を唱える。
丸い円形の結界を二つ、少し傾けて展開する。
この結界は、かつてシャーロットと戦ったときに使った、縁を固くして中央部分を柔らかくしたーーいわゆるトランポリン型の結界だ。
「うん、ありがとうティコ。それじゃあシャーロットちゃん、ココと一緒にこれにしがみついて」
「わかったわ、ココ、しっかり捕まりなさい」
「キュアっ♪」
シャーロットはココの背にしっかりしがみ付き、ココもまた結界の上側に傾いている面へしがみついた。
レナータちゃんと俺もまた、同じようにトランポリン型結界へしがみつく。
俺たちが今からやることはごく単純、この状態で結界の裏側に強い衝撃を与え、メルツェルの元まで砲弾の如く飛んでいこうとしている。
かつて、シャーロットをココから引き摺り下ろすために使ったあの技を利用しようというわけだ。
「エリー、全力でお願い!」
「わかったぞー! 本気でぶん殴るからなー!」
結界魔法の裏側には、エリーちゃんは腕をぐるんぐるんと回している。
彼女の本気の殴打なら、俺の爆発魔法よりももっと速く飛ぶことができるだろう。
「準備はできたようじゃな。ホーボック! 久々に雷を纏おうぞ! ガン、ザス、フォーン、雷よ――」
「クアーッ!」
俺たちの準備が整ったとみるや、学園長が雷の魔法を唱える。
稲光が学園長達に落ち、雷鳴が轟いたと同時に――グリフォンは黄金色に輝いていた。
それは触れたもの全てに雷の鉄槌を下す、雷の鎧を纏う攻防一体の魔法だ。
「一瞬じゃが道を切り開こう! ホーボック! 羽飛ばし!」
学園長の指示で、グリフォンは一際強く両翼を上下に振るう。
生み出される突風に混ざり、光り輝く羽根がモンスターの群れへと降り注いでいった。
そうして、ほんのわずかの間だが、メルツェルまでの道を遮るものは無くなった。
「いっけぇぇぇぇぇー!!!」
そのわずかなチャンスをものにすべく、エリーちゃんは渾身の力を込めて――結界魔法を殴り抜いた。
ドン! ドン! とレナータちゃんと俺、シャーロットとココは撃ち出される。
(はっや……!)
周りの景色が認識できない、口を開ければ舌を噛んでしまいそうなぐらいのスピードだ。
だが、これでいい。
このまま、俺達か、シャーロット達のどちらかが、メルツェルにぶつかればそれで終わりだ!
みるみるうちにメルツェルとの距離は縮んでいき、激突まで数秒もないだろう。
「……く、るナ!!」
「ギャァァァ!!」
「「「「!」」」」
猛然と飛んでくる俺たちを、メルツェルが認識した瞬間――彼の足元からサンドワームが生えてきた。
くそっ、せっかく障害物が無くなってたっていうのに……!
「そこをっ……どきなさいよ!!!」
「キュゥアアアア!!!」
しかし、サンドワームは全員を止めることはできなかった。
シャーロットとココが、俺たちより先にサンドワームへぶつかり、跳ね飛ばしたのだ。
エアロドラゴンが飛行することに長けていたために、俺たちとシャーロット達には微妙な速度差が生じていたのである。
お陰で道は開けた、障害物はもはや存在しない。
メルツェルまでの距離は、あと数メートル――!
「ガァォォォォォッ!!!」(いけぇぇぇぇぇっ!!!)
「がっ、あ……!!?」
俺とレナータちゃんは、砲弾の如き勢いのままメルツェルへと激突した。
メルツェルを支えていたパールセノンは呆気なく引きちぎれ、リアーネさんが殴り飛ばした時と全く同じように彼はさらに吹っ飛んでいく。
「おわっ……た……?」
「…………」
呆けたように呟くレナータちゃんと、沈黙したままのメルツェル。
先ほどと違う点を一つ挙げるなら――――周囲の魔物達はメルツェルの沈黙に動揺し、戦意を失ったという点だろう。
百獣使いメルツェルの最後の抵抗は、遂に終わったのである。




