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83話:そもそもそれは、病気なのか

ブックマークに評価、いつも励みにさせて頂いております、ありがとうございます!


そしてお待たせしました、83話更新です!

「よし、今日もココはぐっすりだ」

「スゥ……クゥ……」


 翌朝、俺は再びココの元へとやってきていた。

 レナータちゃんとの真夜中の説明会の中で思い当たった可能性を確かめるためだ。


(もしココのこれが病気じゃなくて魔法(・・)によるものなら、全ての辻褄が合う)


 例えば、魔法の中には対象の精神に影響を及ぼし、錯乱させるものも存在する。

 眠らせる魔法については俺もしょっちゅう使っている通りだ。

 これを交互にかければ、今のココの病状をそっくりそのまま再現することも、理論上は可能。


 そして魔法による変調は……恐らく、病院の検査とやらに引っかからない。

 特に精神に作用する魔法は、身体になんの異常も感じさせないまま心を狂わせる。


(……ただ、ココが魔法をかけられてたとしたら、掛けた奴がいる(・・・・・・・)ってことだ)


 そう、魔法は何者かが使わなければ発動しない。

 もし俺の推測が当たっていれば、ココをこんな目に遭わせた容疑者が存在することになる。


(そこだけは気がかりだけど、今すぐ分かるものじゃない)


 残念ながら、俺にはそこまで推測できるような推理力は持ち合わせていない。


 俺が出来る事は、掛けられた魔法の正体を暴くこと。

 レナータちゃん達が魔物使いの国へ調査に戻っている間に、その可能性がないか探ることだ。


「さて、と。早速調べるとするか」


 魔法でどうやってココを苦しめているのか、手段はぱっと思いつく限り三つある。



 一つ目は、ココに直接魔法を掛け続ける事。

 手っ取り早く分かりやすいが、この方法は術者が近くに居なければ成り立たない。

 ココの病状は長期にわたって続いているし、この辺りで怪しい奴は見かけないからこの線は無い。



 二つ目は、ココに契約の魔法陣を踏ませて、理不尽な契約を結ばせる事。

 生きている以上は当たり前にしなくてはならない事を、「してはいけない」という契約を結ぶことで、破った時の罰を永続的に与える手口だ。

 ただ、これは契約の魔法陣を踏んだ瞬間から症状がでる筈なので、ココの場合は「原因となる魔法陣がコロシアムの控え室に仕掛けられていた」ということになる。

 俺が見た限りだとあそこには魔法陣なんて無かったし、その線も薄い。



 最後は、魔法陣を直接ココの身体に書き込むこと。

 本来は詠唱を省略するための技術なのだが、魔法陣の書き方を捻ることで「書かれた対象の魔力を勝手に吸い上げて、魔法を際限なく発動させる」という性質たちの悪い使い方をすることができる。

 魔法使いの国では、このような魔法陣の使い方を呪いと呼んでいる。


「現状を見るに、ココの身体に直接書き込んでいると見た。なら――ラフ、ラム、光よ(ルライト)魔道の跡を追い(マギニトレス)煌めき暴け(ルークス)


 恐らく、ココの身体のどこかにそういう風に書かれた魔法陣がある筈だ。

 魔物使い(レナータちゃん達)では見つけられないソレは、魔法使い(おれ)になら見つける事が出来る。

以前ティコに使ったのと同じ、魔法陣を光らせる魔法を詠唱する、だが――


「スゥ……スゥ……」

「光らない……!?」


 すやすやと眠るココには、何の変化もないように見える。

 そんな、ここまで辻褄が合ってるのに、違うっていうのか…!?


「……いや、まだだ。馬鹿正直に体表へ魔法陣を書く奴はいない、見つけにくい所に書いてある筈だ」


 そうだ、まだ見切りをつけるには早い。

 俺だって魔法陣を書くときは隠ぺいに隠ぺいを重ねて、他人からは決して見えないようにしてるじゃないか。


「ティコ。ちょっと力を借りるぞ」

『ガウッ』


 ココの身体を動かして、あちこち見てみる事にする。

 幸い、レナータちゃんに頼んでティコを貸してもらっているし、着ぐるみマンティコアくんのパワーならココの巨体でも動かせるだろう。


「うーん……、尻尾でもない。足の裏も……ない。どこだ……?」


 着ぐるみマンティコアくんを遠隔操作して、ココの身体を動かしていく。

 魔法は使いっぱなしなので、どこか光る場所がある筈だ。

 しっぽの先から両足、両翼、両腕、身体、頭と順繰りに見ていったのだが。


「むぎぎ……やっぱりない。おっかしーなー……」


 体全体を確認しても、魔法陣は見当たらない。


「はぁ、俺の勘違いかな……。そもそもかたーいドラゴンの鱗に魔法陣を刻むなんて無理が……ん?」


 自分の口から漏れた言葉に、俺はハッとする。

 まてよ?

 確かにドラゴンの身体は硬くて魔法陣は刻めない、それなら柔らかい所(・・・・・)に書くしかないじゃないか。

 

「いや、でも、まさか」


 一つだけ、思い当たる箇所があった。

 硬いドラゴンの身体で、唯一柔らかいだろうその箇所。

 しかし、俺の頭は「そこは無いだろう」と否定している。

 

 半信半疑のまま、俺はココの頭へと両手を伸ばして――――




「……あった(・・・)


 ――ココの頭を持ち上げるように、その上顎を開けた。

 ココの口内は、その奥まで――おそらく食道より先までもが――虫が這った様な跡でびっしりと埋め尽くされ、それが魔法によって爛々と光り輝いているのであった。



「読みにくいけど魔法陣だ、間違いない。でも、どうやったらこんな場所(・・・・・)に書けるんだ(・・・・・・)……!!?」


 あまりにも意外、あまりにも異質なその在り処に、俺は戦慄するのであった。




 その日の夕刻になって、俺は事情を説明するために屋敷へと戻ってきたレナータちゃん達を客間に案内した。


「ダグラスさん!病気の原因が分かったって、本当ですか!?」


 シャーロットが椅子から身を乗り出さんとばかりの勢いで俺に問いかける。

 その瞳は病気を治せるかもしれない、という期待と不安で揺れていた。


「ああ、見つけた。ココの病気は、正確に言うと病気じゃない。アレは魔法陣を悪用した……いわゆる「呪い」だった」

「呪い……?」

「身体に害を及ぼす魔法、それを魔法陣として対象の体に直接書き込むことで、魔法を対象にかけ続けるっていうモノだよ」


 今まで病気だと思い込んでいたものが、まさか魔法が原因だったとは思わなかったのだろう、シャーロットは呆然としていた。


「魔法にそんな使い方が……。ど、どーりであたし達には分からなかったわけだぞー」

「それでダグラスさん、ココがかけられてる呪いってどういったものなんですか?」


 エリーちゃんは寧ろ納得し、レナータちゃんは呪いの詳細について聞いてくる。


「魔法陣を全部見れたわけじゃないけど、見当はついてる。あれはココを洗脳する呪いだ」

「せ、洗脳!? 誰かがココを操ってあんな事をさせてるっていうわけ!?」


 呪いの内容を話すと、シャーロットは言葉に怒りを滲ませる。

 当たり前だろう、自分の家族をあんな風な目に合わせた相手が明確に存在するのだから。

 ただ、その認識は少しだけ事実とずれている。


「少し違う。呪いをかけた奴は、ココを完全に操ることが出来なかったから、自殺させようとしているんだ」

「それって、どういうことですか」


「ココは洗脳の魔法陣に抗ってる、魔法陣を書いたやつが命令しても君の言う事を優先するだろう。……要するにシャーロット、君との絆が洗脳の魔法より強かったんだ。……ただ、犯人にとしては言うことの聞かないココを処分したい、だから自殺させようと命令して――あんな状態になってるってわけ」



 魔法陣を見た限りだと、洗脳の魔法で死ぬまで暴れるように命令を下しているようだった。

 そう、ココが暴れだすのが洗脳の魔法陣による命令ならば、眠ったように動かなくなるのはココの抵抗の証。

 ……きっと、レナータちゃんの相棒達もまた、洗脳の魔法に抗った結果、同じ症状を経て死んでいったのだろう。


「ココ……そんな、私のせいで……」

「違うよ、シャーロットちゃんは何も悪くない。それで、呪いを解く方法はあるんですか?」

「そ、そうだぞー! ダグラス……さんは、魔法のことならなんでも大丈夫だよなー?」


 彼女達の期待と不安半分の眼差しに、俺の心がちくりと痛む。

 そう、何よりも肝心なのはその点だ。

 しかし……。




「…………すまない。まだ、その方法が見つからないんだ」

「「「――え」」」

「呪いを解くのは簡単なんだ、発生源となる魔法陣をどんな形であれ別の魔法陣で上書きしてしまえばいい。けれど、ココの魔法陣は口の中……いや、おそらく口内から腸に至るまで、つまり体内に書かれてる。そんな場所にある魔法陣をどうやって上書きしていいか……」


 そう、この呪いの一番厄介な点は、魔法陣の書かれた位置だ。

 ココの体内という見つけ難い上に、どうやって書いたのかも分からないような場所に、その魔法陣は存在している。


 ココの口に手を突っ込んだとしても、おそらく腸に至るまで広がっているだろう魔法陣全てを書き換えることは出来ない。



「せめて、犯人がどうやって魔法陣を書いたかが判れば、同じ手法で上書きすることもできるんだろうけど……」

「シャーロットちゃん、誰かがココの口の中に魔法陣を書いてたのを見たことある?」

「そんな奴見たら私がぶっ殺してるわよ!?」


 うーん、確かに。

 犯人がそんな正攻法で魔法陣を書いてたとしたら、実にシュールな光景になるだろう。

 それをシャーロットが黙って見過ごすわけがない。

 間違いなく、何か特殊な手法で魔法陣を書いているわけなのだが……。


「そうだよなぁ、でもどうやって口の中に魔法陣を……」

「なーなー、あたし思うんだけどなー」

「? どうしたの。エリーちゃん」


 うんうん唸っていると、エリーちゃんが手をあげる。

 何か思い当たる節でもあったのかと、この場の全員が彼女に視線を向けた。




「……そもそも口の中から先って、食べ物しか通らないんじゃないかー?」

「「「……あ」」」


 エリーちゃんが言ったのはそんな当たり前のこと。

 しかし、その当たり前のことを聞かされて、俺たちはようやく自分たちが考えすぎていたことに気付いた。


 そうか、そうだ。

 口の中から先に干渉できる物があるとするなら、真っ先に食べ物を疑うべきだ。


「シャーロットが変な物を食べさせてないなら、あたしは食べ物が怪しいと思うなー」


「失礼ね! ちゃんと食べられる物を食べさせてるわよ! ……でも、それに「細工」がされてるかどうかまでは、調べたことは無かったわ」


「ダグラスさん、きっと食べ物に何かあります! 私達、今日はティコとココが共通して食べてた物を持ってきてるんです! これを調べたらきっと――!」


 レナータちゃんが、今日魔物使いの国から持ってきた物が詰まった袋を指差す。



「ああ! すぐにその食べ物を調べてみる!」


 病気が同じならば原因も同じ。

 ティコもまた体内に魔法陣があったとしたら、2匹が食べていた物の中に、魔法陣を書く秘密が隠されているはずだ!

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[一言] 食事てっ…大半のモンスターが食べてるモンス○ーフー○が原因かな?
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