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76話:本戦開始……?

お待たせしました、76話更新です!

 ――予選終了後に発表された通過者の数は10名ほど。

 その中にはシャーロットやタクマ、あとツクヨと呼ばれていた子も存在していた。


 開始前に話していた予選通過者は8名のはずだったのだが、どうやらメルツェルの予想以上に参加者達が優秀だったので、生き残った者達全員を予選通過者としたからとのこと。


 まあ、あれだけの数の魔物達に加えて、怪鳥ルフまで投入された予選で生き残ったのだから、優秀であることには間違いない。


 ちなみに成人の部の予選結果は……。


「ふぃーっ、じじい。こっちは終わったぜ!」

「おお、リアーネか。今年は何人生き残ったかの?」

「おう! きっちり全滅させといた!」

「おおおま、お前―ッ!? 最低一人は優勝者いるとかゆーとった癖に皆殺しにしてどうしてくれるんじゃぁぁ!!?」


 以上、リアーネさんと学園長先生の言葉より、成人の部本戦はあえなく中止となりましたとさ……。

 まあよくあることらしいし、結局王様の国で行われる大会はリアーネさんのみが出ることになりそうである。



 それと、レナータちゃんと俺がやってたドリンク売りのアルバイトだが、やっぱり試合中にバイトをほっぽらかしてしまったせいで、売上はあまりよろしくなかった。

 不幸中のさいわいだったのが、ルフの羽ばたきによる突風のせいで飲み物を飲める状態じゃなく、他の売り子さんも売上が悪かったことだろうか。


 レナータちゃんは大層凹んでしまっていたものの、どのみちあの状況で真面目に売り子してても、突風でドリンクを撒き散らしてしまった可能性もあるだろう。

 本戦で頑張れば良いさと、俺はレナータちゃんを励ましておいた。

 こういう時に言葉が何となく通じるのは非常に助かるね。




「シャーロットちゃん、本戦出場おめでとう!」

「ふふん、当然よ!」


 そんなわけで現在は、コロシアムの地下にある控え室で、レナータちゃんはシャーロットの本戦出場を祝っている。

 口では当然だと踏ん反り返っているシャーロットであるが、耳と顔が赤いので照れているのは間違い無いだろう。


 まったく素直じゃないなぁ、それに比べてココは素直に喜んで……。


「キュックッ! ――っカァ!」

「ガフガウ、ガフ、ガファー!?」


 喜んでブレス撃ってくるのはどうにかなりませんかねぇ!?


「あっ!こらココっ!」 

「あははは……ココはすっかりティコを気に入ってるみたいだね……」

「ごめんレナータ、止めるように私もいってるんだけど」


 ああっ、せっかく整えた立髪が滅茶苦茶になってしまったじゃないか。

 まったくそんな悪戯っ子には……。


「ガウッガウッ!」(お返しだっ!)

「キュムッ! キュク!」


 ぺふぺふぺふ、と両手でココの頬へ猫パンチを優しく連打。

 どうやらコレがくすぐったいらしく、ココはケタケタと笑っていた。


「大丈夫だよシャーロットちゃん。ティコもココのことが好きみたいだし、お互い様かも」


 いっつもブレス撃たれている身であるが、それ以外は滅茶苦茶甘えん坊さんなので、俺もココの事は案外好きなのであった。

 図体はでかいけど、意外と可愛いんだよこいつ。



「まったく、ココもちょっとは緊張しなさいよね。私達の初戦の相手、タクマなんだから」


 シャーロットは本戦を前にまったく緊張感のない相棒をみて、半分呆れながらも笑っていた。


 ビーストマスターズ本戦はトーナメント形式で行われる。

 くじ引きで決定した組み合わせで一騎打ちを繰り返し、全ての試合に勝利したものが最強の魔物使いを名乗ることができるのだ。

 何の因果か、シャーロットの初戦の相手はあのタクマである。


「私もびっくりしちゃったなぁ、シャーロットちゃんの相手がいきなりタクマくんなんだもん。実質優勝決定戦みたいな感じになっちゃってるし」


 片や、最強の魔物であるドラゴンを従えた竜騎士。

 片や、最凶と名高いヴォ―パルバニーを従えた魔物使い。

 ビーストマスターズ参加者の中でもこの二人が従える魔物はトップクラスに強い。

 レナータちゃんの言う通りシャーロットとタクマの試合は、実質優勝決定戦のようなものだろう。


「そうね……練習試合じゃ勝ち越してるけど、負けたこともある。絶対に油断できないわ」


 さすがのシャーロットも、タクマが相手では表情を引き締めるらしい。

 確か前にタクマの模擬戦に殴り込みに行った時も、決着が夕方になるとかレナータちゃんが言ってたっけ。


 目では追えないほどの速度で動き回るまるもちには攻撃が当たらず、かといってタクマは不死身と見紛うほどのしぶとさで耐え切ってくる。

 狙いやすいタクマに攻撃を集中すれば、まるもちの必殺のまえばの餌食になるだろう。


「ま、タクマを倒しちゃえば骨がありそうなのはツクヨくらいだし、実質優勝決定戦なのも間違いはないわ」


 とはいえそこはシャーロット、タクマさえどうにかなれば後は消化試合だと言わんばかりの自信である。


「レナータも気楽に応援してくれていいわよ」

「うん、二人とも応援してるね!」

「そこは私だけを応援しなさいよー!」


 シャーロットがプンスカ怒っているが、レナータちゃんにとってはシャーロットもタクマも等しく友達なので、片方だけを応援することはないんだよなー。


「えーっ。でもでもタクマくんだけ応援しないのはかわいそうだし……」

「ぬぎぎ……なら私も譲歩するわ。いい、応援の比率を変えなさい、私の方を若干多めに応援するのよ!」

「う、うーん? それなら、いいかな……?」

「ガウガウゥ」(なんじゃそりゃ)


 そこまでして自分の方を応援して欲しいのかシャーロットよ。

 ……まあ、レナータちゃんくらいしか友達がいない身であれば、その気持ちもわからんでもないが。


「それじゃあ、シャーロットちゃんを1割増くらいで多く応援するから」

「3割増し! もうちょっと増やして!」


 おいおいおい細かいな君達。

 シャーロットにとってレナータちゃんは勝利の女神か何かなのか?

 きっとレナータちゃんの事だから、まじめに一割か二割増で応援するんだろうけど。


「わかった、それじゃあ2.5割増しでシャーロットちゃんを応援する」

「まあ妥当な数値ね、よろしくお願いするわ」

「グルゥ?」(応援の話だよね?)


 何故か真剣な交渉の末に、レナータちゃんがどれだけシャーロットを応援するかが決まっていた。

 たかが応援の話に何故そこまで真剣に拘るんだ君達。



「それじゃあ、私達そろそろ本戦の準備するから」


 楽しいじゃれあいの時間はあっという間に過ぎていって、試合の時間が近づいてきた。

 槍の手入れやら、作戦の構築など色々とすることがあるのだろう、これ以上シャーロットとお喋りしていては邪魔になってしまう。


「ガフン、ガウガゥ」(ココも、応援してるよ)

「キュクッ! キュアキュアー!」


 俺もココに応援していることを伝えた。

 言葉が通じているのかは定かではないが、ココはとても嬉しそうに返事を返してくれている。


「レナータもバイト頑張りなさいよ」

「あっ、うん。シャーロットちゃんも頑張ってね!」


 強敵を前にして一切気負わない、いつも通りの元気いっぱいなココを見て、俺はきっとシャーロット達が勝つだろうと、なんとなくそう思うのであった。






 ――本当なら(・・・・)、きっと、彼女は勝利していたに違いない。


「よし、まるもちの歯はホントヤバいから、しっかり手入れしとかないと槍まで斬られかねないわ……」


 獲物の手入れを済ませたシャーロットは、次はココの体を磨くためにブラシを手にする。


「さてと、ココ。体を綺麗にするわよ」

「キッ!? キュクゥ……ッッ!?!?」

「嫌がってもダメ、みんなが見るんだから」


 何時もよりも嫌悪感に溢れたココの返事だったが、シャーロットは相手にしない

 誇り高き竜騎士の相棒が、みすぼらしく汚れていては格好がつかないからだ。


 シャーロットはゴシゴシと鱗についた砂埃を拭き落としていく。


「ほら、磨いたらもっと綺麗になった。くすぐったいかもしれないけど、このままじっとしてるのよ……」

「キュ、キュ……ゥ……?」


 汚れを落とす度に、空色に輝く鱗が増えていく。

 時間をかけるとココが嫌がるので、シャーロットは集中し、鱗を磨くスピードを上げていった。


 だから、彼女はまだ(・・・・・)気付いていない(・・・・・・・)



「――はい、終わり! よく待ったわね! ブラッシング中一度も動かなかったのは初めてじゃない?」

「…………」


 体の掃除も終わり、シャーロットは身動ぎもせずにいたココを褒める。

 しかし――



「………………」

「? ――――ココ?」


 ――ようやく、彼女は気付いた。

 相棒の意識が、唐突に、脈絡もなく、理由すらわからずに――失われてしまっていることに。





「シャーロットちゃん、遅いね……」

「ガウッ」(確かに)


 控室を後にしてしばらく経ったのち、俺とレナータちゃんはドリンク売りのアルバイトを再開していた。


「シャーロットの奴、やけに遅いな……」

「フシャーッ!」

「まるもち、落ち着けって。早く戦いたいのは俺も同じだから」


 コロシアムのアリーナでは、すでにタクマとまるもちがシャーロットを待ち構えている。

 本戦の第一試合の開始時間は、とうの昔に過ぎているのであった。



「――! 報告っ! 皆様に報告がありますッッ!!」


 タクマ達が立つ向かい側――本来ならシャーロットとココが出てくるはずの入り口から、運営委員会の人と思われる女性が慌てた様子で現れた。


(どうしたんだ一体……)


 その姿に俺は、胸騒ぎを感じる。

 何か嫌な予感がして、ジリジリとした焦燥感が頭を埋め尽くしていく。


 そしてその予感は――――




「本試合にて出場する予定のシャーロット選手ですがっ! 相棒の体調が優れないということで、棄権・・となりましたッ――!」


 ――最悪の形で、的中してしまった。



「は? うそ、だろ……!?」

「シャーッ!?」


 信じられない、と呆然と立ち尽くすタクマ。

 どよめきの声で埋め尽くされる観客席。



「ガウガウ」(有り得ない)


 あのシャーロットが、戦う前から棄権?

 ココだってあんなに元気だった筈だ、実際にこの目で見ている。

 だというのに、運営委員の人のその報告には、何の異議も挟み込まれることがない。


「シャーロットちゃん……!?」


 レナータちゃんもまた、驚愕と不安に満ちた表情で、シャーロットの名前を呟くことしか出来なかった。




 こうして、今年のビーストマスターズ最高の戦いだと予想された一戦は、あっけなく、予想外の結末を迎えてしまった。


 シャーロット&ココ vs タクマ&まるもち

 シャーロットの棄権により、勝者はタクマ。




 ――優勝候補同士の試合がこんな形で終わった以上、後の試合で盛り上がることはなく。

 無傷で一回戦を勝ち上がったタクマがそのまま連勝し、なんの手応えもなく優勝を手にして。

 今年のビーストマスターズの全てが、何の納得も得られないままに終わったのである。

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