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71話:祭典に心躍る者共

お待たせしました、71話更新です。

「レナータ、おはよー! 学校行く準備は出来てる?」

「おはようシャーロットちゃん。ちょうど今から出るとこだよ」


 朝、玄関口の扉越しにノックの音と友人の声に、レナータちゃんは丁度良かったと返事する。


「それじゃあ行こっか、ティコ」

「ガウッ。ガウガウグルゥ」(ああ。しっかしシャーロットが朝に来るのは久しぶりだなぁ)

「そうだね、きっと朝早くから戦う練習してるからだと思うけど」

「グルゥ」(大変だなぁ)

「シャーロットちゃんも頑張ってるんだよ」


 学校に行く準備を丁度終えたところだったので、俺とレナータちゃんは会話しながら外へ向かう。

 ……俺がマンティコア語でレナータちゃんと平然と会話している点につきましては、もう慣れました、はい。

 流石にもう何度も俺の適当なマンティコア語に対応されたら、恐怖も薄れてしまうというものだ。



「来たわね。そっ、そそそれじゃあい一緒に――」

「うん、一緒に学校に行こう!」

「あっ、はい……」


 そしてシャーロットがどもりながらレナータちゃんを誘おうとして、結局レナータちゃんに手綱を握られてしまうのもいつものことである。

 シャーロットのボッチ力は大したものだ、お互い友達と認識してからなんヶ月と経つというのに、未だに「友達同士でやるっぽいもの」をやろうとするとガチガチに固まってしまうのだ。


「キュアー♪ ――カッ!」

「ブベーッ!?」

「ああっ!? ティコー!?」

「ってあ! こらココ! ティコにいたずらしちゃダメって言ってるじゃない!」


 そして俺がココのイタズラブレスを喰らうのもいつも通りというわけである。

 若干はた迷惑ではあるが、久しぶりで、いつも通りの1日はこうして始まるのであった。




「シャーロットちゃん、いよいよだね」


 学校へ向かう道すがら、レナータちゃんはシャーロットにそう話しかけた。

 いよいよ、とは言うまでもない。

 俺たちのこの登校風景が久しぶりとなった要因、ビーストマスターズが今日始まるのだ。


 魔物使いの国で最も強い者達を決める、年に一度の大会。

 これに出場し、優勝した者に与えられる名誉は計り知れない。

 シャーロットはそれを目指して今日まで特訓を重ねてきたのである。


「調子はバッチリ?」

「ええ、もちろんよ! もう最高の仕上がり、今の私たちに敵う奴らなんていないわ!」

「キュッキュア!」


 レナータちゃんの問いかけに、シャーロットは自信満々にそう答える。

 虚勢でもなんでもない、1人と1匹からは自分たちが重ねてきた努力に裏打ちされた、純然たる自信が感じ取れた。


「今の私は、ココと目を合わせるだけでお互いなにが言いたいか分かる、まさに一心同体よ。一々口に出さなくったって、指示に従ってくれるんだから」

「キュッ!」


 どうやらシャーロットは魔物使いとして一歩成長したらしい、言葉無くしても魔物との意思疎通が完全にできるとのこと。

 無言で指示が出せるということは、相手に次の一手を読ませないということ、実に恐ろしい技術である。


(無言で……か。なんだか、魔法の「無詠唱」と似てるなぁ)


 無詠唱は魔法の詠唱を頭の中だけで済ませる技術である。

 当然これも、生半可な練度の魔法使いでは使うことは不可能だ。

 魔法使いと魔物使い、全く違う人間の国だというのに、分野を極めた先にある技術は似たようなものらしい。



「――そういうわけで、ビーストマスターズの優勝はもらったも同然よ。ほんと、アンタが参加しないのが残念なくらいね」

「あっはは……。でも私が居なくたって、タクマくんや上級生も参加してるし、油断しちゃダメだよ?」

「まあ、タクマぐらいは注意した方がいいかもしれないわね。いくらヴォーパルバニーが空を飛べなくったって、何かしら対策を練ってるには違いないわ」


 とまあそんな感じで、二人は今年のビーストマスターズでは誰が出るかだとか、どいつが強くて厄介だろうかと喋りながら学校へ向かう。


「うーん、タクマくん以外だと他に誰が出場するんだろう?」

「上級生で有名な奴だと、ターロー先輩が出るって聞いたわ」

「え、あのいっつも相棒のヤタガラスとケンカしてるターロー先輩が?」

「ほんと良くアレで出場しようとするわよね。他にもいろいろ……ていうか、参加者が今年も多すぎて誰が出るか把握しきれないのよねー……」


 そんな中、彼女たちの会話を聞いて俺はふと思った。


(そういえばビーストマスターズの参加者って、募集人数に制限が無かったよな……?)


 そう、以前セラ先生が言っていたのだ。

 「腕に覚えのある人なら、誰でも気軽に参加してください!」と。

 そして受付期間中は沢山のクラスメイト達が参加しようとしていたことも、記憶に残っている。



 例えば、魔法使いの国で行われる似たような大会なら、参加のために難しい筆記テストをクリアしなければならず無暗に参加者が増えることはない。

 しかしビーストマスターズには参加人数を絞る様子は無かった。

 だがあんまり人が多いと、大会が終わらないんじゃないか……?


「参加者が多いってことは、多分今年もきっと「アレ」やるよね……」

「そうね、きっと「アレ」やるでしょうね……、正直言って私は本戦に出る前に「アレ」で落ちそうで怖いわ」

「ガウ?」(アレ?)


 二人の口ぶりからすると、参加者を何かしらの方法で絞りはするらしい。

 だが、問題はシャーロットの表情である。

 怖いもの知らずに見える彼女が顔を青ざめているのだ、「アレ」とやらは余程恐ろしい事に違いあるまい。

 しかし結局、俺は彼女たちに深掘りするわけにもいかず、学校へと足を進めるしかないのであった。




 そうして時は昼過ぎまで進む。

 ビーストマスターズの開催宣言が行われる学校内の最も大きいコロシアムに、国中の人々が集まっていた。


「うおー……すっげー人だぞー。座れるかなこれー」

「チュウ……」(図体デカくてすみません……という感じの申し訳ない重低音)


 コロシアムの観客席は、かつてレナータちゃんとシャーロットが戦った時以上の大量の観客たちが詰めかけていた。

 その規模はすさまじく、魔物と一緒に居る事が前提の設計にもかかわらず一目で満員だと分かってしまうくらいである。

 エリーちゃんはジンクスのサイズ故に、迷惑が掛かりがちなのでげんなりしているようだった。


「ガウガウっ! ガフン!」(レナータちゃん! エリーちゃん居たよ!)

「ホント!? おーいエリー! クラスの皆がスペース空けてくれてるよー!」


 レナータちゃんに彼女たちを見つけたことを報告する。

 エリーちゃん達は転移の魔法陣を物理的に利用できない所為で、どうしても出遅れてしまうのだ。

 優しい事にクラスメイトの皆が気を使って、彼女達が座れるスペースを確保していたのであった。



「チュー!」(助かります! という感じの重低音)

「おー! ありがとレナータ―――って、その格好、どうしたんだー?」


 こちらに気付きお礼を言うエリーちゃんだが、直後にレナータちゃんの格好を指摘した。

 そう、今のレナータちゃんは学校指定の制服姿ではない。

 でかでかと「ビーストマスターズ進行委員会」と書かれたシャツとキャップ、そしてミニスカートをはいた彼女は――


「えっへん。実は私、今日はドリンクの売り子をするんだ!」

「ガウガウ」(お祭りならではのバイトだよね)


 ――今日も今日とてアルバイトなのであった。

 ちなみに俺も手伝いとして参加するつもりだ、レナータちゃんの運ぶドリンクが空になったら背中にしょったタンクから補給を行う役目である。


 レナータちゃんはコップを手に取り、背負ったリュックサックから伸びるチューブからドリンクを注いでいく。

 

「レナータはホントにアルバイトには目がないなー!? でも売り子は本職にはできないと思うぞー!?」

「まあまあ、何事も経験って言うでしょ? はいっ、サービスだよ」

「お、おう、ありがとなー」


 レナータちゃんからドリンクを受け取るエリーちゃん。

 水分補給は大事である、特に白熱する観客の熱気に充てられて、熱中症になんか罹ったら大変だ。



「そういえばエリー。ビーストマスターズは参加しなかったんだね」

「んっ、まあなー」


 観客席へ向かう途中、レナータちゃんはエリーちゃんにそう尋ねた。

 ビーストマスターズに参加する選手は、入場の準備で今頃は別の場所に待機している。

 エリーちゃんがこうして観客席に来たという事は、ビーストマスターズの参加は諦めたという事である。


「最初は出ようかって思ってたんだけどなー。今は、あたしは戦うより先にジンクスの主人としてもっともっと成長しなきゃなって思ったんだー。魔法の勉強もまだまだだしなー」

「そっか」

「まあジンクスの魔法を完璧に把握できたら、来年出場してみてもいいかもだけどなー」

「ジンクスの魔法に、エリーの怪力、お母様仕込みの格闘術……真面目に優勝が狙えそうだね」


 冷静になってエリーちゃんの未来を考えてみると、凄い事になるんじゃなかろうか。

 魔法と物理の両方を極めた、超ハイブリッド魔物使いが誕生するぞ。

 ……とはいえそれが実現するのはまだ先のお話、今日の彼女は一観客として、ビーストマスターズを艦戦するのであった。


「エリー! ここ、ここー!」


 他の観客達をかき分けて歩いていくと、見覚えのある面々が集まった席を見つけた。

 エリーちゃんとジンクスが座れるだけのスペースをあけていて、クラスメイトの1人が手招きしている。


 その席の隣には、とても大きな真四角の穴が空いており、どうやら図体のでかいジンクスがすっぽり収まる事で、人と同じ視線の高さでコロシアムを観戦できるようになっているらしい。


 どうやら魔物使いの国では、図体のでかい、或いは小さい魔物達も観客席に座らせるのが当たり前のようだ。

 各席の隣には必ず視線の高さを合わせる「穴」か「台」が備え付けられてる。


「席取っといてくれてありがとなー! んじゃ、レナータもアルバイト頑張れよー!」

「うん! 頑張ってくる!」

「チュウチュウ」(ティコさんもお気を付けてといった感じの重低音)

「ガフ、ガウッ」(ああ、行ってくるよ)


 ジンクスの鳴き声に適当に返事を返しながら、俺とレナータちゃんはその場を後にする。


「ティコ、目指すは売り上げ一番だよ!」

「ガォッ!」(もちろん!)


 一足早く、俺達のビーストマスターズは始まるのであった。



今回の解説

ビーストマスターズ進行委員会:ビーストマスターズを運営する集団。会場の設営からドリンクの売り子までやることは盛り沢山、しかも給料まで出るので参加する学生は多い。


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