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64話:お帰りなさい、懐かしきモウモウ牧場へ

お待たせしました、第64話更新になります。

これにてモウモウ牧場編はおしまいになります。

 ミルミル牧場見学が終わった頃には、すでに日が落ちようとする時間だった。

 マンティコアの俺は牛舎の中についぞ入れず終いで、外に出ずっぱりである。


「ガファァ……」(暇だったなぁ……)

「よしよし、お留守番頑張ったねティコ」


 夕方の作業――牛舎の掃除とか、中の魔物のエサやりだろう――が終わって、牛舎から出てきたレナータちゃんが俺の頭を撫でてくれた。

 ……まあ俺は長いお昼寝をしてただけだし、その間に彼女がここの業務について知ることが出来たのなら良しとしよう。 



「タイちゃん、今日はありがとうよ。いい勉強になったぜ」

「どういたしまして」

「しっかしまあ大変だったなぁ。ミルミルの世話は兎も角、まさか餌を畑で作ってるなんてよ……」

「言っただろう? 特別にいい餌を使ってるって」


(うへぇ、畑仕事ぉ?)


 そのまま牧場の出入り口まで移動し、そこで俺達は少しの間話し込んだ。

 ゴンズのおっちゃんが業務の一端についてポロリと口を零した。

 どうやらミルミル牧場ってやつは、ただ魔物のお世話をすればいいという訳ではないらしい。


 畑仕事かぁ……魔法ニートの俺はその辺りはサッパリ分からないので、お昼寝していて本当に良かった。

 いやまあ今の俺はマンティコアだけれども、そして畑仕事をマンティコアがどう手伝うのか想像がつかないけれども。



「ミルミルのお世話はモウモウとそんなに変わりませんでしたけど、乳搾りは楽しかったです」

「楽しんでくれて何より。いやー若いっていいね。僕はあの数を搾ってると最後はもう腕がくたくたになっちゃうんだよ」


(乳搾り? ってことは、ミルミルってミルクを出す魔物か)


 レナータちゃんが思い出すように両手をにぎにぎする。

 乳搾りと聞いて、俺は漸くこの牧場がミルクを作るための場所だという事に気が付いた。

 というか、いつも飲んでるミルクってウシ型魔物の母乳だったのか……。



「やっぱり大変なんですね……」

「大変じゃない仕事なんて早々ねぇわな。でもまあ好きな魔物の世話してると、そんな疲れも悪かねぇんだこれが、なあタイちゃん」

「そうだねぇ。ミルミルが気持ちよさそうな顔してるのを見て寧ろ癒されるくらいだし」


 ゴンズのおっちゃんとモースタインさんは揃ってワハハと笑う。

 自分の「好き」を心ゆくまで堪能している、そんな満ち足りた笑顔に俺はちょっぴり嫉妬してしまう。



「ガファっ……」(いいなぁ……)

「ふふっ、なんだか羨ましそうだね。ティコもミルミル牧場で働いてみたかったの?」

「ゲェッ!!? ガフェっ、ガフェっ!?」(げぇっ!? いやっ、違うって!?)

「ど、どうしたの? え、なにか私間違っちゃった?」

「ガフガフ、ガウガウガウ」(チガウチガウ、ハタラキタクナイ)


 ないないないない、それだけは無いよレナータちゃん。

 あのですね俺はあくまで自分のやりたいことを満足にやれてる二人に嫉妬したのであって決して仕事がしたい訳ではないんですよ……と意味のない弁明が頭に浮かぶ。

 

「……働いてみたい訳じゃなかったの?」


マンティコア語なのにこれで通じるから怖いんだよね、レナータちゃん。



「そんじゃタイちゃん。そろそろ帰るわ。改めて今日は世話になったな」

「ありがとうございます、モースタインさん」

「また何時でもおいでよ、勿論レナータさんもね。まあ、ティコくんに手伝ってもらえる事はあんまり無いんだけどね……」



 モースタインさんへお礼の挨拶をして、俺達はミルミル牧場を後にする。

 アルバイト最後の日が、もうすぐ終わろうとしていた。




「あのっ、ゴンズさん」

「ん? どうしたレナータさん」


 モウモウ牧場を目指して、俺たちは日が暮れた街並みを歩く、その最中での事だ。

 レナータちゃんはゴンズのおっちゃんに何やら質問していた。


「ゴンズさんはミルミル牧場の見学をして、どうでしたか?」

「どうって?」

「その……モウモウ以外にも、ミルミルを育てることも視野に入れてるって話してたから……」

「ああ、そういう事か」


 どうやら、おっちゃんがミルミル牧場に来た時に話していたことが気になっていたらしい。

 そういえばおっちゃんはモウモウ牧場以外の稼ぎ口を見つけるためにミルミル牧場に来たんだっけ。


「うーむ、見学してみて分かったが、やっぱり今のままじゃあ厳しいなぁ。モウモウに加えてミルミルまで育てるとなると人手が圧倒的に足りねぇ」

「ガフガフェ……」(まあそうだろうなぁ……)


 難しい顔をするゴンズのおっちゃん。

 直接見学していないものの、俺もそうだろうなとは予想できていた。


 なにせミルミル牧場はミルミルのお世話以外にも、飼料を作るための畑仕事までしなければならないのだから。


 つまり牧場仕事に加えて野菜農家もしなければならないし、畑で取れる野菜も生き物なので毎日お世話をしなければならない。

 ゴンズのおっちゃんとウメさんの二人で、モウモウの世話をした上でこれらの業務が出来るかと言われれば……まずムリだろう。


 おっちゃんの言う通り、ミルミル牧場にまで手を出すには人手が足りないのだった。


「……あの、ゴンズさん。やっぱり私、もう少しここでアルバイトを続けようかなって……」

「ガフゥ……」(レナータちゃん……)


「レナータさん。そいつはありがてぇが、そこまでしなくていい」

「えっ」


 なんとレナータちゃんは、牧場のことを気遣ってアルバイトを継続しようかと考えていたらしい。

 本当に優しいなぁと思っていたところで、ゴンズのおっちゃんはその提案を断った。



「レナータさんはこれまで充分助けてもらったよ、アルバイトの範疇に収まらないくらいにな。……それに、レナータさんは自分のやりたい事を見つけたいんだろう? ならココでずっと留まってちゃいけねぇ、もっと色んな場所を見てきな。その上でまたウチで働いてみたけりゃ来ればいい」

「ゴンズさん……」

「なぁに、直ぐにミルミル牧場を始めようって話じゃねぇんだからよ。レナータさんはそこまで気にしなくていいんだ」


 これはあくまでゴンズのおっちゃんが考えるべき問題で、レナータちゃんは自分自身のことを第一に考えてくれと、おっちゃんはそう言ってくれた。

 牧場の経営的にはアルバイト延長の方が有難いだろうに、本当に良い人である。


「……私、モウモウ牧場でアルバイトできて本当に良かったです。ティコもそう思うでしょ?」

「ガウガウ」(うんうん)

「はっはっは! そいつぁ嬉しいな、気が向いたらまた来てくれよ」

「はいっ!」


 将来への心配もなんのそのとばかりに笑うゴンズのおっちゃん。

 モウモウ牧場でアルバイトができた事は幸運だったと、俺は心の底から思うのであった。



「俺もレナータさん達がアルバイトに来てくれてよかったぜ、真面目に働いてくれたしよ。……「アイツ」にも見習わせてぇくらいだ」


 ゴンズのおっちゃんもまた、俺たちがアルバイトにきてくれたことを感謝するが……、最後にボソリと呟いた言葉が少し引っ掛かる。



「……「アイツ」?」

「ガフウ?」(アイツ?)


 はて、「アイツ」とは一体誰のことなのだろうか?

 言い方からして、ウメさんのことを指しているわけではないと思い、俺とレナータちゃんは反射的に聞き返していた。


「ん、ああ……アイツってのは娘のことだよ」

「えっ!? ゴンズさん、娘さんが居たんですか!?」

「ガウウ!?」


 なんとびっくり、ゴンズさんには娘さんが居たらしい。

 あ、そうか、それでおっちゃんとウメさんはお互いを「お父さん」「母さん」と呼び合っていたのか……。


「おうよ、レナータさんより一回り歳上の娘がな。つってもモウモウ牧場を継ぐのが嫌で、外国まで出ていっちまったけどよ……」

「そ、そうだったんですか……」

(通りで牧場で見かけなかったわけだ)



 おっちゃんの話によると、その娘さんは外国へ飛び出して行ったっきり連絡を取り合っていないらしい。


「まあ、俺が悪かったんだけどよ。アイツの気持ちも考えねぇで、牧場を継ぐもんだと押し付けちまった」


 とても寂しそうにおっちゃんは呟いた。

 確かに、娘さんに将来を押し付けたおっちゃんに非があるのだろう。

 俺もそれをわかってはいたが……なんだか少し、かわいそうに思えてしまう。


「……ごめんなさい、ゴンズさん」

「レナータさんが謝る事はねぇよ。それに、アイツが出ていかなかったらアルバイトの募集もしなかったんだ」


 せっかくのアルバイト最終日だというのに、なんだかしんみりしてしまう。


(他所様の家庭事情だしなぁ、俺たちが踏み入って解決できるものじゃないけど……はぁ)


 こればっかりは、無敵のマンティコアだろうと、天才魔物使いだろうとどうにもできない。


「そら、もうすぐ牧場に着くぞ。今日は母さんに頼んで豪勢な飯を作ってもらってるから、それ食って元気だしな」


 このまま美味しいご飯でも食べて、元気を出すしかないかと――――そう思っていた。




「―――っ、―――……」


「……ん? 誰か牧場の前にいやがるな?」


 モウモウ牧場へ戻ってきた俺達だが、そのまま帰宅というわけにはいかなかった。

 ゴンズのおっちゃんが目を細めた先に……牧場の入り口に、二つの影が留まっていることが確認できる。


 一つは小柄な人影だが、もう一つは更に小さく、何なら人型ではない。

 魔物なのだろうか?


「こんな時間にお客さん……は、多分違いますよね」

「ああ、今日は誰か来るっつー約束もしてねぇし。母さんだとしたら隣の小さい影の説明がつかねぇ」


 時間的にお客さんとは考えづらく、ウメさんが待っているとしても納得できない。

 だとするともしや……。


「ガウッ、ガウガウガウ?」(もしや、モンスターラバーズの連中か?)

「ティコもそう思う?」

「…………なあレナータさん、今更なんだがティコが何言ってるかわかってんのか?」

「はいっ、なんとなくですけど。それとあの人影は、もしかしたらモンスターラバーズの人かもしれません」


 どうやらレナータちゃんも同じ考えに思い当たったようだ。

 モンスターラバーズの連中が、今までモウモウ牧場に嫌がらせ目的の破壊活動をしていた事は周知の通り。

 例えイヤミューゼが逮捕されたとはいえ、他の奴が復讐目的でまたやってくる可能性だって充分ありうる。


「ゴンズさん、ここは私達に任せてください。ちょっと脅かして追い払います」

「ガウッ!」

「お、おう。怪我はしねぇようにな」


 というわけで、俺とレナータちゃんはモウモウ牧場を不審者の魔の手から守るという、正真正銘最後のアルバイトに勤しむとしよう。


 レナータちゃんを背に乗せて、二つの影に気取られぬよう夜空へ飛び立つ。

 地上にいる生物は上への警戒が疎かになることが多い、俺たちは簡単にそいつらの真上へ移動することができた。


「それじゃいくよ、ティコ」

「ガウッ」


 翼の上下運動を止め、短く折り畳んでの急降下。

 そいつらを踏み潰さんとばかりに、オレたちは地面へと加速していって――――。


「こんばんはー!!! モウモウ牧場に何か御用ですかー!!!」

「ガオォォォ!!!」


「っぴえええええええっ!!??」

「キャウゥゥンッッ!!?」


 ズドンっ! と二つの影のそばへ着地。

 ついでに俺の咆哮とレナータちゃんの大声も追加し、思いっきり脅かしてやる。


 牧場の入り口にいた二つの影――――若い女性と犬型魔物はよほど驚いたらしく、女性の方は悲鳴を上げて尻餅をついていた。


「っひ、ひぇ……!? まままマンティコア……!?」


 おーおー、すっげぇ怖がってる。

 まあこんな暗がりの中、空からマンティコアが降ってくれば誰だって驚くだろう。


 さて、こんな時間になんの御用なのか問い質してやろうと、唸り声をあげようとしたその時……。



「おとうさんおかあさん助けてぇぇぇぇ!!!!」


「「!!?」」


 女性がモウモウ牧場に向かって叫んだその言葉に、今度は俺たちが驚かされることになった。


「んな……!!? モモ!? 帰ってきたのか!!?」

「モモ!? モモなの!?」


 叫び声を聞いて駆け寄るゴンズのおっちゃんと、家から飛び出してきたウメさん。

 今の叫び声に二人のこの反応、もしかするとこの女性は―――。


「うえぇぇぇぇ……ごめんなさい、親不孝な娘でごべんなさい……! はんせいじでまずからぁ助けてぇ……!」

「クぅーン、クゥーン……」

「ええーーっ!?」

「ガファーっ!?」(うそぉーっ!?)


 なんとなんとこの女性、ゴンズさん達の娘さんなのであった。




 それから、泣き叫ぶ娘さん――モモさんに俺達がアルバイトであることなど事情を説明し、何とか落ち着いてもらって、一先ず全員がモウモウ牧場内にあるおっちゃんの家の中に入ることとなった。


「んふーっ! やっぱり我が家のスキヤキはさいこーっ!」


 がつがつがつ、とモモさんは、ウメさん特製の晩御飯を貪り食らう。

 どうやら食事事情が寂しかったとの事で、随分とお腹を空かせていたらしい。


「ったく……今まで便り一つよこさねぇで、急に帰ってきやがって」


 ゴンズのおっちゃんはそんなモモさんに対して文句を言うものの、その顔には安堵の笑みが浮かんでいる。

 家を飛び出した愛娘を、心の隅ではいつも心配していたのだろう。


「でも、帰ってきてくれて本当に良かったわ……。ずっと心配してたのよ」

「むぐ……ごめんなさい」


 ちょっぴり涙声になっているウメさんを見て流石に申し訳ないと感じたのか、モモさんはやっと食事の手を止めた。



「ハグッハグッ……!」

「ガウゥ、ガウガウ……」(しっかし、こっちのイヌもよく食うなぁ……)


 なお彼女の相棒、ジャムドというイヌ型魔物はお構いなしにガツガツと肉を食らっている模様。

 感動の再開っぽい雰囲気をガン無視である、いったいどれだけの間満足に喰えてなかったのだろうか。


「ねえモモ。今まで一体どこに行ってたの?」

「それはその……今までは戦士の国にいまして……」

「戦士の国ぃ? お前よくあんな修羅の国へ行って無事だったな……」


 どうやらモモさんは、家を飛び出したその後は戦士の国で暮らしていたらしい。

 ただ、ゴンズのおっちゃんの言った通り、戦士の国という所は「力こそが全て、強者こそ正義」みたいな風潮が蔓延っているとんでもない場所だと有名なのだが……。



「…………無事でたまるもんですか」


 急に俯いたモモさんに、なにやら不穏な気配が何かが立ち上る。

 彼女は手に持っていたスプーンをへし折らんばかりに握りこんでいた。

 その様子を見た俺は、なんとなくだが彼女に俺と似た「何か」を感じ取って――――。



「あんな獣欲丸出しの脳筋の国なんて、もううんっっざりよっ!!! 口を開けばセクハラばっかり、視線は胸ばっかり、隙あらば触ろうとしてくるしっ!!! 冒険者として名を上げたかったのに「その(しぼう)で冒険者はないでしょ」とか言われて結局ギルドの受付嬢やらされて! あーもー思い出しただけで腹が立ってきたぁぁぁ!!!」

「「「……は?」」」

「ガファー……」(なるほどなー……)


 堰を切ったように溢れ出す不満(ストレス)怒り(ストレス)不快(ストレス)

 どうにも、戦士の国での生活はモモさんにとって最悪だったらしい。

 

 レナータちゃん達は呆然としているものの、俺だけはモモさんの怒りが理解できる。

 向こうでの仕事が嫌で嫌で仕方がなかったんだな、戦士の国の奴らってデリカシーという概念が存在しないし。


「聞いてよおとうさんおかあさん! 戦士の国の人達ってほんっとうにバカなのよ!?」

「お、おう……」


 怒りのままに戦士の国での生活模様を語るモモさん。


 その話を要約すると、冒険者になるべく家を飛び出したモモさんは、冒険者の数が一番多いとされる戦士の国を目指した。

 順調に戦士の国についたは良いものの、そこは力が全てにおいて優先される脳筋世界のために、筋肉量が圧倒的に少ない彼女は冒険者の職を得ることすらできず、かといってそのまま魔物使いの国に帰る金もないために仕方なくギルドの受付嬢をやらされる羽目になったとのこと。


 取りあえず手に職をつけたモモさんであったが、彼女の苦難は終わらない。

 筋骨隆々な冒険者たちのセクハラが酷過ぎたり、他の職員がみんな脳筋なせいで書類仕事ができず彼女にしわ寄せが全部来たり、文句を言おうにも年功序列が絶対なので逆にパワハラされたりと碌な目に遭わなかった。

 

 年若い為に給料も少ない中、生活費を必死に削った末に魔物使いの国へと帰ってこれたらしい。



「もうやだ……私、あんな場所で働きたくない……お願いだから牧場(ここ)にいさせて……」

(わかりみが深すぎる……)


 全てを語り終え、がっくりとテーブルに突っ伏すモモさん。

 俺はかつての自分を見ているようで、着ぐるみの中で同情の涙を流していた。

 なんなら背中をポンとたたいてあげたいぐらいだが、それをやると驚かれそうだからやらない。

 

「まったく、だから冒険者なんて辞めて最初からウチを継いだらいいとムゴッ!? レナータさんなにをフガ」

「えっと! 人手が増えて良かったですねゴンズさん! これなら私も安心して次のアルバイトを探せます!」


 モモさんに対してつい嫌味を言おうとしたゴンズのおっちゃんの口を、レナータちゃんは慌てて塞いだ。

 心が荒んでいる今のモモさんに嫌味を言ってしまったら、再びケンカになると思っての判断だろう、ナイスだレナータちゃん。



「それじゃあモモ、これからはウチで働くつもりなの?」

「うう…お願い……私、お金も伝手もないし……。モウモウのお世話も好きだったんだって、向こうで生活してやっと気づいて……」

「お願いも何も、ここは貴女の家なんだから。モモがその気なら私は大歓迎よ、ねえアナタ」

「っぷは! あ、ああ、もちろんだ」


 よし、上手くウメさんが話をまとめてくれた。

 モモさんがモウモウ牧場で働いてくれるのなら、跡継ぎの事は考えなくてもいいし、人手不足も多少は解決できるだろう。

 モモさんの相棒がイヌ型魔物なのも丁度いい、ジャムドならきっと俺の代わりに放牧したモウモウを集めることも出来る。


「ありがとう、おとうさん、おかあさん……」

「ほらもう泣かないで! お腹空いてるんでしょう、たっぷり食べなさい」

「うん……」


 もぐもぐと、再び食事に手を付けだしたモモさん。

 本来はレナータちゃんのアルバイト最後の日を祝ってのご馳走なのだが……。


「モモさん、帰ってこれて本当に良かったですね」

「むぐ……うん。……ごめんねレナータちゃん。このご馳走もホントはレナータちゃんのなのに、私ばっかりが食べちゃって……」

「そんな、気にしないでください! 私もちゃんと食べてますし。それに、モモさんがこの牧場で働くって聞いて、私も「良かったなぁ」って安心しましたから!」

「ううっ……レナータちゃん優しい……」


 そんな事を気にする我がご主人(レナータちゃん)ではないわな。

 モウモウ牧場の将来を案じていたレナータちゃんからすれば、モモさんの帰還は寧ろありがたいことですらある。


 その後、俺達は仲良く食卓を囲む。

 跡継ぎに、人手に、家族に、全ての問題がめでたく解決した後の晩御飯はとっても美味しかった。

 こうして、思わぬ再開を交え、モウモウ牧場での最後の日が終わったのである。

今回の解説

ミルク:ミルミルの母乳はミルクとして最も流通している。しかし、ミルミルは魔物使いの国でしか飼われていない為に、ミルクは知っていても何の魔物の乳なのか知らない人は多い。


モモ:25歳になるゴンズさん夫妻の娘。モウモウのお世話も嫌いではなかったのだが、父親から牧場を継ぐようにしつこく言われ続けたことに反発して、かねてより興味があった冒険者の道を歩もうと戦士の国へ飛び出していった。なお可愛い容姿とグラマラスな体形のお陰で、国民全員が野獣とも言っていい戦士の国では毎日が貞操の危機だった。


ジャムド:全身モフモフで毛むくじゃらなイヌ型魔物。モウモウ牧場での本来のモウモウ追い立て役なのだが、モモに一緒に戦士の国へ連れていかれた。戦士の国では主にモモを男の魔の手から守るべく、孤独な戦いを続けていた模様。


戦士の国:力こそが全てであり、外の世界は腕試しに丁度いい。そんな思考の脳筋ばっかりなせいで冒険者の数はナンバーワンな国。男も女も基本的にムキムキである。弱者への当たりがとっても厳しいので、観光には向いていない。

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