61話:ただいまモウモウ牧場
お待たせしました、61話更新です。
体調不良であんまりお話が進められず、申し訳ありません……。
それと、次回更新は都合により来年の1月1~6日辺りを予定しています。
それでは皆さん、良いお年を!
「「「ブンモォォォッ!!!」」」
ドドドドド……! と猛烈な勢いで大地を駆け抜けるモウモウ達。
空から追いかけている俺達にもその足音が聞こえてくる辺り、凄まじい脚力である。
「グギャ!?」
「ギャンッ!!」
あっ、進路上にいた魔物が何匹かはねられた。
ああっ、しかもはね飛ばされた上に踏みつけられてる。
「うわぁ……ちょっと可愛そうかも」
……モウモウ達が過ぎ去った後、魔物達はレナータちゃんが思わず憐れんでしまうほどに変わり果ててしまっていた。
それはもうぐっちゃぐちゃである、ミンチより酷い。
(さっすがモウモウ、これなら正面の魔物は気にしなくてもいいな)
側面からくる魔物は全て名無しの森で蹴散らして、空からくる魔物は俺の毒針で撃ち落としている。
まさに無敵の大行進、俺たちの歩みを止められる魔物はどこにもいなかった。
「牧場まであと少し! ティコ、頑張って!」
「ガウガウっ」(余裕余裕っ)
目的地である魔物使いの国は目と鼻の先だ。
頼むから、このまま何事もなく終わってくれよ。
「は――はぁ!!? レナータが外に!!?」
「キュクゥ!?」
一方、モウモウ牧場ではシャーロットが衛兵たちを連れて戻っていた。
彼女は門の前で待っていたエリーにレナータたちが外の世界へ行ってしまったことを聞かされて、絶句している。
「その。ゴンズさんと、モンスターラバーズの人の二人を連れ戻しに……」
「馬鹿レナータッ! どうして私が来るまで待ってなかったの!?」
シャーロットはここにはいないレナータに対して、どうしようもないと分かってても怒るしかなかった。
余りにも危険すぎる、たった一人と一匹で外の世界に飛び出すなど自殺行為でしかない。
「衛兵隊、ただいま到着しました! 御婦人、今の話は本当でありますか!」
「はっ、はい! ウチのお父さんとレナータちゃん、あとモンスターラバーズの人の3人が外に……」
「何と言うことだ……!」
衛兵たちもまたウメから状況を確認し、拙い事態となっていることに顔をしかめる。
だが助けを求めてきた彼女らを不安にさせるわけにはいかないと、彼らは直ぐに表情を引き締めた。
「ご安心ください、我々が直ぐに連れ戻します。――総員、外へ向かうぞ! 準備だ!」
「「「了解ッ!」」」
4人の衛兵は、それぞれの相棒たる魔物達と共に外で戦うための武装を装備していく。
8つ足の巨大な怪馬スレイプニル、氷のような結晶の翼を持つ晶鳥フロース、刺々しい鱗に覆われた大蛇ドゥーダ、そして手のひらサイズの犬型魔物コッソリーヌ。
魔物の種類は皆違えど、彼らはたゆまぬ訓練により抜群のコンビネーションを誇る集団であった。
「私も行かせてください! ココと一緒なら、私だって外に出ても――」
「すまないお嬢さん、それは駄目だ。確かに君は強いのだろう、しかし初対面の我々と連携が取れるとはとても思えない。下手に連携が崩れてしまうのは却って危険だ」
シャーロットは居ても立っても居られない様子で、スレイプニルを従えた衛兵に連れて行ってほしいと言い出す。
しかし、その提案は却下されてしまった。
「っ……、でも」
「分かってくれ。その代わりきっと、君の友達を連れて帰ってみせる」
絶え間なく襲いかかってくる外の魔物達に対抗するには、互いの能力を十分に把握した集団による、正確な連携が必須なのだ。
故に、衛兵たちとは初対面であるシャーロットを加えることは出来ない。
「……わかり、ました」
「ああ、任せてくれ。――総員、準備は完了したか!」
「「「準備完了!!!」」」
衛兵たちはそれぞれの得意な獲物を手に取り、魔物達へ十分な武装を取り付け終える。
「よしっ、スレイプニルに触れろ! 門を壊さないよう空間移動魔法で外に飛ぶ!」
「ィヒヒィィンッ!」
衛兵たちとその相棒の魔物は、全員がスレイプニルの身体に触れる。
この切迫した状況にあっても、彼らの表情には自信が満ち溢れていた。
それは、それぞれの相棒に対する信頼から生まれている。
あらゆる場所を走破するこの怪馬なら、絶対に遭難者の元へたどり着くことができると。
鉄をも切り裂く翼をもつ晶鳥なら、空中戦において負けは無いと。
万力の如き力を持つこの大蛇なら、絞め殺せぬ魔物などいないと。
犬型魔物の中でも嗅覚に特化したコッソリーヌなら、必ず遭難者を見つけ出すことができると。
それぞれが「レナータ達を助ける」という目的の元に、心を一つに合わせ、いざ行かんと――――
「ウメさんッ! エリーっ! ただいま帰りましたぁーっ!!!」
「「「ブモォォォ!!!」」」
―――してたら、門を塞いでいた植物が突如枯れて、空いた穴からモウモウとマンティコアが。
最悪――あるいは絶妙なタイミングで、レナータ達は帰還したのであった。
「「「「…………あれ?」」」」
衛兵四人の呆けた声が、見事一致した瞬間である。
今回の解説
衛兵さん達:国内での犯罪行為の取り締まりや、外部からの魔物の侵入を防ぐのが主な仕事。魔物達の個性を組み合わせて最大限に活かす為に、必ず別種の魔物を相棒とする者同士でパーティを組んでいる。
スレイプニル:8本足の巨大な馬型魔物。地を駆ける魔物の中でも最も速いと謳われるほどの健脚をもつ。魔法も使う事ができるが、専ら走るための補助にしか用いない。
晶鳥フロース:結晶のような鋭い羽毛を生やす鳥型魔物。その翼の切れ味はボーパルバニーの前歯に匹敵するという。
大蛇ドゥーダ:人間一人程度なら軽く呑みこんでしまうほどの大きさを誇る蛇型魔物。連れて歩くのがとても大変なので、転移の魔法陣を飼育小屋に書き、必要に応じて召喚している。
コッソリーヌ:ネズミ程の大きさしかない犬型魔物。犬型の中では勿論最少の大きさで、もっとも弱いとされている。しかし捕食者から逃れるために発達した嗅覚はどんな魔物よりも鋭いと言われている。脳みそが小さいので賢くはない、故に躾がとても難しい。甘やかすだけなら問題ないが……。




