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59話:マンティコア無双

お待たせしました、第59話更新です!

 (けだもの)の鳴き声が轟くメル草原に、びゅん、びゅるん、と鋭い風切り音が混じる。

 マンティコアの毒尾、万物を殺す毒針を解禁したソレを振るう音だ。


「ギ、イ――


 無謀にも、俺に飛びかかってくるグラッパーリザードが1匹。

 声を上げる間も与えず、尻尾の一薙ぎでその身体を二枚下ろしにしてやる。


「ギュアァ」「ギィィ!」「ギュグググ!!」

「ガァっ!」(無駄だ!)


 一匹ではまるで歯が立たないと理解したのか、何匹かがまとまって飛びかかる。

 だが、例えどれだけの数がかかってこようと無駄である。



 一匹は毒尾に刺し貫かれた。

 別の一匹は振り回された毒針が身体をかすめて、ピクリと大きく痙攣したのちに動かなくなる。

 さらに別の一匹は、尻尾に叩き落とされる。



 その牙を俺に届かせた個体は一匹もいなかった。

 四方八方から飛びかかってきても、この尻尾だけは別の生き物のように反応し、迎撃する。


 これぞ、着ぐるみマンティコアくんの機能の一つ、害意を持った飛来物を自動で防ぐ「尻尾で虫ぺったん」。

 ボーパルバニーのまるもちの動きすら捉えられるこの機能に隙は無い。

 しかも、当たれば即死、掠れば毒死の毒針をむき出しにした今、虫ぺったんによる防御そのものが攻撃と化しているのだから。



「ガブゥッ!」

「!」


 ……どうやら、虫ぺったんの無敵の防御を過信しすぎていたらしい。

 俺の前足に齧り付いた個体が一匹、前方を注視してみると他にも俺の正面からにじり寄ってくる個体が何匹か。

 なるほど、一斉攻撃は囮で、尻尾が届かない正面から攻めるのが本命のようだ。



「ガブ……ッ!?」

「ガフゥ? グルルルル」(どうした? しっかり歯を立ててみろよ)


 前足に齧り付いている個体も、違和感に気付く。

 「歯が立たない」。

 文字通りの意味で、牙がマンティコアの皮膚を貫通し、肉を抉ることができない。



 この着ぐるみマンティコアくんは、筋肉を結界魔法によって再現している。

 しかし、この硬さはそれとは無関係である。


 実の所、俺は「強固な結界が張れるほどの使い手ではない」。

 かつてエアロドラゴンのココに噛みつかれたことがあったのだが、本来なら筋肉など簡単に食いちぎられてしまうほどに、俺の魔法はぜい弱だ。


 だが事実として、着ぐるみマンティコアくんはドラゴンの牙すら通さぬほどに硬い。

 これは、純粋たるマンティコアの皮膚の硬さのお陰だ。


 最強最悪の魔獣の皮を丸々使ったこのマジックアイテム、易々と破れるとおもうなよ!



「ガアァッ!!!」

「グプ、ギっ!?」


 腕に齧り付いた一匹をそのまま地面へと叩き付け、押し潰す。

 ぐじゅりと肉を潰す感覚に若干の不快感を覚えなくもないが、いちいち丁寧に相手してやれるほど、向こうの数は少なくない。


(自動追尾式猫パンチャー起動!)


 正面からくる個体を一匹残らず殲滅するべく、虫ぺったんと同じ要領でネコパンチを放つ機能を起動する。


にょき、と指先からナイフの如き鋭さを誇る爪を展開、マンティコアの剛腕で思う存分それを振るってやる。


 その威力は劇的だ。

 目の前に潜んでいたグラッパーリザードが一瞬で残骸と化し、水を掬って浴びせかけるように鮮血が撒き散らされていく。



「ガォォォォォっ!!!」


 殴る、殴る、殴る、殴るっ!

 体格の小さなグラッパーリザード達にマンティコアの剛腕を止められる術はなく、ただただ一方的に蹴散らされていった。


 これぞ最強の魔獣の力、そこいらの魔物では太刀打ちなどできまい。

 生物としての強さの桁がちがうからな!



「つ、つえぇ……!」


 グラッパーリザード相手に無双する俺に、ゴンズのおっちゃんもビックリ。

 くっひっひ、おっちゃんさっきまでこいつ等に苦戦してたもんなー。




「ティコ、暫くここを任せていい? ちょっとゴンズさんと帰る方法を話し合ってくるね」

「ガウッ!」(わかった!)


 俺一人でとりあえずは対処できると踏んだレナータちゃんは、ひょいと背中から降りる。

 「帰る方法」か……確かにそれは、何かしらのアイデアが必要だろう。


 ここへ来るまでにも、バルーンローパーだけならず様々な魔物を蹴散らしてきたのだ。

 つまり、俺がグラッパーリザードをすべて倒したとしても、魔物使いの国へ帰るまでにはまた別の魔物に襲われてしまう。

 モウモウ達を庇いながらだと、流石の俺でも全員無事に帰れる自信はない。



(レナータちゃんの作戦会議を邪魔されないよう、俺は暴れまくってればいいわけだが……一応聞いておくか。ラフ、ラム――)


 いざ作戦開始という時に俺もすぐ協力できるよう、盗み聞き用に作った魔法でレナータちゃん達の会話を聞いておくことにした。


「ゴンズさん、怪我の具合はどうですか」

「ああ、かすり傷みてぇなもんだ。けど拙いのは、そろそろ怪力の札の効力が切れちまうかもしれねぇ」


 よし、盗み聞き成功だ。

 あとは聞き入って隙を晒さないよう、注意しないとな―――



「長くは戦えないんですね。……戦力は私とティコだけですか。あっ、そういえばモンスターラバーズの人は?」

「アイツは期待しねぇ方が良い、戦いはてんでダメだっつーからモウモウの上に避難させてる」

「そうですか……戦力は私とティコ、ゴンズさんは難しい、あとは使い捨ての囮が一人……」

「ちょーっとそこのお嬢さん!? なんだかとっても恐ろしい事を口にしてませんかねぇ!?」


 まってまってレナータちゃん怖い!? 怖いよ!?

 イヤミューゼを切り捨てる気満々だよこの子!?

 いやまあ確かにコイツに良い印象はないけどさ、ちょっと合理的すぎるんじゃないかなぁ!?



「あっ、使い捨ての囮(イヤミューゼ)さん、こんばんは。大丈夫ですよ、外の魔物達って獲物の骨まで砕いて食べちゃいますから、きっと行方不明者扱いです」

「それは貴女達に嫌疑が向かないって意味での「大丈夫」ですよねぇ!?」

「えっ? 牧場にあんな事しておいて、しかもモウモウ達を外に連れだしておいて。骨は拾っておいてほしいんですか?」

「ごめんなさい!! ほんっっとうにごめんなさいっ!!! 反省してますからどうか命まで拾ってくださいよォォォ!!」


 いつもの可愛らしいニコニコ笑顔の筈なのにとっても怖いレナータちゃんは、今回の件に関して怒り心頭のご様子。

 これにはイヤミューゼもたまらずモウモウの上で器用に土下座をしてしまう。

 まあコイツを切り捨てた所で、しらを切ってしまえば真相は闇の中だからなぁ。

 

 それにしても、レナータちゃんはあんな風に怒るのか……うん、絶対に怒らせないようにしよう。



「レ、レナータさん。俺もあいつのこたぁ嫌いだが、なにもそこまでしなくとも」

「うーん、ゴンズさんがそう言うなら……。再利用予定の囮(イヤミューゼ)さん、足手纏いにはならないでくださいよ」

「ほっ……でもなぜだか背筋がゾクゾクするのですが」


 ゴンズさんの言葉もあってか、「全員帰還」の中にイヤミューゼも入ったようである。

 とても酷い言葉にルビを振っている気がするが、きっと気のせいだろう。




「――って、それはどうでもよくって。ゴンズさん、ここから牧場まで帰る算段ってついてますか?」

「帰る算段か。俺ぁモウモウ達を牧場まで逆走させるしか手がねぇと思ってる。いったんモウモウが走りだせば、止められる魔物なんてそうそういねぇからな」

「なるほど……確かにそうですね」


 ふむふむ、これはゴンズのおっちゃんの言う通りかもしれないな。

 野生のモウモウとは違い牧場のモウモウは大人しい気質ではあるものの、体格は野生のものと遜色はない。

 一度興奮して群れが走りだせば、大概の魔物は蹴散らしながら進めるだろう。


「ただ、二つ問題があってな……。いや、レナータさんが居てくれりゃ何とかなるかもしれねぇが……」

「問題ですか?」

「ああ、一つはこの囲まれてる状況をなんとかしねぇとモウモウ達が走りださねぇ。もう一つは「群れの誘導」だ。モウモウ達を牧場に辿りつくように導いてやらねぇと」


 うーんと唸るゴンズのおっちゃん。

 確かに、グラッパーリザード達は蹴散らしても蹴散らしてもわいてきている。

 ぐずぐずしていれば別の魔物の群れにも囲まれるかもしれないし、危険だ。

 一匹一匹倒すのではなく、一気に倒す必要があるだろう。


 そして蹴散らした後の誘導だが……、これはきっと、想像以上に難しいものになる。

 襲いくる魔物を退けつつ、走るモウモウ達に追いつき、牧場の方角へ向かうよう誘導するという三つの作業を並行して行わなければいけないのだから。



「……包囲の突破に、モウモウの誘導。ゴンズさんっ、私多分ぜんぶできちゃいます!」


「ホントぁ俺が全部やるつもりだったんだがこの様だ……。何一つ問題を解決できちゃいねぇし、流石のレナータさんでもむずかし―――って、え?」


 ゴンズのおっちゃんの落ち込んだ声音に対して、場違いなほどに明るく返事をするレナータちゃん。


 俺も先ほどあげられた問題点を聞いてピンときているのだが、この作戦はレナータちゃんならきっと成功できる。

 我がご主人様を甘く見てもらっちゃこまるぜ。




 ――作戦の決行には、レナータちゃんが準備を整える必要がある。

 よってその間、俺はたった一人で魔物どもと戦っていた。


「クマー!」

「ガァウッ!」(こんのっ!)


 特徴的な雄たけびをあげて襲い掛かって来たクマ型魔物に対し、がっちりと両手を組み合う。

 グラッパーリザード共の血の匂いに惹かれて、とうとう他の魔物も乱入してきている状態だった。

 その中でも、とりわけこいつは手ごわい。


 マンティコアに引けを取らない体格と筋力、互いの力が拮抗しているせいで他の雑魚と同じようにねじ伏せることができない。

 おそらく、この草原に生息する魔物の中では上位に位置する捕食者だ。


(いつもの俺なら、かなり手こずる相手だけど……今なら!)


 両手は塞がれ、互いの牙は届かない。

 だが手足が動かずとも……俺のこの尻尾は自由に動ける!



 ――ドッ! っと容赦なくその脇腹を貫いてやった。


「グッ……、マ……!?」


 ひと突きでクマ型魔物の顔色が変わる。

 組み合った手から激痛による動揺が感じ取れる。

 まだ立っていられるらしいが、マンティコアの毒を打たれた以上もう助からない。


 そこからさらに、二度、三度と執拗に毒尾を刺し続けて――


「グ、マァ……」

 

 ズウゥン、とその巨体が崩れ落ちる。

 びくびくと泡を吹き痙攣する姿は痛ましい。


 ……毒で無意味に苦痛を味あわせるのも酷なので、全力のネコパンチでその頭蓋を思いっきり踏み砕いておく。



「ガァオオオオオッ!!!」


 そして景気づけと他の魔物への牽制を含めて、咆哮。

 これで魔物達が少しでも怖気づいて、逃げ出してくれれば助かるんだけど……。



「「「「ギュルルルル……!!」」」」」


 やはり、俺の咆哮への返事とばかりに、威嚇の唸り声が彼方此方から上がる始末。

 この辺りの生態系の頂点らしき魔物を圧倒し、格の違いを見せつけてもこの対応。

 これが魔物という生き物なんだよなー。


 自分以外の全存在に対して尽きること無く敵意を向け続けてくる……。

 改めて、魔物使いの国って凄いよなと思う、こいつ等を人に慣れさせるなんて無理だもん。



(さて、そろそろレナータちゃんの準備が終わるころ合いかな?)


 魔物達と戦い続けて、結構な時間が経過している。

 俺にはまだ余裕はあるものの、そろそろレナータちゃんが準備を整えてそうなものだが……。



「――ティコ、ありがとう! 準備終わったよ!」

「ガウガウガウ!」(ナイスタイミング!)


 レナータちゃんの声に、俺は元気よく返事を返す。

 それにしてもこのタイミングの良さ、ほんと息ぴったりだぜ俺たち。


 彼女が行っていた準備とは、持っている種袋の中にある、植物魔法用のしょくばいへ詠唱し、魔力を込めること。

 それを時間をかけて行うということは、つまり――



「ゴンズさん、いけます! 今から私の全力の魔法――「名無しの森」で、この辺りを一掃しますっ!」


 ――レナータちゃんの全力全開を、お披露目する時が来たということだ。

今回の解説

メル草原に住む魔物:人の住む国周辺の魔物はあまり強くない、ただし外の世界はどこでも際限なく魔物が湧いて出てくる。

レナータ:イヤミューゼに対してはかなり本気で怒っていた。使い捨ての囮にするというのは冗談ではなく、本気マジである。

クマ型の魔物:「ビカールグマ」という名前の魔物で、メル草原に生息する魔物の中では最も強い部類。クマーと可愛らしく鳴くが、凶暴なので近づいてはいけない。万が一遭遇したら、手荷物でもなんでもいいので投げつけて、気を逸らして逃げよう。そんな餌で釣られクマー!

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