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45話:彼女が確かめたかったこと

お待たせしました、45話更新です!


「オオオッ!!」

「キュゥ!?」


 魔法によってマンティコア砲弾と化した俺は、ココを道連れに地面へと一直線に落下する。

 ズンっ! と着地時に地面にヒビを入れながら、俺はココのマウントポジションを奪う事に成功した。



「あうっ!」

「きゃあっ!」


 落下した衝撃で、レナータちゃんとシャーロットがお互いの相棒の背中から投げ出される。


ラフ(ガフ)ラム(ガウ)風よ(ヴァンガフ)逆巻き(ギャンヴォ)彼女達を吹き上げろ(ガファグルルォ)!」


 俺やココはこの程度の落下じゃあビクともしないが、人間である彼女達は万が一ということもある。

 素早く風魔法で小さな竜巻を生み出し、ふわりと体を浮かすことで衝撃を和らげてあげた。

 ……シャーロットを助ける義理はないが、まあサービスということにしよう。


「クッ、キュウゥゥ! キュゥーっ!!」

「ガウッウウッ!」(大人しくしてろっ!)


 俺をどかそうと暴れるココだが、マンティコアに乗っかられてはそうそうに抜け出せまい。

 おまけに、翼を広げられないようキッチリと押さえ込んである。

 エアロドラゴンの翼は羽ばたかせる分には強い力を出せるが、広げる時はそうでもないらしい。

 このまま抱きつくようにしていれば時間を稼げるはずだ。



「~~っ、く。なんなのよ、本当になんなのよ一体……!」

「っいたた……。一体何が……!?」


 レナータちゃんとシャーロットはほぼ同時に起き上がる。

 ティコが突然魔法を使いだしたと思ったら、凄い勢いで突っ込んできて地面に墜落したという状況をまだ理解しきれていない様子だった。


「――! ココから離れなさいよ!」


 しかしそれも一瞬だけ、シャーロットはココを押さえこむ俺を見て、槍を向けて走り出す。

 

「っ! ニャル、ナーオ、植物よ(プランテット)硬くしなやかな(カクトシュープレ)壁となれ(ノプレスウォー)!」


 駆けるシャーロットに対抗し、レナータちゃんもまた動き出す。

 撒いた種子はみるみるうちに成長し、シャーロットが俺の元に来る前に、行く手を遮る茨の壁を作り上げた。

 そうだ、それでいい、ココは俺に任せてくれ。

 そのかわり、シャーロットは君に任せた。


「くっ!」

「ティコがくれたチャンスを、無駄にはさせない」


 俺が突然魔法を使い出したという事実にレナータちゃんは驚く事はなく、それどころかこの好機を逃すまいとする。

 あるいは、あえて今は考えないようにしているのか。


 レナータちゃんは服から試験管のような細長い容器を取り出す。

 その中には泥と何かの植物の根っこが収められており、彼女はそれを地面へとぶちまけた。


「ニャル、ナーオ、植物よ(プランテット)広く根を張り(ワドローツ)わが手に(ハンヅ)鋭くしなやかに育ち(シャトシュープレ)姿を現せ(アペア)!」


 ずあっ! と地面から驚異的な速度で成長したのは、一本の竹だった。

 レナータちゃんがそれを手に取ると、竹の上部と下部がパキリと折れた。

 その折れ口は鋭く斜めに切れて、竹槍として丁度良い長さになっている。



「――あの時の決着をつけようよ、シャーロットちゃん」


 シャーロットに向けて竹槍を突きつけるレナータちゃん。

 お互いの相棒抜きでの、正真正銘のガチンコバトル。

 今のレナータちゃんがシャーロットに勝ち目があるとするなら、ここしかない。



「これ、あの時と(・・・・)同じ(・・)……!」


 対するシャーロットは、ハッとした表情でレナータちゃんを見つめていた。

 まるで、かつて全く同じような状況を体験したかのような、言うなればデジャブを感じている様子。



「……あはっ、ははははは!!! そうよ! アンタはそうこなくっちゃ! あっはははははは!!!」

(!? 急に笑いだした……?)


 そして、堰を切ったようにシャーロットは笑った。

 今までずっとイライラしているような表情から一転しての大爆笑に、俺は一瞬だけ呆気に取られる。



「ティコ一匹だけでも、やっぱりアンタは強いまま! 前は私がアンタを追い詰めて、今度はアンタが私を追い詰めた! ――――いいわよ、決着をつけようじゃないッ!! 前みたいに煙に巻かれて引き分けれるなんて思わないでよっ!」


 シャーロットは高揚した笑顔のままに、槍を構え、切っ先をレナータちゃんへと向ける。

 そこには、レナータちゃんが以前と同じく強かったことへの喜びと、今度こそ勝利をもぎ取ろうとする執念が混在していた。



 そして、シャーロットの言葉で、俺は前の二人の戦いの結末を何となく理解する。

 レナータちゃんが作った森をシャーロットが燃やし、二人とも煙を吸ってそのまま共倒れになったのか。

 ティコの記憶が途切れるわけだ、真っ先に煙を吸って落下してしまったのだろう。

 それは多分、ココも同じはずだ。

 相棒二匹が落下してなおレナータちゃんとシャーロットは決着をつけようとして、それが叶わなかったのだ。


 シャーロットが興奮するのも納得だ。

 まさに今のこの状況が、二人にとってあの戦いのやり直しとなっているのだから。

 


「ココ、ごめんっ! 一人でなんとかティコをどかしなさい! ――その前に私がレナータを仕留めるのが先だと思うけどっ!!」

「キュッ! キュアァー! ガブーッ!」

「ッガフ!? グ、グルルル!! ギャンッ!?」


 シャーロットはココに一声かけて、レナータちゃんの元へ駆けだした。

 うおおっ、ココの抵抗が激しくっ……!

 あいた!? こら、首元に噛みついてくるんじゃないっ!


「ごめんティコ、しばらくココを抑えて!」

 

 レナータちゃんは俺にココを抑えるよう言い放つと、竹槍を構えてシャーロットの方へ走る。

 くうっ、俺も魔法でレナータちゃんを援護したいが、ココを逃がしたら元も子もないか……!


ラフ(ガフ)ラム(ガウ)鎖よ(ギャン)この者の枷となり(グァフグォガァ)動きを封じろ(ギャーフ)!」


 少しでもレナータちゃんを援護する余裕を作るため、ココに向けて封印魔法を使う。

 黒い鎖が出現し、ココの手足や翼を縛り上げていく。

 しかし……。


「キュルゥ!」

(くそう、分かってたけど俺の魔法じゃ無理か!)


 鎖はココが四肢を振るうと、あっけなく砕け散ってしまう。

 分かっていたことだ、複数の魔法を組み合わせるなら兎も角、単純な一つの魔法じゃドラゴン相手に通用しない。

 俺は幾つもの種類の魔法が使えるが、まるでその代わり(・・・・・)のように、一つ一つの魔法は平均以下の出力でしか使えないのだ。

 予めココに使うつもりで、魔法の組み合わせを考えていれば結果は違ったのだろうが……。


「グルルル、ガァァ!」(考えてる暇も、ないっ!!)

 

 仕方なく、このままマンティコアパワーでココを抑え込む。

 着ぐるみマンティコアくんには、思い出せないくらいの数の魔法を組み合わせて作られている、これならばココにだって通用する。

 それでも相手はドラゴン、油断すれば脱出されかねないぞ。



「「やあああああっ!!!」」


 一方のレナータちゃんとシャーロットは、槍を交えた白兵戦を展開していた。

 鋼鉄の槍が突き出され、竹槍がそれを打払う、続けて鋼鉄の槍の石突が振るわれるが、竹槍はそれを真っ向から受けとめる。

 竹槍が折れそうなものだが、どうやらレナータちゃんの振るうあの竹槍はもともと頑丈なものを更に魔法で強化したようだ。


「ったく! ふ、ざ、け、ん、じゃ、な、い、わ、よっ……! 普通に白兵戦までこなすとか、アンタホントに化け物ねっ……!」

「私のお母様の事、知ってるでしょっ……! もう諦めちゃったけど、初めはお母様に力で勝つつもりだったんだからっ……!」


 ギリギリギリギリと、槍の穂先で押し合う二人。

 力はややシャーロットが有利だが、レナータちゃんも負けじと食い下がっている。


(さっすがリアーネさんの娘、予想通りだ。レナータちゃんが白兵戦が出来ない訳ないよな!)


 その様子を見て、俺は今までレナータちゃんに対して思っていたことが当たり、内心ニヤリとする。

 実のところ、レナータちゃんが本当に魔法使いの戦い方しかできなかったら、このシャーロットと1対1のガチンコ勝負、勝ち目なんて絶対になかったりする。

 理由は簡単で、詠唱している間にズバッと切られたらそれでおしまいだから。


 しかし、彼女は竹槍を使いこなし、シャーロット相手にうまく立ち回っていた。


 飛行訓練をしていた時もそうなのだが、レナータちゃんは妙に身体能力が高いなと思っていたのだ。

 いや、そもそも「あの災厄使いリアーネの娘が」、「なぜ母親と真逆の戦闘スタイルである魔法使いの戦い方をしている」という時点で、大きな疑問があった。


 その答えがこれ。

 母親譲りの格闘センスもあって元々は白兵戦主体で戦っていたが、それだけではリアーネさんには敵わない。

 だから魔法の才能を活かす戦い方に切り替えたのが、今のレナータちゃんというわけだ。



「……言われてみたら納得したわっ、アンタはあの災厄使いの娘だものね! でも、少しなまってるんじゃないの!」

「っく、あ!?」


 力でやや勝るシャーロットが、競り合う槍を強く押し出してレナータちゃんを突き放した。

 ほんの僅かに生まれた隙を逃さず、鋼鉄の槍がレナータちゃんの手元へと伸び、竹槍を弾き飛ばしてしまう。


「魔法主体で戦ってた期間が長すぎたみたいね。 同じ得物(やり)で私に勝とうなんて――」


 すかさずシャーロットはレナータちゃんの首元めがけて鋼鉄の槍を突き出した。

 まずい! くっ、レナータちゃんにブランクがあるのは予想してたけど、ここまではっきりと差がでるのは予想以上だ!?



「ニャル、ナーオ、植物よ(プランテット)成長しろ(ボーン)!」

「――っぷあ!?」


 だが、俺の心配も杞憂に終わる。

 レナータちゃんが短く詠唱をすると、彼女を守るように地面から複数の竹が一斉に生えてきた。

 目の前に現れた小さな竹林にシャーロットは思いっきり突っ込んでしまい、たまらず怯む。


「大丈夫、私も槍だけでシャーロットちゃんに勝てるって思ってないよ」

「っ魔法を!? いつの間に種を仕込んで――いや、あの竹槍を作った根っこを、ずっと成長させてたってわけね……!」


 シャーロットが怯む隙を逃さず、レナータちゃんは竹槍を拾い直す。

 ああそうか! そういえばあの根っこに、「広く根を張れ」って魔法をかけてた!

 となると、コロシアムの地面には今頃竹の根っこがびっしり広がってるわけで……、これ軽く詠唱しただけで竹生やし放題じゃないか。


「――いいわ、それでこそよ! やっぱりアンタは一筋縄じゃいかない! ガォ、ラグーン、ニール、炎よ(フォイア)槍に纏えッ(ラスウェア)!」


 ごうっ! とシャーロットは槍の穂先に炎を纏わせて、獰猛に笑う。


「正直に言うわレナータ。私とっても嬉しいの。アンタが変わらず強いままで、こうして今、強さを競える事が――とっても楽しいのっ!!!」


 苛烈な笑みのままに、シャーロットは炎槍を振るい竹林を切り払う。

 言い放った言葉の通り、今の彼女は心の底から楽しそうだった。


「……っ!!」


 対するレナータちゃんは、変わらない――戦いが始まった時と全く同じ、どこまでも真剣で、笑み一つ浮かべない表情だ。


 そうして二人の槍が再び交差し、舞い踊る。



「ティコにしてもそうよ! まさか魔法を使ってくるなんて完ッ全に予想外! いつの間に仕込んでたのよ!!」

「それについては私も、心当たりはあるけどっ! ティコが魔法使えるのは知らなかったよ……っ!」


 お互いに叫ぶように語り合い、炎槍を突き出し、竹槍で払いのける。


「なにそれっ!? アンタ把握してなくてこの状況まで持ってきたっていうの!? っあははは! 益々面白いわっ!!!」


 シャーロットは更に笑う。

 竹槍が顔めがけて伸びる、そして躱されて、返しに炎槍が横薙ぎに振るわれる。


「ニャル、ナーオ、植物よ(プランテット)成長しろ(ボーン)!」


 竹林が発生し、炎槍はそれを切り裂く――が、ほんの少しだけ槍の動きは鈍る。

 レナータちゃんはシャーロットの腹に蹴りを入れる、当然鎧を着込むシャーロットにはそれ程効いてはいないが、仕切り直すには充分。



「「や あ あ あっ!!!」」


 二人の闘いぶりに、コロシアムにいる観客全員が固唾を飲んで見守っている。

 俺も観客だったら見入っていただろう、それほどまでに素晴らしい闘いっぷりだからだ、けれどーー



「ガァァ! ガブーッ!!」(お返しだ! 噛み付いてやる!)

「キャン!? キュァァ!?」

「ガッ!? ガフェフェ……」(あがっ!? かかへぇ……)


 俺もココを食い止めなければならない。

 というか、仕返しに噛みつき返してやったけど、鱗かたっ!?


「スァァァ――カァッ!!!」

「ギャブーーーッ!!?」


 ココは俺に押し倒されたまま、風のブレスを吐き出す。

 とはいえ態勢が悪いので、ブレスは俺の顔ぐらいしか直撃しないが……いやめっちゃ鬱陶しい!

 たてがみとか顔の皮膚とかめっちゃ上がるんですけど!?


「プキュッ!? キッ、キャッキャッ!」

「ガウガウガウガウーッ」(おうこら人がブレス食らった顔見て笑ってんじゃねーっ)

「ムキュン!?」


 鳴き声のイントネーションで、ココが俺の変顔をみて笑ってるくらい察しはつくぞ。

 べちんと横顔にマンティコアパンチを食らわせる……が、あまり効いていないようだ。


 くそう、俺がココにとどめをさせれば決着なのに、どうにもマンティコアとドラゴンだと互いに決め手に欠ける!


 俺とココの戦いは泥沼化する。

 もはやレナータちゃんたちの決着でしか、この戦いは終わらないだろう。


「あははははっ!!」

「はぁあああっ!!」


 ――二人の少女はぶつかり合い、何度槍が交差しただろう。

 決着をつける好機がいくつも巡り、その度に互いが互いの好機を潰していく。


 永遠かと思われる戦い、しかし、時間は二人の体力を着実に奪っていき、終わりへと導いていく。



「――あはっ、はぁ……はぁ……! 最高よ、レナータ。さすが、私のライバル……!」

「はぁっ、はぁっ、はっ……!」


 槍と槍の打ち合いがしばらく続いて、もはや二人の体力も限界が近くなっていた。


 レナータちゃんの竹槍も所々に焼け焦げた跡が目立ち、シャーロットの槍からは炎が消えている。

 コロシアムの地面には焼き切られた竹が散乱していて、まさに決着にふさわしい様相となっている。



「ンガァ……ッ」(行かせるか……ッ)

「ン、キュゥ……」


 俺とココもまた、体力の限界だった。

 お互い力が近いもの同士で、全力でマウントの奪い合いをしていたのだから当然である。

 俺がちょっと乗っかっただけでココは動けない、そして俺もココにのしかかったまま動けない。



「名残惜しいけど……、これが最後ね。はぁっ、はっ……!」

「そう、だね……。終わりにしよう、シャーロットちゃん……!」


 ふらふらになりながらも、二人は槍を構える。

 次の激突で、決着をつけるつもりだ。


「っはああああああっ!!!」


 先に動き出したのは、シャーロットだった。

 限界に近い体力を振り絞って、力強く、真っ直ぐにレナータちゃんへ槍を突き立てようとする。


「ニャル、ナーオ――


 対するレナータちゃんは、魔法を詠唱する。

 おそらくだが、シャーロットの足元に竹を生やして、転倒させる気だ。

 今のシャーロットの槍には炎が宿っていないから、簡単に切られることは無いと考えたのだろう。

 レナータちゃんらしい、確実で、冷静な判断だった。



 しかし、ただ一つだけ、不幸な偶然があった。


()りゃん(・・・)――っ!?」


 噛んだ(・・・)、疲労からかレナータちゃんは、詠唱を噛んでしまったのだ。

 魔法は正しく発音しなければ発動しない、ゆえにシャーロットを妨害することは叶わず―――



「もらっ、たあああああ!!!」


 鋼鉄の槍は竹槍をかち割って、レナータちゃんの胸へと叩き込まれた。



―――そこまでっ!!! 勝負ありです!!!」


 審判であるセラ先生の声が、コロシアムに響き渡る。


 槍の穂先がレナータちゃんに突き刺さる直前に、その身体を結界魔法が覆った。

 それと同時に、俺の首輪が赤く光る。

 どうやらこの服従の首輪の効果らしい、どちらかが致命傷を受けたと判断した時にこの首輪は光って、ご主人様を守る結界魔法を発動させている。


 つまり、この首輪は――


「勝者は、シャーロットさんです!!!」

「「「おおおおおおおおお!!!」」」

「私、勝った……?」


 ――俺とレナータちゃんの、敗北を知らせていた。



「グゥゥ……」(くっそぉ……)


 負けてしまったという事実に、どうしても悔しさがこみ上げてくる。

 コロシアムの歓声は別にシャーロットを贔屓したものではなく、純粋に素晴らしい戦いぶりを見せた俺達への賞賛なのだろうと分かっていても、煩わしくて仕方がなかった。

 ちくしょう、ごめんよレナータちゃん、俺が最初から魔法を使うって腹くくってたらこんな事には……。


(って、レナータちゃんは大丈夫か!?)


 結界魔法が機能しているとは分かっていてもレナータちゃんが心配だ。

 ああっ!? 仰向けにぶっ倒れてるじゃないか!? 怪我とかしてないよな……!?

 すぐさまココの上からどいて、フラフラと彼女の元へ歩き出す。


 だが先にもう一人、シャーロットがレナータちゃんの元に来ていた。

 勝ったとは言え、疲労困憊の彼女も槍を杖代わりにしている。



「はっ、はぁっ……私の、勝ちよ。でも謝るわ、ごめんなさい、今までずっと酷いこと言っちゃって……あっ」

「だ、大丈夫?」

「大丈夫よ、つっかれたぁ……。ふぅ、本当にごめん。アンタは前とは違うけど、強いアンタのままだったっていうのに……」

「ふふっ、シャーロットちゃん、気にしなくていいよ。私もつい最近まで戦うのが怖かったから」

「ああ、そうだったの……」


 どさり、とシャーロットも限界がきたのかレナータちゃんの隣に倒れこんだ。

 もはや起き上がるのも面倒くさいのか、二人はコロシアムで寝転んだまま会話を続けている。


 うーん、ひょっとして、仲直りするのかなぁ?

 だとしたら、俺があんまりしゃしゃり出ない方がいいだろう、俺は静かにレナータちゃんの隣に座ることにした。



「ガフ」

「ティコ……戦ってくれてありがとう、ごめんね負けちゃって。シャーロットちゃんも、お疲れ様」

「アンタねぇ、お疲れ様って……少しは悔しがりなさいよ」

「うーん、悔しいって気持ちが湧かないっていうか。寧ろ、戦ってはっきり分かったことがあって、スッキリしてるというか……」


 敗北したレナータちゃんであったが、その表情には悔しさは一切見られない。

 それどころかすがすがしささえ見られて、不自然なくらいだった。

 

(はっきり分かったこと……?)


 レナータちゃんの言葉に俺は内心首をかしげる。

 はて、そういえばレナータちゃんはシャーロットに決闘をしようといった時に、妙な言い回しをしていた気がする。


(「丁度よかったし(・・・・・・・)。わたしも約束は破りたくなかったから」か……)


 もしかするとレナータちゃんは、約束を守る以外にも、何かを確かめる目的もあって戦っていたのか?


「はっきり分かったって、何よ?」


 俺と全く同じ疑問を抱いたらしく、シャーロットが聞き返す。

 



「うん。私ね、やっぱり(・・・・)戦いには(・・・・)向いてない(・・・・・)って、分かったんだ」

「――――は?」




 レナータちゃんの答えに、シャーロットが目を丸くする。

 当然だろう、マンティコアを従えて、強力な魔法も使えて、あまつさえ竜騎士と互角に渡り合えるレナータちゃんがそう言ったのだ。


(戦いに向いてない? いやいやナイナイ、レナータちゃんめっちゃ強いじゃん。戦いが嫌い(・・・・・)ならともかく――――あっ)


 俺も一瞬だけあり得ないと思ったが……、思考の中に引っかかるものを感じた。

 心の底から戦いを楽しんでいたシャーロットに対して、終始真顔のままで戦い続けたレナータちゃん。

 思い出してみれば、彼女が今まで戦っている時、一度だって喜びの表情を見せたことがあっただろうか?

 

 俺が覚えている限りでは、そんな記憶はない。

 戦っている時のレナータちゃんからは一切の感情が読み取れない、楽しいのか、はたまた嫌なのかさえも分からなかった。

 もしかしてレナータちゃんは、「自分が戦うことが好きなのかどうか」それを確かめるために、シャーロットと戦ったんじゃあ……。



「ふ……、ふ……!

「だから私、ビーストマスターズ出場は「ふざけんじゃないわよぉぉぉぉ!!! アンタが戦いに向いてないってんなら、この国で戦いに向いてる奴なんてどこにもいるかぁぁぁぁぁ!!!」ひゃああっ!?」


 当然そんな事まで分かる筈がないシャーロットは、疲労も何のその、今までで一番気合の入った怒号を飛ばすのであった。

今回の解説

竹:品種改良により硬くしなやかに育つ、魔法により強化することで鋼鉄の槍に勝るとも劣らぬ強度を誇り、もはやTAKEと言っていいシロモノ。今回、コロシアムの地面いっぱいに根っこを張り巡らしたため後始末が物凄く大変、これには学校側も思わず涙。

炎槍:鋼鉄の槍に炎まとわせて熱くないの? と思われがちだが、シャーロットの嵌めている手袋は熱を通さないサラマンダーの皮で出来ているので問題ありません。

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