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一周年記念番外編:マジックアイテムを作るのが趣味の「私」は、マンティコアに就職しちゃいました!?

このお話もついに連載一周年となりました! よく頑張った自分と自画自賛しております!

ここまで続けて来れたのも、読者の皆様のお陰です!

それでは、1周年記念の番外編をどうぞ!


追記:来週は忙しいため、次回更新は二週間後となります。

 最初に念を押しておこう。

 このお話は、あったかもしれないが、しかしそうはならなかったお話。

 あるいは、どこかの誰かが夢見た物語。

 いやしかし、それにしても余りにこれは、バカバカしいお話だろう――。



 ~もしもダグラスとレナータの立場と能力が、そっくりそのまま入れ替わっていたら~



★★★ Re プロローグ:ちょっとしたお願い


「んくっ、ああ~っ。もー、煮詰まっちゃったなぁ。こっちの式を先に組んじゃうと床がどんどん熱くなっちゃうし……」


 考えすぎて熱くなった頭を冷まそうと、私は椅子に座ったままうーんと大きく伸びをする。

 机の上にある魔法陣を眺めて、はや一時間。

 いいアイディアがいまいち浮かばなくて、精神的にまいっちゃうなぁ。


「レナちゃーん。お父さんちょっと用事があるんだけど、入っていいかな?」

「お父様?」


 トントン、と控えめにノックされるドアから、お父様の声がした。

 レナちゃんというのは、私ことレナータ・ユビキタスの小さい頃のあだ名なんだけど……もう私は25歳になっていて、今更そんな呼び方をするってことは相応の理由がある訳で。


「えっと、もしかして……何か困りごとでもあったの?」

「そうそう、そうなんだよ。レナちゃんじゃないと頼めない「仕事」があってね――」

「――っ」


 お父様はやっぱり、私に仕事を頼みにきたみたいだ。

 でも、仕事……。

 その言葉を耳にするだけで、ドクンと心臓が跳ね上がる感覚が私を襲う。

 仕事と聞いてしまうと……どうしても私はダメになってしまう。


「ごめんなさい、お父様……。私、仕事は出来ない。私の魔法はあくまで趣味だから「お願い」じゃないと、どうしても引き受けられない」

「――あっ!? ご、ごめんね!? そうだったよお父さんうっかりしてた! お願いだから! レナちゃんにお願いがあるんだ」

「それなら……大丈夫」


 お父様が慌てて訂正して、私はほっとする。

 前に働いていた仕事を辞めてすっかり自信がなくなった私は、ギルドに再就職もせず、フリーの魔法使いとして趣味のマジックアイテムを細々と作る毎日を送っている。

 といっても、流石に何もしないのはすごく罪悪感があるから、商人ギルドのギルド長をやってるお父様の「お手伝い」をこなし、対価としてお小遣いくらいはもらっているんだけど。


「それで、どんなお願いなの?」

「引き受けてくれるのかい?」

「うん、ちょうど行き詰ってたとこだったから」

「いやーよかった! 実はね――」


 こうして私は、お父様の昔の恩人である、ギュンター卿の元へと行くことになった。



★★★ Re 4話:悪事の片棒を担いでみよう


「死体偽装……マンティコアのティコくんが、まだ生きてるように見せかけて欲しいってことですか?」

「そう、その通りだ。我が息子、ダグラスはティコを含めて三匹の魔物を死なせてしまった。だから、国法律によって学校を退学、今後魔物使いとしては生きていくことは出来なくなってしまうんだ……」


 ギュンター卿のお願いというのは、とっても複雑な問題だった。

 単に死体を動かすだけならネクロマンサーに依頼をするべきなんだけど、マンティコアを生きてるように見せかけて、尚且つそれが誰にもばれない状態を超長期間維持し続ける……。

 正攻法で考えたら、まず無理だ。

 年単位で魔法を使い続けることも、死霊魔法をばれずに使い続けることも、そして何よりコレは犯罪だ。


「うーん……確かに厳しいかもですね。もしもばれちゃったら取り返しがつきませんし」

「レナータ君にも、ケイさんにも、お礼ならいくらでもする。どうか、私と息子を助けてはもらえないだろうか……!」

「ギュンター卿! あ、頭をあげてください! れ、レナータ、正直お父さんここまで深刻な話って知らなかったんだけど実際はどうなんだい!?」


 ギュンター卿が深々と頭を下げて、お父様も大慌ててしている。

 そんな二人に対して、私はというと……。


(マンティコアの死体偽装……。も、もしかしてこれ、最上位クラスの魔物の身体を自由に弄っていいってことなのかな!? 条件は難しいけど、今ちょっといいアイディアが思い浮かんでるし……)


 とっても不謹慎なことを考えていました。

 その、魔物の身体って色々な部位が質のいいマジックアイテムに加工できるから、つい……。

 それにマンティコアってドラゴンより希少な魔物だし、きっとすっごいマジックアイテムに加工できるし、マジックアイテム作成が趣味の私としては関わらずにはいられないというか、なんというか。

 私だって、人が飼ってた魔物の死骸を弄繰り回すことについては、ちょっと罪悪感は感じるけど……ギュンター卿がお願いしてるわけだし……。


「……あ、あのっ、引き受けます! ちょうど今、いいアイディアが浮かんでるんです。マンティコアの死体偽装、私に任せてください!」


 この時、私の頭の中には正に天啓ともいえるマジックアイテムのアイディアが浮かんでいた。

 きっと大丈夫、このやり方なら絶対にバレない。


 後になって、私はこの天啓とは名ばかりのトンでも案に生涯後悔することになる。

 欲望に負けたバチが当たっちゃったのかなぁと……。



★★★ Re 6話:着ぐるみマンティコアくん


「ふふふっ、悪ふざけしてごめんなさい。私です、レナータです。どうですかこの「着ぐるみマンティコアくん」、まるで本物のマンティコアでしょう?」

「「き、着ぐるみ!?」」


 私は、ティコの死骸から皮を剥いで、それを着ぐるみに加工することでマンティコアになり切れるマジックアイテム、「着ぐるみマンティコアくん」を作成した。

 試しにコレを着たままお父様とギュンター卿をおどかしてみたんだけど、二人とも想像以上に大慌てしちゃったから、落ち着かせるために自分の声を出して見せる。


「はい、着てるだけで体格も動きも全部マンティコアっぽく動かせるんです。ほら、翼も尻尾も自由自在です。使う魔力もしっかり抑えてますから、ずっと着たまま生活することだって出来ますよ!」

「おお……素晴らしい! 私の想像以上だ。これなら誰にも気づかれることはない!」

「すごいよレナータ! おとうさん、本当にティコが生き返ったかと思ったよ!」

「えへへ、流石にそれはむりだよぉ」


 ギュンター卿とお父様も、着ぐるみマンティコアくんの出来に大満足している。

 よかったぁ、自分の興味本位でやったことだけに、感謝されてとても安心する。


「それにしても、素晴らしい再現度だ、ティコの体格はレナータ君の倍はあるだろうに……。それに、声も完全にティコそのものじゃないか」

「えへへへ……、体格は特に苦労しましたよ、色々な魔法を組み合わせた魔法陣をびっしり書いてます。逆に声は簡単でした、喉元に音魔法をベースにした魔法陣を書き込むだけでーーーーガォォォォォッ!」

「おおっ、まさしくティコの吠え声」

「ひえええ……」


 そんな感じで、着ぐるみマンティコアの性能を披露していた時だった。


「今の声! ティコ!? ティコなのか!!?」


 優しそうな顔つきをした茶髪の男の子が、ひどく狼狽した様子でこの部屋に入ってきたのだった。



★★★ Re 7話:そして拉致されるマンティコア


「ダ、ダグラス。今はお客様と大切な話をしているから、ここには入ってはいけないと言っただろう」


 ギュンター卿が隠しきれないほどの冷や汗をかきながら、男の子に注意する。

 ダグラスと呼んだことから、この子がマンティコアのご主人様で、ギュンター卿の息子さんなんだろう。


 茶髪に黒目で優しそうな顔つき、体格もすらりと痩せているように見えてちゃんと引き締まってる、ふつうにカッコいい男の子だった。

 顔はギュンター卿とはあまり似ていないけど、きっとお母さん似なんだろうな。


 それにしても、さっきの吠え声が外にまで聞こえていたみたいだ。

 あ、危なかった……咄嗟に口を閉じたからバレてないけど、いきなり偽装生活が失敗しちゃうところだった。


「ごめん父さん、でも今ティコの声がここからーーっあ」


 ダグラス君が勝手に部屋に入ってしまったことを謝ってると、私と目があった。

 正確には、着ぐるみマンティコアくんを着ている私と、だけど。


「ティコ……! ティコォっ!!」


 私の姿を見た途端、ダグラス君は顔をくしゃくしゃに歪めて、こちらに駆け寄ってくる。

 ああよかった、バレてない……じゃなくて!?

 そのままこっちにきて、まさか、まさか……!?


「ティコぉ、げん、元気になったんだな…… よがっだ……! ほんどうに、よかった……!!!」

「ホニャァァァアァ!!?」


 ほにゃぁぁぁぁ!!?だ、だ、だっ、抱き着かれてー!?

 ティコの声にしてたけどすごい変な声がでて、いや、はは恥ずかし、顔が、男の子の顔がこんな近くに、近くにぃー!?


「ダっ、ダグラス!? 嬉しいのは分かるが、ティコはまだ治ったばかりで……!」


 ギュンター卿が咄嗟に止めるよう言うけれど、ダグラス君は私をしっかりと抱きしめて離してくれない。

 はわ、あわわわ、お、男の人の腕って、こんなたくましいんだあわわわ……!?


「本当に良かった……! 俺、お前まで死んじゃったらもう、どうしようって、ずっとこわくて……! う、うぅぅぅぅ……!」

「ホニャニャニャ……!!?」


 もう離さないとばかりに、ダグラス君は私の首回りをがっちりホールドして、しかも頬ずりまでっ……!?


「ホニャァァーーン!!!?」

「んぎゃぁああああ!!?」


 恥ずかしさが頂点に達した私は、反射的にダグラス君を思いっきり猫パンチしてしまいました……。



「ティコを治して下さって、本当にありがとうございますユビキタスさん」

「い、いやあ僕は何もしてないよ、実際に治したのは娘のレナータだし……。ところでさっき首が凄い方向に曲がってたけど大丈夫?」

「大丈夫です! 俺、いつもしつこく触りすぎて殴られてますんで! そうですか、レナータさんが治してくれたんですね、是非お礼がしたいんですけど……」


 ダグラス君がなんとか落ち着いて、お父様は私がティコを治したと嘘の事情を話す。

 当然ダグラス君は私にお礼が言いたいけど、残念ながら私は今ティコの中にいるのでそれは叶わない。


「そうですか、レナータさんは帰られたんですね。残念だったなぁ、お礼言いたかったのに……なぁティコ?」

「ンニャフ、ニャフ……」

「だ、ダグラス。そうやって触り続けるとまた殴られるぞ」

「いいもん! 今日は俺、殴られるまで撫でまくってやるもん!」


 そして私は現在進行形でダグラス君に撫でられ続けています。

 ダグラス君は一瞬たりともティコと離れたくないらしい。

 もちろん私は今にも爆発しそうになるくらい顔が熱いのだけれど、さっきから的確に痒いところをわしわしされてとっても気持ち良くもなっちゃっている。

 ううう……恥ずかしいぃ……ああでも、そこ、そこ気持ちいいよう……。


「まったく……。レナータくんには私からお礼をしておくから。ほら、明日から学校なのだろう? 今日はもう準備をしておきなさい」


 ギュンター卿はそれとなくダグラス君をこの部屋から退室させようと誘導してくれた。

 ほっ、これでやっと解放される……。


「大丈夫! いつティコが治ってもすぐに学校行けるように、準備はとっくに済んでるから! あとはティコを連れて帰るだけだし!」

「「……えっ?」」

「……ニャフ?」


 がチッ、と首を軽く閉められる感触。

 見てみると、それは魔物用の首輪だった。

 続いてダグラス君の手には、どこから取り出したのか、散歩用の綱が。


「それじゃ、行こうかティコ。檻の中は嫌かもしれないけど、少しの間の我慢だぞー。終わったらワシワシしてやるからなー」


 そのまま私はダグラス君に連れてかれて、テクテクと一緒に部屋を出て行ってしまう。

 ちょっとまって、なんで私勝手に歩いて……ああっ!? これ服従の呪いがかかってる!?


 まってまってまって!? もしかして、もしかして私――――


「シャーっ!? ンナァァァ……!?」

「だいじょーぶ、ほら、俺もずっと一緒にいてやるから」

「ホニャン!?」


 そ、そんなカッコいい言葉耳元で囁かないで……じゃなくて!?

 私、このまま魔物使いの国まで行っちゃうのー!?



★★★ Re 10話:マンティコアの朝は眠い、ついでに食事は重い


「ほら、ティコこっち。――トム、ベル、今日はティコも一緒に来たぞ」

「ニャフ……」


 結局私は、魔物使いの国でそのまま偽装生活を送ることになってしまった。

 今日はそのマンティコア生活1日目なんだけど、朝早くから連れてこられたのは、魔物たちの霊園だった。


 ダグラス君はここに来る途中で何度も涙を堪えていたから、私も何となく目的地を察していたんだけれど、ダグラス君の辛そうな顔をみると私も悲しくなってしまう。


 それに、ダグラス君はティコも死んでしまっていることを知らない。

 知らない以上は、ティコの死だけは悼んであげることもできない。

 ……そうさせたのは他でもない私だから、その事実にチクリと心が痛む。


(ごめんね、ティコ。私頑張るから、ダグラス君に絶対バレないように、やり遂げてみせるから)


 目の前にある魔物のお墓に向かって、私は祈る。

 せめて、私だけでもティコの死を悼んであげよう、そう思ったから。


(――ううっ、涙がでちゃう……ダメだなぁ私)


 どうにも生き死にには弱くって、祈る途中で涙が出てきそうになる。

 でもここで泣いちゃったら、ダグラス君に変に思われたりしそうだし、堪えないと……!


「うう、ごべんなぁべルゥ……トムゥ……!! おれが、おれが駄目なごじゅじんざまだったがらぁ……!! う、うぉぉおぉぉ……!!! あぁぁぁぁぁあぁ……!!」

「…………」


 ダグラス君の泣きっぷりがあまりにも酷かったら、涙が引っ込んじゃった……。



★★★ Re 11話:魔物使いの学校へGO


「っしょっと、大丈夫かティコ? まさか教室に辿りつく前にへばっちゃうなんてな、療養生活で体力も落ちちゃったか?」

「ンニャー、ハッ、ハッ」


 今、私は息を荒げながら、ダグラス君に背負われる形で運ばれている。

 ううっ、いざ魔物使いの学校に足を向けたはいいけど、教室に辿りつく前に私の体力が尽きるなんてぇ。

 確かに最近は全然運動してなかったけど、それにしたって学校ここ広すぎるよう……いつになったら教室につくの……?


「ぉーい、ダグラスー!」

「キュウッ!」

「……ん? おう、タクマ! 久しぶり」


 ぐだぐだと進んでいると、後方からダグラス君を呼ぶ声が聞こえた。

 振り向いてみると、そこにはダグラス君と同年代らしき男の子と、とっても可愛らしい緑色の毛をしたウサギさんが。

 わぁ……うさぎさん可愛いなぁ、この子の相棒なのかな?


「それにしても随分遅く来てるんだな? ティコ、まだ調子悪いのか?」

「調子が悪いっていうか、久しぶりの学校でへばっちゃったみたいでさ。だから負ぶって教室まで行こうとしてたとこ」

「よ、よくマンティコアを背負って歩けるな……」

「へへっ、ティコの為だからかな? 不思議とそんなに重くないんだよ、まるで女の子を背負ってるみたいな重さだぜ」

「ンニャッ!!?」


 「女の子を背負ってるみたい」というダグラス君の言葉に、私は肝を冷やす。

 ――しまった!? 体重を再現する魔法を使わなきゃ!? 


「ンニャニャ……」(えっと確かお腹辺りの魔法陣で――)

「んぬおおおおおお!!? き、急に、おおおもっ……!!?」

「だ、大丈夫か!?」

「ンキュウ!?」


 忘れていた体重再現の魔法陣(健康診断時に誤魔化す用)を発動すると、私を背負っていたダグラス君が今にも潰れそうになってしまった。

 あわわわわ、だ、大丈夫かな……!?


「ごっ、ごめんタクマちょっと手伝って……!」

「ああ、俺も手伝うぜ! っっしょ、おお、重いなこれは……!」

「ン、ニャ……」(お、おもい……)

 

 偽装の為にマンティコアの重さを再現したのはいいけれど、今度は重いと言われてちょっと落ち込む。

 いや、決して私の重さじゃないから、コレはセーフ!


「くっ、さっきまでのは火事場のクソ力的な奴だったのかな……? さっきまでは女の子だったのに、急にムキムキの鎧着たオッサン背負ってるみたいだぜ……」

(ぐさり)

「確かに今までコレを背負ってたって……よいしょっ、すごいなダグラス。鉱石がいっぱい詰め込まれたトロッコを担いでるみたいな重さだぞ、コレ」

(ぐさぐさり)


 うえーん! 私がマンティコアだからって二人とも好き放題言ってくるー!

 私そこまで重いのかなぁ!?

 

「こっ、これも、強い魔物使いになるためと思えば……合わせるぞ、タクマ!」

「ああ、そうだな……! 俺達二人の力を合わせれば、これくらい……!」

「「ファイトォー! いっぱぁぁぁぁつ!!!」」

(ふえーん! 私そんなに重くないもんー!)


 この後私達は、あとから来たエリーという女の子の相棒、ビックリマウスのジンクスの背中に乗っけてもらって何とか教室に辿りつきました……ぐすん。



★★★ Re 17話:mission unkossible前編


「ティコ、おはよう! ほら起きろーご飯だぞー」

「ニャウ……」


 マンティコアの朝は今日も早い。

 ダグラス君にゆさゆさと起こされ、目を覚ました私は大あくびをする。


 うう、眠いよぉ。

 油断するともうひと眠りしちゃうそうなくらい、とっても眠い。

 昨日のタクマくん達との決闘で、全力で魔力を回しちゃったからかなぁ、疲れが取れないや。


「ティコは欠伸してるのも可愛いなぁ。ほら、ねぼすけには美味しい肉を進呈しよう」

「ニャー……」


 そしてまたまた朝からお肉。

 丼に置かれたお肉をみて、私はちょっとげんなりする。

 私、そんなにお肉は好きじゃないんだけどなぁ……でもあのモンスターフードってやつは食べられたものじゃないし。

 今度ダグラス君に他の物を食べてみたいって、それとなく伝えてみよう。

 牛系の肉から羊系の肉に変わるくらいしか変化なさそうだけど……。


「ごちそうさまでした」

「ニャフニャフ」


 ダグラス君とほぼ同じタイミングでご飯を食べ終わる。

 ここから先は特にやることもないし、ダグラス君が学校に行く準備を整えるまで、ぼうっとしておこうかな――


(~~っ、そ、そのまえにちょっと……)


 急におなかの調子が悪くなった。

 ダグラス君の視界に入らないように、部屋の隅に置かれているトイレ用の砂場へこっそり移動する。

 その、うん、仕方ない事なのだけれど……私も生き物である以上、用は足したくなるわけで、でもマンティコアだから、人用のトイレは使えない訳で……うう、恥ずかしいよぉ……。

 そりゃあ、着ぐるみ着たままでもおトイレは済ませれるように、着ぐるみマンティコアくんは作ってあるけど……。


「……じーっ」

 (!!? だ、ダグラス君!?)


 なるべく目立たないよう努めているのに、何故かダグラス君は私を凝視している。

 も、もしかして今の動きに不自然なことでも――ってダグラス君パンツ一丁だー!?


「にゃ、ニャァ……」(み、見ちゃいや……)

「じじーっ」


 それとなく嫌がるような声を出してみるけど、ダグラス君は相変わらずパンツ一丁でこっちを見ている。

 その異様な光景に、私のお腹はますます調子が悪くなってしまう。


(~~!? や、やだやだやだ!? し、してるとこ見られるなんて、絶対いや!?)

 

 おっ、お願いだからこっち見ないでー!?

 あっ、だめ、慌てたらますますお腹が、ううう、うう~!?


「ンニャァァァアアア!!!」

「ぎゃべしーっ!!?」


 もう色々なものが限界ギリギリだったので、無我夢中で猫パンチ。

 ――ダグラス君がその日遅刻してしまったのは、いうまでもない。



★★★ ???話:~という夢をみたとさ


「――ングアッ!!?」


 マンティコアにぶん殴られたような衝撃を感じた気がして、俺ことダグラス・ユビキタスは飛び起きた。

 うう、なんだかとても他人事ではない夢を見ていたような……。


(ラフ、ラム、時の審判者よ(クロイツ)夢の守り人の(ヒプノス)足取りを辿れ(オルドホーム)。……俺が魔物使いでレナータちゃんがマンティコア……って、なんつう夢だよ)


 ちょっと夢の内容が気になったので、魔法で内容を確認する。

 どうやら俺が見ていた夢の中では、俺とレナータちゃんの立場がまんま入れ替わっていたらしい。


(最後の方とか、レナータちゃんのトイレ凝視するとか最低だな俺……)


 余りにデリカシーがない夢の中の自分に落ち込む。

 いやまあ、俺が被害者側でたどった道ではあるから、ゆがんだ形で夢に出てくる可能性も十分あるわけですが。


(俺が、魔物使いだったらか)


 夢の内容をみて、ふと思う。

 あのまま夢が続けば、俺はレナータちゃんと直接会って、進路について色々と話し合うことになるのだろうか。

 レナータちゃんに諭された俺は、自分のやりたいことを見つけるために様々な職業を見て回ったりするのだろうか?


(――バカバカしい、夢は夢だ。現実の俺はもうやり直しはきかないし、出来ることといえば、レナータちゃんを俺みたいな人間にしないことぐらいだ)


 首を振って、下らない妄想を打払う。

 まったく失礼な夢である、レナータちゃんのお役に立つマンティコアは俺なのだ。

 これじゃあまるで俺がレナータちゃんに助けて貰いたいように思えるではないか。


「んっ……」

(レナータちゃん、ひょっとして起こしちゃったかな……)


 ごめんねレナータちゃん、俺がヘンな夢みて飛び起きたばっかりに。



「――ダグラスさん、みないで、みないでぇ……」

(レナータちゃんも変な夢みてませんかねぇ!!?)


 ちょっとレナータちゃんが俺と同じ夢を見ていたら洒落にならないので、魔法をつかって夢の内容を変更することにしましたとさ。

今回の解説

レナータ・ユビキタス:魔法使いの国で暮らす26歳魔法ニートの女性。かつて働いていたギルドを辞めてから、仕事に対して極端に自信がなくなり、落ち込むようになっている。

本編のダグラスと違ってやけ食いなどはしないため、魔法ニートでも太ったりはしておらず、美人。

美人過ぎてダグラスに一目惚れされる予定。


ダグラス:魔物使いの国で暮らす16歳の少年。社会の荒波にもまれたりしていないので、真面目で純粋な好青年と化している。本編のダグラスの学生時代と比較すると、実は性格にそこまで違いはない。

魔物使いの学校は身体を動かすことが多いので、若干体が筋肉質になっている。

ティコになってるレナータに対して過剰なスキンシップを取るので、じゃっかんエッチな絵面になりがち。

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