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43話:龍虎相打つ

お待たせしました、43話更新です。

最近は執筆の時間を増やすため、早起きにチャレンジしています。(早起きできるとはいっていない)

そして来週は記念すべき連載一周年となります、記念の番外編を挟もうかと考えておりますので、楽しみにしてください。

「これでよし。ココ、痛くない?」

「キュルッ」


 コロシアムの控え室で、シャーロットはエアロドラゴンの体に、鞍を取り付けていた。

 空中でも振り落とされないように、少しきつめに帯を締めたが、ココは平気そうだ。


「やっと、この日が来た」


 誰に聞かせる訳でもなく、シャーロットは一人呟く。

 決着をつけると決めて、そこから三日間が経つのはあっという間。

 今日は、待ちに待った約束の日。


「槍よし、防具よし、あとは……」


 槍の手入れを行い、鎧を身につける。

 彼女は魔物使いの中でも数少ない、竜騎士と呼ばれる人間だ。



 ――最強の魔物とは何か?

 この世界でそう問われれば、誰もが口を揃えてこう言うだろう。

 「それはもちろん、ドラゴンである」と。


 鋼よりも硬く、厚く、それでいて鳥の羽のように軽い鱗に覆われた身体。

 如何なる鎧も紙切れの如く引き裂いてしまえる、爪と牙。

 有象無象の魔物では相手にすらならない巨躯、そして威厳すら感じられるその存在感は、相対するもの全てに、生物としての絶対的上位者であるという事実を叩き付けられる。


 ドラゴンを打ち倒す英雄譚は数あれど、それらの大半は事実無根のお伽噺に過ぎない。

 叶わぬ夢ほど美しく見えるものはない。

 卑小な人間は、ドラゴンという偉大な存在を打ち倒す、そんな夢を見たいだけに過ぎないのだ。


 では、そのドラゴンを従える存在が居るとするなら?

 あり得ない、誇り高く強大な力を持つ彼らが、只人に従う訳がない。


 ――そのありえない存在(・・・・・・・)こそ、竜騎士ドラゴンライダー

 この国で十人といない、ドラゴンと深い絆で結ばれた最優にして最強の魔物使いである。



 最年少、15歳という若さで竜騎士をなのるシャーロットは、魔物使いの国史上まれに見る逸材。

 学校でも天才と持て囃され、一番強い魔物使いだと謳われる――――はずだった。


「……あとは、私が学校で一番の魔物使いだってことを証明してやるんだから!」

「キュクーッ!」


 シャーロットは相棒と共に拳を上げて、己を鼓舞する。


 そう、現実は違っていた。

 世界最強と名高い「災厄使いリアーネ」、その娘であるレナータがいた。

 マンティコアだけでもドラゴンと並ぶ強力な魔物だというのに、ネコマタとサーベルタイガーを従え、その上自分は強力な魔法まで使いこなす規格外。

 

 シャーロット自身、自分よりも格上かもしれないと思いそうになった。

 だが認めたくない、認めるわけにはいかない。

 最強の竜騎士となるためにこの国に来たシャーロットは、誰にも負けたくなかった。


 学業やバトル、いろいろな面で彼女と張り合ってきた。

 それでも、二人のどちらが優れた魔物使いなのかは決着がついていない。

 ――今日こそ決着をつけるのだ。


(大丈夫。ティコしかいないレナータになんて絶対に負けない……)


 勝負の結末はもう見えている。

 レナータは相棒を二匹失い、既にシャーロットの勝利は揺るがないモノとなっていた。


(……ああもう、なんでこんなにイラつくのよ)


 それなのに、シャーロットは何故か無性に腹が立つ自分がいることに、疑問を感じているのであった。




「大丈夫、ティコ? 鞍つけるの嫌じゃない?」

「ガフン!」(ぜんっぜん!)


 俺とレナータちゃんはコロシアムの控え室で、バトルの準備をしていた。

 背中に騎乗用の鞍を取り付けられるが、俺は全然気にしないとばかりに元気よく返事を返す。

寧ろ鞍をつけてくださいと俺がお願いしたいくらいである、ほんと、まじで、飛行中にレナータちゃん落とすの心臓に悪いんで……。


「昔は嫌がってたのに……。これも賢者の石の影響なのかなぁ」

「ガフガフフォフィ」(その通りでございます)


 そうそう賢者の石賢者の石、なんもかんも賢者の石のせいでございます。


 いやほんと、飛行訓練でみっちりしごかれ、何度レナータちゃんを落っことした事か。

 嫌な物事ほど時間が遅く感じるというもので、この三日間の飛行訓練中、何度早く終わってくれと念じただろうか……。

 おかげさまで少しはマシに飛べるようになったし、着ぐるみマンティコアくんにも飛ぶための「仕込み」を追加するなど、決して無意味ではなかったけども。


 そんな事情があるので、今の俺はレナータちゃんを乗せて安全に飛べるなら、いかなる所業も受け入れる心境なのである。



「……うん、そうだよね。ティコが良いなら、それが一番良いよね。よーし、私も早く準備しよっと!」


 俺の満足そうな顔をみて、まあいっかという感じでレナータちゃんは自分の準備に取り掛かる。

 うん、なんだかんだ言ってレナータちゃんはティコにちょっと甘い、俺のわがままも基本的に通してくれるし。


豊穣の籠手(プラントテット)に、この種を植えておいて……」

(しっかし、どうしてレナータちゃんは戦おうと思ったんだろう……?)


 テキパキと自分の準備に取り掛かるレナータちゃんを眺めながら、疑問に思う。


 彼女はダグラスとの対談を経て「戦う事だけが自分の将来ではない」ということに気付いている筈だ。

 だからこそ、魔物使いの国に帰ってきて早々にレナータちゃんはまた別の職場体験を受けようとしていたのだ。


 ……しかし実際は、シャーロットとの約束を最優先して今に至っている。

 そりゃ約束も大事なのだろうけど、だからといってこうもアッサリと戦いの場へ戻ってくるということに、どうにも違和感が拭えない。


 まさか本気で約束が邪魔だから、勝敗もどうでもよしに早々に済ませてしまおうと考えているのか……。

 いやいや、俺じゃあるまいし優しいレナータちゃんに限ってそんなことはないだろう。

 ならどうして急に……。


「準備おっけー! ティコっ、頑張って勝ちに行こうね!」

「ン……ンガッ!? ガウゥ!」


 っとと、あれこれと考えている間にレナータちゃんの準備は終わったようだ。

 しかし、勝ちに行こうね、かぁ。

 負けるつもりも更々なし、うーむ益々なぞである……。




 控え室を後にして、俺とレナータちゃんはついにコロシアムへとたどり着く。

 正規の試合でもなんでもない野良試合で、しかも平日の早朝だというのに、観客席には結構な数の生徒が着席している。

 それだけ、レナータちゃんとシャーロットの戦いは観戦するに値するものになると思われているのだろう。


「来たわね。レナータ」

「待たせちゃってごめんね、シャーロットちゃん」


 すでにシャーロットとココは、準備を終えてここで待っていたようだ。


 レナータちゃんの姿を見たシャーロットは不敵に笑い、一方のレナータちゃんは柔らかい口調と裏腹にとても真剣な表情となる。


「キュルルル……!」

(エアロドラゴンか。今更だけどドラゴンと……いや竜騎士ドラゴンライダーと戦うなんて、ひょっとして俺は凄い貴重な経験を得ようとしているのではなろうか)


 可愛らしい鳴き声だがやる気満々なココと、白銀の鎧を身にまとい武骨な槍を持つシャーロット。

 魔法使いの俺でも噂に聞いたことがある、魔物使いの国ですら僅かしかいないエリート中のエリート、竜騎士ドラゴンライダー

 ドラゴンを従えるシャーロットも当然、その一人なのだろう。


 俺が戦士ならこの機会は光栄すぎるのだろうが、あいにく魔法ニート兼マンティコアの俺にはいまいち実感が湧かない。

 ……マンティコアな時点で貴重過ぎる体験なのは置いといてだ。



「それでは二人とも、バトルのルールは実戦形式、自分か相棒の魔物が『致命傷を受ける』と判断した時に、勝負が決まります! 先生が判定を下すか、負けた方の首輪が赤く光るのが目印です!」

「「はい!」」


 審判を務めるセラ先生の声を合図に、レナータちゃんは豊穣の籠手を、シャーロットは槍を構える。

 その様子にコロシアムの雰囲気が一気に引き締まって、ざわついていた観客も静まり返っていく。


「グルルルル……!」


 俺もかかってこいといった具合に、唸り声をあげる。

 レナータちゃんが何を思ってこの場に立つのかは分からなくとも、俺は彼女の相棒で、マンティコアなのだ。

 彼女がこれから進む道に付き合うと決めた以上、全力でやらせてもらうぞ。


「それでは―――始めっ!」



 マンティコアを従える天才魔物使いと、ドラゴンを従える竜騎士ドラゴンライダー

 「龍虎相打つ」、まさに古の言葉通りの戦いが幕を開けるのであった。

今回の解説

シャーロット:レナータとは主にテストの点数で競う事が多い、実はテスト勝負で負け越しているのはナイショ。

ココ:エアロドラゴンはとても大人しいドラゴンで、争いを好まない。いう事を聞かせて戦わせること自体、相当な信頼関係がなければ不可能である。

ドラゴンとマンティコアの力関係:生息域が違うため両者が争うこと自体が少ないが、両者ともに同じ年齢であれば互角と考えられている。なお、寿命はドラゴンが圧倒的に上で1000歳以上の超巨大ドラゴンとなると如何なる生物も相手にならない。

竜騎士:魔物使いの国には8人ほど存在する。シャーロット以外は皆大人だが、ドラゴンは寿命の関係上みんな子供っぽい性格をしている。

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