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42話:魔獣マンティコア 空を飛べ

お待たせしました、42話更新です。

想像以上にダグラスを大変な目に遭わせてしまった気がする回です、今更ですが。


 教室を出た二人は、早速バトルを行うべく学校内のコロシアムへ向かった。

 ここは大会など正式な催しで、生徒が戦う際に使われる場所らしい。

 学校の授業が始まる前だというのに、朝早くから模擬試合を行う学生たちも数多いようだった。


「残念ですが、バトルは出来ません!」

「「ええーっ!?」」


 たまたま闘技場の受付当番だったセラ先生に、早速バトルをしたいと申し出たわけなのだが……。

 ごらんのとおり、セラ先生にバッサリと断られてしまった。

 レナータちゃんとシャーロットの愕然とした声がシンクロする。


「どうしてよ!? まだ授業まで時間あるでしょ!?」

「コロシアム、使えないんですか?」


 なおも食い下がろうとする二人、そりゃそうだろう、戦う気満々だったのにこんなことで水を差されてはたまらない。

 それに、コロシアムの入り口からは誰かが戦っているらしい激しい物音が聞こえているのだ。

 二人だけが使えないというのは、どうにも不公平である。


「はい、コロシアムは暫く使えません。使用表を見てもらえるとわかりますが……予約がいっぱいなんですよ」

「……あ、そっか、もうビーストマスターズが近いから」


 セラ先生が見せてくれた紙には、びっしりと人の名前と使用時間が書いてある。

 レナータちゃんもそれを見て合点がいったらしい。


 (あー、これ魔法使いの国でもよくあるやつだ。テスト前に図書館の席が全部埋まってる奴だ)


 俺も俺で似たようなことがあったので納得できる。

 懐かしいなぁ、座る席がないからって床に寝そべって本を積み上げてる連中までいて、真面目に足の踏み場もないんだよなー。


 ビーストマスターズというバトルの祭典が迫るこの時期は、同じくコロシアムを使いたい人間でいっぱいになってしまうという訳だ。


「それにしたって、ちょっとくらい使える時間ぐらいあるんじゃないの? えーっと、空いてるところは……」


 シャーロットが張り出されてある予定表に近づいて確認する。

 つられて俺達も予定表を覗き込み、今日このコロシアムを利用する者の名前をみてみると……。


 使用者:タクマ&まるもち・イヴァルト&サッキュ

 使用者:タクマ&まるもち・ターロー&ティー

 使用者:タクマ&まるもち・ツクヨ&フェルナンデス9世

 使用者:タクマ&まるもち・ヘイデン&ボンボコ

 使用者:タクマ……


「タークーマー!!!」

「キュクッ!?」


 丸一日ぜんぶタクマが使ってるじゃねーか!?

 予定表にびっしり書かれたタクマの名前を見たとたん、シャーロットは大激怒しながらコロシアムに突っ込んでいき、エアロドラゴンが慌てて後を追う。


「やったぜ!これで2連勝だ……ってうおおお!? どうしたんだシャーロット!?」

「フシュルルルル!?」

「どうしたもこうしたもないわよ! アンタばっかじゃないの!?なに一人でコロシアム占拠してんのよ! 」

「キュキュルル……」

「おおうすっげえ剣幕だな! へへっ、シャーロットとは予定入れてないけど、乱入も大歓迎だぜ!」

「ばっかじゃないの!? というか譲りなさいよ私が使えないじゃない!」

「コロシアムの予約は早い者勝ちなんだぜ!今日は俺がぶっ倒れるまで特訓するために、1ヶ月も前から予約を取ってたんだ!」

「上等よ! 今すぐアンタぶっ倒して試合するんだから!!! いくわよココ!」

「キュ!?」

「よしきた、まるもち! 今日こそ勝つぞ!」

「シャァッ!!!」


 そしてそのままバトルが始まってしまった……。

 タクマ……いくら戦いバカだからってそこまでやるとは思わなかったぞ……。


「ああっシャーロットさん!!? 勝手にバトルしたらいけませんよ!?」

「先生、次にコロシアムが使えるのはいつになるんですか?」

「へっ? え、ええと……3日後ですね。タクマ君だけじゃなくて、ほかの人も沢山予約がありますから……」

「わかりました! 3日後ですね、予約しておきます! それじゃあ先生、また教室で!」

「レナータさん帰っちゃうんですか!?」

「ガッファ!?」(この状況を放置して!?)


 コロシアムで行われる争いをレナータちゃんは完全にスルー。

 さっさと予約だけ入れて帰る気満々でございます。


「はい、あの二人のバトルなら多分シャーロットちゃんが勝つと思いますけど、終わる頃には二人ともヘトヘトになってそうですから……。あと先生、このバトルは早く止めた方がいいです。私の見立てだと、タクマ君が粘りに粘って決着は夕方頃になると思います」

「ふえっ!? わ、私が止めるんですかぁ!?」

「先生とエンリルなら大丈夫ですよ! それに、私が止めようとしたらきっとシャーロットちゃんムキになって、下手しちゃうともっと泥沼化するかも……」


 あー確かに、容易に想像できる。

 今のシャーロットは明らかに冷静ではないし、ここでレナータちゃんが割って入ればタクマも交えて三つ巴の戦場が展開される可能性が高い。


 ……というかレナータちゃんの言うことが本当ならタクマが粘りすぎである、マジで丸一日戦い尽くすつもりなのかあの体力バカは。


「じゃっ、行こっかティコ!」

「ガゥ……?」(ええ……?)


 そして俺たちは、本当にそのまま教室へ帰ることになった。



「ひーん……、どうして私が当番の時にこんなことに……」

「ワンっ」

「ううっ、ありがとうエンリル。そうだよね、私先生なんだから、頑張らないといけないよね。二人にもちゃんと授業を受けてもらわないといけないもんね……」


 突然降って湧いたトラブルに挫けそうになってるセラ先生と、力強い吠え声で発破をかけるエンリル。

 なんとまあ悲しい印象がのこる朝であった。




「結局、戦わなかったんだなー」

「うん、よく考えたらこの時期は難しいって分かってたんだけどね」


 そんでもって、時間は何事もなく進んでいって、既に放課後。

 いつもならこのまま学生寮に帰るのだが、今日は学校の中庭に連れ出されている。


「ガファァ……」(ふかふかだなジンクスは……)

「チュー……」(ティコさんのたてがみもなかなかですぜと言う感じの重低音)


 中庭の一角にあるベンチでレナータちゃんとエリーちゃんは仲良くお話、俺とジンクスは仲良くお昼寝しているのであった。

 いやー、一時はどうなるかと思ったけど、戦わなくてホッと一安心である。


「シャーロットちゃんと戦うならコロシアムじゃないとダメだから、約束のバトルは3日後になっちゃった」

「そーいえば、レナータはシャーロットと前にバトルした時、大火事起こしてたもんなー」


 どうやら魔物使いの国では、戦闘の規模が大きくなりがちな生徒同士だと、戦う場所に制限がかかるようだ。

 ああ、それでコロシアムで戦うことに固執していたのかと、俺は心中で納得する。

 …………大火事を起こしたとかいう不穏なワードは無視だ無視、決して現実逃避なんかじゃないぞ。



 ちなみに朝の大騒動の後、タクマとシャーロットは授業の前にはキッチリと教室へ戻っていた。


「………………しりが、尻が……」

「フシュー…………」


「………………体、ベトベト…………ベトベト……」

「キュゥ…………」


 無事に戻ったとは一言もいってないけども。


 タクマは身体中噛み跡まみれ、シャーロットは身体中よだれまみれ、相棒2匹は魂が抜かれたように泥まみれになって疲れ果ててる始末である。

 どうやらセラ先生とエンリルにコテンパンにやられたらしい、なにそれすごい。

 レナータちゃんはセラ先生の実力を十分把握していて、あの対応だったらしい。


 まあ肝心のシャーロットもああなって仕舞えば大人しいもの、そんなわけで今日は平和に過ごすことができたのである。


「じゃあそれまで何するんだー?」

「うん、 せっかくだからバトルの前に調子を整えておこうって思ってるの。ティコっ」

「? ガフン」(? なにかな)


 レナータちゃんに呼ばれて起き上がる。

 ふむ、どうやら真っ直ぐ帰らずにここに来たわけがあるようだ。



「久しぶりに、私を乗せて飛ぼっか!」

「……ガフ?」


 この後、俺は身をもって思い知ることとなる。

 今日は決して平和な一日などではないということを。




「ティコォ!! 右っ!! みぎみぎみぎ!! もっと速くっ!! 鋭く曲がってぇぇぇぇ!!!」

「グェッ、ガ、ガフガフガフぅゥゥゥ!!?」(ぐえっ、い、いやいやいやレナータちゃん落っこちちゃうよぉ!!?)


 自分の中では最大限に重心を右に傾けて、これまた自分の中では精一杯に翼をバッサバッサと上下させる。

 猛烈な空気の抵抗で音も碌に聞こえず、レナータちゃんが声を張り上げてなんとか聞こえる状態で、空を飛ぶ。

 だがこれでも背に乗るレナータちゃんにとっては物足りない、らしい。



 はい、調子を整えると聞いてやっています飛行訓練、めちゃくちゃ怖いです。

 まず俺の飛行経験が、ウ○コ探して夜空を飛び回った苦い経験しかありません。

 そんでレナータちゃんを背中に乗せて飛べと言われていきなり飛べるかというね、はい、心情的にはまず無理でしたとも。

 そこもまあ頑張りましたよええ、四苦八苦しながら、翼上下させてね、レナータちゃん乗せてそれいけマンティコアマンってね。

 そしたらアレですよレナータちゃん、いきなり全速力フルスロットルですわ。

 

 口調がおかしくなってるのは重々承知である、でも言わせて!

 あれ以上体傾けたら90度になっちゃうから! レナータちゃん落としそうで怖いんだよ!?


「ティコォ!! ロール!!! ロォォール!!!」

「グェーッ、ンガァ!?」(ぐぇーっ、何、ロール!?)


 首にはめている服従の首輪から、こう、ぐいーっと無理やり首を上に向かせる力が働く。

 レナータちゃんが口で指示を飛ばしているものの、俺には何が何だか分からない。

 当然だ、俺は今まで彼女を乗せて飛んだことはないのだから。


 こういう困った時は、時間魔法でティコが飛んでた時の記憶を閲覧するのが一番――ってできるかいそんな事! 今飛んでる真っ最中なんだぞ!?

 ていうかロールって何!? 巻くの!? 何を!?


「忘れちゃったの!? 宙返り!!!」

「ガァ!?」(はあ!?)


 ちゅちゅちゅ、宙がえりぃぃぃ!?

 いやいやいやいや、それはマズイってホントに!?

 しかし服従の首輪から発せられる圧力――恐らく合図の類なのだろう――がどんどん強まって苦しくなってきた。

 うげげ……、くそう! やるしかないのか!?


「グッ……! ガァァァァァァっ!!!」


 精一杯の羽ばたきを、一気に、一層強める。

 上体が空へと傾いていき、綺麗な夕焼け空が視界に広がる。

 姿勢が完全に仰向けになった時を見計らって、翼の角度を調整。

 そのまま体と視界は地上へと戻っていって――――


(よし、何だかわからんが上手くいってる気がす)



 ――ふと、気づく。

 背中が嫌に軽い事と、地上に向けられた視界に、銀髪の少女が映っていることに。


「ガ、ガワァぁァァァァァァ!!?」(う、うわああああああああ!!?)


 レナァァァタちゃんおちてるぅぅぅぅぅぅ!!!?

 ほらだからマズイって言ったじゃないかいや言い訳してる場合じゃねー兎に角助けろラフ、ラム――――!!


「えぃっ、蔦運鞭プラクト・トラクチェーン


 俺が何かするより早く、レナータちゃんは動いていた。

 植物魔法で作ったらしい太い蔦を伸ばし、俺の胴へ素早く巻きつける。

 ガクンと反動で俺の体が少し落ちるが、彼女はその反動を利用してひょいっと俺の上まで戻ってきていた。


「ぷっ……あっはははは!! 大丈夫だよティコ! 久しぶりに落ちちゃっただけだから!!」

「ガヒィー、ガヒィー、グルルァ!!!」(ひぃ、ひぃ、死ぬかと思った!!!)


 そしてレナータちゃんは何でもないといった感じで朗らかに笑っている。

 もうやだ俺怖い!?

 レナータちゃんの一連の動きに関心する間もないし、つーかマジで落としちゃって心臓飛び出るかと思ったんだけど!?


「うーん、それじゃあ今日はここまでにしよっか!」

「ガウ! ガウガウ!」(はい! それがいいと思います!)


 ……こんな感じで、俺とレナータちゃんの初フライトは終わることとなった。

 もう金輪際人を乗せて飛びたくないと思いました、はい。




「レナータ、お帰り! なんか危なっかしかったなー!」

「ただいまエリー。うん、久しぶりに落っこちちゃった」


 地上へ着陸した俺たちを、エリーちゃんが迎えに来てくれていた。

 レナータちゃんは「ちょっとドジっちゃった」みたいな雰囲気でああ言ってるけど、この国ではあの程度のトラブルは日常茶飯事なのだろうか。


「ガフガフ……」(地面最高……)

「チュ、チュウ」(お、お疲れ様ですという感じの重低音)


 とりあえず俺は無事地上へカムバックできて大感激である。

 ああ! 足が地面に着くってなんて素晴らしいんだろうか!



「それにしても、ティコどうしちゃったんだろう。今日は全然上手く飛べなかったな……」

「確かに、なんかいつもの飛び方じゃないなー」

「そう、なんだか初めて私を乗せて飛んだ時みたいな……、そんな感じがしたんだよね」

(ぎくっ)


 先ほどのフライトを振り返るレナータちゃんに、思わずぎくりとする俺。

 仕方ない事なんだけれど、コレはマズイ。

 俺は明らかに以前のティコと違う行動をとってしまっているし、その違和感がレナータちゃんにバッチリ伝わってしまっている、どうしよう……。


「うーん……。病気でブランクも長かったし、ひょっとしたら治療の影響とかで、合図とか全部わすれちゃったのかなぁ……」

「ガフン! ガフガフ!!」(はいっ! そのとおりです!!)

「……ティコもそう思ってるの? それなら、そうなのかなぁ?」


 そうなんです、治療の所為ですっかり忘れてるんです!

 すかさず強く念じて吼えることで、上手く誤魔化す。

 よーしセーフだ、レナータちゃんとある程度意思疎通できて良かった!

 


「でもそれって不味くないかー? シャーロットはもっぱら空戦しかけてくるから、飛べないと相手にならないぞー」

「そこなんだよね……、ちょっと戦略を練り直さないといけないかも」


 エリーちゃんの指摘に、レナータちゃんはうーんと唸る。

 そうか、今のフライトで新たな問題が浮き彫りになったんだ。


 シャーロットは当然、エアロドラゴンに騎乗して戦うのだろう。

 空を自由に飛び回るドラゴンライダーに対抗するには、こちらも空を飛ばなくてはいけない。

 しかしこちらは圧倒的に(俺の)空戦経験が不足している、これでは勝ち目なんて無いも同然じゃないか。



「まあ、それはそれとして。――ティコっ」

「ガヒッ」(はひっ)


 レナータちゃんに、いつものように明るい声で呼びかけられる。

 ……だがしかし、嫌な予感がしてくるのはきっと気のせいではない。


「今日から三日間、みっちり飛行訓練しようね!」

「ガ、ガヒィィィィ……」(ひ、ひぃぃぃぃ……)


 結局、バトルの日まで暇さえあれば飛ぶことになってしまったとさ……。

今回の解説

ダグラス:飛行用のマジックアイテムは作った事もあるし、飛行経験がない訳ではない。……マンティコアとしての飛行経験が無いのだ。

セラ先生:なかなか自信が持てない先生だが、捕縛術は超一流。魔法、道具、技術を駆使してたいていの魔物を抑え込むことができる。

エンリル:頼れるヘルハウンドで、元々は軍用犬として育てられていた。対人戦が滅法強い。

イヴァルト&サッキュ:男子生徒(イヴァルト)とサキュバス(サッキュ)のコンビ。タクマ相手に精を搾り取ろうとする前にまるもちに敗北。

ターロー&ティー:男子生徒(ターロー)とヤタガラス(ティー)のコンビ。ティーは人語を喋れる珍しい魔物だが、ターローと致命的に息が合わず、自滅した。

ツクヨ&フェルナンデス9世:女子生徒(ツクヨ)と巨大カブトムシ(フェルナンデス9世)のコンビ。タクマが既に倒れたため待ちぼうけをくらった。

ヘイデン&ボンボコ:男子生徒(ヘイデン)と化け狸(ボンボコ)のコンビ。タクマが既に倒れて(ry

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