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41話:約束と対峙するマンティコア

お待たせしました、41話更新です。

漸く諸々の都合が落ち着きました……。

 ――レナータちゃんの俺ん家訪問も終わって、はや二日。

 休日も終わって、今日からまた魔物使いの学校に通う日々が始まる。


 これもめっちゃ進めるくん様様である、本来なら魔法使いの国から魔物使いの国まで即日帰宅とかありえないからね。

 ほんと、商品化できなかったのがつくづく悔やまれる。

 

 まあ、そんな後悔はさて置いて、俺は決意も新たに、レナータちゃんの将来の為にバリバリとマンティコアライフを送るのだ!


「エリー! おはよう!」

「レナータ!!! おはよう!!!」


 学校の教室で、エリーちゃんとおはようの挨拶の交わすレナータちゃん。

 二日程度会わなかっただけなのにハグ付きである、相変わらず二人は仲良しだなぁ。


「チュゥ」(おはようございます的な感じの重低音)

「ガ、ガファファ」(お、おはようジンクス)


 そしてエリーちゃんの相棒であるジンクスも俺に向かって頭を下げる。

 た、多分挨拶だよな?

 とりあえず俺もそんなニュアンスで返事を返しておく。

 頭を下げてもまだ俺より高い位置に頭があるから、睨みつけられてるみたいで凄い威圧感です、はい。


 まあ、見てくれや威圧感はともかく、ジンクスは妙に紳士的な奴みたいで、俺も結構好きだったりする。

 しっかしコイツも良くネコ型魔物のマンティコアに挨拶してくれるよな、ネコとネズミなのに……。



「魔法使いの国には行けたのかー?」

「うん!ダグラスさんのマジックアイテムでね、あっという間に着いちゃったんだ!」

「すげー! あたしも行ってみてー! なあなあ、ダグラスには会えたのか? どんな奴だった?」


 おおっと、早速俺ん家訪問についてお喋りか。

 まあ外国に行く機会なんてそうそうないからなぁ、そりゃ話題になるよね。

 ただ俺のことが話題になってるので、隣で聴いてるとちょっと恥ずかしいなぁ。


「会ってきたよ。 ダグラスさんは……うーん、なんて言えばいいのかな」

「? そんなに変な奴だったのかー?」

「……うん、とっても変わってて、でもとっても優しい人だったよ! 私も大切なことを教えてもらったし……あと、顔も結構カッコよかったなぁ」

「ンニャヘ、ニャヘヘヘヘ……」(えへ、えへへへへ……)

「ほへーそうなのかぁ、って!? な、なんかティコがすっごい照れ臭そうにしてるぞー!? ちょっと気持ち悪い!?」


 うあーやばい……なんか想像以上に嬉し恥ずかしいなコレ。

 優しくてカッコいいとか、生まれてこのかた言われたことないってのにさー、レナータちゃんみたいな美少女に言われると凄いくるものがあるよ……。

 意図したものじゃないけど、マンティコア式炭水化物抜きダイエットをした甲斐があったなぁ。


「それでそれで、何を話したのだ? ちゃんと聞きたいことは聞けたのかー?」

「バッチリ! それでね、聞いてよエリー――



 会話は弾み、俺と進路指導的な会話をしたことをレナータちゃんは話す。

 その楽しげな表情を見て、俺は安心する。


(ああよかった。レナータちゃん、あの時のことは怒ってるわけじゃないみたいだ)


 正直あの時はかなり失礼な言い方だったから、最悪俺は彼女に嫌われるだろうと覚悟していた。

 結局、心優しいレナータちゃんは俺を嫌うどころか益々尊敬してくれてるようだ。

 ……それ故にこの偽装生活の事を思うと、心が痛むわけですが。



「むむむー、将来について考えろ……。なんだか母ちゃんみたいな事を言う奴だなー」

「ふふっ、確かに。でもそう言われて、図星だったんだ。私何にも考えてなかったんだなぁって」


 進路指導の話を聞いたエリーちゃんは、若干げんなりしたような感じだった。

 エリーちゃんも16歳くらいか、レナータちゃんの家庭はまだそんなに焦る事はないという方針だったけど、人によってはもう既に進路を固める所もあるだろう。

 エリーちゃんの家庭は、どうやらそんな感じらしい。


「ところで、エリーは将来どんな仕事をしようと思ってるの?」

「うええ!? あたしかー!?」

「う、うん。参考になるかなーって気になったんだけど……よかったら教えてほしいな」


 レナータちゃんが質問すると、エリーちゃんは益々げんなり顔になってしまった。

 それでもレナータちゃんは聞きたいらしい。


 あの時、「私を見ていてください! 絶対私、自分のやりたいことを見つけてみせます」そう宣言した彼女を思い出す。

 俺との会話は彼女の心に火をつけたみたいで、レナータちゃんは積極的に将来について考えようとしてくれているみたいだった。

 ……なぜだか妙に、その言葉は俺に突きつけられているような気もしていたが、まあきっと気のせいだろう。



「でもなぁー、参考になんないぞ? あたしも、将来何になりたいかなんて全然考えて……ううん、見つからないんだよなー。なー、ジンクス」

「チュチュウ」(困ったような重低音)


 エリーちゃんは相棒のジンクスを見上げると、ジンクスもがっくりとうなだれる。

 見つからないと言い直したという事は、彼女も彼女で将来について悩んでいるらしい。


「エリーも将来何になりたいかさがしてるんだ? あそれじゃあ私の先輩だね! 人生の!」

「せ、先輩?な、なんか恥ずかしいぞー!?」


 エリーちゃんもまた将来について悩む同士であると知って、レナータちゃんはぱあっと顔を輝かせる。

 エリーちゃんの方が先に悩んでたから先輩と呼ぶのも、律儀な彼女らしいか。



 それにしても、エリーちゃんが見つからないといったのが少し気になるな。

 彼女がやりたい職業がなかなか見つからない、そういう意味なのだろうか?


「先輩なんて柄じゃないぞー! それに……あたしじゃ本当に力になれなさそうだし……」

「そんな事ないよ!」

「嬉しいけどなー。でも、あたしとジンクスって、どんな仕事をするのが一番合ってるか想像つくかー?」

「エリーとジンクスに合いそうな仕事?」


 俺としては、自分がやりたい仕事を探すのがまず一番だと声高々に言いたいわけだが、そう言うわけにもいかない。


 それにしても、ふむ、エリーちゃんたちに合いそうな仕事か。

 まあジンクスの巨体、そして普段の行動から判断するにエリーちゃんも身体能力が相当高いから、ぱっと思いつくのは外の世界(あらごと)向きかなぁ。


「あー、そっか……。エリー、魔物とは戦えないもんね」

「うん。可哀想だから、どうしても殴れないんだぞー。それだけで荒事系の仕事は全滅。ジンクスも戦いは苦手だし。はぁ……、タクマなら殴れるんだけどなぁ……」

「チュゥ」(面目無いといった感じの重低音)


 あら意外、エリーちゃんの鉄拳は魔物には振るえないらしい。

 リアーネさん程ではないにせよ、彼女の身体能力には眼を見張るものがあったが……ちょっともったいない気もする。


「運送系も考えてみたけど、ジンクスは図体がでかくても力がないからなー。これでもあたしより力弱いんだぞー」

「エリーと比べちゃダメな気がするけど……」

「スタミナも全然ないし、どっちにせよ運送系も無理なのだ……」

「チュゥー……」(益々申し訳ないという重低音)


 薄々感づいていたが、やはりパワーとスタミナにおいてはエリーちゃん>ジンクスらしい。

 巨体から連想されるパワーとスタミナも、ネズミ系の魔物であるジンクスには無いようだ。



「じゃ、じゃあジンクスの可愛さを活かして、ネズミ系魔物専門のモンカフェで働くとかどうかな?」

「レナータ……それは一番ダメだー。ジンクスが入る店がないし、他の魔物を踏み潰しちゃうし。ビックリマウス同士ならそんな事ないけど……もし繁殖したら、この国が滅ぶぞー、おもに食費で」

「あ、あー……そうだね。ビックリマウス、凄い食べるし凄い増えるもんね」

「チュゥゥゥ」(自分は存在価値があるのだろうかという悲しげな重低音)


 国が滅ぶの!?

 えっ、いやまさかとは思うけど、ビックリマウス(多分ジンクスの種族名)ってあの巨体で繁殖力は一般のネズミ系魔物のそれと同じなの!?

 だ、だとするとキャスパリーグとはまた違った意味で災害級の魔物じゃないか、ジンクス。


 うむ……どうやらエリーちゃんもエリーちゃんで、将来について悩ましい問題があるな、レナータちゃんとは別方面で。

 やりたい事以前に、そもそもできることが見つからないとは。


「はぁぁ……。ビックリマウスだって人の役に立つって証明したいのに、考えても考えてもいい仕事が見つからない……」

「うーん、ジンクスって得意なことって無かったかな?」

「あるにはあるけど、微妙だなー」

 

 いつもの元気はどこへやら、エリーちゃんは魂が抜けたように机に突っ伏してしまった。

 レナータちゃんが何か突破口は無いかと色々聞いているし、俺も考えてみたけどこれは難しい問題だなぁ――




「ジンクスはなー、魔法が使えるのと、宿題やらせると全問正解するくらいしか特技はないぞー」

「ンガファッ!!?」(んなバカな!?)

「わっ!? どうしたのティコ? そんな驚いたりして?」


 いやめっちゃすごい特技あるやん!?

 魔法使えて人間が解くような宿題正解するとかインテリジェンスすごいあるやん!?



「この特技も役に立ったことないんだよなー。魔法はそもそも戦わないから使う事ないし、ジンクスが宿題やったら直ぐに先生にバレちゃうんだよー」

「チュウゥゥ。チュウチュウ」(正解すると逆に怪しまれるんだよなぁ。という嘆きの重低音)

「もうっダメだよエリー、宿題は自分でやらないと」


 レナータちゃん突っ込むところはそこじゃない。

 そうか、ジンクスは巨体な分頭もデカいから、頭がいいのか。

 しかも魔法まで使えるのは本当に凄い、そんな魔物は滅多にいないからなぁ。


 マジックアイテムを作る身から言わせてもらうなら、魔法は使い方次第で人の生活を豊かにしてくれるものだ。

 だからエリーちゃんも戦いから離れて考えたら、ジンクスの才能を活かす将来が見つかりそうなんだけど……。


(それを俺の口から話せないのがもどかしいけど……)


 残念ながら俺はダグラス・ユビキタスではなくマンティコアのティコ。

 アドバイスは出来ないししてはいけない。

 


「あたしはこんな感じだな。ほんと、役に立てなくてごめんなー」

「もう一度言うけど、そんな事ない! エリーも将来のこと悩んでたって分かって、私ほっとしたっていうか……。とにかくっ、私と一緒に探そうよ! 将来何になりたいか!」

「レナータ……! うわーん! ありがとー!!!」


(俺が余計な口を出すまでも、ないか)


 けれど、強く抱き合う少女達の絆を目にして、二人ならきっと大丈夫だと確信するのであった。



「よし! じゃあ早速、今から先生に――」


「――まだ戦いから逃げてるの? 臆病者」


 レナータちゃんが先生に相談しようとしたその時、酷く不機嫌そうな声が彼女にかけられる。

 聞き覚えのある声に、俺はムッとしながら顔を向けると、そこにはやはりシャーロットがいた。


 彼女はレナータちゃんのライバルで、優秀なドラゴン使い。

 かつて引き分けた戦いの決着をつけようと約束し、そしてレナータちゃんが変わってしまったことに怒る少女である。


「シャーロットちゃん……」

「なによ、事実じゃない。どうせ今からセラ先生の所に行って、戦いとは関係ない職場に見学の約束でも取り付けるんでしょ? ビーストマスターズ出場を諦めた人間は気楽でいいわよね」

「キュ、キュルル……」

「ストップ、ココ。今日は舐めちゃダメ」


 相変わらずの辛辣な物言と、機嫌が悪いご主人様にオドオドするエアロドラゴン。

 シャーロットは以前のようにうやむやにならないよう、相棒にしっかりと待ったをかけている。


「シャーロット、何の用もないなら話しかけてくんなー!」

「チュウ!」(そうだそうだ!という重低音)

「ふんっ、戦う事も出来ない雑魚は黙ってて」


 エリーちゃんが抗議しようにも、シャーロットは取りつく島もない。


「前にも言ったと思うけど、私はアンタに文句があるの、レナータ! アンタと私の約束、忘れたとは言わせないわよ」


 はぁ……、考えないようにしていたけど、学校に戻ってくる以上、シャーロットと関わることは避けられないみたいだ。


「あの時の戦いの決着、どうするつもりなのよ。このまま逃げ続けて、有耶無耶にするなんて私は絶対納得しないわよ! だいたいモンカフェだか何だか知らないけど、アンタの実力でそんなくだらな――

「シャーロットちゃん。それ以上は言わないで」

――っな、なによ」


 ぴしゃりと、レナータちゃんは少しだけ語気を強めてシャーロットを黙らせる。

 それ以上言葉を続けていれば、ただじゃおかないとばかりの警告だった。


(くっひっひ、残念だったなシャーロット。レナータちゃんを戦いの道に戻せると思ったら、大間違いだ)


 俺は内心でざまあみろと笑う。

 今のレナータちゃんはもはや以前のように「流されていた」彼女ではない。

 戦うばかりが自分の将来だと思い込まず、自分が将来何をしたいのかをきちんと考えているのだ!


 きっと彼女は挑発に乗ること無く、もう戦う事はないと断言するだろう。

 いやー、ドンゾウさんには「色々と付き合わされる事になる」って言われたけど、ぶっちゃけ戦いから遠ざかる方が俺にとっては大助かりなのである。




いいよ(・・・)、シャーロットちゃん。やろうよ、バトル」

「……ガウ?」(……はい?)


 少なくとも、俺はそう思っていたのだ。

 レナータちゃんは真っ直ぐにシャーロットを見つめ返して、言い放つ。



「決着なら、今すぐにでもバトルしようよ。ビーストマスターズまで待たなくてもいいから」

「はあ!? アンタそれ本気でっ……」

「大丈夫。もう私、戦う事は怖くないから」

「――っ。その目、本気で言ってるみたいね」

「ガウガウガウガウ」(ちょちょちょ待って待ってレナータちゃん俺本気チガウ)


 レナータちゃんの表情は、かつてタクマと戦ったあの時と同じで、どこまでも冷静で、真剣だった。

 一方の俺はなんだか突然レナータちゃんがやる気マンマンになっているこの状況に非常に動揺しております。

 まって、本当に待って、マジで戦うおつもりですか、エアロドラゴンと!?

 


「……上等よ、やってやろうじゃない。相棒がティコ1匹しかいないから負けた、なんて言い訳できないくらい完璧に打ち負かしてやるわ」


 そう言ってシャーロットはエアロドラゴンと共に教室を出て行く。


「レナータ……本当に大丈夫なのかー?」

「うん、丁度よかったし(・・・・・・・)。わたしも約束は破りたくなかったから」


 心配するエリーちゃんだが、レナータちゃんは寧ろこれ幸いとばかりの様子でその後に続いて行く。


「ガウウウゥ!?」(なんでこうなっちゃうのかなぁ!?)


 ここにきてようやく、俺はレナータちゃんが急にやる気になっているのか理解した。

 確かにビーストマスターズに出ることには固執していない、だけど約束は全く別の話で破るつもりもない。



「ティコ。バトルに勝ったら、色んな職場を見に行こうね!」

「ウグルルルルルル!?」(しかも勝つ気満々ですか!?)


 そしてその約束が自分の障害になりかねないなら、速やかに片を付けるつもりなのだ。

今回の解説

ビックリマウス:数メートルはある巨体とそれに見合う食事量、脳の大きさに比例してとても賢く魔法まで使える、極め付けには寿命が長いのに繁殖力が一般のネズミと変わらないという立派な生ける大災害。天敵は、魔法が一切通じない魔猫キャスパリーグ。

ジンクス:ご主人様よりよっぽど賢く、人語は完璧に理解している。レナータの昔の相棒、猫又のトムとはケンカ友達で、トムがちょっかいを掛けてはジンクスが周囲を踏み潰しながら追いかけっこをする関係。

エアロドラゴンのココ:シャーロットの相棒で、本名はクロード(ココは愛称)。最近ご主人様の機嫌がずっと悪いので、その都度舐めまわして元気づけようとする健気な忠竜。

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