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36話:やっと貴方に初めましてと挨拶できる

今回はレナータちゃん視点でお話が進みます。


仕事で忙しいため、次回更新は二週間後の5月27日を予定しています。

おのれ仕事めぇ……。

「ティコ、大丈夫かなぁ」


 客間で待たされている間、私は先に診断を受けているティコがどうしても心配で、いけないこととわかっていてもつい不安を口にしてしまう。

 私が気づいていないだけでどこか悪い所があるのかもしれない、そんな疑念が頭に浮かぶたびに、私は首を振って否定する。


「大丈夫だよレナータちゃん。魔物使いの国でもティコは元気だったんだろう? それならダグラスも問題ないって太鼓判を押してくれるさ」

「あ……はい、そうですよね。ありがとうございます」


 私が余りにも心配そうにしていたせいか、ユビキタスさんまで気を使ってくれた。

 それでも、私の胸は不安でいっぱいだった。


 ティコが以前病気になった時、私は病気の正体がまるで分からなかった。

 そんな病気をいとも簡単にダグラスさんは治してしまったから。

 だから、私はこう思ってしまう。

 ダグラスさんなら、私が気づかなかったティコの悪い所なんて立ち所にわかってしまうのだろうと。

 もしティコがまた病気だったのなら、私はいつも一緒にいる相棒の事を何一つ気づいてあげられない、魔物使い失格な人間なんじゃないか、と。

 私はまた、大切な家族を何も知らないまま死なせてしまう所だったのかって……。



『失礼します! お菓子と飲み物をお持ちしました!』

「ああ、ムーブン。入っておいで」


 こんこんっ、と客間のドアがノックされる。

 ユビキタスさんが声をかけると、ドアから10歳くらいの男の子が、お菓子と飲み物を乗せたテーブルを押して来た。


「…………はぇ?」


 その、とっても失礼な事だと自分でも思っていたのだけれど、私はその子の格好に釘付けになってしまった。

 赤毛で、白い服を着たその子は料理人コックに見えるけども、その頭の上にはとてもとても可愛らしいネコちゃんの耳が生えているように見えたから。


『あ、あの、レナータ様。どうかされましたか?』

「かわいい……」

『ほえっ!? ――⚪︎✖︎△』


 私が凝視しながら本音を口にしてしまうと、その子は顔を真っ赤にして恥ずかしがった。

 ついでに腕がワタワタ動くのに連動して、その手袋からは変な音が鳴っている。


「こら、レナータ。いきなり失礼だよ」

「はっ!? ご、ごめんなさい!」


 とうとうお父様に叱られちゃった……。

 でも、いったいこの子はどうしてこんな格好をしているんだろう?

 それにこの子、さっきから口を動かさずに喋っているように見えるような……。


「レナータちゃん。ムーブンの頭のそれと、手袋はマジックアイテムなんだよ。ネコミミは音が聞こえない彼にも音を感じ取らせるセンサーで、手袋はジェスチャーに反応して適切な言葉を発するんだ」

「そ、そうだったんですか。これ、マジックアイテムなんだ……」


 ユビキタスさんがこの子……ムーブン君の格好を説明してくれた。

 ムーブン君は生まれつき音が聞こえなくて、上手くしゃべることも出来なかったけれど、ダグラスさんのマジックアイテムのお陰で音は振動として感じて、言葉は手袋を嵌めてジェスチャーをすれば普通の人と変わらずに生活できるということだった。


『うう……そうです。これはダグ兄ちゃんがおれ……自分のために作ってくれたマジックアイテムで、生活に必要だから付けてるんです。その、可愛いは恥ずかしいのでやめてください……』

「ほ、本当にごめんね。とっても似合ってたからつい」

『むぎゅぅ……』

「ああそうじゃなくってー! その、かっこいいって意味だから!」


 どうやらネコミミのデザインについてはムーブンくんにとって恥ずかしいものだったみたい。

 私はとっても可愛いと口にしてしまいたくなる衝動をなんとか堪えた。

 それでも似合っていると言ってしまったのがまずかったようで、彼は逃げるように部屋をでてしまった。


「あぅ……悪いこと、しちゃったなぁ」

「大丈夫だよレナータちゃん。いつものことだし、ダグラスもムーブンが恥ずかしがる姿を見たいからあんなデザインにした節があるし」

「ダグラスさんの趣味だったんですか!?」


 本当にびっくりした、ダグラスさんという人が一体どんな人なのか分からなくなるくらいには。

 最初は魔法使いの国特有のファッションなのかと思ったけど、まさかダグラスさんの趣味だったなんて……。


「しかし、デザインはノーコメントとして、機能は実に素晴らしい。ダグラス君は、人の生活を助けるのを目的としてマジックアイテムを作っているのだな」

「そんな、ダグラスは大層なことは考えてないですよ。我が息子ながら、本当に変わった発想ばかりするやつでして。思いついたものを片っ端から作ってるだけみたいですし」


 お父様はダグラスさんのが作ったマジックアイテムに感心している。

 私も本当にすごいな、と思う。

 私はマジックアイテムの事は詳しくないけれど、マジックアイテムと言われて思い浮かぶものといえば、「開いただけで雷が飛び出す巻物」とか「相手に向けるだけで炎が吹き出る杖」とか、戦いで使われる物ばかりだったから。

 植物魔法が使える私も、戦いに使ってばかりで、とてもダグラスさんのように人の役に立つようなマジックアイテムに応用なんてできっこない。


「あの、そんなことないと思います! 私は、ダグラスさんはすっごい人だって思ってます!」


 だからつい、私もダグラスさんを称賛していた。

 ちょっと大きい声を出してしまったせいで、お父様もユビキタスさんも少し驚いたみたいだけど、私の正直な気持ちだった。


「いやー、ウチのダグラスは随分信頼されちゃってるなあ」

「ふふっ、どうやらレナータは早くダグラス君に会いたくて待ちきれないみたいだな」

「え、えっと、その……」


 と思ったら二人は茶化してきて、私もなんだか恥ずかしくなってしまった。

 そ、そうだよね、ダグラスさんにまだ会ったこと無いのに、私ってば何言ってるんだろう……。

 でもでも、ダグラスさんが凄いのはホントで、うぅ。


「――失礼します、皆様。」


 そんな風に私達が過ごしていると、今度は扉から別の人の声が聞こえた。

 このお屋敷に来たときに初めに聞いた声、ジャクリーヌさんだ。


「ダグラスお坊ちゃまから、ティコ様の診断が終わったとの事です」

「ジャクリーヌさん! それで、ティコは、ダグラスさんは何て……」

「診断の為に少し大人しくしてもらっていますが、体のどこにも異常はない。だそうです、良かったですね」

「はぅ……よかったよう……」


 本当に、本当に良かった……。

 思わず泣きたくなっちゃうのを、必死にこらえる。

 大丈夫だった、ティコは元気だった、私はちゃんと、ティコの面倒を見れていたんだ。


「今ティコ様はお坊ちゃまの実験室にいるのですが……。レナータ様が迎えに行くついでに、お坊ちゃまとお話をされてはいかがでしょうか?」

「あっ、はい! 行きます!」

「行っておいで、レナータ」

「僕たちはここで待ってるからね」


 そうして私はジャクリーヌさんについて行って、部屋を後にする。

 いよいよダグラスさんに会えると思うと、なんだか緊張してきちゃうなぁ。




「ここがダグラスお坊ちゃまの実験室です。中にあるものには迂闊に触れないでくださいね、あちこちに魔法陣が書かれていて、暴発すると大変危険ですから」

「は、はいっ」


 ジャクリーヌさんに案内されて、ついに私はダグラスさんの居る部屋の前に辿りついた。

 警告されたこともあって、ちょっと冷や汗が出ちゃうくらい緊張する。


「あわわゎ……どんな人なんだろう……」

「そこまで緊張されなくて大丈夫ですよ。 ――ダグラスお坊ちゃま、レナータ様をお連れしました」


 ジャクリーヌさんがドアをノックすると「ああ、どーぞ。入ってきて良いよ」と男の人の声が返ってきた。

 きっと、ダグラスさんの声だ。

 

 ドアを開けて、中に入る。

 部屋の中には大量に積まれた紙の束や、ずらりと並ぶフラスコ、何に使うかも分からないような不思議な器具であふれていた。


「ガフゥ……」


 部屋の中心には大きな魔法陣が書かれていて、ティコはそこでスヤスヤと眠っているみたいだった。


「大丈夫。ジャクリーヌから聞いたかもだけど、ティコにはどこも異常はなかったよ。まあ検査でちょっと眠ってもらったけどね」


 する、する、と部屋の奥から布を引きずる音と、男の人の声が近づいてくる。

 不思議と、何故だかよく聞いた気がする声だった。

 その人は、真っ黒でだぼだぼしたローブと、鋭くとがった黒い帽子をかぶっていて、まるでおとぎ話にでてくる魔法使いそのものの格好をしていた。



「初めまして、レナータちゃん。俺はダグラス・ユビキタス、マジックアイテム作りが趣味の魔法使いさ」


 ユビキタスさんによく似た優しそうな顔に、茶色い髪、そして目の下にクッキリと浮かぶ黒い隈が良く目立つ男の人。

 そんな彼、ダグラスさんは、まるで悪戯を仕掛ける子供みたいな笑顔で私を迎えてくれた。



「あ、あの、初めましてダグラスさん。私、レナータっていいます。えっと、その――

「くっひっひっひ、そーんなに緊張しなくていいって。大体ギュンター卿の娘さんなら立場的には俺の方が敬語使わな――――んおっっとおおおおお!!?」


 ちょうどダグラスさんが私の緊張を解してくれようとした時だった。

 ダグラスさんはこちらへ歩いているうちに、ローブの裾を自分で踏みつけてしまったみたいで、そのままバランスを整える間もなく――ベチーン、と思いっきり床に顔をぶつけてしまっていた。

 それはとても痛そうで、お陰でダグラスさんのミステリアスな雰囲気が一編に台無しになっていた。


「い、いだだだ……」

「だ、ダグラスさん!? 大丈夫ですか!?」

「大丈夫、大丈夫だよレナータちゃん。ちょーっと最近炭水化物抜きダイエットに嵌っててね、服のサイズが合ってないだけだから……」

「えっと、栄養が偏るダイエットは危ないと思いますよ!?」

「うん、今身をもって味わってる。……今度からそこら辺に這えてる雑草(ネコ草)でも食べることにしよう」

「ちゃんとしたお野菜を食べましょうよ!?」


 これが、私とダグラスさんの初めての出会い。

 家族を失う事に怯えていた魔物使いと、そんな私を救った魔法使いの出会いだった。

 ……なんだか、緊張感が一気に吹き飛んじゃったなぁ。

ムーブンのネコ耳:正式名称は『音感センサー・ニャンテナ』。ネコ耳の形状になってしまったのは、実はユビキタス家に連れてきたばかりのムーブンを、ダグラスは暫くの間女の子と勘違いしていたためである。ムーブンはデザインや機能には特に不満を抱いておらず、ダグラスからもらったコレを大切にしているが、可愛いと言われてしまう事だけは恥ずかしがっている。

ダグラスの服装:魔法使いの国の正装。黒いローブにとんがり帽子とスタンダードな魔法使いの見た目になる。とりあえず一番威厳がありそうだったので着てみたけどサイズが合わなかった。

雑草:マンティコアをやっていると不思議と美味しく見えるらしい。どうしても野菜が食べたくなった時の最終手段。

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