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13話:マンティコアも歩けば棒に当たる

 右、左、右、左。

 マンティコアの歩き方をマスターするべく、ただひたすら歩く。


「〜♪」


 並んで歩くレナータちゃんはただ歩いているだけの俺をみて、ご機嫌な様子だ。

 少し前まで死にかけていたティコが、元気に歩いているだけでも嬉しいんだろう。

 なお中身の俺は歩くのに割と必死である。

 しかしここで練習して体に四足歩行を叩き込んでおかないと、つい二足歩行なんてした日には俺の人生が終わってしまう。


 そう、とても真剣に歩いていたのだ。

 真剣すぎて、周囲に気を配れないぐらいには。


 「きゅぅ!?」

 

 げしっ、と右前脚が何かにぶつかる感触と、甲高い悲鳴のような鳴き声。

 はっとして顔を上げると、何やら緑色の丸っこい魔物がころんころんと、地面を転がっている。

 あ、やべっ、もしかして歩いてるうちに何か蹴っ飛ばしちゃった?


「まるもち!? 大丈夫か!?」


 蹴飛ばされた生物を見て、ご主人様らしき少年が悲鳴をあげて駆け寄って行く。


「うわあぁ!? ごめんタクマくん!? 」


 レナータちゃんも血相を変えて、その少年、タクマに謝った。

 え、ということは、あの丸い魔物はタクマの相棒って事か?

 意外だ……、どう見ても女の子受けしそうな可愛い外見なのに。


「まるもち、どこか怪我してないか?」

「きゅっ」

「そっか、大丈夫か。……ったくあぶねーだろレナータ! 」

「うう、ごめんなさい……」

「ガぅ……」


 まん丸でモコモコしたその魔物(長い耳をみるかぎりウサギ系の魔物らしい)を大事そうに抱えたタクマは、怒り心頭だ。

 これはどう見ても俺の落ち度である、事故に近いとはいえ悪い事をしてしまった。

 レナータちゃんが謝ると同時に、俺も申し訳なさそうにこうべを垂れる。


「まったく、注意しろよな。相棒が元気になって嬉しいのはわかるけどよ」

「うん、ちょっと浮かれてた……。まるもちちゃんもごめんね」

「きゅうきゅう」


 よしよし、とレナータちゃんが頭を撫でると、まるもちは満足そうに鳴く。

 ……決して羨ましいなんて思っては、ないぞ。

 

「まるもちも許すってさ。――そういや、聞こえたぜさっきの唸り声。ティコもすっかり本調子みたいだな、関係ないこっちまでびびっちまったよ」

「えへへ、実は私もびっくりしちゃったんだ。ティコってば病気が治ってからずっと大人しいし、元気がないのかなって思ってたんだけど、杞憂だったみたい」


 さっきの威嚇を褒められて、レナータちゃんは自分のことのように頰を緩める。

 しっかしこのタクマという少年、やけにレナータちゃんと親しげである。

 ボーイフレンドってやつなのだろうか?


「そっか。なあ、その……。ティコの調子がいいならさ、いまから――――


 おおっ、早速タクマがなんだかそれっぽい雰囲気を出し始めたぞ?

 これは間違いない、いまから魔物達を連れて散歩しないか? とかいうボーイミーツガールが始まるんだろう!

 かーっ、青春め! 羨ましい!


――バトルしようぜ!!!」


 なんでだよ!?

 なぜその口ぶりから決闘を申し込むんだよ!?

 あまりにも堂々と言っている辺り、恥ずかしさから言い間違えたとは思えなかった。

 え、でもバトルって、要するにマンティコア(俺)とまるもちを戦わせるって事だよな?

 まるもちはどう見たって40センチ位の小さな魔物だ、5倍以上の体格差があるマンティコア相手じゃ勝負にならないだろう。


「えー、バトル? ティコだけで勝てるかなぁ……」


 マンティコアが勝てる見込み薄いの!?

 レナータちゃんのまさかの言葉に俺は戦慄した。

 どういうこと? まるもちちゃん、あんなふわふわもちもちウサギですよ?


「それに、ティコは病み上がりだし」

「ガウガウ」


 レナータちゃんに賛同するべく、それっぽく鳴く。

 その通りである、実際は病み上がりではないが、俺はまだマンティコアの動きに慣れていないのだ。

 そんな状態で激しい動きをしてヘマしたら、全てが終わってしまう。

 まるもちが俺に激しい動きをさせる程の強さがあるというのは信じ難いが、危険は回避するに越したことはないだろう。

 

「病み上がり? どう見ても健康体そのものに見えるんだけどなー」


 そりゃあ健康体そのものに見えるでしょうとも、ありったけの魔法を駆使して生前と同じ毛並に戻してるんだから。

 タクマが何を言おうと、俺はマンティコアになれるまでは目立った動きをするつもりはない。

 そう思っていたのだが……。


「あ! もしかして、俺とまるもちに怖気づいてるのか?」


 随分と安っぽい挑発、しかし、聞き捨てならなかった。


「むかっ」


 俺じゃなくて、レナータちゃんが。


「……怖気づいてなんかないもん」

「ガ、ガウ?」


 その頬をぷっくー、と膨らませて怒るレナータちゃん。

 あら可愛い……じゃなくて!

 え、うそ、そんな簡単に引っかかっちゃうの!?


「どうだろうなー? お前が休んでる間に、俺達は猛特訓したからなー。ティコも力の差を分かっててびびってんじゃないのかなー?」

「そんな事ないもん! ティコはいつも通り強くてカッコいいもん!」

「ガウガウ、ガウガウ」


 レナータちゃん、落ち着いて……ってマンティコア語じゃ話が出来ないじゃん。

 俺の願いも叶わず、レナータちゃんはどんどんヒートアップしていく。


「むーー! そんなに言うなら、バトルやろうよ! ティコは最高にかっこよくて勇敢なマンティコアだって事思い知らせてあげるんだから!」

「へっ、言ったな! 言質は取ったぜ!」


 どうやらレナータちゃんは、相棒の悪口を言われるとちょっと我を忘れるらしい。

 乗せられるがままに戦う羽目になってしまった。

 してやったりといった表情のタクマは、セラ先生を呼んで、流れるように戦闘許可をもらっていた。


 ……まあ、あれだ、ボーイフレンドなのかと思ったのは全くの勘違いなのは分かった。

 このタクマという少年は間違いなく。


「いくぞまるもち! 俺たちの新しいコンビネーションを見せてやるぜ!」

「きゅうっ!!」


「頑張るよ、ティコ!」

「が、ガウッ!」


 レナータちゃんにとって、強敵と書いて『とも』と呼ぶべき存在なんだろう。

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