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エピローグ:マンティコアに就職していた、俺は――

お待たせいたしました、エピローグの更新になります!


遂に、この物語もおしまいです。

マンティコアに就職していたダグラスは、物語の果てに何者になれたのか、見届けて頂ければ幸いです。

 レナータちゃんと俺が全力でぶつかり合ったあの日から――――3年という時間が経過した、ある日の事。



「魔法陣のチェックよし、後は魔力を流して、と……」


 魔物使いの国特有の、やたら広くて大きい作業場の一角で、俺はマジックアイテムの動作確認をしていた。

 かち、かち、かち、と俺の手にあるトカゲ型魔物の腕――を模した義手が、魔力を流すことで滑らかに動き出す。

 俺は義手を動かしながら、記憶にあるトカゲ型魔物の腕の動作と一致するか、照合していく。


「……うん、良いかな。あとは実際に装着してもらって、その場で調整を加えていけば問題ない筈」


 少なくとも俺の認識では、義手の動きと本物の腕の動きに相違は無かった。

 一先ずこれを完成品として、俺は「動作チェック済」と書かれた張り紙をしておく。


「今注文受けてる義肢は終わったかな? 終わったな、うん」


 周辺の作業台には、これ以外にも様々な魔物用の義手義足が置かれている。

 魔物使いの国では、外の世界で激しい戦いの中、手足を失ってしまった魔物達も多い。

 そんなわけで欠損を補える義肢の需要も非常に高かったから、この義肢はマジックアイテム工房マギアニマ設立当初からの主力商品になっているのだ。


 とりあえず注文を受けた分はこなせたので、椅子から立ち上がり、ぐぐぐと伸びを一つ。

 マギアニマで働く事になった俺の主作業は、いつも通りにマジックアイテムを作る事だ。


 ただ、魔法ニートの時とは変わった事も、勿論ある。

 引きこもりっぱなしじゃない事、外に出て実際にマジックアイテムを必要としている人達の所へ行ったりすることも多い。

 あとは、なにより――


「うおーい、ダグラス先輩(・・)ー! ちょっと質問があるぞー!」

「チュウチュウー!」(聞きたい事があるんですが、という感じの重低音)

「ん? どうしたの、エリーちゃん(・・・・・・)


 ――この広い広い作業場で、マジックアイテムを作っているのは俺一人ではないという事だろうか。

 まず、ジャクリーヌを筆頭に、俺と仲がいいユビキタス家の使用人のみんなは、ここで一緒に働いている。

 そして、ついに、念願かなった今年! 俺には職場の後輩が出来たのであるっ!

 しかもその後輩と言うのが、何を隠そう、エリーちゃんとジンクスなのである。


 3年という時が経ち、魔物使いの学校を卒業したエリーちゃんは、随分と背が伸びていている。

 身体的成長と世界最強の師匠(リアーネさん)による特訓、その上で相棒が扱う魔法の知識すら学んだ彼女は、それはそれは凄まじい戦闘能力を保有しているわけなのだが、それでも彼女はこのマギアニマに就職することを選んでくれた。


 なんでも、「ジンクスの力を最大限発揮できる職場は、ここが一番って思ったんだー」とのこと。

 実に嬉しい事に、彼女は「ビックリマウスでも人の役に立つ」という夢を叶えるために、此処を選んでくれたという訳だ。


 それでそのエリーちゃんなのだが、何やらマジックアイテムを片手に俺の方へと歩いている。

 ずしんずしん、とジンクスの重い足音を聞くたびに「ギルドの建物をでかくして正解だったなぁ」なんて思いながら、俺は話を聞くことにした。


「ちゅうちゅうちゅう、ちゅ、ちゅちゅうー」

「ふむふむ…………何言ってるかさっぱりわからん!」

「ちゅう!?」


 ジンクスが身振り手振りを交えてちゅうちゅう言っているが、残念ながらその仔細は全く伝わらなかった。

 うーん、あの時のティコだったら何を言いたいのか分かった事もあったけど……やはり俺には魔物使いの才能はないらしい。


「無駄に格好つけて頷くのもどうかと思うぞー。ジンクスは「このマジックアイテムに使った魔法陣に不安がある」って言ってるのだ。で、あたしも見たんだけど……確かに、なんか嫌な感じがしてなー。ここの魔法陣って、このタイミングで発動させていいのかー?」

「これは……ニャンちゃん家から注文うけてた、「(スーパー)(アルティメット)ネコ砂取り換えくん・防犯機能付き」か。……使う魔法は合ってるけど――――あ、やべ」

「? ヤバいのかー?」

「防犯機能に洗浄機能の動作がまざってる。この順番で魔法を発動したら、防犯機能が作動した時に不審者を汚物が溜まった空間に叩き込むことに……」

「それはやばいなー!?!?」


 ネコちゃんが1匹のびのびと入れる空間が空いた、ネコ型魔物用トイレの内部底面を見る。

 そこに書いてある魔法陣に、エリーちゃん達の不安通り、結構ヤバめな不具合がある事を確認できた。

 「ど、どうするのだー!?」と慌てるエリーちゃんだが……、俺はと言うとそれ程慌てていなかった。

 不具合の被害はまずいが、大した不具合じゃない。


「大丈夫大丈夫、ここの転移の魔法陣を、同じ規模の封印魔法に書き換えれば良いだけの話だよ。ジンクス、修正は出来そう?」

「ちゅうっ」(任せてください、という感じの重低音)

「任せてくれ、って言ってるぞー。封印魔法はジンクスの得意だからなー。……んー入れ替えるだけで良かったのかー、あたしもまだまだだなー、そんな単純な事に気が付かないとはー」

「違和感に気付いてたじゃないか、上等上等。いやむしろ、魔法が苦手なのに魔法陣の違和感に気付けるのって相当だよ?」


 エリーちゃんは相変わらず自分は魔法が使えないままだが、今や魔法の知識は俺に引けを取らない。

 魔法が得意なジンクスと意思疎通を取りながら、彼女は充分上手くマジックアイテムを作れている。


「ん、ありがとなー先輩。うーっし、ジンクスー! 張り切って修正するぞー!」

「ちゅうー!」 

「くっひっひ、あんまり根詰めるとレナータちゃんに叱られるよ」

「それをダグラス先輩がいうかー? あ、そういえばレナータはどこに行ってるんだー?」


 ギルドの皆の体調管理にはことさら気を使っている我らがギルドマスター、レナータちゃんの事を口にすると、エリーちゃんはいま彼女がどこにいるのか気にしていた。


「レナータちゃん? 今日は、モウモウ牧場で話し合いに行ってるよ」


 マギアニマにおけるレナータちゃんの仕事は、非常に多岐に渡る。

 国中にある他のギルド、飲食店、農場など、あらゆる職場に通ってマジックアイテムの紹介や需要、要望の調査を行ったり。

 魔物使いの視点から、様々なマジックアイテムのアイデア出しを行う事だったり。

 マジックアイテムの作り手たる俺と顧客の話し合う場を設けて、どのようなマジックアイテムが必要なのか、意見のすり合わせを行ったり等々……数えればきりがない。


 まあざっくり言うなら、作り手と顧客の架け橋、と言ったところだろう。

 そういうわけで今日もまた、彼女は働く人達の元に通っている。


「確かお昼の初めから行って、今は夕方だから……もうすぐ帰ってくる頃だと思うけど」


 窓から差し込む赤い陽の光を、視界の端に納めつつ、俺は工房の出入り口である扉を見やっていると……。




「みんな! ただいまっ!」


 とても聞き慣れた声が、工房に響いた。

 肩まで伸びた美しい銀髪、宝石のように赤く輝く瞳に、ギルドの制服の端から覗かせる健康的な褐色の肌。

 綺麗に伸びた肢体と成長した体つきは、かつての小動物的で可愛らしかった少女の印象を、見目麗しい大人の女性へと変えつつある。

 まるで天使と錯覚してしまいそうな美しさで、満面の笑みを浮かべている彼女。

 ――レナータちゃんが、マギアニマの工房へ帰って来たのだった。


「レナータちゃん、お帰り! 上手くいったみたいだね!」 

「ダグラスさん! はいっ、バッチリです!」


 とても嬉しそうな様子の彼女をみて、俺も笑顔で返事をする。

 どうやらよほど話し合いが順調に進んだらしい、レナータちゃんは駆け足で工房の中心にある大きな作業台へと向かうと、手にした紙束を広げていく。

 俺を含むギルドメンバーのみんなは、それを見ようと同じ作業台へと集まっていった。


「みんな、これを見てっ! ミルミルの牛舎の設計図とか、要望とかを纏めてみました!」

「おおっ。ゴンズのおっちゃん、遂にミルミルの飼育にも手をだすんだね」

「はい。ゴンズさんも、ウチのマジックアイテムのお陰で牧場の経営も凄い楽になったから、ミルミルも育てられる余裕ができた、って言ってました! お話しもすごい盛り上がったんですよ!」

「そうみたいだね、いやー凄い書き込んである……」


 覗き込んでみると、そこには牛舎のざっくりとした設計図に、外観の想像図、そしてどんな機能のマジックアイテムが欲しいのかなどが沢山書き込まれていた。

 そのあまりの書き込みっぷりに、ジャクリーヌなんかは「これは凄まじいですね……施設がまるまる、マジックアイテムになるんじゃないでしょうか」などと言っていた。


「施設一つがマジックアイテム……。くっひっひ、このギルド始まって以来の、大仕事になりそうだ……!」


 とても作りごたえがあるマジックアイテムの予感に、俺は思わずニヤリと笑う。


「ふむ、かつてのユビキタス・ダイナミックを作った時を思い出しますな」

「やっぱドンゾウさんもそう思う?」

『! もしかしてコレも変形させるのっ!? ダグ兄ちゃん!』

「いいねムーブン。秘密裏に変形機能を搭載してみるか!」


 設計図を眺めているとアイデアが湧いてくるせいか、ギルドのみんなの中でどんどん話が飛躍していって――。


「ダーグーラースーさーんー……? ダメに決まってますよー……?」

「はっ!? もっ、もちろん冗談だよレナータちゃん!?」


 ――レナータちゃんにしっかりと釘を刺されてしまった。

 ジト目で俺に顔を近づけていくレナータちゃんに気圧され、慌てて俺は冗談だと訂正する。


「まったくもう、ダグラスさんってば……」


 だけどきっとレナータちゃんは分かっている、俺は放っておくとマジでやりかねない事を。だからこうやってブレーキをかけてくれるのはある意味、ありがたい。


「もうすっかり手綱を握られてるなー? 先輩?」

「う、うぐ……」

「もはや日常風景ですね。そのおかげか、最近は大きな騒ぎもありませんし。レナータ様には是非このまま、おぼっちゃまの制御をお任せしたいところです」

「俺を騒動の原因みたいに言わないでくれよジャクリーヌ……」

「はいっ、任せて下さいジャクリーヌさん!」

「レナータちゃん少しは否定してくれてもいいんだよ!?」


 叱られた俺に対して、みんなは追い討ちをかけるように、こぞって弄り出す始末。

 それでも、不思議と悪い気はしなかった。

 きっとそれは、俺が此処にいるのが楽しいからだろう。

 

 こんな風に俺は、レナータちゃんと、みんなのおかげで、慌ただしくも楽しい日々を送っているのであった。

 



 楽しい時間というやつは、決まっていつも早く過ぎるものである。


「ふう、戸締りよし。警報の魔法陣も起動よし……と」


 就業時間はあっという間に終わって、俺は工房の戸締りをチェックしていた。

 他の皆は既に帰っている。きっと今頃、どこか外で晩御飯を食べてたり、帰宅しているだろう。

 ……別に、押し付けられたわけでないよ? たまたま今日は俺の当番だったというだけである。


 一通りチェックが終わり問題ない事を確認する。

 あとは外に出て、工房の出入り口――魔物用と人間用のソレを閉じるだけだ。

 ちなみに魔物用の扉はやたらデカい。マジックアイテム化して、自動で開閉できるようにしてよかった。



「お疲れ様です、ダグラスさん」

「ん……レナータちゃん? 帰ってなかったの?」


 外に出た直後、横合いから声が掛けられた、見ればレナータちゃんがそこに居る。

 てっきり俺は、残っているのは自分一人と思い込んでいたので、少し驚く。


「はい、事務所の戸締りは私が当番でしたから」


 レナータちゃんの言葉に、俺はそういえばそうだったと思い出す。

 どうやら偶然にも(・・・・)、レナータちゃんと俺の戸締りが終わる時間は同じだったようだ。


「ああ、そっか。レナータちゃんもお疲れさま、今日も大変だったね」

「はい。でも今日はすっごいお仕事が入ってきましたから、なんだかワクワクしちゃってます」

「くっひっひ、ああ確かに。なんせ設備が全部マジックアイテム化された、ミルミルの牧場だ」


 レナータちゃんと雑談しながら、俺はふと、マギアニマの工房を見上げた。

 それに釣られて、レナータちゃんも視線を上に向ける。

 まるで自分達が歩いてきた道を確かめるように、お互いに黙って見上げていた。



「――やっと、ここまで来ましたね」

「――ああ。設立当時は大変だったけど、漸く軌道に乗り始めた。この国の人達も、マジックアイテムの利便性に、徐々にだけど気付いてきたんだと思う」


 ぽつり、と呟いたレナータちゃんの言葉に、俺は同意する。

 この国の人たちにマジックアイテムを利用してもらうために、いろんな需要に応えてきた。

 義肢に始まり、生活用品や武器、そうしてようやく……仕事に関わるマジックアイテムを作って欲しいという依頼が、舞い込んでくる様になった。

 ここまでくるのが、長いようで、あっという間だったようで、本当に感慨深い。


「でも、分かる人は最初から分かってると思いますよ? シャーロットちゃんとか、タクマくんとか」

「確かに、あの二人はそうだった。……あ、そういえば2人に、新しい戦闘用のマジックアイテムが欲しいって頼まれてたなぁ。あとツクヨってにカブトムシの戦闘用義足も注文があったっけ……」

「ビーストマスターズが近いですからね。……ダグラスさん、残業はいけませんよ?」

「うっ、はい……反省してます」


 レナータちゃんにしっかり釘を刺されてしまった。

 ちなみにマギアニマでは残業は禁止されている、寝食すら忘れて作業に没頭し、俺が一度ぶっ倒れたせいだ。


「それにしても、ビーストマスターズか」

「懐かしいですね、なんだか」

「うん。今年から成人の部って話だけど、シャーロット達なら確実に勝ち残るだろうなぁ」


 なんせ2人とも、学生だった頃より遥かに実力をつけている上、我がマギアニマ製のマジックアイテムで武装しているのだ、これで勝ち残らない理由がない。


「私もそう思います。ふふっ、楽しみです……シャーロットちゃん達がマジックアイテムを使って勝ち上がれば、マギアニマも一段と有名になりますし」

「うんうん、確かに。2人にはしっかりと結果を残して貰わないと」


 俺とレナータちゃんは、その時を想像して笑う。

 シャーロット達も、そして今回の新しくミルミル牧場の経営に挑戦するゴンズのおっちゃんもそうだが、ああいう先駆者が、マジックアイテムで優れた結果を残していって、後の誰かがソレをみて真似をしていくのだろう。

 そうして、我がマギアニマのマジックアイテムはこの国に広まっていくのだ。



「……ダグラスさん」

「なに?」

「これからも、よろしくお願いしますね」

「もちろん。これからもずっと――」


 少しだけ間が空いて、レナータちゃんから改めてよろしくと言われた。

 俺はそれに、笑って返事をしようとした。


 当たり前だ、これから先どんな事が起きようと、俺は彼女と夢を続けていくつもりである。

 それは、俺が他でもない、彼女の相棒・・だから……。


「――相棒(・・)として……っ」

「?」


 「相棒として宜しく」そう言おうと瞬間、ちくり(・・・)と疼く胸に、言葉を詰まらせてしまった。


 レナータちゃんを見る度に、膨れ上がっていくその痛み……否、その想いの正体には、とっくの昔に気付いている。


 ――相棒のままで、いいのか?


 隣にいるレナータちゃんを見る、今は2人きりだという事実に、胸の鼓動が少し早まるのを感じた。

 今この時も、その想いはより一層膨らんで、俺に自問自答をさせている。


 その問いに俺は決まって、これから忙しくなるから、今のままでも居心地は充分だから、などと心の中で理由を並び立てては、その思いを鎮めていた。


「ダグラスさん?」


 急に言葉を途切れさせた俺を、レナータちゃんはとても心配そうな顔で見つめていた。

 綺麗な赤い瞳で見つめられて、胸の鼓動が強くなる。


「あ、や、その……」


 俺は、咄嗟に言葉を続けようとする。

 相棒としてよろしくと、俺たちは相棒同士で良いのだと、言おうと、レナータちゃんを見つめて……。




『「分からない」って言ったんです。私はダグラスさんの気持ちなんて、分かりません』


『自分の気持ちを誰にも話さないで、心にしまい込んだままにして、それでダグラスさんがどう感じたかなんて、分かるわけないじゃないですかっ……!』



 ふと、懐かしい記憶が蘇った。


(……ああ、そうだった)


 レナータちゃんと俺が全力で戦ったあの日、俺は彼女から大事な事を教わっていたことを、思い出した。


 気持ちを、想いを心に仕舞い込んだままでは、何も変わらないし、誰にも理解されない。

 想いを仕舞い込んだままにしていれば、ソレは拗れて固まって、厄介な物になってしまう。

 怒りを心に仕舞い込んだままだった、かつての俺が、そうだったように。

 

 今の俺が抱えているこの想いが、そうなってしまうのは――とても嫌だった。

 今の関係が壊れるかもしれないという恐怖を、上回るほどに。



「あの、さ、レナータちゃん。ちょっと来て」

「ふぇっ?」


 彼女の手を掴んで、俺は鍵をかけようとしていた工房の出入り口を開いた。

 中に入って、扉を閉じて、俺とレナータちゃんは正真正銘の2人きりである。


 ……今からすることは、とてもじゃないが、人通りがある外でやるには恥ずかしすぎるから。

 

 

「あっ、あの、ダグラスさん?」

「まず先に言っておくよ。俺はこれから先何があろうと、君と俺自身の夢のために、此処で働いていく」

「は、はいっ」 


 想いを告げる前に、予防線を張っておく。

 今から俺が言う事に、彼女が何と返事を返そうが、俺と彼女の夢は終わらないということを。


 レナータちゃんは俺の唐突な行動に目を白黒させていて、それがまた、微笑ましく思えてしまう。


「その上で、俺は、その……これからは、相棒としてだけじゃなくて……」


 心臓の高鳴りが、最高潮に達する。

 ほおが熱くて、息が続かなくなりそうで、俺は一度大きく息を吸った。

 ああ、やっぱりこの想いは。俺は。




「レナータちゃん、君の事が好きだ。俺は君と、恋人同士になりたいって、思ってる」



 言った、言い切った。

 目の前のレナータちゃんはその言葉を聞いて、目を見開いている、綺麗な赤い瞳に吸い込まれてしまいそうだ。

 やがて、自分が何を言われたのかを理解したのか、その肌も、顔も、瞳の色と同じように朱色に染まっていくのが、見てとれた。


「今までずっと、俺の事を真っ直ぐ見ていてくれた、俺の心に真っ直ぐぶつかって来てくれた。そんな君に、俺は……完全に惚れてる」

「――――」 


 一度言い切ってしまったからか、想いが止められない、言葉が溢れてしまいそうになる。

 そんな俺を見つめたまま、真っ赤になって硬直するレナータちゃんは……。



「――っ、ダグラスさんっ!」

「!!!」


 堪えきれないと、そんな様子で。

 俺にぎゅっと、抱きついてくれた。


「私……! 私もっ(・・・)、ダグラスさんのことが、大好きですっ!」

「――っ!」


 全身で感じる彼女の体温は、とても暖かくて、熱くって。

 俺はその返事を聞けたことが、嬉しくて、嬉しくて。

 愛おしさとか、大切にしたいとか、そんな気持ちが胸から無限に湧き出てきて。

 思わず俺は、レナータちゃんを……両腕で優しく、抱き返していた。


「私、ダグラスさんの優しい所とか……いつも助けてくれる所とか、好きで。一緒にマジックアイテムを作ってる時間が、とっても楽しくて……! その、私、私……! 今、すっごい嬉しいです……!」

「……ありがとう。俺も、嬉しい」


 レナータちゃんは嬉しさでいっぱいいっぱいになっているみたいで、話す言葉も上手く形になっていない。

 それでも、彼女が俺をどう想ってくれているのかは、充分すぎる程に伝わってくる。


「……ダグラスさん」

「うん……?」


 しばらく抱き合ったあと、俺達は密着した身体を少しだけ離して、お互いの顔を見つめ合う。

 レナータちゃんの顔は相変わらず真っ赤になっている、赤い宝石のような瞳は潤んでいて、どうやら嬉しさ余って涙が出てしまったらしい。きっと、俺も似たような顔をしているだろう。

 そして彼女の顔を見た俺は、愛おしいという気持ちが、再びこみ上げてきてしまった。


「…………」

「…………」 


 俺達は、互いに顔を近づけていって、そして―――――口づけを、交わし合った。






 日が暮れた街並みを、俺達は2人並んで歩いていく。


「ねえねえレナータちゃん」

「? どうしたんですか、ダグラスさん」

「うん、その、俺達、本日晴れて恋人同士になったわけですが、一緒に帰る事は結構多いでしょ? だから、新鮮味がある奴をやってみたいなーとか、思っちゃったりして」

「ふふふっ、ちょっとカタコトになってますよダグラスさん。でも、確かにそうですね。……それじゃあこれからは、私のことを「レナータ」って呼ぶのってどうですか?」

「あ、それ懐かしいなぁ。あの時お互い気恥ずかしくて、やめちゃったやつだ」

「はい。今ならもう、恥ずかしく感じることもありませんし」

「ほーう? それじゃレナータ(・・・・)も、俺の事ダグラスって呼び捨てにしていいよ?」

「ふえっ!? えと、は、はい……ダグラス、不束者ですが、よろしくお願いします……」

「くっひっひ、カタコトになってるぞー?」

「も、もうっ! ダグラスってばー!」


 他愛のない言葉を交わしながら、手をつないで歩いていく。


 マンティコアから始まった俺とレナータの関係は、また形を変えて続くこととなった。

 ご主人様とマンティコア、魔物使いと魔法使い、相棒、幾多の関係を経て、それでも共に居続けて――俺達はやっと、お互いが望む関係になれたのだ。


「ごめんごめん。でも、うん、俺も不束者ですが、よろしくね。レナータ」

「……! はいっ!」


 レナータの笑顔を見ながら、俺は今本当に幸せであると、心の底からそう思った。

 これから先、どんな困難が待ち受けていたって、どんなに挫けたって、俺たちは絶対に負けないし、立ち上がって生きていける。


 今の俺たちには、仕事(ゆめ)と、お互いという、2つの「好き」があるのだから。

物語を最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。

ここまでお付き合いして下さった読者の皆様には、本当に感謝しかございません。

皆様が宜しければ、この物語を読んで心に響くものがありましたら、評価や感想などで、私に教えて頂ければ幸いです。

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