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102話:妹(?)さんからの試練

お待たせしました、102話更新です!

そして、次回103話と104話の更新を連日で行いたいと思います。


明日(10/20)7時に103話を、18時に104話を更新予定です!

「申し訳ございませんでしたレナータ様。ダグラスを説得するつもりが、何もできず……」

「そんな、謝らないでください」


 ダグラスさんのお家と、私のお家を繋ぐ魔法陣の前に私が立っていると、ジャクリーヌさんに深々と頭を下げられてしまった。

 私は慌ててジャクリーヌさんに頭を上げてもらうように言う。


「寧ろ、私にもう一度お願いするチャンスをくれて、ジャクリーヌさんにはお礼を言いたいぐらいなんです」

「レナータ様……」


 結局、あれからダグラスさんはお部屋に閉じこもったきり出てこなかった。

 私たちも、これはもういくら言葉をかけても無駄だと悟って、今日のところは帰ることにした。


「悪いのはわたしのほう――

「いいえ、レナータ様は何も悪くありません。どうか、貴女が目指すその夢を、今はまだ諦めないでください」

「――っ、ありがとう、ございます」


 私が悪いのだと、思わずそう言いそうになった私を、ジャクリーヌさんは肩を掴んで止めてくれる。

 それがとても嬉しくて、少し泣きそうになってしまった。


「おぼっちゃまは、私がなんとか説得してみます。せめてレナータ様のお話を最後まで聞くように」

「……ジャクリーヌさんは、どうしてそこまでしてくれるんですか?」


 ジャクリーヌさんは最初、これはダグラスさん自身の問題だと言って、私をここまでは立ち入らせてはくれなかった。

 それが今やどうして、彼女は私の力になってくれるのだろうかと、少し不思議に思ったのだった。


 するとジャクリーヌさんは、顔を少し俯かせ、絞り出すように訳を話してくれた。


「この屋敷にいる使用人たちは、私を含めてみなおぼっちゃまに助けられた者たちなのです。しかし皆助けられてばかりで、おぼっちゃまが苦しんでいる時に力になれなかったことを後悔しています」


「おぼっちゃまの事をここまで認めてくれている貴女なら、おぼっちゃまを憎悪から開放してくれるかもしれないと、そう感じたのです」


 それを聞いた私は、ダグラスさんを1番助けたいと願っていたのは、ジャクリーヌさんなのかもしれないと、そう思った。


「そう、だったんですね」


 ……正直に言うと、私はダグラスさんを説得できる自信がこれっぽっちもなかったけれど。

 ジャクリーヌさんが、私の夢にダグラスさんを助けるという想いを乗せてくれるのなら。


「……わかりました。私も絶対、夢を諦めません」


 私はあくまで私のために。

 まだ、この夢を手放さないと誓った。



「お邪魔しました。また、来ますね」


 私は魔法陣の上にのる。

 今日のところは、いったんお家に帰ろう。


「はい、またいつでもいらして下さい」


 ぺこりとジャクリーヌさんが頭を下げて、地面が輝く。

 私の家へと、転送が始まった。

 景色がぐにゃりと歪んで、気がつけばそこは私の家で――――




「やあやあ、いらっしゃーい」

「――――え?」


 私の家、ではなかった。

 眩しいくらいに真っ白で、病院の一室のような部屋が、私の視界に広がっていた。

 白い丸テーブルが一つと、椅子が二つしかない、とても無機質な部屋。

 生活感がまるでないその場所に、人が一人、椅子に腰かけていた。


 転送が終わると同時にかけられた声は、間延びしていて、とても気楽そうな女の人の声。

 部屋の色と同じ白い服を着た、若い女の人だ。


 ダグラスさんと同じ茶髪で、どこか彼と似た雰囲気を持っている人だった。


「お家に帰るのは待ってもらえるかなー? なんせ私は、君にちょーっとお話があるんだよー。というわけで、ささ、座った座った」

「あ、あの……!? ここは、その、貴女は……!?」


 話があるとその人は言って、空いているもう一つの椅子を指さしている。

 でも、なにがなんだかさっぱり分からなくて、私は混乱するしかない。

 貴女は誰なのか、私はどこにいるのか、何もかもが説明不足だった。


「……はぁ、混乱しすぎ。ここは私の工房。君のお家にあるめっちゃ進めるくんを一時停止して、私の工房に繋いだから君はここにいる。それで私は――」


 私が混乱しているのを見かねて、その人は一方的に、淡々と説明をしてくれた。

 そして私は、その人の名前に驚く事になる。


「――パトリシア・ユビキタスだよ」

「え?」


 ダグラスさんと同じセカンドネームを持つ事に。




「とりあえず座りなよ。話をしたらさっさと帰してあげるから」

「は、はい……」


 パトリシアさんに言われるがまま、私はテーブルを挟み、彼女と向き合う形で椅子に座った。

 いきなり連れて来られて正直不安で仕方がないけれど、ダグラスさんと同じ名前という一点だけで、私は辛うじてこの人の言う事に従っておこうと思えた。

 パトリシアさんが私に、何の話があるのかは分からないけれど……。


「あ、あのっパトリシアさんは……」

「何? 話があるのは私の方――――」

「ダグラスさんの、妹さん。ですか?」

「――――んん?」


 取りあえず会話をしようと、あとついでにパトリシアさんが何者なのかをはっきりさせようとして、言葉に出したのだけど。

 なぜか、それだけでパトリシアさんの雰囲気が一変した。

 なんというか、気怠そうな感じから、思っても見ないような喜びに満ちた感じに。


「んんー? んんんんー? いもうとぉー? そっかー妹に見え(・・・・)ちゃう(・・・)かぁー(・・・)?」

「ふえっ? え、えっと、違いましたか? その、ダグラスさんに似てますし、てっきりそうなんじゃないかって……」

「んふっふー、そっかそっかー♪ いやぁー、私はダグちゃんの妹だよ、間違いないよー♪」

「そ、そうですよね……?」


 ……パトリシアさんはああいってるけど、すごい嘘っぽかった。

 けれど、このままダグラスさんの妹という事にしておいた方が、都合がいい気もしてくる。

 その、こういっては何だけれど、この人の機嫌を損ねたらとっても危ないと、私の勘が告げているから……。


「レナータちゃん、だったよね? 話す前にお茶でも飲む? それともコーヒー? おやつもあるよ? 数年前にムーブン君からもらったものだけど時間魔法で凍結してるから何の問題もないよねー♪」

「はいレナータです……ってえ、えっ!? いいですよそんな!? 気を使わなくってもっ!?」

「え? いいの? 遠慮しなくてもいいのにー」


 パトリシアさんは先ほどまでの態度から打って変わり、今度は私をもてなそうとしてくれていた。

 お気遣いはとってもありがたいのだけれど、なにかとんでもないものを出されそうになっていたので咄嗟に遠慮する。

 今数年前って聞こえたような……魔法使いの人って、けっこうみんな変わってるよね……。


「いやー妹かぁー。ダグちゃんが気に入る理由もわかっちゃうなーコレはー」

「ええっと、パトリシアさん。それで私に話があるっていうのは……?」

「おーっ、そうだったそうだった。でも、うん、気が変わったよ(・・・・・・・)

「え?」


 パトリシアさんの言葉に私は首を傾げる。

 気が変わったって、どういう事なんだろう?


「ねえレナータちゃん。今日ダグちゃんに「一緒に働かない?」って言ってたよね?」

「っ!? ど、どうしてそれを知って――」

「そんな事はどうでもいいよ。私は私の大切な人のことはぜーんぶ見てるから、だから分かってるの」

「そ、そうなん、ですか……」


 詳しい理由は教えて貰えなかったけど、パトリシアさんは私とダグラスさんのやり取りを知っているらしかった。


「でさ、レナータちゃん。きみ、ダグちゃんの過去を知りたいよね? 私が教えてあげる(・・・・・・)

「ふえっ!!? え!? そ、そんな、良いんですかっ!?」

「うん、最初は君の夢を諦めさせるつもりだったけど、気が変わったからいいよ?」

「えええっ!?」


 なんだか、驚きっぱなしで頭が痛くなっちゃった……。

 確かに私はダグラスさんが昔どんな目に遭って、あそこまで仕事嫌いになってしまったのかを知りたかった。

 けれどまさかこんな簡単に、それも私の夢に当初反対していて、しかも初対面のパトリシアさんの口から聞けるなんて思いもしなかった。


「それに、君もう薄々分かってるでしょ? 君の夢を叶える為にはダグちゃんの過去を知らないと話にならない。でもダグちゃんは何があっても、自分の口から昔の事は喋らないって」

「それは……そう、ですけど」


 自室に閉じこもって、何も話してくれなかったダグラスさんを思い出す。

 ダグラスさんは昔の事を話すのを嫌がっていた。

 特に私には知って欲しくないようにも見えたし、彼の口からそう簡単に聞き出せるとは、私も思えなかった。


「だから、コレ(・・)を使ってダグちゃんの過去を覗かせてあげる」


 パトリシアさんはそういうと、懐から何か小さなものを取り出した。

 それは、プレート状に加工された石のように見える。

 両面にはびっしりと魔法陣が書き込まれていて、私はそれがマジックアイテムであると分かった。


「それは……?」

「ダグちゃんの作った「記憶映像保存くん」だよ。この中には私がダグちゃんが寝てるうちに複写した、ダグちゃんの人生における重要な記憶が納めてあるの」

「寝てる間に!? ダグラスさんに無許可でやったんですか!?」

「うん、だってダグちゃん私にも何があったか教えてくれなかったもん」


 妹さん(?)にも教えていない辺り、ダグラスさんは余程昔の事を知られたくない様だった。

 ……でも、このマジックアイテムを使えば、それが分かるんだ。


「……」

「遠慮する必要なんてないんだよー? だって私、君を試すことにしたんだから。ダグちゃんが本当はどんな人間なのか君に教えて、それで君はダグちゃんに幻滅しないかなーってね」


 ダグラスさんの意思を完全に無視して過去を知る事に、私は抵抗を感じてしまうけれど、パトリシアさんはとても楽しそうにそう言い放つ。


 私がダグラスさんに、幻滅する。

 ダグラスさんはお兄さん(?)なのに、どうしてパトリシアさんが笑いながらそう言えるのかは、私には分からないけど。


「……パトリシアさん、お願いします。ダグラスさんの事を教えて下さい」


 私はダグラスさんの過去がどんなものであっても知りたいし、夢を諦めるつもりも毛頭ない。

 夢を叶える為に、私はパトリシアさんの提案に乗る事にした。


「よし来た。じゃあこれを握りしめて、裏って書いてある面に魔力を流してごらん」


 私は「記憶映像保存くん」と呼ばれたマジックアイテムを握りしめて、祈るように魔力を流す。

 すると「ぽう」とソレは輝いて。


「…………っ」


 私の頭の中に、ここではないどこかの光景と、ダグラスさんの声が流れ込んできて――――

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