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だからこそ、全ては手遅れだったのだと言える

 結局、質問攻めのローズは、午後から一緒にいて夕飯になるまで俺を解放してくれず、ようやくメイドが「お食事の時間です」と呼びに来た時には、さすがの俺もほっとした。


 不思議なことに、なぜか「ウザい」とか「もう相手したくない」などとは思わず、むしろそこまで自分に関心持ってくれて礼を言いたい気分だったが……何事にも限度はあるからな。



 

 食事は俺も一緒に摂るようにとのことなので、俺はローズを伴って食堂へ向かったが……ジスレーヌの姿は相変わらずなく、どうも俺とローズだけが馬鹿でかい長テーブルについて食事らしい。


 執事のおっさんとメイドが周囲に控えているし、ゴツい傭兵みたいなのがいたりで、なんだか落ち着かない。




「あんたは、一緒じゃないのか?」


 試しに俺の倍くらいある体格の傭兵に尋ねたが、そいつは不機嫌そうにこっちを睨み、「俺は同席を許されていない」と答えた。


「……あ、そう」


 ジスレーヌの方針なら、俺がどうこう言えることじゃないな。

 余計なこと言って悪かったが、そのおっさんが後で小さく「けっ、なよっとした若造がっ」などと呟いたのは、頂けない……こいつとはそのうち、やり合う予感がするね。


 まあ、今は腹が減ってるし、ローズもいるしで、見逃してやるが。



「お母さんは、いつも留守がちなのかい?」


 あまり肉料理やパンに興味を示さず、ニコニコと俺の横顔ばかり見ているローズに、思いついて尋ねると――なぜか彼女の顔が少し曇った。


「お母様は最近、留守がちなんです。外出が多くなったから、訊いてみたんですけど」

「うんうん、それで返事は?」


「……なぜか口ごもって、『大勢を説得する必要があるのよ……全てはおまえのためですからね。我慢してね』と言われました」


「ローズのため?」



 その言い方に引っかかった。


 ジスレーヌの夫が亡くなったのは去年のことだし、当主交代については、他に人もいないし、特に問題なく進んだと聞いている。

 それなのに、ローズのために留守がちとは、一体どういう理由だろうか。


「そういや、俺が呼ばれたのも、随分と急な話だったなぁ」


 わざとらしく口にしつつ、さりげなくオールバック銀髪の執事に目をやる。

 ……しかし、露骨に目を逸らされた。


 メイドは関係ないだろうし、ゴツい傭兵はめんどくさいから話しかけたくない。まあ、ジスレーヌが戻ってから、改めて話を聞けばいいか。


 内心でそう結論付け、俺はガツガツ食うことに専念した。

 普段、あまりまともに食えてないしな。


 ……後から思えばこの瞬間が、その後に起こる事態を変える、最後の瞬間だったのかもしれない。

 しかしその時の俺は、パトロンについてくれたジスレーヌに気を遣い、あまり深く追及する気がなかったし、彼女を探しに出るなど、当然のように考えもしなかった。


 だからこそ、全ては手遅れだったのだと言える。





 その夜、俺はふと目が醒めた。

 既にまともな戦いからは遠ざかっているが、それでも俺は、長き人生のほとんどを戦いに生きている。


 そのお陰で、お馴染みの嫌なアレに気付いたわけだ。

 ……そう、殺気である。


(屋敷の中に入ったばかりか?)


 幸い、用心をする癖がついていて、元よりズボンとシャツで寝ていた。

 完全にすっきり目が覚めたし、戦うに問題あるまい。

 俺はそのままそっと廊下に出ると、隣へ向かう。


 なぜかローズがいる隣室を、俺の部屋として指定されていたのだが、こうなると幸いだったと言えるだろう。


(いや、本当に偶然か? 彼女の部屋の鍵まで渡されていたのは、こういう時のためじゃないのか?)




 嫌な予感を押し殺し、俺は小さくノックする。


『ローズ、ローズ!』


 すやすや眠っているらしく、返事はない。

 俺は預かっている鍵でドアを開け、部屋に滑り込んだ。昼間、二人でいた部屋を抜け、寝室へと移動する。


 案の定、熟睡していた彼女を、そっと揺り起こした。


「……はい?」


 目を開いたローズは、俺を見てにこっと笑った。


「夢でしょうか? 夜にまで会えるなんて」

「いや、これは現実だ」


 俺は静かに言って、促した。


「起きなさい、ローズ。どうも、面倒ごとの予感がする」


 そう述べた途端、隣の部屋から、ドアノブを回す音がした。

 俺が中から鍵をかけたし、開くわけないが。


 それにしても……早速か!


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