自動ドアの雑談
実体験が元なのか、創作なのかは読者の方々の判断にお任せ致します。
それでは雑談日和、開幕です。
某所にある、混雑するときがあれば暇な時もある割とありふれた喫茶店。それが私の働いている場所。私自身も単純にバイトをしている普通の店員である。特殊な生い立ちもなく普通の一般家庭で両親も健在。
「あっ、来た」
決まって暇な時にやってくる常連さん。常連といっても毎日来るわけでもなく、一か月くらいやって来ない場合もある。だけどこのお客さんの話はある意味で面白い。それが創作なのか実体験なのかは分からないけど。
「いらっしゃいませ。いつもの席が空いております」
「注文はいつも通りでお願いします。飲み物は珈琲で」
決まって頼むのが日替わりティーセット。その日の気分で店長が選んでいるものだけど、何を選んでいいのか分からない時にお客さんは重宝するらしい。だけどこのお客さんは選ぶのが面倒だからという理由らしい。
「何か変わったことありました?」
「毎回聞いてきますけど、別にこれといったことはありませんよ。あと、口調はいつも通りで構いません」
それが嘘だということは私でも分かる。何回も話を聞いている経験上、この人は自分の身に起きていることを軽度に考えすぎている。明らかに当たり前に起こりえないことを普通だと思っているのだから。
「最近起きたことじゃなくてもいいんだけど」
お客さんの要望で接客以外の時は普通の口調でいいらしい。接客業としてどうだろうと思うのだが、要望なら仕方ないだろう。他にお客さんもいなく、暇だからこそ話を聞けるのだから。他にも人がいるのなら私だって仕事を優先する。
「このお店が自動ドアじゃなくて良かったと思います」
「それは好みの問題だと思うわね。私としてはどちらでも問題ないと思うけど」
「私としては死活問題なのです」
それはどういう意味だろう。扉一つで悩む理由なんてあるのだろうか。確かに身体上で不自由な点がある場合には自動ドアの方がいいかもしれないけど、見た目だけならお客さんは健康そうだ。他の理由とは何だろう。
「特異体質なのか、自動ドアが私のことを検知してくれないのです。おかげで入店するのが悩ましくて」
「いや、それはないでしょう」
自動ドアが開かないというのは、自動ドアの存在意義が失われるようなものだと思うのだけれど。偶に検知しない時は見る場合があるけど、何度かやっていれば開いてくれるはず。入店拒否の可能性もある。だけどこの人が何かをやらかしているとも思えない。
「やっぱり信じてくれませんよね。私の話は大概の人がまず疑いますから」
「だって自動ドアが日常的に、しかも単一の人物を検知しないとかありえないよ。実際に見てみないと信用は出来ないかな」
実際に見てみれば判断も変わる。幾ら、この人の話を聞いていても全部を信じることなんて出来ない。ありえない話がよく出てくるけど、私だって常識人だ。信用できない部分は作り話だと思っているのだから。
「なら証拠をお見せしましょう。丁度、向かいの薬局が自動ドアですから」
「じゃあ私はここから見ているから、いってらっしゃい」
随分と自信ありげに薬局へ向かっていったが、これで自動ドアが素直に開いたらどうするつもりなのだろうか。私としてはどちらに転んでも面白い結果になりそうだからどうでもいいけど。見事、開かなかったら何かサービスしようかな。
「うわ、本当に開かないし。というか上のセンサーに手をかざしたり、サイドステップとかしているけど絶対に中の人は不審者に見えているよね」
笑える。笑えるのだが、あの人は恥だと思わないのだろうか。明らかに通行人の人達が怪しい人を見ているような感じになっているのだけど。それにもしかしたら自動ドアが故障している可能性もある。
「あっ、店員が出てきた。ということは故障はないか。むしろお客さんの方が謝っているし。何をやっているのだろう、あの人は」
ペコペコ頭を下げているけど、別に悪いことは何もしていない。別の意味で迷惑を掛けているかもしれないけど。後日、自動ドアの修理依頼を薬局の人が出して業者の人が来たけど、異常はなかったらしい。
「信じてくれましたか?」
「信じるけど、あそこまでやらなくてもいいのに」
「私も色々と試したかったのです。最終的に行き着いたのが他の人達の後ろをついていくことでした」
「難儀な体質をしているわね」
何が原因なのかは私の頭じゃ考えつかない。ただ何処だろうと大体の場所は自動ドアだからこの人が好きに入店できる場所は限られているのではないだろうか。
「自動ドアの前で十分ほど待った時もありましたが、子供から後ろ指を差されました」
「いや、そりゃ変な人だと思われるわよ。むしろ真似したかったんじゃないかな」
レアだからね。開かない自動ドアとか。下手したら手動ドアに変貌するかもしれない。あれって結構な力を使うんじゃなかったかな。そうなったら修理するしかないと思うけど。
「何度か挟まれた時もありますね」
「待て。幾ら何でもそれはないでしょう」
「あれって全身を挟まれるよりも、一部分を挟まれる方が危ないですよね」
「私に同意を求めないでほしい。そんな体験したことないから」
さも当然のように聞いて来ないでほしい。そんな体験をしたこと、私にはないのだから。むしろ何でその両方を体験しているのかを私が尋ねたい。実際聞いてみたのだが、頭を傾げられた。本人も分かっていないのか。
「流石に手を先に入れたら異常感知で開いてくれるだろうと思ったのですが、見事に挟まれてしまいました」
「何でその発想に行き着くのか疑問なんだけど」
「直感です」
駄目だ、この人。学習はするだろうけど、その前に確実に痛い目に会っているはず。平然と話しながら珈琲を啜っているのもおかしい。何を当たり前のように語っているのかと。
「手からダラダラと血を流しながら歩いていたら店員さんが走り寄ってきましたね」
「当たり前だと思うけど。それよりも何で普通に歩いているの?」
「日常茶飯事なので」
そんな日常茶飯事は私ならお断りだよ。
「大丈夫ですかと聞かれたので、一応大丈夫ですと答えてみました」
「明らかに大丈夫じゃないと思うわよ」
「ですよね。治療とお詫びをされましたが、私としては時間を取られたと思ってしまいました」
「人の善意を素直に受け取って置きなさいよ。むしろ血を流しながら歩かれた方が迷惑なんだから」
清掃やら評判やらで苦労が掛かるのはお店の方なのだから。絶対にそのお店は自動ドアの点検依頼を出しただろう。そして異常がなかったと悩む羽目になる。ある意味でトラブルメーカーか、この人は。
「身体を挟まれた時は後ろで見ていた友人達が笑っていましたね。自動ドアに突っ込んだ時もそうでしたが」
「多分だけど、私もその現場を直に見ていたら笑っていたと思う」
見ることのない出来事だろうからね。その時も店員が飛んできたことだろう。私でも同じ対応するはずだから。しかし自動ドア一つだけで、この人は何個のネタを生み出しているのだろう。だから実体験なのか、創作なのか悩むのよ。
「本当に急いでいるときは力業で解決していますけど」
「あれってそんなに簡単に開くものなの?」
「それなりの力で開きますね。ですが中には無理なものも存在します」
メーカーの違いだろうか。本人も深く知ろうとしていないから詳しく聞くのは無理だろう。そこまで知っていたらおかしいと思うけど。
「今回のお話はこのような感じでよろしいでしょうか?」
「ご馳走様でした。暇な時間には丁度良かったわ」
いい暇潰しになっているのは確かよね。笑える話というよりも衝撃体験を聞いている気分だけど。今の話が全部実体験だとしたら随分と変な星の下に生まれていると思うわね。
「それではまた来ます」
「お体には十分に気を付けてね」
「それは分かりませんね」
この人のことだから何かしらに巻き込まれる可能性がありそうだ。でも何かがあったとしても平然とまた来店してくれるという信用があるのは何故だろう。不思議な人よね。
何となくで初めてみました。
活動報告を見て頂いた方々ですと二度目のお話になりますね。
このような形で偶に書いていこうかと思います。
何卒、宜しくお願いいたします。




