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二段ベッド

作者: 安岡 真澄

 なあ、聞いてくれよ。

 俺の名前はサム。いわゆるチンピラだ。ガキの頃から少年院に通い詰めだったし、大人になってからもスリだのヤクだの色々やった。30の誕生日、俺は仲間の銀行強盗を手伝って、2週間くらい海外で遊びまくった。で、帰った途端に逮捕されちまった。

 捕まったのはマズいが、どうやら警察の野郎、俺が強盗の仲間だっていう証拠はイマイチ掴めてないみたいだ。それに気付いた俺は、のらりくらりと取り調べを聞き流した。アリバイは念入りに準備してたし、他の仲間もまだ捕まってないらしい。俺が大金持って海外で遊んでるだけで、目つけやがったんだ。やれやれ、やってらんねえぜ。

 夜中までこってり絞られて、留置所の牢屋に連れて行かれた。大きさは一人部屋だったが、二段ベッドが置いてある。俺が部屋に入るなり、上の段から男が顔を出した。

「よう、あんちゃん。よい子は寝る時間だぜ」

 入れ墨だらけの顔をした男は、ベッドの上でケタケタと笑った。

「オレはニック。名乗るのはあんちゃんで3人目だな。下の奴はコロコロ変わるのに、俺は1週間もここから出られねえんだ。あんちゃん、名前は?」

 俺は疲れていて眠たかったが、ニックがうるさく話しかけてくるので、仕方なく相手をすることにした。

「へえ、銀行強盗たあ大したもんだ。オレは詐欺でここにいるけど、精々2万ドルってとこだぜ。しけたギャンブルで、すぐスッちまったがな。あんちゃんはその10万で何したんだい」

 俺は海外での豪遊録を面白おかしくニックに聞かせてやった。ニックは終始ゲラゲラと笑って、途中で警官が注意に来たぐらいだった。それが終わると、今度は互いの武勇伝のお披露目会が始まる。俺が喧嘩で10人をのしたと話すと、ニックは女を10股かけ、金を巻き上げて逃げたと言った。今度は俺が笑う番だった。

「いやあ、面白えなあんちゃん。オレの経験上、今のあんちゃんならしばらくだんまり決め込んどきゃ大丈夫だよ。俺はそうやって一週間もここにいるけど、しばらくは退屈しなさそうだな。お互い頑張ろうぜ」

 俺もこんなに気の合う奴は人生で初めてだった。逮捕されて良かったかもな、なんてバカなことを考えながら、俺は眠りについた。



 二日目の取り調べ。牢屋から連れ出された俺は、取り調べ室に入るなり、目玉が飛び出るくらいびっくりした。

「やあ、サム。いや『あんちゃん』かな」

 警官の制服に身を包んだニックが、机の向こうに座っていた。顔中にあった入れ墨は、すっかり消えている。いや、耳の横に、マジックをこすったような跡が残っていた。

 こりゃあ、一本取られたな。俺は強盗の経緯を、ニックに面白おかしく聞かせてやった。警官のニックは終始丁寧な口調だったが、笑い声だけは、変わらずとてもうるさかった。

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