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ダイモンズ・フロンティア  作者: 白城 海
第一章 カネと命を天秤(はかり)にかけて
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5・ログアウト

▼七月十八日 警察署


 以上が、恭一が聞いた顛末だった。

 少しずつだが、恭一にも事態が飲み込めて来ていた。


 悪魔が主催するゲーム。ダイモンズ・フロンティア。ゲーム中で得たカネを現実のものとして入手できる。

 だが、代償はプレイヤーの命。ゲーム中で死んだ者は、キャラクターと同じ死に方をする。

《ディルーク》と桐崎の死に様が同じ事から、そう想像しても間違いはないだろう。


「それで、香取(かんどり)さんは警察に来たってわけか」

 記録を取りながら問いかける。


「はい。でも誰も取り合ってくれなくて……」

「そりゃあ、な。けど、実際にゲームをやってみせなかったのか? 現金が空から降ってくれば一発で信じられそうなもんだが」


「本当はそうしたかったんですけど、メンテナンスだとかで、朝からログインできなくて……明日から再開らしいですけど」

「なるほど、ね。事情はだいたい分かった」


「信じて、くれるんですか?」

「もちろんだ。あとはこちらで調査する。小鳥遊さんの行方も、犯人も。なので携帯電話を預からせてもらえないか?」

 寧々子の持つ携帯電話は、重要な手掛かりだ。

 メモリを解析すれば分かる事は多いだろうし、上手くいけばゲームを管理している場所(サーバー)も分かるかもしれない。

 もっとも、悪魔が主催するゲームに運営サーバーが存在するかは怪しいが。


「あの……それは無理なんです。出来ないんです」

 だが、恭一の期待に反して、寧々子の答えは確固とした拒否だった。

「どうして?」

「多分なんですけど、ゲームをしてないと、わたし、殺されます」

 ログアウトできないから。と小さく続ける。

 どうにも穏やかでない話だった。


 寧々子が話すには、アプリは終了できないらしい。

 携帯電話の電源を落としても、キャラクターはゲーム世界に残り続ける。

 つまり、一切の操作を受け付けない無防備な状態を晒す事となる訳だ。


「ゲームを中断する時はスタミナを残して、脇道とか壁の窪みとかの安全そうな場所に隠れるんです。わたしたちは《キャンプを張る》って言ってるんですけど」

 彼女の話では、敵に襲われるとアラームが鳴るらしい。

 ゆえに、寝る時は音量を最大にして携帯電話を枕元に配置、学校に行く時はマナーモードにして肌身離さず持ち歩くらしい。


 緊張に満ちた毎日だったのだろう。

 ごくごく薄い化粧で誤魔化してはいるが、寧々子の目元には疲労の隈がうっすらと浮かんでいた。

 ここ数日はまともに睡眠も取れていないに違いない。とはいえ、蓮華が失踪してからも、自分が生き残ろうとしたのは良い判断だったといえる。


「そうなると、携帯を預かる訳にはいかない、か」

 捜査の進展より目の前の人命だ。出来る事から手を付けるしかない。

「ちょっと失礼する」

 立ち上がり、寧々子に会話が聞こえないよう、ドアの向こうに移動する。懐から携帯電話を取り出し、暗記している番号を入力。数度のコールで、すぐに相手が出た。


『何かわかったかい?』

 通話の相手は、涼原だ。


「例の事件、ゲームをばら撒いていると思われるURLが判明しました」

『それは僥倖。あとで報告書は書いてもらうけど、URLだけ口頭で教えて貰えないか?』

 要請通りに、メモしたアルファベットの羅列を伝える。

《DF》がアップロードされているサーバーのアドレスは、00班の爆死によって情報が失われていた。おそらく、涼原はアドレスからアップロード者を特定しようとしているのだろう。


 ただ、恭一は上手くいくとは考えていなかった。


「それとは別に、調べてほしい事があるんですが」

 単刀直入に切り出す。涼原は何も言わない。続けろという意味だろう。

「調査対象は携帯電話会社(キャリア)です。どうにか令状(フダ)を取って、例のアドレスにアクセスした人間をピックアップできませんか? あと、香取寧々子のここ一週間のアクセス履歴も」

 何しろ相手は悪魔である。

 何もない所から一万円札を降らすような超常現象を相手に、まともな捜査が通用するとは思えない。

 アップロードサーバーを調べたところで何もわからない可能性もあった。ゆえに、別の方向からのアプローチも必要だ。


『なるほど。ゲームそのものと違い、プレイヤーの携帯電話は一般のもの。アクセスをすれば、当然ログも残る。プレイヤーから取っ掛かりを見つけるというのは、悪くない考えだね』

 要請内容だけで恭一の狙いを把握する涼原。

 彼の余裕を持った口ぶりからするに、既に00班のネットワーク履歴を当たっている可能性もある。最難関の国家公務員Ⅰ種を潜り抜けたエリートの名は、やはり伊達ではないらしい。


「誰かが噂を流さなきゃ、プレイヤーが集まる訳がないんだ。おそらく初期メンバーの中に犯人(ホシ)に繋がる人間がいると見ています。さすがに主催者本人が登録してはいないでしょうが」

 いくら超常現象で人が死ぬとはいえ、開催しているのはまだ見ぬ《契約者》、人間だ。

 社会で生きている以上、必ずどこかに繋がりを見つけられる。


 ならば、いかにオカルトじみた事件であろうと、突破口はあるはずだった。

 恭一の強い意志に答えるように、涼原が電話の向こうで頷く。


『了解した。数日中にリストを送ろう。参加人数も分かるし、上手くいけば未来の被害者を保護できるかもしれない。他に聞きたい事は?』

 もちろん、ある。小鳥遊蓮華の消息だ。


「恐らく死んでいると思いますが、重要な参考人です」

『刑事のカン、か?』

「そんなところです。あまり好きな言葉じゃありませんがね」

 妙にゲームの内容に詳しい蓮華は、何かを知っているように感じられた。

 たとえ蓮華が死んでいたとしても、彼女にゲームを教えた人間を遡っていく。そうすれば必ず犯人に近しい人間に辿り着くだろう。

 涼原が指揮する公総課には、ハイテク犯罪だかサイバーテロだかを専門にするチームがあったと記憶している。ネット方面は公安に任せ、恭一は刑事なりの方法で捜査を進めていくつもりだった。


 取っ掛かりは掴めた。あとは実際に体を動かすだけだ。

 決意を込め、電話を切った瞬間だった。


「待って!」

 強く応接室のドアが開かれる。飛び出してきたのは、寧々子だった。


――おいおい、盗み聞きかよ。

 余りにも迂闊だった。懲役ボケか、それとも裏取引という首輪が彼のカンを鈍らせたのかは分からない。

 少なくとも半年前の自分なら絶対に犯していないような失策だった。


 しかも次の瞬間、自分のミスなど忘れてしまうような発言が、寧々子から放たれたのだ。


「蓮華は生きてる。生きてるんです! だから、探してください! 根拠は、あります!」

本日終了。

しばらく毎日更新します。

設定部分で前作と共通した単語が出てきますが、無関係となっています。

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