12・そして物語は結末へと向かう
▼十七時七分 /横浜市西区 ランドタワー七十階
「すべて、終わったよ」
高層ビルの展望レストランから眼下の景色を眺めながら、涼原総真は機密通信機に向けて静かに告げた。
『こちらでも小鳥遊蓮華の遺体を確認しました。酷いもんです』
「いま回収班を向かわせている。君はすぐに私のところに来てくれ」
『了解です』
通話を切断し、深く息をつく。
ようやく、彼の目的は達成された。
恭一、寧々子のチームにより悪魔のゲームを終了させる。その念願が叶ったのだ。
普段は客で賑わうレストランには誰もいない。今回の事件により、社会情勢は大いに乱れた。
ウィルスや生物兵器などの無責任な噂が世間を飛び交い、行楽に出かける人間がほとんどいなくなってしまったのだ。それでも営業しているのは驚くより先に呆れが出てしまう。
「賭けは私の勝ちだ」
取り出した私物の携帯電話に向け、静かに言う。最後の命令は既に出した。あとは恭一が到着するのを待つだけだ。
今回の事件の功労者に、最高の褒美を見せてやらねばならない。信賞必罰は彼の信念なのだから。
「きっと、彼は驚くだろうな」
眼下の景色を見て、そっと吐息を漏らす。
柄にもなく、悪戯を思いついた子供のようににやけた顔が浮かんでしまう。
涼原の褒美を知った彼がどんな反応をするのか、楽しみで仕方なかった。
しばらく待つと、機密通信機の方にメールの受信が入った。小鳥遊蓮華の死体を回収させるために派遣した班からだ。
添付されたファイルを開くと、焼け死んだ蓮華の遺体が映し出された。先程恭一が送ってきた物と同様だ。
どうやら何事もなく回収できたようだった。
これで、憂いは全て断ち切った。
誰もいない展望フロアで、ただひたすらに恭一を待つ。
生まれて初めて逢瀬を楽しみにする、初心な少女の心持ちで。
やがて、人気のないレストランに、恭一がやってきた。
「ご苦労様。君のお蔭で、全ては終わった」
両の足で立ち上がり、敬意を込めて右手を差し出す。
胸の高鳴りが止まらなかった。
優しく労わねばならない。
今の涼原にとって、恭一は抱きしめたいほどに愛しい存在なのだから。