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ダイモンズ・フロンティア  作者: 白城 海
第四章 魔人が生まれ、裏切り者は牙を剥く
26/52

1・悪魔災害

▼およそ四か月前 /北海道某所


 父が死んだ。母が死んだ。

 小鳥遊蓮華はある日突然、この世で独りぼっちになってしまった。

 原因は交通事故。赤信号の停止中、父の運転する車がドラッグ中毒の運転する車に突っ込まれ、ぐちゃぐちゃにされてしまったのだ。


 犯人も死んだ。

 みんな、みんな死んでしまった。


 蓮華には分からなかった。

 何を憎めばいいのか。誰を恨めばいいのか。


 誰も助けてくれない。誰も救ってくれない。

 引っ越したばかりで、友人どころか知り合いと呼べる者すらいない。

 親類縁者もいない。たった一人の親友は遠い東京だ。


 どうしようもない空虚が彼女の胸を満たしていた。彼女の悲しみを理解できる人間は、この世に一人も存在しない。


 そんな時に、悪魔はやってきた。


『おれと、契約するんだ。そうすれば、どんな願いも一つだけ叶えてやろう。ただし、例外はある。死者の復活と時間の巻き戻しだ』

 携帯電話から突然響いた声。そいつは自分を電脳世界の悪魔(デジタル・デーモン)の『虚無(ニヒル)』と名乗った。

 蓮華には分からない。電子の海に生きる悪魔の意味も、自分が今何を求めているのかも。


『悪魔は人間の深い絶望に、強い感情に引き寄せられる。お前にはあるはずだ。全てを失った絶望の奥底で、たった一つ煌めく願いが。さあ、言ってみろ。心闇の深奥から、己の望みを、引きずり出せ』


 悪魔が、囁く。

 泥濘に沈んだ蓮華の心をくすぐるかのように。


 気付けば、彼女は口にしていた。暗い、昏い嘆きを込めて。

 望みを、悪魔に告げていた。


『いいだろう、聞き届けた』

 こうして、一人の少女の絶望が悪夢のゲームを生み出した。

 悪魔の囁きに応えた者へと待つのは、憎悪の連鎖か。はたまた更なる絶望か。


 当時の彼女には、想像さえできないでいた。



――――――――


悪討賭博師 Daimons&Deamons


 第四章


――――――――   



▼八月十八日 午前八時十五分 / 千代田区 00班本部


 件の放送から一週間後。日本は、否、世界は混乱のさなかにあった。


 八月の満月にて新規追加されたプレイヤー数は――

 二千八十三人。


 寧々子がプレイしている《DF》内で告げられたシステムメッセージの為、間違いはないだろう。

 恭一達の予想の範囲では最小限のものだったが、何の救いにもならなかった。


 人が、死んでいく。恐るべき勢いで。

 殺虫灯(あかり)に群がる羽虫のように、陸揚げされた魚のように。

 ただ無為に、次々と、幾十幾百の命が失われていった。


 ある時は授業中の中学校で、生徒が破裂した。

 ある時は満員電車の中で、男の首が転げて落ちた。

 ある時は運転中のドライバーが、突然血を吐いて死んだ。制御を失った車は大規模な玉突き事故を起こし、巻き込まれたトレーラーが爆発炎上。その際、国会議員の二名が死亡した。しかも二人の内の片方は、内閣総理大臣だったのだ。


 そして、またある時はテレビの生放送中――

 若い女の気象予報士が、笑顔を浮かべたまま表皮が腐っていき、骨と内臓を溢しながら溶けて崩れ落ちた。

 恐らくゲーム中で怪物の毒液でも浴びてしまったのだろう。


「……くそったれ」

『しばらくお待ちください』の画面から動かなくなったテレビを消しながら恭一が毒づく。もはや死者の拡大は止められるものではなかった。

 政府や警察の公式発表は、未だない。

 株価は絶望的なまでに暴落し、国民には不安と不満が今にも爆発しそうなほどに渦巻いている。

 巷では某国が開発した生物化学(B・C)兵器だの、誰かの呪いだの他人事のように騒がれていた。

 テレビも国民の不満を応えるかのように、信憑性も根拠もないデマを大真面目な顔をして調査し、不安と好奇心を煽っている。


「狂ってる。狂ってやがる」

「それが人間だよ。対岸の火事が楽しくて仕方ないのさ」

 煙草に火を点けながら歯噛みする恭一を諭したのは、涼原だった。


「正直、嫌になる時がある。こんな連中を守る為に私は警察に入ったのかとね」

「あんたが守るのは国家じゃなかったのか?」

「国家システムの安寧が最終的に国民を守る。私と君は同じだよ。ただ手段が違うだけさ」

「じゃあ、その国家の守り手とやらは今後の展望をどう考えてるんで?」

 皮肉げに口をゆがめ問いかけると、涼原は深く息をついた。


「情報封鎖と操作は間もなく終わる。テレビが訳の分からないデマを流し続けているのもその布石さ。あと一、二週間もすれば各局が好き勝手やっているゴシップは止まり、新種のウィルスとテロリストの暗躍ってセンで統一された情報が流れる」

「……この期に及んでまだ隠蔽工作かよ」

「政府の決定だ。私とて騙しきれるとは思っていないよ。だが、他に方法はない」


 無力だった。

 自分自身の無力さが許せなかった。涼原もまた、奥歯を食いしばり目を伏せていた。


「これじゃあ、十年前と同じだ」

「十年前……正確には十二年前。君が高校生の時に起きた、あの爆破テロか。警察を目指した直接的な原因、だったかな」

「よく調べているみたいですが、そんな大層なもんじゃありませんよ」

 十二年前、剣士として自惚れていた高校時代。

 IH(インターハイ)決勝で手痛い敗北を受け、腐っていた自分を救ってくれた少女の顔を思い出す。もう、二度と会えない少女の顔を。

 寧々子は、どこか彼女に似ていた。


「こんな事なら、あの満月の晩、俺が《DF》に登録しておけば」

 自分が参戦したところで無駄なのは分かっている。

 警察組織が大っぴらに利用できない以上、個人の力では何もできない。

 数千人のプレイヤーの一人に収まるくらいなら、寧々子のそばで蓮華を監視する事こそ正解のはずだ。

 だが、頭では分かっていても涼原のように割り切れはしなかった。


「葛城、悩んでいるようだが……君が《DF》に登録しなかったのは幸いだったんだよ」

 頭を抱える恭一に向かい、涼原が諭すように告げる。

「調査の結果、判明した。先日新規登録された二千人のプレイヤーは……」

 涼原が一瞬、言いよどみ、顔を伏せる。

 そして、僅かな沈黙の後、恭一の目を真っ直ぐ見つめ、告げた。


「一人を残し、全員が死に絶える」

「どういう、意味だ」


「一週間、私は自身の情報網を使い、新規プレイヤーの数人と接触に成功した。そこで分かったんだ。

 今回追加されたプレイヤーの二千人。その全ては予選会場と呼ばれる別の迷宮(サーバー)に送られ、今のところは一切の現金が入手できない仕組みになっている事に」


 涼原の情報網に引っかかった話ではこうだ。

 新規プレイヤーの二千人は、《DF》の1Fにも似た広大な予選迷宮(サブダンジョン)に送り込まれ――

 殺し合いを、強要されている。


「生き残った一人が、我々……というより《ネコ》が今いる本選(メインダンジョン)に出場できる。それまでに手に入れたアイテムやカネを引き継いでね。最後の一人になった瞬間、今まで得たゲーム内通貨が現金化されるらしい」

 ただの演出と割り切って、無料のゲームを楽しむ感覚でPKを行う者。

 何も信じずにゲームを投げ捨て、そのまま殺される者。

 得体のしれない絵空事を真に受けて自分一人が生き残ろうとする者。


 これだけの大騒ぎになれば、既に一部のプレイヤーは気付くはずだ。

《ダイモンズ・フロンティア》が、プレイヤーとキャラクターの命が直結するデスゲームなのだと。

 二千人それぞれの思惑が複雑に絡み合い、予選迷宮は壮絶な様相を見せているらしかった。


「悪魔が予選などというイベントを開催した理由は一つ。人が増えすぎると、悪魔自身も困るからだ。

 以前、悪魔は私に対してメールを送ってきた。『おれはただ、素晴らしいゲームを見たいだけだ』と。

 奴は人間同士が極限状態の中で騙し合い、裏をかきあうギリギリの駆け引き(ゲーム)が見たいんだろう。その為には、二千人の役者は多すぎる。

 おそらく悪魔自身がテレビの影響力というものを過小評価していたに違いない。

 今回のテレビ報道は、当の悪魔本人にとっても想定外だったんだ。凋落しつつあるとはいえ、未だにテレビは大衆娯楽の王様なんだから」

 恐らく《DF》が満月にしかダウンロードできないのも、プレイヤーが増えすぎるのを嫌う悪魔の都合なのだろう。その気になれば無差別に拡散することも可能だったはずだ。


「……畜生!」

 毒づきながらテーブルを強く叩く。

 ようやく、涼原の言った「幸いだった」の意味が理解できた。もし恭一が《DF》をダウンロードしていたら、間違いなく死体になっていただろう。

《ネクロマンサー》を倒した時のように、協力者を募ることはできない。コントロールも不可能だ。

 何せ、生き残れるのはたった一人。本選に入り込んで寧々子に協力するためには二千人の屍の上に立たねばならないのだから。


「小鳥遊蓮華の忠告は正しかった、ってワケか。確かに俺の立場なら三日で死んでいた」

「そのようだ。ところで今、小鳥遊はどうしている?」

「そこにいますよ、《レンカ》ならね」

 現在、ゲーム世界において《レンカ》は《ネコ》のそばにじっと佇んでいる。別室で睡眠を取っている寧々子の護衛をしているのだ。恭一や《チョコ》にできるのはただ監視の目を緩めずにいるだけだった。


「妙な動きは見せていないが、一週間ずっとこうだ。いつ寝てるのかもわからない。こちらの問いかけに反応もしない。ただ憑かれたように《ネコ》の護衛をやっている。いったい、何を考えてるんだか」

「と言っても、今の我々では手が出せない。歯痒いものだね。容疑者を前にして一歩も動けない現状というものは」

 涼原がスーツの胸ポケットに手を当て、立ち上がる。かすかに耳に届くのは振動音。どうやら電話の着信のようだった。

「失礼、立たせてもらうよ」

 そのまま外へと出ていく涼原を見送り、恭一は半分ほど灰になった煙草を灰皿に押し付け、新しいものへと火を点けた。


――どうすればいい。

 日本中へ拡大する悪魔のゲーム。止める方法はゲームクリア、もしくは小鳥遊蓮華の確保か。

――それとも、抹殺だけ。

 過去の資料によると、契約者の死亡はそのまま契約の解除になるケースがほとんどらしい。


 ならば、と恭一の頭を一つの誘惑が走った。携帯電話の画面に目をやり、《レンカ》の様子を見る。

《DF》での死は現実の死。ならば、目の前の《レンカ》を殺せば。


――いや、駄目だ。

 そもそも、主催者(ゲームマスター)が操るキャラクターを暗殺できるかどうかも危うい。データ上は無敵である可能性もゼロではないのだから、大きすぎるリスクは取るべきではなかった。


 もう一つ気になるのは契約者である蓮華の動機だ。

 彼女はどうして親友である寧々子をこの殺し合いゲームに引き込んだ。そして、なぜ今更になって助けるような真似をしている。矛盾しているではないか。

 直感でしかないが、その矛盾こそ、このゲームの突破口に思えた。


――せめて、もっと捜査員が動かせれば。

 何かに届きそうだが情報が少なすぎる。材料が乏しすぎる。これでは何の推理もできはしない。

 結局、いま彼にできるのは悪魔の思惑通りにゲームを攻略するしかないのだ。


「待たせたね」

「いや、こちらも考えを纏めてたので」

 苛立ち紛れに煙草をもみ消したと同時、涼原が部屋へと戻ってくる。

 何故だろうか。彼の表情は青ざめていた。


 事件に携わり、何度目かの嫌な予感がもたげる。この一か月、不安な事ばかり的中していた。

 そして、勿論今回も……


「事情が変わった、今後の作戦を説明する」

 涼原が向いのソファに座ると、囁きながら涼原が携帯電話のマイク部分にハンカチをかけ、その上に恭一の煙草箱を乗せた。

 防音カバーのつもりだろう。ここから先は蓮華に聞かれてはまずい事なのだ。


 それもそのはず。

「小鳥遊蓮華を、消す。それしか道は残っていない」

 目の前の冷徹な男が放った発言は、恭一の想像から外れたものだったのだから。


「また、()()ですか。いい加減刑事として働きたいもんですがね」

 かつて恭一が逮捕されたのも警察幹部連中の政治的事情の巻き添えなら、出所も涼原が暗躍した政治手腕の産物。

 そして、悪魔の脅迫であるミサイル発射が通告されてからは、今度は本物の(まつりごと)の領域で、次はさらに何だというのだ。


 恭一の軽口に対し、涼原の答えは深刻なものだった。


「先程連絡があった。遅くともあと二週間以内に、米国が《DF》サーバーへのサイバー攻撃を仕掛ける事が決まった。詳細な日時はまだ掴めていない」

「どうしてアメリカが? 無関係だろう?」

「プレイヤーには在日米国人も含まれている。そしてこれは我々より高次の領域だが、D案件に関しては、国家を超越したルールが存在する。絶対に表沙汰にしてはいけないというね」

 東洋の島国でほんの少し悪魔が暴れただけでこのありさまだ。もし世界中でD案件が表沙汰になれば、混乱は今の比ではない。

 ミサイルが脅しに使われている以上、日本国としては悪魔に抵抗はできない。だからこそ同盟国であり、世界の警察を自称する米国が動く。そこまでは理解できる。


「だが、もしサイバー攻撃とやらが失敗すれば……」

「間違いなく悪魔の報復を受ける。だが、世界中に悪魔の存在が認知されるよりはマシだという判断なのだろうさ。今の我が国に米国の作戦を止める力はない」

 期限は、二週間。十四日以内に事件が解決できない場合、取り返しのつかない博打が行われる。

 しかも、犠牲(チップ)になるのは博打をする米国ではなく、恭一たち日本人なのだ。


 残された道は二つ。

 期日までにゲームをクリアするか――


「小鳥遊蓮華を殺すしかない」

 氷雪のように冷たい涼原の声が、部屋の空気を凍り付かせる。


「悪魔に知られないように抹殺、そして契約が切れたと同時に《DF》サーバーを陥とす。

 ここまでの長期間軍のネットワークが支配されたままという事は、悪魔はサイバー技術ではなく魔力じみた能力で《DF》を運営している可能性が高い。

 ならば、契約さえ断ち切ってしまえば人間の手でもミサイル発射施設は取り返せるはずだ。運が良ければ殺した瞬間に第二砲兵団にかけられた呪縛は解けるかもしれない」

「アメリカ単独による攻撃の成功率は?」

「未知数、と言っておこう」

 予想していた涼原の言葉に、歯を食いしばる。もはや、事態は甘っちょろい人道主義で切り抜けられないところまで来ているのだ。


「小鳥遊は殺さなければならない。理屈は分かる。だが……俺には。俺には、そこまで割り切ることはできません」

 勘でしかないが、蓮華にはまだ探るべき余地が残されている。

 ほんの数言会話を交わしただけだが、恭一には蓮華が残酷な欲望を満たすために《DF》を開催したとは思えなかったのだ。


「それでも、やるしかない。これは動かしようのない事実だ」

 しかし、涼原の答えは変わらない。恭一と違い、彼は常に理でしか動かないからだ。

 穏やかな口調と涼しげな眼差しに隠れた、氷のような頭脳。

 例え何人死のうとも、どれだけの犠牲を出そうとも、必ず最短ルートでゴールへと向かう機械のような男。それが恭一の考える涼原総真という男だった。


「だが、さすがの私もさすがに今回ばかりははらわたが煮えくり返っているよ」

 観察してみると、涼原の手は震えていた。眼鏡の奥に宿る目の色も、どこか昏い炎を湛えた凄味のようなものが見え隠れしている。

「だから、一度だけ。一度だけ私は、私の感情のままに動こうと思う」

 告げると同時、涼原が今まで携帯電話にかけていたカバーを取り外す。

 そして、次の言葉は、恭一が今まで見てきた涼原からは、絶対に放ちようのないものだった。


「聞こえているかい、小鳥遊蓮華。そしてその裏にいる悪魔よ」

 問いかけると、画面の中の《レンカ》が僅かに体を動かした。

 だが、返事は発しない。


「聞こえているなら話は早い。貴様ら悪魔や契約者が何を考えていようと、必ずここにいる葛城や、そして香取寧々子がこの下らないゲームに終止符を打つと約束しよう。私の命を、賭けて。これは、我々人類の宣戦布告だ」

『……勝手にどうぞ。私はただ、ネコを守るだけだから』

「私の今の言葉、悪魔も聞いただろうね?」

『多分。あいつはいつも私のそばにいるから』

 端的な返事。だが、涼原にとってはそれで十分のようだった。

 満足げに頷き、再び携帯電話にカバーをかける。

「らしくないですね」

「私とて警察官で、そして人間さ。たまには感情任せに動きもする」

「……なるほど、な」

 涼原が力なく微笑みながら放った言葉を聞いた瞬間。

 恭一の中で今まで霧のように揺蕩っていた()か《・》が繋がった。


「いま小鳥遊に言った通りだ。君たち二人は二週間以内にどんな手段を取ってもゲームをクリアしろ。私は悪魔に気付かれないよう、ごく少人数を動かして小鳥遊を再び追う。今まではミサイルの脅しに屈していたが、もう後先を考えていられる状況ではないからね」

「見つけたら、殺すんですね」

「致し方ないだろう。そして、作戦実行チームには君も入ってもらう。これは命令だ」

 予想通りの提案だったが、頷くしかできない。

 D案件にここまで深く関わってしまった自分が参加しないわけにはいかなかった。それに、涼原の命令は、どういう訳か拒否しがたい強制力のようなものがあった。


 一課の花形刑事から、暗殺仕事へ。

 転げ落ちるかのような人生だったが、まだ望みを捨ててはいない。 


 何故なら、まだ彼には出来る事が残されているのだから。


「俺がやらなきゃいけないん、ですね」

「そうだ」

 心底悔しそうな、心にもない演技をしながら、内心で計算する。

 蓮華を探し、殺すのは難しくはないだろう。何せ契約者自身はただの人間だ。だが、恭一にはもう一つの考えがあった。

 小鳥遊蓮華は何かを隠している。その隠し事を暴かない限り、事件は本当の解決を見せないという予感があった。その為には、蓮華を殺されてはまずいのだ。


 警察の捜査方針ひとつで、被疑者は人生を簡単に左右されてしまう。

 ならば、簡単に決めつけるのは非常に危険だった。十年近い刑事生活で恭一が何よりも重要視するのは、納得できる捜査であるかどうかなのだ。


――やるしか、ない。

 恭一の目論見は二つ。

 まずは二週間以内のゲームクリア。

 そして、涼原が結成した暗殺チームを出し抜き、蓮華と直接対話する事。

 この策ならば、涼原の命に従いつつも、別の方向から事件へのアプローチが出来るはずだ。


――悪いな、涼原さん。俺はあんたの思い通りには動かない。

 感情を悟られないように涼原から視線を逸らし、三度煙草へ火を点ける。

 視界の片隅の携帯電話の中では、無言の闘志を燃やしながら《レンカ》が《ネコ》を守っていた。

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