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ダイモンズ・フロンティア  作者: 白城 海
第二章 殺人遊戯は現実世界を汚染していく
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8・対抗手段!

 新規プレイヤーの多い『攻略チーム』が弱いのではない。ゲーム内で協力関係を結んだ古参プレイヤーでさえ、命を落とす者があった。

 とにかく一撃が重すぎる。

 六本の腕から繰り出される連撃に一発でも当たれば、HPの半分以上を持っていかれるのだ。

 当然、ミスが重なれば待つのは死でしかない。ゲーマーである《レイヴン》も怒涛の連続攻撃の中で受け損ねを連続させてしまい、命を落としたのだ。


 恐怖に駆られた数名は既に逃げ出している。

 だが離脱者は思ったほど多くはなかった。


「まだゲーム感覚なんだ。幸か不幸か、な」

 寧々子の心境を読んだかのように恭一が呟く。

 本物の死体を見た寧々子や恭一、そして《ホムラ》ならいざ知らず、ほとんどのプレイヤーはいまだ半信半疑のはずだ。実際に人が死ぬ悪魔のゲームだのと言われたところで、現実感などあるはずがない。恐怖はあれど、抑えられるレベルなのだろう。


「君の方は大丈夫か?」

「こっちは平気。アイテムもまだ足りてる」

 消耗品はプレイヤー同士で持ちより、足りない分はカネを出し合い、たっぷりと購入していた。

 まだやれる。やらば抗うしかなかった。


「立て直すぞ! 戦士は敵を囲み続けろ! ダメージを食らったらすぐに宣言して下がれ! 傷は後衛が治す! とにかく防御に徹するんだ! ミスが無ければ勝てる!」

 ゲームに精通した指揮官である《レイヴン》が死んだ以上、恭一が指示を出すしかない。寧々子のそばでプレイを見たり、《レイヴン》ら上級プレイヤーとの打ち合わせの中で基本的な知識は理解しているはずだが、実戦で役に立つかどうかは未知数だった。

 だが、やってもらうしかない。

 恭一が立ってくれなければ、この場にいるほとんどは死に絶える。ただの高校生でしかない寧々子では、駄目なのだ。


「幸運を信じるな! 乱数に頼るな! 自分の目で見、自分の腕で出来る事だけを考えろ!」

「回復アイテムは山ほど準備しています! 即死さえしなければダメージはすぐに回復するので、どうか耐えてください!」

 恭一の檄に、寧々子が助け舟を出す。一人でもやる気の人間がいれば、流されて戦いだす人間もいるはずだ。

 二人の言葉が功を奏し、徐々に陣形が立て直されていく。


 戦士が内と外で壁となり、雑魚モンスターの介入を防ぎつつ仲間を守る。

 盗賊と商人が消耗品や弓矢を絶え間なく使用し、着実にダメージを与える。

 アイテムは共有していた。プレイヤー一人が持てる所持品には限界があるので、使える物は全て床に転がしている。足りなくなれば必要なものを拾って使用する形だ。

 部外者が盗んでいく可能性もあったが、さすがに陣を張って戦う『攻略チーム』の中心にやって来る者はいなかった。


 戦いは熾烈を極めた。

 比喩ではなく、まさにここは戦場だった。


 多くの者が傷つき、後退していく。

 乱戦に紛れて黙って離脱した者も少なくはない。だが、どうにか死者は出さずに済んでいる。

 こちらは未だ二十人近い。消極的な参戦者を含めれば四十人を超えている。


 優勢は、揺るぎない。


 徐々に、徐々に押していく。

 戦士の剣が敵の腕を切り落とし、盗賊の弓が眼窩をえぐり、商人の攻撃アイテムが表皮を焼く。


 敵情報に記された《ネクロマンサー》の名前が、オレンジから赤へと変わった。

 残りHPが四分の一になった証左だ。


「あと一押しだッ! 行くぞ!」

 だが、相手は一層の階層主。幾多のプレイヤーの命を奪ってきた大物である。

 ここで終わる訳がなかったのだ。


『オオオォォォォォォォッ!!』

 フロア中に響き渡るかのような咆哮。衝撃でプレイヤーたちの動きが止まる。

 瞬間、優勢だった味方の陣形に異変が起きた。

 最初の変化は、困惑混じりの報告だった。


『い、生き返った。倒した敵が生き返りました!』

『敵だけじゃない、《レイヴン》も……首なしで……うわあああああ!』

 叫びとともに広がるのは、混乱。

 いままで倒した敵たちが、そしてほんの先程まで味方だった者たちが動き出し、牙を剥く。


 ここからが本当の戦いの始まりだった。


「落ち着け! プランは伝えたはずだ。冷静になるんだ!」

 恭一が叫ぶが、冷静になどなれるはずもない。

 現実世界の隣の部屋から争う音が聞こえてくる。《レイヴン》のプレイヤーである木崎の死体が動き出し、待機していた警官たちが取り押さえようと戦っているのだ。


 プレイヤーたちは恐怖で押し潰されそうだった。

《ネクロマンサー》が死体を操るのはすでに知っている。対応策も通達している。

 だが、実戦は練習通りにはいかない。


「畜生、聞いちゃいねえ!」

 マイクをオフにし、恭一が毒づく。

 寧々子が見た所、彼は単独でこそ真価を発揮するタイプだ。相手の心理を読み、裏をかき、出し抜くのを得意とする彼にとって、大勢の人間を同時に指揮するのは、泥の海を泳ぐかのような束縛感があるのだろう。


 画面の中の陣形は無残に崩れ、生ける死者たちに一人、また一人と傷つけられていく。

 死者がさらに一名。逃亡者は五名。

 このままでは残った壁プレイヤーも破られ、脆い後衛に攻撃が飛ぶに違いない。


 果てに待つのは、虐殺だ。


「撤退命令を出す。君は彼らの先導を」

 絞り出すような声で、恭一が告げる。彼の顔は苦痛に歪んでいた。

 もはや、仕方ないのだろう。

 全滅か、敗走か。寧々子たちは、追い詰められるところまで追い詰められていた。


 動き出した死体。

 悲鳴を上げ、がむしゃらに戦うプレイヤーたち。

 ここはまさに地獄だ。


――早く、早く逃げないと。

 焦燥が、恐怖が、寧々子を追い立てる。

 だが、逃げてどうなるのだろうか。

《ネクロマンサー》を放置すれば現実世界でも惨事が起きるのは考えるまでもない。D案件の事など何も知らない人々が巻き込まれ、傷つく可能性があった。


 寧々子の頭に思い浮かんだのは《ヘイト》との戦いだ。

 自分はあの時、見知らぬ誰かを身代わりに命を拾った。不可抗力とはいえ、その事実は心にしこりとなって残っていた。


――嫌だ、よ。

 寧々子が逃げ出せば、誰かが死ぬかもしれない。

 動き出した死体に、何も知らない誰かが傷つけられるかもしれない。

 自分が殺されてしまう方がまだ救いがあった。


「早くするんだ! 遅れれば遅れるほど被害が出るぞ!」

 恭一は戦っている。

 間違いなく、寧々子たちと同じように命懸けで立ち向かっている。

 寧々子がカネを必要としているのを知っていながら庇い、何も責めずに守ってくれている。


――だったら。


 気付けば、動いていた。

 携帯電話を握り締め、周囲の騒乱に負けないような大声で叫んでいた。


「聞いてください! わたし達のチームに()()()()()()()に、お願いがあります!」

明日はちょっとしたヤマなのでちょっと長めの投稿します

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