攻略対象者たちとライバルたち。(;´・ω・)
攻略者を選択すると、同時に攻略者の婚約者あるいは恋人、幼馴染、姉、妹、従妹、親衛隊隊長からライバル認定を受ける。そして、ライバルたちを蹴落としたり、仲良くなったり、時には配下(?)にしたりして、ライバルの座を不在にすると恋人に昇格できるチャンスが訪れるのだ。
話は変わるけれど、乙女ゲームというものは、大抵の場合、ヒロインを一般庶民として設定している。純真無垢、天真爛漫……と言われれば耳触りが良いけれど、現実世界に居たらKYとか鈍感、図太い性格じゃないかと思う。
そうでもなければ、出会って直ぐの攻略者たちに、「行動と思考に違和感を感じる」だの「笑顔が不自然」だの言えないだろう。仮に私が言われる立場だったら絶対に激昂している。言われた内容が真実であればあるほど、知ったかぶりするな!と憤慨するだろう。
しかも、一般庶民という割には、何かしらの一芸を持っているというのが鉄板のお約束。例えば、勉強がトップクラスだとか、特技がプロ級とかならまだしも、中には「天使のように誰にでも優しい」だの「マリア様のように慈悲深い」だの、良く分からない才能もある。
もちろん、お金持ちのお坊ちゃまたちが、同じ階級に住む女の子たちを捨てて一般庶民を選ぶ姿は、シンデレラストーリーに憧れる女子たちの永遠の夢。
とはいえ、本当に何の取り得もない女の子だと、「なんであの子が!」とプレイヤーの反感を買ってしまうので、どんなヒロインでも、そこそこの可愛らしさと一芸を備えている。売れるのが目的のゲームだから仕方ないと分かってはいても、生まれつき可愛い上に一芸まであるなら『一般庶民』じゃないよなぁと思うのであった。
え、私もヒロインだろうって?
確かに、そうかもしれない。そこそこの可愛らしさと外部受験をトップ合格できる程度の頭脳を持っていることは否定しない。
しかしながら、世の中、私より可愛い子も、美人な人も、もっと頭の良い人だって、天才児だって大勢いるのだ。ゲームのヒロインみたいに、歌の才能も皆無だし、そもそも、こんな捻くれた思考をしている段階で、天真爛漫とか純真無垢とは程遠い。
正に、一般庶民の代表と言っても過言ではない。それが証拠に、先ほどから群衆に埋没していて、誰にも注目されていないのだ。(ノД`)・゜・。
確か、ゲームの中では、歩いているだけで「可愛い子がいる~」とか、嬉し過ぎて小声で歌ったら「天使の声が聞こえる!」と噂されるほどだったのに……いや、噂されたくはないし、そのために歌うなんて真っ平ゴメンだけどさ。
そんなことより、私としてはライバルキャラたちの方がヒロインより遥かに美しく、ハイスペックなのだと言いたい。声を大にして!
まあ、良家のお嬢様たちだから習い事やお洒落に費やすお金は無制限にあるだろう。とすれば、嫌でもハイスペックになる。けれど、例え経緯がどうあれ、一般庶民のKYなヒロインより、断然、ハイスペックなライバルたちの方が良いと思うんだけどなぁ。
例えば、玲菜ちゃんの実家である片山家だって日本屈指の財閥の一つ、鴻池財閥の親戚筋に当たる。しかも、現当主の妹が玲菜ちゃんの母親だから、片山家は表向き堅実な商売をしている建築会社だけれど、鴻池財閥から陰で受けている影響力は計り知れない。
え?そんな良い家のお嬢様と祐兄が何で恋人同士なのかって?
まあ、話せば長いような短いような。ぶっちゃけていえば鹿子さんの作ったケーキを玲菜ちゃんが気に入ったのだけれど、そもそも鹿子さんのお菓子に惚れぬいた私が、小さな商店街の店舗で売るだけなのは勿体ないと思って、インターネット販売を始めたところ、思わぬ評判を呼んでマスコミに注目されることになったのである。
玲菜ちゃんはネット販売を開始して直ぐ、ケーキを注文してくれて、しかも、とても美味しかったと綺麗な直筆でお礼状まで送ってくれた。その後、何度もリピーターしてくれて、自分の誕生日パーティには毎年、バースデーケーキの他にお持たせのケーキまで注文してくれる。
それらが口コミでお友達とその家族へ広まり、評判を呼んだ。玲菜ちゃんのお母さまも鹿子さんのケーキを気に入ってくれて、片山家主催のパーティはおろか、ご実家のパーティにまで鹿子さんのケーキを使って下さったのである。
こんな風に言うと、上得意客だから逆らえないのかと勘違いされそうだけど、玲菜ちゃんにしても玲菜ちゃんの家族にしても、決して無茶ぶりな注文はしないし、いつも鹿子さんのケーキは芸術品だと褒め称えてくれる。鹿子さんは恐縮しているが、鹿子さんのケーキを愛してやまない私にとっては正に『同志よ!』という感じなのである。
そんなこんなで、玲菜ちゃんと私は年が近いこともあって、いつしか個人的にメール交換するようになり、お店にも遊びに来るようになった。実際に会った玲菜ちゃんは、上流階級のお嬢様なのに、とても礼儀正しい子供だった。
我が家(当時は鹿子さん家だけれど)の狭い店舗兼住宅を見て、流石に驚きを隠せなかったけれど、臆することなく4畳半の居間へ上がって、醤油の染みがついた布団のかかっている炬燵へ入った。
醤油の染みは前日の夜、お刺身の醤油を鹿子さんが溢したのである。ぎゃ~っと叫んだ鹿子さんは、慌てて炬燵布団を買って来る!と財布を掴んだが、玲菜ちゃんは、私も時々こぼしてしまうから大丈夫ですと笑って首をふった。
鹿子さんは玲菜ちゃんの気づかいに、いたく感激していたけど、当時の玲菜ちゃんは、まだ10歳にもなってなかった。子供と同レベルで安堵するな!と鹿子さんを叱った祐兄ちゃんは悪くないと思う。
最初は、私と玲菜ちゃんが互いの家を行き来するくらいだったけど、やがて鹿子さんと祐兄、玲菜ちゃんのお兄様である武史さん、妹の実南、しまいには父親同士も加わって家族ぐるみの交流が始まった。
そして、実はドSの割に義父(つまり私の父親!)に似て、煮え切らない祐兄を見て、呆れた私と実南で2人をカップルにしたのである。そして、それを切っ掛けに、実南とは大親友になり、今年から晴れて同じ学校へ通う学友となった。
実南と同じクラスになれると良いなぁ。(*^▽^*)
ところで、『貴方へ捧げる愛のメヌエット』には4つのエンディングがある。ハッピーエンド、ノーマルエンド、バッドエンド。そして、トゥルーエンド。
ハッピーエンドとノーマルエンドはキャラクターの表向きの性格でエンディングを迎えるが、バッドエンドとトゥルーエンドでは裏の性格が明かされる。基本的に、裏の性格を受け入れられないとバッドエンド、受け入れられたらトゥルーエンドという展開だ。
ゲームの中の祐兄は、早くに父親を亡くし、母の再婚、義妹の出現、そして義妹に恋してしまう自分を抑えるため、常に優しく真面目で品行方正、家族想いというのが表向きの性格。だが、裏の性格は、かなりドSなのである。
ゲーム中のヒロインである『愛里』は、内気で自分に自信がない女の子。歌だけは不思議と自信が生まれ、凛とした姿を見せる。つまり、展開によってはドMの素質があるので、ドSの祐兄とは、『割れ鍋に綴じ蓋』という関係が成立する。
現実世界でも祐兄はドSだ。表向き隠してはいるが、私の目は誤魔化せない。何故なら、現実世界の『愛里』、つまり私もドS人間だから。出会った頃より、何度、祐兄と一緒になって鹿子さんをいじったことか。今となっては楽しい思い出である。
そして、玲菜ちゃんは、良家の子女として、片山家の長女として、常に冷静で隙を見せてはならないと教育されてきた。けれど、実は素直で感激屋さんな一面を持っている。我が家に来ることで、息抜きになったのだろう。現在では、見事に、表向きは沈着冷静な良家の子女という仮面をつけ、親しい人たちには素顔を覗かせている。
玲菜ちゃんの家族も最初は素直になった娘を心配したけれど、祐兄が傍にいて玲菜ちゃんを守っていると知り、両家公認カップルとなった。
一方、ゲームの中の玲菜ちゃんと祐兄の出会いは、高天原学園高等部に入学してからだった。既に人格形成期が過ぎていて、祐兄が好きなのに感情が表に出せない玲菜ちゃんは、ヒロインに八つ当たりをして祐兄に嫌われてしまう。
私的には、祐兄がドSなら直球ストレートなヒロインより、ツンデレな玲菜ちゃんの方が調きょu、ごほんごほん、付き合い易いだろうと思ったのだが、その辺りは大人の事情ってやつなのかもしれない。
つまり、私か祐兄の性癖が変わらない限り、義兄妹で恋愛関係に陥ることは、まずありえない。まして、愛しい玲菜ちゃんを泣かせるのは良いけど、悲しませてしまうくらいなら祐兄をいたぶru、ごほんごほん、苦しませる方が遥かにマシなのである。