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私のライバル(4)

 数日後、じぃじ自ら届けてくれたデスクトップとノートパソコンのセットには、昨今流行りの『花言葉戦士 フラワーガールズ』のキャラ、ガーベラガールのアニメイラストが描かれているじゃないのっ!女の子らしく、ピンクに白のアクセントがついて、多分、前世の記憶を明確に思い出すまでの自分だったら飛び跳ねて喜んだ品物だった。


 いえ、正直に言えば今も飛び跳ねたい気持ちはあるわ。ガーベラちゃんは、花言葉戦士の中でもマイナーな存在で、けれど、とっても情熱的なの。時々、その情熱が勢い余って空回りし、周囲の人たちを振り回してしまうこともあるけれど、常に前向きな彼女は私の一押しキャラなのよ。


 しかし、見かけの可愛さに比例して、子供用のPCというものは使い勝手が悪いモノが多い。まずもってメモリーが少ないでしょ。それに、インターネットの閲覧に制限がかかっているし、装備されているソフトは歌だのお絵かきだの子供だましのゲームだの、どうでもいいものばかり。


 勿論、年相応の子供にとっては興味深いものなのだろう。けれど、元アラフィフ弁護士だった私がやりたいのは、このPCでは不可能だった。必死にあがいても、やはりゲームの未来は変えられないのか。エロ魔女確定か。


 がっくりと項垂れ、ボロボロ涙を溢す孫娘の姿に動揺したのか、じぃじはおろおろしながらしどろもどろに言い訳を口にしている。


「まぁちゃん、よくガーベラガールのグッズを集めておったじゃろっ!?これはな、特注品なんじゃ……だから、てっきり喜んでくれるかと……」

「……じぃじの、ばかぁ!!」


 私の様子を窺うべく屈んだじぃじに、思いっきり罵声を浴びせたわ。


 ととしゃまのぱしょこんとちがう!ましゃこ、ととしゃまとおんなしのがいいって言ったのにっ!うしょちゅきぃっ!


 興奮すると余計に赤ちゃん言葉になるらしいわね、ほんとにっ!!けれども、自分の人生がかかっているかと思えば、真剣にならざるを得ないでしょっ?!じぃじも孫娘をエロ魔女にさせたいのであれば、身内だとて容赦はしないっ!!持てる限りの力を込めて、じぃじの胸をぽかぽか叩いたわ。


「お嬢様、お話は最後までお聞きになるべきです」


 後ろから手が伸びて、じぃじから引き剥がされたと思ったら、耳元で水澤さんの声が。う、やっぱり良い声ね。けれども、丸め込まれたりはしませんことよっ?!


「だってっ、ととしゃまのじゃないっ!!」

「見かけは確かに異なりますが、中身は兼重様のと同じですよ」

「……え?」


 今まで、まな板の上の鯉のようにびちびちと暴れていたのが嘘のように、水澤さんの言葉と共にぴたりと動きが止まった。


「お嬢様の手はお小さいですから、大人用のキーボードでは扱い難いだろうと思いました。ですので、中身を兼重さまと同じにするようメーカーに特注で作らせました」

「うしょっ?!」


 疑う私を片腕で抱きながら、水澤さんは背後に控えていた男性にノートパソコンを箱から出すよう命じて、電源を入れさせたの。既に充電はしてあったらしく、ピンクのガーベラをあしらった画面が立ち上ったわ。


 プログラムを開くと、ビジネス仕様のソフトが一通りそろっていたし、インターネットも制限なく普通に使えるようだった。しかも、画面が外れてタブレットとしても使えるなんて、どんだけ特注してるの、この人。


 デスクトップもノートと連動した同じ仕様らしい。これは、早合点をしてしまったかしら??早速、水澤さんの腕を抜け出して、じぃじに謝罪。ついでお礼のちゅうもしてあげた。出血大サービスだからね。


 余りの嬉しさに、この時の父と水澤さんが何を思っていたかなど、まるで考えもしなかったわ。ちょっと頭を捻れば、3歳児が大人と同じPCを欲しがること自体、普通ではないと思い付いても良かったのだけれど。




 そんなこんなで、PCを手に入れた私は、朝から晩まで狂ったようにネットを検索し続けた。この世界の立法、司法、行政システム。調べてみると、前世とほとんど違いはないみたい。


 後は、須佐の会社のこと。表向きは建設会社で、ホームページも存在する。けれど、某巨大掲示板で検索すると、あるわあるわ。どこの組織と対立しているとか、いつどこで闘争があったらしいとか。


 こうした書き込みの大半は『まがい物』だけど、ほんの少しだけ真実が混ざっている。その真実を丹念に拾い集めると、敵対する組織やバックについている企業、政治家等が見えてくるのだ。


 面白いことに、須佐組についているのは父の幼馴染だった。というか、祖父の代で俗にいう『兄弟』の盃を交わした家の息子たちが、表向き組織を離れ、経済界や政界に出ているらしい。特に、政界で『緑川』の名前を見つけた時には、面白くてニヤニヤ笑ってしまったわ。


 正直な感想を言えば、彼らは無茶が通るほどの大物ではないけれど、上辺だけの繋がりより、兄弟の方がよほど絆が強いはず。だとすれば、彼らに強くなって貰えば最強のタッグが組めるだろう。万一、兄弟が一族の縁を切って別の世界を目指しているとしても、使い道はいくらでもある。


 決して誉められた方法ではないけれど、そうしたやり口には幾つか心当たりがあった。世間的なイメージだと、弁護士は正々堂々と戦って悪を打ち倒す『正義の味方』という印象があるけれど、訴訟に勝つためには相手の度量を見極め、同じ土俵で勝負する必要もあるのよね。その為には危ない橋も渡るし、犯罪ではないけれど、かなりグレーな行為を犯す必要もあるから。


 被害者を救済するためには仕方がないと割り切っていたけれど、自分の将来のためとはいえ、反社会的勢力やくざに手を貸すことに何の躊躇いも感じなかった。やっぱり私って悪役だわね。色々画策すると、興奮してぞくぞくしちゃう。くくくくっなんて、悪役っぽい笑いも飛び出しちゃうし。


 ちょうどそんな時だった。部屋のドアが静かにノックされたのは。そして、私の運命が決まったのは。


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