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攻略対象者たちとの出会い。(´▽`*)

 愛里として過ごした記憶を走馬灯のように思い出しながら歩いていくと、目の前にベルサイユ宮殿もかくやと思しきド派手な建物と、その入口付近にある黒山の人だかりが見えた。


 視覚が引き金となって、徐々にゲームの記憶が蘇る。


 黒山の人だかりは、全部で6つ。新入生が在校生からコサージュをもらう受付なのだが、ゲーム内においては、別の役割を果たしている。なんとコサージュをつける在校生は、すべて攻略対象者たちなのだ。


 確か、正面には生徒会会長、その左側に生徒会副会長、風紀委員長、右側には書記と会計、さらに生徒会顧問の先生だったと思う。


 そんな役職付の生徒たちが、下っ端の仕事をやっていて、入学式は大丈夫なのかと心配になるが、流石は乙女ゲームの世界。表向き、新入生たちに歓迎のコサージュを付ける係でも、実際は、プレイヤーが攻略者たちの姿を拝み、簡単な自己紹介を経て、攻略者ルートを選択する場面となっているのだ。


 自己紹介までは全員と交わせるが、攻略者を選択し、無事にコサージュをつけてもらうとルートが確定する。全員を攻略しようと思うなら、ここで生徒会顧問の先生を選択するのが正解。


 教師だから後でも良いだろうと高を括っていると、1学期を終えた後、病に倒れた父親の跡を継ぐため、学校を辞めて実家へ帰ってしまうのだ。なんでも実家は老舗の造り酒屋だとか。そんな訳で、先生と恋に落ちたい場合、あるいは逆ハーエンドを狙うのであれば1学期のうちに攻略し、遠距離恋愛へ持ち込まなければならない。


 そうそう。以前、攻略者は8人と言ったけれど、ここで選択できるのは6人。残り2人のうちの1人は、主人公のクラスメイトとなるため教室での出会いが待っている。そして、最後の1人はシークレットなのだ。


 ……う、思い出した。私、前世の記憶(仮)ではシークレットキャラだけ攻略できなかったんだった。(ノД`)・゜・。


 実力が足りなくて出来なかったのか、それとも攻略する前に死んでしまったのか定かではないけれど、一番大切な相手だったのに。そのためだけに興味もなかった乙女ゲームを買ったといっても良いほどだったのに~っ!


 ばかばかばか~っ!!




「愛里?!」


 何か思い出せないかと思いつつ、頭をぽかぽか叩いていたら怪訝な声で名前を呼ばれた。


ゆう兄ちゃん!」

「どうした?大丈夫か?」


 義理の兄となった北村祐輔こと、祐兄ちゃんが手にしていたコサージュを置いて、心配そうな顔でそっと頭を撫でる。


 そう。今思い出したけれど祐兄ちゃんも攻略対象の一人だった。なんと風紀委員長をしているのだ。まじまじ見つめているとゲームでの祐兄ちゃんが蘇って来た。


 ゲームの中の『愛里』は亡くなった母を忘れられず、鹿子さんにも祐兄ちゃんにも、心の底では好きなのに素直になれない毎日を送っていた。


 祐兄ちゃんは公立の小中学校を卒業、外部受験をして成績優秀者の特待生として高天原学園高等部へ進学する。愛里は、亡き母の母校である私立の小中一貫校へ通ったため、祐兄ちゃんと同じ学校へ行くことはなかった。


 けれど、高校では大好きな歌の勉強がしたくて、音楽の特待生として高天原学園へ入学する。そんな経緯があって、初めて祐兄ちゃんと同じ学校へ通うことになったのである。家で接する義兄ではなく、風紀委員長として活躍する雄姿にドキッとしてしまう設定だった。


 え?祐兄ちゃんからコサージュをもらえば、私も祐兄ちゃんと恋に落ちるって?それは、天地がひっくり返っても有り得ないと断言できる。だって……。


「愛里ちゃん!入学おめでとう!ようこそ高天原学園へ!」


 鈴を転がしたような涼やかな声が響き、そちらへ顔を向けると、祐兄ちゃんの中学時代からの恋人である片山玲菜かたやま れなの姿があった。


 肩に届くか届かないくらいのサラサラストレートの髪は、艶やかな赤銅色で陽の光を受けて輝いている。深いグリーンの瞳は、やや釣り目で泣きホクロが特徴的。一見すると冷たそうな印象だけど、身内にだけ見せる素顔はとっても愛らしいと、私も祐兄も知っている。


「玲菜ちゃん!ありがとう!祐兄よりも愛してる!」


 がばりと玲菜ちゃんに抱き付くと、玲菜ちゃんは耳まで赤くなって、口をぱくぱくさせている。その姿は、やばいくらいに可愛いかった!( *´艸`)


 標準より少し背の低い私の顔の辺りに、玲菜ちゃんのふくよかな胸がある。勢いに乗じて、大福餅みたいな双丘に顔を埋めてぐりぐりしていると、襟首を掴まれてべりっと引き剥がされた。


「玲菜が困っているだろう。コサージュやるから、さっさと式場へ行け」

「玲菜ちゃんにコサージュをつけてもらう!祐兄はあっち行って!」


 祐兄がコサージュを手に迫って来る姿を見て、咄嗟に、玲菜ちゃんに抱き付いたまま叫んだ。絶対ないとは思うけれど、ゲームの補正力が働く可能性が0とは断言できない。万が一を思って保険をかける。


 私の思惑を知らない玲菜ちゃんは、にっこり笑ってコサージュをつけてくれた。玲菜ちゃんとだったら、万一、百合になったとしても構わない。だって、玲菜ちゃんと親しくなったのは、祐兄より私の方が先だもんね~。


 玲菜ちゃんのつけてくれたコサージュを得意げに見せびらかす私に苦笑しながら、祐兄は「早く行け。入学式に遅れたらカッコ悪いぞ」と送り出してくれた。


 ここまで読んだ読者は気づいたかもしれないけれど、攻略対象者との出会いは、すなわち、攻略者とつながりのあるヒロインのライバルたちとも遭遇することになるのであった。


 なんて親切設計!(;´∀`)


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