表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/62

私のライバル(1)

 え、『男は要らない』?!『わたくしが欲しい』?!……もしかして、このヒロイン、ガールズラブなのかしら?!ま、待って待って!落ち着くのよ、政子っ!落ち着いて、落ち着いて、最初から思い出すのよっ!!(>_<)




 わたくしの今の名前は、須佐政子。そう、お察しの通り、前世の記憶を持っている転生者という存在らしいわ。初めての経験だから断言できないけれども。因みに、前世の名前は……まあ、憶えてはいるけれど、ここで名乗っても詮無いことだから止めておきましょう。


 享年55歳。女だてらに辣腕弁護士としてバリバリ働いていたわねぇ。刑事訴訟、特に冤罪絡みの裁判を扱わせたら右に出る者はいない、とまで言われ、人生の全てを弁護士という職業に捧げたわ。文字通り、一生を独身貴族で貫き、唯一の趣味は乙女ゲームを攻略することだったけれど、悔いはないわね。


 あ、最初に断っておくけれど、別に男性からもてなかった訳じゃないの。若い頃はバブル絶頂期で、今や死語と成り果てたメッシー君だのアッシー君だの、散々、男たちに貢がせたもの。


 メッシー君やアッシー君が分からないって?!……勝手にググってみて頂戴。今の若い子たちは、楽して答えを求めたがるからイヤよね。先ずは自分で調べてみるのが基本でしょう。


 あらやだ、話が逸れたわね。


 ええと、亡くなった原因を、一言で表すなら『交通事故』。スクランブル交差点で信号待ちしていたら背中を押され、大型トラックに激突。私自身は即死で、そのまま転生したから、その後のことは分からないまま。


 ただ、事故当時、私は反社会的勢力と悪徳政治家に陥れられた被害者たちを救済すべく奔走し、漸く裁判のやり直しを求める証拠が浮上してきた矢先の出来事だった。そんな背景があったから、十中八九、裁判のやり直しを阻止したい人たちに突き飛ばされたのかしらね。


 願わくば、証拠を預けた弁護士仲間が被害者たちを救済し、私の敵を討ってくれることを願うわ。過去は振り返らない主義だけど、結果的に私の命を懸けたのだから無駄にして欲しくないものね。


 話を元に戻すけれど、転生したといっても生まれたての頃は、記憶の断片というか、ボンヤリした景色が時々、脳裏に浮かぶだけだったの。けれど、3歳のお正月に生まれて初めて須佐一家が集まる祝賀会に出席し、そこで全ての記憶が蘇ったわ。


 当時、まだ小さかった私は、一丁前に振袖を着せられ、黒塗りの車で両親、兄と共に祖父の家へ向かったのね。まだ、何が起きるのかも分からず、ただ母の膝の上で初めて訪問する祖父母の家にワクワクしていたわ。


 そして祖父母の家へ着くと、我が家と同じような黒塗りの大型車が何台も停まっていたわ。誰もが黒いスーツか紋付き袴で、てっきりお正月なのに葬式が始まるんだと思ったほど。


 父が車から降りると、祖父の家の門前にたむろしていた強面の人たちが、一斉に集まって来て父に挨拶をした。その時もまだ、『父は偉い人なんだなぁ』としか思わなかったわね。母は、心得たと言わんばかりに父を置いて私を抱き上げ、兄を連れて門を潜ったの。


 門は昔ながらの屋根の付いた門でね、時代劇みたいだなぁと思っていたら、門の内側も時代劇だったわ。見渡す限り、丹精に整えられた日本庭園が広がり、家屋敷が全然見えない……くらい広いってことよね。


 相変わらず母に抱かれながら、『父は良いトコのボンボンだったんだなぁ』と呑気に考えていたけれど、母と兄は勝手知ったるといった歩調で迷わず庭園を進んで行ったの。


 そしたら、漸く横長の二階建て日本家屋が現れるじゃない?なんだ、庭の広さの割に普通の屋敷なんだぁと思った私。バカです。大バカです。横幅は普通でも奥行きが半端なく広かったです。しかも、幾つも離れがあったりして、驚きで口も目も開きっぱなし。


 母から何度か口を閉じなさいと注意された気がしたけれど、驚きが納まらないうちは全ての機能が停止していたわ。仕舞には、母も仕様のない子ねと苦笑を漏らしていたし、兄は、バカな奴と鼻で笑っていた。後で覚えてなさい。倍返しは基本中の基本だからね。


 兄への報復手段を考えながらも、母に抱かれ、ずんずんと家の奥へと歩を進めたわ。当然のことながら家の中も尋常ではない大きさで、艶々に磨かれた板張りの長い廊下が続き、その両脇は壁ではなく襖がずらり。襖の向こうは当然部屋があるはずで、どんだけ広いの?!この家って。Σ(・ω・ノ)ノ!


 そうこうするうち、一枚の扉が開かれたの。そこには、見覚えのある祖父母の姿があって、思わず笑みが零れたわ。


「おお、まぁちゃん!よく来た、よく来た!」


 紋付き袴姿の祖父が、にこにこ顔で出迎えてくれたの。いつもお土産を持って遊びに来てくれる祖父母が大好きな私は、直ぐに母の腕から飛び出し、一目散に祖父へとかけよったけれど……。


 びたんっ!!


 もの凄い音がしたかと思うと、強かに顔を打ってしまったの。どうやら着なれぬ着物に裾を取られて転んだらしいわ。子どもって筋肉が発達してないから転びやすいのよね。頭もでっかいし。決して私の運動神経が劣っているとか、全体のバランスが変な訳じゃないと主張しておくわ。


 兎に角、3年の人生において転ぶことはしばしばで、密かに受け身を取った私を、慌てた祖父が機敏な動きで駆け寄り、抱き起してくれたっけ。


「おうおう、可愛いおデコが擦り剝けて血がっ!誰か、医師を!」


 いやいや、額が擦り剝けたくらいで医者を呼ばれるなんて何の罰ゲームよ、じじぃ!……もとい、じぃじ。額より鼻が低いことがバレるじゃないのっ!


「じぃじっ!だいじょぶよ、ましゃこ、だいじょぶ!」


 ちっちゃくガッツポーズをしてみせると、まぁちゃんは強い子だねぇと抱きしめられた。うおっ!年寄りのくせに力があるわねっ!


「会長、お時間でございます」


 いつも祖父の傍に控えている秘書の水澤さんが、静かに声をかけた。彼の名前は、水澤剛志みずさわ つよし


 細身だけれど、しっかり筋肉のついた体躯で、顔立ちもすっきり整っている。恐らく、父と同年代だろうけれど、会長である祖父の秘書を務めるくらいだから、優秀な人物とみて間違いないわね。今も、細い銀縁メガネの奥で切れ長の瞳を光らせているもの。


 何故だかゴツいやからが多い祖父の取り巻きには、珍しく理知的なタイプで、ぶっちゃけ初めて見た時から好感の持てる人だった。


 好ましい人と仲良くして損はないわ。うん。私は、祖父の腕の中からニッコリ笑って水澤さんに手を振った。彼はちょっと意外だという風に目を見開いたけれど、直ぐに目を細めた。


 ……それって、笑ってるのかしら?表情が乏しい人だから分かりにくいけれど、笑ってるのよね?多分、そうだと思いたいけれど、一歩間違えると睨まれているみたいだわね。


 面白い人だと思ったら自然と笑みが零れていた。ずっと彼を観察していたから、祖父が驚いた様子で私と水澤さんを見比べていることには気づかなかったわ。そして、何故だか機嫌の良くなった祖父は、私を抱いたまま屋敷の奥にある大広間へと向かったの。


 そこは、畳の数が数えきれないほど広い和室で、門前で出会ったような背広や紋付き袴を着た男の人たちが、ずらりと座っていた。彼らの前には、箱膳に乗せられた伊勢海老のお造りがドドーンッと置かれていた。


 ちょっとちょっと、伊勢海老1人1尾ってどんだけ大盤振る舞いよ!っていうか、私の分も1尾あるんでしょうね?!子供だからってケチらないでよっ!!


 伊勢海老に気を取られていたけれど、ふと気づくと、ざわざわしていた男の人たちが急にシンと静まり返っていたわ。はっとして見上げれば、強面の人たちが鋭くガンを飛ばして来た。その時、前世の弁護士の記憶が蘇ったのよ!そして、警報を鳴らしたわ!


 ―――――――こいつら全員、堅気の人間じゃないって!!


「じぃじっ!ばぁばもっ!……逃げてえっ!」

「……ん?」


 咄嗟に叫んでいたわ。そして、祖父を庇うように両手を精一杯広げたの。


「じぃじたちをイジメたら、メっ!だからねっ!」


 ……まあ、3歳児の語彙なんて、そんなものよ。本当は『ダメ』と言いたかったけれど舌が回らないのよ、これが!!


 けれど、その時は必死だったわ。幼児と年老いたジジババ、兄はまだ4歳だったし、母も守るべき存在だった。肝心な時に父がいないなんて、男なんて所詮役立たずだ!と心の中で罵りながら、それでも震える手を広げ続けた。


 そしたら、次の瞬間、男たちが爆笑したの。ゲラゲラと文字通り腹を抱えて笑い始めたわ。幼児だと思ってバカにして!と思ったけれど、今の内に逃げなくちゃ!とじぃじを見上げると、じぃじも笑ってるじゃないの!え?!ばぁばも?!兄も、母までも?!


 一体、どういうことよっ!!( `ー´)ノ


 訳が分からず顔を顰める私に、どこからか父が来て私を祖父から抱き取ってくれた。ようやく現れた味方に、早くじぃじを助けて!と懇願した。


「政子。ここに居る人たちは、みんなじぃじの部下なんだよ。だから、誰もじぃじを傷つけたりしないから安心しなさい」

「……え?」


 父の言葉が難しいと思ったのか、横から祖父が偉そうに口を挟む。


「そうじゃよ!まぁちゃん!この中では儂が一番偉いんじゃよ!ほれ、おぬしら、早う頭を下げえ!」


 目の前にいる男性陣が、一斉に土下座をした。あまりに一糸乱れぬ動きに、ざざっ!と音がしたよ!!びっくりだっ!!


 そして、その場に立っているのは、祖父と父と、父に抱かれている私だけだった。祖母と母、兄は座っているけれど頭は下げていない。つまり、男たちはヤクザで、祖父が一番偉い、会長?!


 ……チッチッチッ、チーンッ!!


 家って反社会的勢力ヤクザだったのか――――――――――――――っ!!






 ふと目を覚ますと、見覚えのない天井が見えた。どうやら、ショックのあまり、そのまま気絶してしまったのかしら。


 ふと、さりさりした感触に前後左右を見渡すと、布団に寝かされているようだった。シーツも布団カバーも絹だよ絹!どんだけ金持ちなの?!じぃじとばぁば!!……まあ、職業が職業だし、金は文字通り腐るほどあるに違いないわね。


 それにしても、前世での敵(=反社会的勢力)の家に生まれるなんて、なんて冗談かしら。そう言えば、『須佐一家』の祝賀会だもの。『一家』なんて普通の家庭じゃあ使わない言葉よね。


 あら?!ちょっと待って。『須佐一家』って聞いたことがあるわね。須佐一家。私の名前は須佐政子。兄は須佐道真。


 ……チッチッチッ、チーンッ!!


 ここって乙女ゲームの世界だったのか――――――――――――――っ!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ