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脳内お母さんの心配事。\(゜ロ\)(/ロ゜)/

「何で私がクラス委員長?!」

「そ・れ・は、昨日、愛里が欠席したから、かな」


 実南は、ニヤニヤと笑った。御崎さんが恐る恐るといった感じで、詳しい状況を説明してくれた。


「昨日、HRでクラスの委員を決めたんです。それで、最後に委員長を決めることになって、残っていたのは、お姉さまだけだったんです」

「なに、それ。委員会が30もあるってこと?!」

「2人で1つの委員を務めるから、正確にいえば15ね」


 横から実南が口を挟む。そして、図書委員、清掃委員、放送委員……指折り数えながら次々と委員の名を挙げていく。


「最後の方の黒板委員ってナニ?黒板なんて、どこにもないしっ!」


 ぐるりと教室を見渡しても、公立の学校でお馴染みの黒または緑の巨大な板はどこにも見当たらなかった。各クラスに1つ委員が存在するなら教室にあるはず。


「黒板なんて前時代の遺物、我が校にあるわけないでしょ」

「前時代の遺物って、公立の学校では今でも使っとるわっ!小学生の頃、私だって黒板係やってたわっ!黒板消しクリーナーなんて直ぐに吸い込みが悪くなるし、指示棒でパンパンしても粉が移動するだけで全然取れないのっ!結局、禁止されている校舎の壁に叩きつけるのが一番なんだけど、これにはリスクがあって、広範囲にチョークの粉が広がるってことね。髪から服から全身に飛び散って黒っぽい服を着てた日にゃあ、もう最悪っ!!」

「それは最悪だな」


 背後から担任の声が響き、頭から冷や水をかけられた気分になった。ふと辺りを見渡せば、クラスメイト達は全員席に着いて、こちらを見ている。あ、実南もいつの間にか座ってる!御崎さんもっ!裏切り者~~っ!(;゜Д゜)


「天野、気が済んだら朝のHRをするから座れ」

「気が済みました。お騒がせして申し訳ありません」


 ぺこりとお辞儀をして御崎さんの隣に座った。余談だが、御崎さんは窓際、その後ろに乾馨いぬい かおる、私の後ろには実南が座っている。この教室の机は横長で詰めれば4人くらい座れそうだけど、みんな2人づつ座っている。お金があるってことは、万事に余裕が生まれるらしい。


 それにしても、実南め、乾馨と仲良くなっている?!まさか、私という親友がありながら、不純異性交友しているのっ?!早すぎますっ!!お母さん(←注:私のこと)あなたを、そんなふしだらな娘に育てた覚えはありませんっ!!( `ー´)ノ


「熱はもう下がったのか?」

「……はい。ちょっと入学式で緊張してしまったようです」


 あ、危ないっ!『脳内お母さん』を妄想していて、現実を忘れるところだったわ。やばやば。


「よし。教室に入って来た時、てっきり高熱にやられて頭のネジがいかれたのかと思ったが、問題ないとすれば、それが通常運転ということだな」


 ニヤッと笑いながら呟かれた佐野先生の言葉に、クラスメイト達がどっと笑った。


 え、今のって冗談?!あのチョーカタブツで悲観主義者の先生が?!ちょっとパワハラすれすれ発言だけれど、好意的な笑いが起きている。反射的に隣を見ると、驚きに目を丸くして私を凝視している御崎さんと視線が絡んだ。


(佐野先生ってジョークをいうキャラじゃないよね?!)

(全然っ!あ、でも、ヒロインと恋愛モードになってから、たま~にですがオヤジギャグを言ってました!)

(今は恋愛モードじゃないよね?)

(……たぶん)


 確かにゲームの中では、遠距離恋愛している最中、電話越しにオヤジギャグを連発していた。サミさんにイメージが崩れると文句を言ったら「オヤジはオヤジギャグを言わないとリアリティが出ない」と却下され、隣ではトールさんが「オヤジギャグのどこが悪いっ!」と叫んでいた光景が脳裏に浮かぶ。


 もしかすると、入学式の日の私の反論でショックを受けて開き直ったのかもしれない。そもそも恋愛モードになるというのも、ある意味、相手に自分を見せる行為へと繋がる。本来の自分を見て欲しい、受け入れて欲しいと願うものだから。


 今の佐野先生に、そういった恋愛の秋波は感じられない。寧ろ、ライバル視されているような気さえする。まあ、良いか。放課後、夏彦にでも聞いてみよう。佐野先生の裏設定が分かるだろう。


 そんなことを考えつつ、朝のHRの進行をぼんやり眺める。先生が脇に置いてある教卓へ下がると背後の壁に映像が浮かんだ。教卓といっても教室の調度品にあうようロココ調スタイルで、勿論、猫足をしている。その割に重厚さを感じるのは、マホガニーの無垢材を使用しているからだろう。


 佐野先生の眼鏡をかけた端正な顔立ちと、長い脚は机の端に腰かけるだけでも見栄えがする。ちらっと周囲を見渡せば、うっとり先生を眺める女生徒たちの姿があった。勿論、隣の御崎さんも例外ではない。流石は攻略キャラというべきか。


 あ、壁に映像が映った。生徒の席から光源は出ていないから、恐らくは壁の後ろから映像を投影するリアプロジェクションTVってやつだ。今気付いたけれど、これが黒板代りらしい。そりゃ、これだけのデジタル機器を調整管理する委員は必要だろう……黒板委員なんて旧式な名称で呼ぶ理由は不明だけれど。


「みなさん、おはようございます!」


 挨拶と同時にデスクへ座っている男女の顔が映る。3年の放送委員らしい。新入生への挨拶と自己紹介をしている。あんまり所か全然興味ないので頭に入って来なかった。重要事項は、実南が知っているからいいか。


 ZZZZZZZ……

 ゴツッ!


 重い音と共に目から火花が飛び散った。ずきずきする頭を押さえて顔を上げると、佐野先生が横に立っている。手には分厚い辞書が。


「入学式の日にHRをサボタージュするわ、朝礼の放送中に寝るわ、お前は学校を舐めてんのか?!」

「す、すみません。まだ本調子ではないのかもしれません」


 どうやら眠ってしまったらしい。舐めてるわけじゃないけれど、あんまり退屈だったから堕ちてしまったなんて本当のことを言えば、再び辞書が頭上に振り落とされること必至なので無難な言い訳を口にした。


「……保健室へ行くか?」


 佐野先生は、半信半疑な表情を浮かべたが、それでも教師としての役割は忘れないらしい。根は良い人なんだよなと思いつつ、「今、ちょっとだけ寝たら大分楽になりました」と首を振った。


 今度は嘘じゃない。数分、うとうとしただけでも頭がすっきりしていた。先生は、「無理するな」と告げて朝のHRを再開する。体力測定などを含む行事日程表を配った後、放課後に各委員会のミーティングがあるから必ず出席しろと告げ、教室を去って行った。


「各委員って、もしや?」

「クラス委員も含まれるわね、当然」

「うう、これって欠席裁判じゃん!……あ、御崎さんは何の委員?」


 出来れば変わって欲しいと思ったけれど、望みは呆気なく潰えた。


「すみません。特待生は、委員会に所属出来ないんです」

「まあ、それも当然よね。通年通して大会だのなんだの忙しいんだし」


 そう言えばゲームでもヒロインは委員になってなかった。歌の練習、コンクール、そこそこの勉強と恋愛で、「なんて忙しい高校生なんだっ!」ってサミさんが怒っていたっけ。作ったのはサミさんなのに理不尽だと思ったけれど。


「ところで、実南は何の委員よ?」


 後ろの席に座る実南を下から睨みつつ、尋ねた。教室は擂鉢状になっているため、どうしても前の席が一段低くなる。決して私の背が低いわけではないと断言しておこう。


「それは勿論……」

「俺と一緒に風紀委員だろ」


 実南の言葉尻を捕らえ、隣に座る馨が答えた。


「ナニ、あんたたち。付き合ってるの?!」

「な、そんなこと……」


 赤面して狼狽える実南の肩を引き寄せ、またもや馨が答えた。


「あるよな、実南!」


 ちゅっと実南の米神へ口づけする馨。あうあうと言葉が出てこない実南の様子に違和感を覚える。てっきり実南のことだから、堂々と交際宣言すると思ったんだけど、予想が外れたかな?!それとも何か事情があるのかもしれない。


 どちらにしても、馨が傍にいるから聞き出すのは難しいだろう。


 乾馨いぬい かおる。ゲームの中では、誰にでも気さくに接する反面、本心は誰にも見せない臆病者だった。


 それは生まれながらの気質もあるかもしれないが、大半は彼の生い立ちにあった。彼の家は、宮家とも深い繋がりがあり、立派な男系、つまり男子が跡を継ぐ家系なのである。


 彼の父親は、妻との間に一男一女を儲けたが、その長男は生まれつき病弱だった。一時期は10歳まで生きられないだろうと噂されるほどだった。そこで周囲の黙認もあり、家長である馨の父親はお手伝いをしていた遠縁の女性に手をつけ、男子を生ませた。そのお手伝いが馨の母であり、生まれたのが馨という訳だ。


 当主は、馨を正妻の子供として戸籍を偽り、育てた。幼少時は、馨の母も同居していたらしい。数年後、彼女は第二子を産むが今度は女の子だった。そして、そのまま赤子と共に乾家へは帰ってこなかった。同時期、乾家の運転手も姿を消す。


 真実は闇の中だが、第二子の父親が明らかにされないことが様々な憶測を呼んだ。もし乾家の当主が父親だとしたら、追い出された母子に同情した運転手が一緒に駆け落ちしたとか、当主が運転手と駆け落ちしたように見せかけるため追い出したとか、正妻が裏で糸を引いているとか、それはもう好き勝手な噂が乱れ飛んだ。中には、当主が母子と運転手を亡き者にしたという噂までまことしやかに囁かれたほどだ。


 勿論、幼かった馨にも心無い噂が耳に入った。そうして、真実を知った馨は、驚愕と同時に納得もした。母が兄や姉に接する態度と自分への態度が異なる理由。父が家庭を顧みない理由。周囲の者たちが自分へ向ける侮蔑や憐憫の表情の理由。


 同時に自分の存在理由に頭を悩ませる。自分が後継ぎとして頑張れば頑張るほど、病弱な兄を後継者から遠ざけてしまう。結果、母からも姉からも冷たい視線を浴びせられる。かといって、自分が頑張るのを止めても、結局は後継者失格とされ、冷たい視線を浴びせられるのだ。


 幼い馨が選んだ処世術は、誰にも本音を見せないことだった。何を言われても何をされても、ただ笑顔を貼り付け、絶対に弱みを握らせないこと。自分の殻へ閉じこもることだった。


 そんな時、クラスメイトだった実南の誕生日パーティに招待され、鹿子さんのお菓子と出会った。お持たせのお菓子を誰にも見つからないよう自分の部屋でこっそり食べていると、私が鹿子さんに提案して入れたメッセージを見つける。


『小さな幸せを、あなたに』


 そのメッセージを読んで、涙が止まらなかったらしい。




 何故、自分は家族から隠れるように息を潜めて暮らしているんだろう。


 何故、自分は家族からも誰からも必要とされないんだろう。


 何故、自分は存在しているんだろう。




 実南の家は、家族みんな仲が良い。実南の可愛い我儘も笑って受け入れてくれる家庭環境がある。そんなクラスメイトの様子を目の当たりにして、余計に自分の境遇が耐え難く感じたのだろう。


 鹿子さん宛てに、お店のホームページへ届いたメールには、そんな子供の必死な想いが拙い文章に溢れていた。


 それ以来、馨を放っておけなくなって、私は鹿子さんを装い、何度もメールを交換した。馨も生まれて初めて、何でも相談できる相手を得て、毎日のようにメールを送ってよこした。もしかしたら、いなくなった母親代わりに思っていたのかもしれない。私にしても息子というか、弟的な存在となっている。馨は知らないだろうけれど。


 ふっとゲームの中の乾馨を思い出す。ゲームの中では中学へ上がる頃、兄が他界し、馨は乾家から抜け出せなくなった。本心をさらけ出せる相手もおらず、いつ噴出するともしれない爆弾を抱えたままヒロインと出会うのだ。


 祐兄がドSなら馨はヤンデレになる。たった一人の理解者を手放せなくなるから。そして、己の閉じ込められた旧家という檻にヒロインも引きずり込む。それがバッドエンド。ヒロインが、馨の生い立ちを汲み取り、籠の鳥になることを受け入れられたらトゥルーエンドだ。


 けれど、祐兄と同様、この世界の馨も人生が変わった。鹿子さん(私)という理解者を得て世界が広がったし、そもそも病弱だと言われたお兄さんが生きているのだ。家庭教師に勉強を教わり、今では元気に大学へ通っていると聞く。


 そうか。そう言えば、馨からメールが来たことを夏彦に相談していた。夏彦が何をしているのか白状しろ、と余りにしつこく迫るから。


 夏彦はある意味、このゲームの、いや、この世界の製作者だ。名前を見ただけで誰だか分かったのだろう。馨と病弱な兄を会わせろとアドバイスされた。色々調べてみた所、実南の父親が乾家と親交があることが分かった。


 そんなことから、乾馨の相談を持ち掛けると、彼自身、乾家の噂を耳にし、気にかけていたらしい。二つ返事で協力すると頷いてくれた。結果、乾家の兄弟を引き合わせることに成功。ゲームにはない展開で、乾兄弟の人生が変わった。


 夏彦の言う『怨恨がなくなった』というのは、そういうことなのかもしれない。馨が中学へ入る頃には、相談するメールも次第に少なくなっていき、寂しいけれど安堵したのも事実だった。


 てっきり素直な男の子に育ったんだろうな~と想像していたのに、目の前にいる馨は、一癖も二癖もありそうな子供(同い年だけど)に見える。あれ、どこで育て方を間違えたんだろう。


 お母さん、(←注:私のこと)あなたを、そんな生意気な息子に育てた覚えはありませんっ!!( `ー´)ノ


伏線を張り忘れたので、少し訂正しました。<(_ _)>

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