生徒会に近づきたくはないんですが。|д゜)
翌日、登校しようと商店街を出たところで、昨日乗った夏彦の車が待っていて、問答無用で乗せられた。隣の金物屋のおばちゃんが、夏彦を見つけて目を丸くしていたから誘拐と勘違いされることはないだろう。
家に帰ったら、商店街中の噂になっていること間違いなしだけど。(ノД`)・゜・。
「いいか、愛里。昨日、はっきり言えなかったが、俺たちが愛してるのはお前だけだからな!」
「そうだ。間違っても、俺たちは男が好きなわけじゃねーぞ!」
夏彦と真人は、私を間に座らせ、昨日の続きだと話し始めた。昨日の続き……って、そうか!偽装結婚のことだね!
うん、うん。ちゃあんと分かってるよ。2人共優しいから私が、疎外感を感じないように気を使ってくれているんだよね。前世でも同じだったもん。私も2人のこと、家族として愛してるよ~!!(*´▽`*)
そう告げて2人の頬に、ちゅっとキスを落とせば、何故だか微妙な顔をされ、盛大な溜息を吐かれた。なんだ、私の愛情表現が気に入らないのか?!むうっ!!<(`^´)>
なんて、ふざけているうちに、車は高天原学園へ到着した。見ると、前方に高等部の車回しが見える。流石に、お坊ちゃまお嬢ちゃま学校だけあって、大半が車で登校するため、車回しが異常に長い。
手入れの行き届いた前庭には、薔薇のアーチでトンネルが出来ている。余談だけれど、なぜ車回しを見ただけで高等部と分かったのか?!それは、高等部に薔薇のアーチがあるから。
初等部は桜、しかも咲く時期が異なる種類を何本も植えてあるから春先から初夏まで楽しめる。そして、中等部には、紅葉や銀杏など紅葉の楽しめる前庭となっている。たかだか車回しの前庭なのに、どれだけお金をつぎ込んでるんだか。
まあ、開花時期になると、普段、校門ギリギリまで下りない生徒たちも手前から車を降りて花を観賞しながら歩いたりしているので、そういう意味では効果があるのかも……ってか、普段からキリキリ歩けよって気もするけれど。
とか思いながら、私と真人は一足先に車を降り、高等部の校舎へ向かってキリキリ歩いている。周囲の視線を一身に浴びながら。
入学式の日は注目を浴びなかったのに、何故、今日は注目されているのか。答えはただ一つだけ。隣で悠々と歩いている真人の存在だ。
前世のトールさんは、仕事の時は厳しくて、迫力があったけれど、普段は、好々爺然とした人だった。けれど、真人は違う。前世の知識が私よりも遥かに長くあるのだから、未成年の学生など歯牙にもかけないのかもしれないが、自信満々、悠悠自適、いや、絶対王者の風格があった。
そう言えば、夏彦も全然違う。サミさんは、お歳の割に、というと怒られたものだが、シャキシャキして化粧も欠かさず、色っぽくて、お茶目なお婆ちゃんだった。なのに、夏彦は、中性的な整った顔立ちで笑うととっても魅力的なのに、他人と決して慣れ合わない。ましてや、私に危害を加える人間は、容赦なく叩きのめす。
以前、私たちの仲間だった少女を誘拐しようとした男がいた。私が囮になって捕まえたけれど、警察が手錠をかける寸前、夏彦は男の首に手を伸ばした。その時は、何も起きず、後になって男は廃人同然となった。
誰も夏彦を疑いもしなかったけれど、心のどこかで夏彦の仕業だと思った。勿論、犯罪者に同情する気はサラサラないし、夏彦を咎める気もない。ただ、ふっと、誰かの影が脳裏を過った。
昔、前世よりももっと昔、私は、『そんな人たち』を知っていた気がする。ソンナヒトタチッテ、ダレ?
「大丈夫か?」
歩みを止めた私を心配した真人が、声をかけた。ふいに浮かんだ影は、捕まえる前に霧散した。何か思い出しそうだったけれど、思い出せないのであれば思い出す必要がないのかもしれない。軽く頭を振って、残っていた靄も振り払うと、「大丈夫!」と頷いた。
「そう言えば、私に付き合わなくても、初等部まで車で送って行って貰えば良かったのに」
「高等部の校舎を突っ切れば、初等部への近道になるから構わない」
夏彦は、私と真人を高等部の車回しの手前で降ろすと、そのまま去って行った。恐らく、豊葦原学院へ向かったのだろう。
そして、真人の言う通り、この高天原学園は、広大な土地を3分割している。丸いケーキを3つに分けるかのように、中心に、初等部、中等部、高等部の校舎が集まっているのだ。
つまり、高等部から初等部の前庭へ回ったとしても、そこから校門を抜け、初等部の校舎まで延々歩かなければならない。だったら、多少は遠くなるものの、高等部の校舎を抜けた方が初等部の校舎が近いという理屈だ。
「それもそうだね!じゃあ校舎まで一緒に行こう」
「……さっきから一緒に歩いてるだろうが」
「あたっ!!」
真人からデコピンをくらった。意外に痛かった。(;O;)
その後、他愛もない話をしながら歩いていると、あっという間に校舎へ到着した。別れ際、真人から「生徒会のヤツラとは関わるな」と注意を受けた。勿論、私も関わる気はないんだけれど、正直、もう手遅れかも知れなかった。
だって、教室に入った私に、実南が面白そうに挨拶したから。
「おはようございます。我が、カトレアクラスの委員長様!」と。




