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お父さんに怒られました。(ノД`)・゜・。

 その後、夏彦の車で家まで送ってもらった。もちろん、夏彦の所有する大型リムジンで、夏彦が雇っている運転手さんが運転した。


 車に乗っている最中、うっかり「こんな大きな車を運転できるなんてスゴい~!」と運転手さんを誉めたら、夏彦も真人も「俺たちだって(前世の記憶があるから)運転できる!代われ!」と仕切り窓を開けて運転手さんに無理難題を吹っかけたので、慌てて止めた。


 2人共、それは犯罪だ。特に真人!お前は、身長が足りないだろうがっ!!(-_-)/~~~ピシー!ピシー!


 そんなこんなで家へ着く頃には、とっぷり陽が暮れていた。真人には話がややこしくなるから車で待機してもらい、夏彦と2人で恐る恐るドアを開けた。なんと、お父さんが仁王立ちで突っ立っていた。


「たっ、ただいま」


 お父さんは、無言のまま頷いだ。それが合図だったかのように、奥から鹿子さんと祐兄が飛び出して来た。鹿子さんは、私の体をペタペタ触り、「熱はない?」「体は痛くない?」「ダルくない?」など矢継ぎ早に質問して来た。その充血した瞳には、照明が当たって堪えている涙が光っている。


 祐兄も後ろで苦笑しているけれど、眼が赤い。よく見ると、お父さんの眼も赤かった。


 ああ、私ってなんてバカだったんだろう。お父さんも鹿子さんも祐兄も、ちゃんと私の『家族』だったんだ。家族じゃないからって自分から壁を作っていたんだ。


 そもそも『家族』って何だろう。血の繋がり?一緒にいた時間?戸籍?そんな表面的なつながりじゃない。相手を思う『強さ』だって分かっていたのに、本当のところは分かっていなかった。


 夏彦と真人が私に向ける思いは強いけれど、お父さんも鹿子さんも祐兄も、私を家族として強く思ってくれている。そして、私も彼らを失いたくないと思うほど強く思っている。


 勿論、玲菜ちゃんも実南も失いたくない。夏彦は私が怨恨をなくしたから大丈夫だと言ったけれど、万が一という事がある。祐兄と馨の身辺も、もう一度確かめてみよう。


 だって、もう私は『誰も』失いたくないから。


 私は、泣きじゃくる鹿子さんに強く抱きしめられながら、ぼんやりとそんなことを考えていたが、突然、お父さんの声に思考を遮られた。


「祐輔から聞いたんだが、君は、八雲夏彦君と言ったかな」

「はい」


 夏彦は、お父さんの言葉を予期していたかのように視線をしっかりと合わせて頷いた。


「この度は、娘が迷惑をかけたね」

「いえ」


 夏彦が、言葉少なに答える。お父さんの表情を見る限り、怒り心頭といった感じだった。ヤバいと思ったので、割って入ろうとしたが、お父さんに手で制された。


「私が思うに、具合の悪い人間がいたら病院へ運ぶのが普通じゃないかな」

「普通は、そうだと思います」

「今回は普通の状況ではなかったと?」


 夏彦は、ゆっくり頷くと、背広の内ポケットから手帳を出した。赤いバラが刻印されたその手帳は、この世界のパスポートだった。菊じゃなくてバラっていうのが、サミさんらしい。


 怪訝な顔でパスポートを受け取ったお父さんは、パラパラめくり、ぐっと眉根を寄せた。何だろう、何を見たんだろうと疑問が浮かんだけれど、答えは直ぐに分かった。


「ここに書いてある名前は、本当かね?」

「はい。正真正銘、国が発行したパスポートですから」


 ああ、お父さんは加茂黒の名字を見つけたんだ。さっき八雲と名乗ったばかりなのに本名は違うと分かれば、そりゃあ怒るよね、うん。


 夏彦のアホンダラ~~~~~~~~~ッ!!(-_-)/~~~ピシー!ピシー!


「僕は、小学生の時に加茂黒富久蔵の養子に出されました。実の家族とは、それ以来音信不通です」

「まあ」


 お父さんの横からパスポートを覗き込んでいた鹿子さんが、はっとして声をあげた。お父さんは、渋面を崩していない。


「八雲の親とも加茂黒の親とも、これといった情を持ち合わせていませんが、本名を名乗ると煩わしいことが多いので普段は旧姓を名乗っています」


 あれ、鹿子さんが同情的な眼で夏彦を見ている。お父さんの眉間の皺は一層深くなったけれど、それって夏彦の親に怒っている感じ?!


「それと、そこにある住所が今回、愛里さんを連れて行った場所です」

「地番が書いていないが……」


 お父さんが渋々といった声で尋ねる。


「そこは、加茂黒の持つ山の一つですが、他に建物はないので地番がないのです。家は山の中腹にあり、一番近い診療所ですら車で40分かかります。しかも、定年退職した老医師が開業しているところなので医療設備は十分とは言い難い施設です」

「なるほど。しかし、それじゃあ君の家人に何かあったら不便だね」


 あれれ、お父さんの顔も軟化してきているかも。夏彦は、不敵にもニッと笑った。せめて、ニコッくらいは口角をあげても良いんじゃないかしら?


「ですので、我が家には救急病院並みの医療設備を整えていますし、常時、優秀な医師たちが控えています。勿論、愛里さんが倒れた時も直ぐ医師に診察させました。結果、絶対安静と……」

「そうだったの。ちゃんと愛里ちゃんを気遣ってくれたのね」


 夏彦は、そっと視線を落として首を振った。あ、鹿子さんが堕ちた。鹿子さんは昼メロが大好きだから、ちょっと影のある表情に弱い。夏彦、知ってたのかな?……いや、まさかね。


「僕にとっては慣れたことなので気づきませんでしたが、我が家は養父の命令が行き届いていて、養父の許可がない人は敷地内に入ることすら許されていないのです」


 えっと、何か、夏彦が『籠の鳥』的な印象を与えていますが、あれって夏彦の持家だよね?!夏彦が主人なんだから養父が命令を下す筈もないんですけど、事情を知らないお父さんが堕ちかけている。


「ですから、いくら医療設備が整っているとはいえ、ご家族の皆さんが愛里さんを心配されることを考慮し、ドクターヘリで都心の病院へ搬送すべきでした」


 申し訳ありませんでした!と夏彦が頭を下げた。きっちり45度の角度を保っている。


「いや、夏彦君。頭をあげて。私の方こそ、ちょっと頭に血が昇ってしまった。大人げなかったね」

「いいえ、とんでもないことです。僕の方こそ気が動転してしまって」


 はい、堕ちた――――――――――っ!(^▽^;)


 お父さんは、礼儀正しく、潔く、そして完璧よりも隙のある若者が大好きだ。兄貴肌というか、要は面倒見が良いんだよね。私としては、前世の記憶を取り戻したはずみで熱が出たくらいでドクターヘリを呼ばれたくなんかないよ。意識が戻った時、何て言い訳すりゃ良いんだか困るから。


 いつの間にか、お父さんと鹿子さんが夏彦と和気藹藹と世間話をしている。しかし、半歩下がって控えている祐兄は、夏彦の殊勝な態度など全く信じていないようだ。そりゃあ、夏彦とは付き合いが長いし、初対面で恫喝されたことも生涯忘れられないだろう。


 余談だが、夏彦は豊葦原学院の制服を着ている。学校へ行く訳ではないのに態態わざわざ制服を着る理由を尋ねたけれど、「黙って見ていろ」と一蹴された。


 言いつけ通り黙って見ていると、打ち解けてきた鹿子さんが、はしゃいだ声をあげた。


「その制服って豊葦原学院よね。玲菜ちゃん、あ、祐輔の彼女ですけど」

「存じています。僕も祐輔さんたちと同じ道場に通っていますから」


 ここで夏彦はスマイル全開で微笑んだ。うわ、鹿子さん、ぽうっとしている。お父さんの眉間に微かな皺が。夏彦サン、ヤリスギデスヨ?!


「あっ!そうよね。祐輔たちから話を聞いてたのに、うっかりしていたわ」

「いいえ」

「あっ、それでね、彼女のお兄さんやお父さんも豊葦原学院のご出身なんですって!残念ながらお兄さんは大学部ですけれど、どこかで会えるかもしれないわね」

「え!!そうなの?!」


 思わず、驚愕の声をあげてしまったが、玲菜ちゃんと実南が高天原学園だったから、てっきりお兄さんの武史さんも同じ学園だと思っていた。鹿子さん曰く、たった一人の息子を自分と同じ学校へ通わせたいと奥さんに向かって頼み込んだらしい。


 そりゃそうだよね。豊葦原学院は幼稚舎から高等部まで、ずっと男子オンリーなのだ。それ故なのか、実南情報では、大学部で羽目を外す男子も多いとか。武史さんの名誉の為にも、彼が羽目を外しているとは口が裂けても言えないけれど。


 しかし、武史さんとは殆ど接点がないから盲点だった。ましてや、実南のお父さんの出身校なんて思いつきもしなかったけど、お父さんと鹿子さんは、ビジネス上でも付き合いがあるから、当然、知っている話だし、2人にとって豊葦原学院の株は高い。


 夏彦、なんて恐ろしい子っ!!Σ(゜Д゜)


 ああ、誰かに言いたい。言いふらしたい。王様の耳はロバの耳って、こういう事なのね!と脳内地面に穴を掘っていると、いつの間にか話が進んでいたらしい。


「ところで、夏彦君は家の娘と付き合っているのかね?」

「ぶはっ!!」


 お父さんの台詞に、思わず噴き出したのは私だけだったらしい。鹿子さんは、「あらやだ、照れちゃって~っ!」と嬉しそう。


「いずれ、結婚を前提に交際をしたいと考えています」

「いずれなんて言わず、今からでも良いわよ!」


 鹿子さんが嬉しそうに悲鳴を上げる。なんだか、今夜にでもウェディングケーキを作り出しそうだから止めて。怖い。(;´Д`)


「僕は、まだ未成年で、法律的にも加茂黒の庇護下にあります。ですが、いずれは家を出て、独立したいと考えています。その目途が立つまでは……」


 おい、それ(成人して生活の目途が立つまで)って普通、結婚じゃね?!そこから交際が始まるとして、結婚するのは何歳?!




 ああ―――――――――――――――――――――っ!!分かったっ!!




 夏彦は、前世で真人と結婚してたもんねっ!!今世では男同士になる上、真人が小学生だから公言できないんだねっ!!うんうん。よっしゃあっ!!私が偽装結婚でも何でも協力するから任せてっ!!(*^▽^*)


 脳内で、ぐっと親指を立ててみせると、夏彦は何故だか引き攣った笑みを浮かべた。


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