ゲーム、コンティニュー?いえす、うぃーきゃん!( `ー´)ノ
その後、落ち着いた私は、サミさん、じゃなかった、夏彦と真人と一緒に雑炊を食べた。懐かしいのも道理で、サミさんの味だった。
あ、真人は、トールさんから呼び捨てするよう強制されました。夏彦ばかり呼び捨てでズルいって。何がずるいんだか、小学生男子の考えることはさっぱり分からない。
そう言えば、前世も今世も彼氏いないなぁ、私。そこそこ料理も出来るしお菓子も作れる。顔も絶世の美女とまではいかなくても、そこそこだと思うんだけど、やっぱり色気が足りないのか?!
まあ、別に良いんだけどもさ。女一人、気ままな人生を送るのもオツだよね。(;´・ω・)
「愛里がまた良からぬことを考えているぞ」
「ほんと、鈍いよな」
なんか夏彦と真人がブツブツ言っているけど、聞こえない、聞こえない。あ、そう言えば2人に聞きたいことがあったんだっけ。
「ねえねえ、この世界ってゲーム、だよね?」
「……そうとも言える」
真人の言い方は、何だか煮え切らなかったけれど、考えてみればキャラクターたちは自らの意志で考え、動いている。プレイヤーの指示に従っているわけじゃない。そういう意味なんだろうと解釈して話を続けた。
「一応、私がプレイヤーというかヒロインでしょ?ゲームに参加しなかったら、どうなると思う?」
全ての記憶が蘇ると同時に、ゲームの細部まで思い出していた。年齢制限をかけていないゲームだけれど、それは、アニメ画で表現していないだけで、さらっと犯罪キーワードが出てくる。例えば、誘拐、詐欺、脅迫。
攻略対象者がヒロインを好きになれば、ヒロインが被害者としてターゲットされる。勿論、実際に犯罪が起きる前に、攻略者たちが奮闘してヒロインを救うというイベントが待っている。
けれど、私は攻略者たちと恋愛する気なんて、これっぽっちもない。だとすると、犯罪はないことになるんだろうか。いや、確か、攻略対象者の関係者、つまりヒロインのライバルが被害者になった気がする。
だよね?と夏彦へ問いかける。そう。このゲームの原案は、サミさんが考えたものだった。緻密な人物像と詳細な舞台設定が売りのサミさんは、ゲームと関係ない部分まで全て書き出していたのだ。
「どうもしないさ。お前が関与しようがしまいが、犯罪が起きる時は起きるものだ」
さらりと告げる夏彦だったが、知っていて何もしないというのは、良心が痛むというか寝覚めが悪い。
「お前の義兄と、そうだな。乾馨は大丈夫だろう。お前が事前に対処したから怨恨はなくなっている筈だ」
「あ、じゃあ他の人たちも今から変われば……」
「無理だな」
夏彦が一蹴した。ゲームは、もう始まっているのだと。
「じゃ、じゃあ、私が彼らと恋愛すれば、私が被害者に……」
「馬鹿か、お前っ!!」
ぺちんと頭を叩かれた。だって、私なら対処できるもん。
「犯罪を回避できたとして、その後は、どうするんだ?!攻略対象者とお前が恋愛すれば、自動的にライバルたちとの関係は解消される。犯罪がなくなったから恋愛もなかったことに、元の鞘に納まって下さい、とでも言うつもりか?!」
うう、そこまで考えていなかった。ゲームじゃないんだから、リセットも出来ないし、かといって、本当に犯罪が起きたら誰かが苦しむことになる。八方手づまりな気がして唸っていると、今まで黙っていた真人が口を開いた。
「まあ、何とかなんだろ?それを防ぐために、夏彦は豊葦原学院に入ったんだし、俺もアメリカから戻ってきたんだから」
「え?!」
説明を求めて夏彦を見ると、ふうっと溜息を一つ吐いて、話し始めた。
「俺が考えた犯罪の温床は3つある。1つ目は高天原学園内部、2つ目は高天原学園の理事会、3つ目はライバル校の豊葦原学院だ」
「そうか!夏彦は犯人を知ってるんだもんね!犯人が分かってるなら、今から何とかできない……」
「無理だな」
再び夏彦に一蹴される。
「犯人は、攻略者とヒロインが行動した結果、選定される。つまり、動いた結果、犯人が変わることもあるわけだ」
「なんで、そんなややこしい設定に……」
呆然と呟くと、夏彦は当然だと言い放った。全員のキャラに共通する悪役なんて、いるはずないだろーが!と。確かに、そうだけれども、それにしてもさぁと、ブツブツ呟く。
「まあまあ、それでも犯罪が発生する場所は特定しているし、犯人になりうる候補者も分かっているんだから、後は、各自の動きに合わせて、そいつらを見張ってれば良いだけだろ?」
楽観的な真人の言い方に、私の気分も軽くなる。
「そうだよね!豊葦原学院は夏彦が担当で、私が高天原学園だね。あ、でも理事会はどうするの?!うちのお父さんに頼もうか?!」
天野のお父さんは、理事会のメンバーではないけれど保護者だから接触は取れるはずだし、会社経営もしているから人から情報を聞き出すことも容易いはずだ。名案だと思ったけれど、真人も夏彦も首を横に振る。
「父親に、どうやってゲームのことを説明する?しかも、キャラクターの動き次第で犯人が変わるんだ。ゲームの内容を知ってる者しか対処できない」
「……むうぅ」
夏彦の言い分は、もっともだった。理事会の調査は諦めるしかないと思っていたところ、夏彦は真人がいるだろと笑った。
「真人は、表向き、初等部に通うことになっているけれど、アメリカで大学卒業した後、研究所で働いていたんだよ」
「ええ~?!」
小学6年生で働いてるって、どんだけ秀才?!と思ったけれど、真人はふんと鼻を鳴らした。
「前世の記憶があるんだ。ちんたら小学生なんてやってられるか。というか、本当はお前を探してた」
「私、を?!」
真人は、真っ直ぐ視線を合わせたまま、ゆっくりと頷いた。彼は、トールさんだった頃から、時々、こんな瞳で私を見ていた。私は、いつも、この瞳に胸がザワついていた。今と同じように。
はっ!!待て待て、相手は小学生だから!!ブンブン首を振ってザワついた熱を冷ます。真人は何か言いたげだったが、何も言わず、何故か視線を落として話を続けた。
「そうだ。俺と夏彦が生まれ変わったんだから、カコ、いや愛里も生まれ変わったはず。だが、どこにいるのか分からなかったから、夏彦が日本で、俺はアメリカで生まれ変わりを探していた。なのに、夏彦のヤツ、お前を見つけたことを隠してたんだ」
ムカつくとばかり、夏彦を睨み付ける真人に、夏彦は当然とばかり肩を竦めた。
「俺が愛里と出会った時、お前はまだ無力なチビ介だった。それに、愛里も俺たちを覚えていなかったから会わせるのは時期尚早だった」
「あ~、お前のそういう冷静な態度ってホント、ムカつくな!」
「今更だ。それに、アメリカで必死になったからこそ、クソ爺の代理で理事会に参加する権利を得ることが出来た。万事、上手く行ってるじゃないか」
聞けば、真人のアメリカでの勤務先は、ニュースでも話題になる最先端の医療技術を開発する研究所だった。その実績を買われ、元々、理事会に名を連ねていた祖父、加茂黒富久蔵の代理として参加が許されたとのこと。
勿論、そんなことは異例中の異例だったが、加茂黒の人脈と真人の資金力で、学園側と理事会を黙らせたらしい。しかも、アメリカの仕事は辞めてきたらしく、日中は暇だからという理由で初等部の授業を受けるとか。
どんだけチートなんだ、お前。




