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見事に騙されていました!<(`^´)>

 私は、体の上でくすくす笑っている真人君を睨み付けた。金縛りもポルターガイストも全て彼の仕業だったのだ。私の悲鳴に、目を丸くした彼は、次の瞬間、大爆笑した。そして、今も笑いが止まらないようだった。


「もうっ!いい加減笑い止んで!!」

「悪い……ぷっ!」


 意外にも真人君は笑い上戸だったらしい。と思っていると、ふいに体が軽くなり、壁に何かがぶつかる音がした。


「大丈夫か?!」


 見ると、夏彦が私をのぞき込んで心配そうな顔をしている。真人君は壁によりかかって頭を押さえていた。察するに、私の叫び声にかけつけた夏彦が、真人君を掴んで投げたようだった。


「あ、えっと、ごめん、叫んだりして!ちょっと真人君が乗っかってたから驚いただけだったの!ってか、真人君こそ大丈夫っ?!」


 夏彦は、私に害をなすヤツに容赦ない。真人君とは、お互い呼び捨てにする仲だと思っていたから油断した。まだ子供なのに思いっきり投げ飛ばすなんて!慌てて布団から飛び出そうとしたが、夏彦に腕を掴まれた。


「自業自得だ。それに、アイツほど頑丈なヤツはいない」

「酷い言い草だな、おい。まあ、頑丈というのに反対はしないが」


 真人君は、けろりとした顔で立ち上がると、私の寝ていた布団の前でどっかりと胡坐をかいた。いつの間にか着替えた様で、男物の浴衣を着ていた。紺地の絣に海老茶の帯を締めている。顔がギリシャ彫刻でも様になっているのだから美男子は得だ。


 けれど、何だろう。ものすごい違和感を感じる。


「ああっ!言葉遣いと態度が、オッサン臭くなってる!」


 ぶふ――――――――――――――――っ!!


 夏彦と真人君が吹いた。その後、2人は文字通りお腹を抱えて笑い続けた。時折、「変わってねぇ!」とか「相変わらず笑かしてくれる!」とか呟いているけれど、そろそろ笑うのを止めても良いんじゃかなっ?!(^_^;)


「いや~、久しぶりに笑った!腹筋痛えっ!」

「確かに、見てくれがこんなでも、中身はオッサンだもんな!」

「うるせえよっ!」


 真人君が軽く夏彦の腹部に拳を叩きいれる。どすっと物騒な音がしたけれど、夏彦は平気らしい。なんか、私だけ仲間外れなんですけど帰って良いですかね?!


 ……って、ここはドコだろう。


 改めて室内をきょろきょろしていると、夏彦が事もなげに言ってのけた。


「ここは、都内某所にある俺の家だ。都心から車で2時間ってところかな?」

「夏彦の家?!って、あれ、商店街の近くにあるのは?!」

「あれも俺の家。今どき家の1つや2つあってもおかしくねえだろ?!」


 確かに、別荘とか別宅と考えればおかしくないけど、あんた、私と同じ高校1年生だよね。高校生が家2軒所有するのって普通じゃないよね?!それに、この家、めっちゃお金かかってそうだよ?!


 築100年は経っていそうな古民家で、梁や柱が太いし、煤けて黒光りしている。扉だって艶々だし、あれって、多分、欅の一枚板か何かで漆が塗ってあるに違いない。天井画同様、欄間に彫られた雲龍の彫刻だって、下世話な話だが、100万円は下らないだろう。


 ふっと藺草の香りが鼻をついた。定期的に畳を張り替えているとすれば、それだけだって維持費が馬鹿にならない。この部屋だけで20畳はあるのだから。


「……夏彦の家ってお金持ちなの?!」

「金があるかないかで言えば、ある方だろうな。だが、家の金は一切使ってないぞ。全部、俺自身が稼いだ金だ」

「……真人君とは、どういう関係?!」


 夏彦の眉間に皺が寄る。その隙に、真人君が説明してくれた。


「夏彦は、俺の祖父じいさんの養子になった。だから、俺にとっては叔父にあたる」

「名字が違うじゃない」


 夏彦の名字は、八雲で加茂黒ではない。嘘だと思いたかったが、心の底では腑に落ちていた。そして、それを裏付けるように夏彦が言葉を引き取った。


「世間に騒がれるから、表向き、養子になる前の名前、八雲で通している。金さえ払えば学校を黙らせるなど容易いことだ」

「じゃあ、なんで私にも隠していたの?!」


 何となく気づいていた。夏彦の立ち居振る舞いは、とても洗練されていて、サラリーマン家庭ではありえないものだったから。けれど、夏彦は何も言わなかったから、例えば家が没落したとか、話したくない事情があるんだろうと思った。


 それなのに、代議士の養子だったなんて。家を2軒も持っていただなんて。偽りの名字を名乗っていただなんて。私が、信用できないと思われていただなんて。


「泣くな、愛里」

「泣いてないっ!!」


 真人君の指摘に、堪えていた涙が決壊した。うう、私を信用しないヤツのためになんて泣きたくなかったのに。真人君も見て見ぬふりをしてくれれば良かったのに。KYな男は嫌われるんだからね。


 突然、目の前が暗闇になったかと思うと、夏彦に抱きしめられていた。


「隠すつもりはなかった。愛里に会った時は、既に養子になっていたし、名前も八雲で通していた。愛里には、俺自身を見て欲しかった。生家も養父も関係なく」

「放してっ!!そんな殊勝な言葉を並べても、もう騙されないからっ!!」


 夏彦の腕は、ゆるく私を囲っているけれど、頑として揺るがない。脇の下も固めているからくすぐれないし、私より強いと分かっているけれど、ムカつものはムカつくのよっ!


「夏彦は、実の両親に金で売られたんだ。だからまあ、聞いても気持ち良い話じゃねえよな」

「……売られた?!」


 思いがけない言葉が飛び出し、夏彦の腕の中で暴れていた私の動きが止まる。


「真人!」

「今更、隠したって仕方ないだろ」


 真人君が話す内容は、確かに気分が悪くなる話だった。そもそものきっかけは、夏彦が偶然、加茂黒を助けたことから始まる。まだ小学生だった彼が、車から降りた加茂黒が狙撃されそうになったところを阻止し、あまつさえ犯人逮捕に協力したのだと言う。


 どんな小学生よ?!と思ったけれど、反面、それで納得がいった。以前、同級生の友達を拉致しようとした変態ロリ男をショッピングモールで逮捕した時、やたら警察と親しいと思ったのだ。


 いやいや、話を元に戻そう。


 加茂黒は、子供のくせに利発な夏彦に興味を示し、養子にならないかと誘って来た。そして、あろうことか、夏彦の両親の前に山ほどの札束を積み上げたらしい。


「それで、ご両親は何て?!」

「一晩考えると答えたが、次の朝には札束ごと居なくなっていた。考えた結果、息子を売ることにしたんだろ」


 今まで夏彦の家だと思っていたところは、ご両親が夏彦と共に捨てた家だと言う。夏彦は、親が放棄した家だから息子が相続しても問題ないだろと笑っていた。


「じゃあ、あの家にいた女の人って?!私、てっきり夏彦のお母さんだと思ってたけど」

寿美子すみこさんは、身の回りの世話をしてくれる家政婦さんだ。愛里が誤解しているのを知ってたけど、寿美子さんには、話を合わせてくれるよう頼んでいた」


 思い返せば、母親だと紹介されたことはなかったし、夏彦が「母さん」と呼ぶこともなかった。年頃の男の子だからカッコつけたいのだろうと思っていたけど、母親ではなかったのか。


 そう考えたら、色々、見えてくることがある。そりゃあ、親に捨てられた家なんてイヤだよな、とか。……あれ?!でも私が夏彦の立場なら売って別の家を買うけれど。あ、それで、この古民家を買ったのか。でも、生家を売らなかったのは何故だろう。やっぱり実の家族との思い出があるから、手放したくなかったのかな。


「お、また愛里が良からぬ妄想しているぞ?!」

「愛里。今考えていることは全て違う」

「何で私の考えていることが違うって分かるのよっ!!」


 口をへの字に尖らせながら反論したが、夏彦は苦笑するだけだった。


「どれだけ長い付き合いだと思ってるんだ。愛里の考えていることなら何でも分かる」

「そうそう!どうせ、家族との思い出が手放せなくて、家を2軒も所有している可哀想なヤツとでも思ってるんだろ?!」

「……ううっ、可哀想とは思ってないもん」


 図星だけれど、何故それを会ったばかりの真人君が指摘するのか?!余計に口を尖らせると、夏彦に唇を摘ままれた。


「むぐっ!!」

「いいか、俺は欲に目がくらんだ親にも、金にモノを言わせたクソ爺にも興味ねえ。あの家を手放さなかったのは、愛里の家に近かった。ただそれだけだ」


 驚きに目を見張る。そうだ。いつだって夏彦は、私のことを想っていてくれた。どんな時でも私の、


「あ~あ、夏彦だけ良い目を見るのはズルくねえか?!」

「人徳だろ?!」

巫山戯ふざけんなっての!」


 真人君の蹴りが夏彦の背中に決まったところで、2人の取っ組み合いが始まった。よく見ると太極拳の推手のようだが、私と夏彦が習っている流派の型とは違っていた。


 推手は、2人1組になって型をなぞることで相手を知り、また己を知る。常に手首や腕など体の一部を接触させて、お互いの力量を推し量る。健康維持で行う推手は、ゆったりとして気持ちよいものだが、実践訓練をする時は、必然的に殺気を帯び、突きや肘打ちなども含まれるため、かなりのスピードが生じる。


 でも、なんだろう?!私も、この推手の型、知っている。初めて見るのに、体が動く。むしろ、今まで道場で習う度に微かな違和感があったのに、彼らの推手を見ていると、ぴったり私の中に納まっていく。


 答えが見えそうで、どうしても見えないもどかしさに、眉を潜めていると、一通りの型を終えた後、真人君が声をかけてきた。


「愛里は、前世を覚えているんだろう?これも、思い出したか?」

「……なんで、それっ?!」


 予期せぬ言葉に、思わず反応してしまう。すると、真人君は、面白そうに「ドーン!!!!」と言った。


 あ、もぐろふくぞー……って、それを知っている真人君も前世の記憶がある?!……って、もしかして、変な高笑いをしている夏彦も?!


 ちょっと待って、ちょっと待って!!頭がぐるぐるして来たよ!!


「ほら、おいで。――――――カコ」

 

 真人君の呼びかけが引き金になって、今まで歯抜けのように欠けていた前世の記憶が一気に蘇って来た。


太極拳は、流派を特定していません。昔、ちょっとかじったのと、私の妄想が混ざっているものなので、ツッコミはご遠慮ください。<(_ _)> ……もっと文章力が欲しい今日この頃です。

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