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天使のストーカー。(;'∀')

 美少年を腰に巻き付けながら、ふと気が付くと、辺りがしんと静まり返っていた。誰もが言葉をなくしているらしい。だが、一番訳が分からないのは私自身だと、声を大にして主張したい。


 その困惑が伝わったのか、玲菜ちゃんの隣にいた日本人形のような美少女が、おずおずと口を開いた。


「……あの、その子、迷子になっていたから……」


 蚊の鳴くような声だったが、辛うじて聴きとれた。だが、迷子なら事務局か教師に報告すべきでは?そもそも、あなたはダレデスカ?!


 隣にいた玲菜ちゃんに視線を移すと、玲菜ちゃんが彼女を紹介してくれた。このサロンの主、澤木さんの雇主でもある織部家のご長女、佐保子さほこさんで玲菜ちゃんの幼馴染らしい。


 さらさらストレートの黒髪が天使の輪を煌めかせている。前世の記憶がある日本人には馴染みのある髪だが、瞳はルビーのように真っ赤だった。黒と紅の取り合わせは、大人しさの中に妖しさを含み、私好みの美少女だった。


 思わず、ふらふら前に出かかると、ぐっと腰に力が入り、引き止められた。見下ろすと、美少年が微笑んでいる。が、その眼は決して笑っていなかった。


 ナニこの子、恐いっ!!


「僕が愛里を探していたら迷っちゃって、お姉さま方が連れて来てくれたんだよ。ありがとうございました。佐保子お姉さま、玲菜お姉さま」


 後半のセリフは、くるりと振り返って、玲菜ちゃんと佐保子さんに向けられた。言うまでもなく、天使の笑みと愛らしいお辞儀付だ。


 2人の背後に、ずっきゅーん!と効果音が出現した。


「なんて可愛いの!」「連れて帰れないかしら?」などと、きゃあきゃあ騒いでいる。玲菜ちゃん、祐兄の目が吊り上がって来てるから、その辺で止めてあげて~!(;´Д`)


 春の麗らかさと、真冬の凍てつく寒さが同時に存在する室内で、どうフォローしようか悩んでいると、横から天の助けが差しのべられた。


「皆様、立ち話もなんですからお茶でも頂きませんこと?」


 実南の誘いと同時に、澤木さんがお茶とケーキを運んでくれた。ぐっじょぶ、実南&澤木さん!(=゜ω゜)ノ


 先程、実南が座っていた上座のソファには、祐兄、玲菜ちゃん、佐保子さんが座り、私と御崎さんは、今まで座っていたソファにそのまま腰を下ろした。美少年は私の隣に張り付いている。


 トリプルソファを明け渡した実南は、少し離れた位置にある一人掛けソファに腰を下ろし、澤木さんは給仕を終えた後、主人である佐保子さんの脇に控えていた。


「まあ、このケーキ、とても美味しいですわ!」

「どこで売ってらっしゃるのかしら?」


 ハイテンションが続く玲菜ちゃんと佐保子さんが、私の作ったチーズケーキを食べ、盛り上がっている。ここで、私が作ったと言ったら収拾がつかなくなりそうだった。祐兄には後で感想を聞くことにして、知らん顔を決め込んでいたのに、予期せぬところから、正確にいえば隣に座る美少年から爆弾が投下された。


「これ、愛里が作ったケーキだね。相変わらず美味しいよ」


 え?相変わらずってナニ?しかも、何も言ってないのにナンデ私の作だと分かるノカナ?( ゜Д゜)


 実南に視線を合わせるが、知らないといった様子で首を振る。


「これ、愛里ちゃんが作ったの?!すごく美味しい!」

「本当に美味しいですわ!幾らでも構いませんので、ぜひ、売って下さいましっ!」


 案の定、更にテンションが上がった2人を尻目に、祐兄が口を開いた。


「ケーキの話は後に。それより、君は誰なのかな?見た所、高天原学園初等部の制服を着ているようだが?」


 美少年をマジマジ見下ろすと、白のパイピングを施したネイビーのジャケットに、同じネイビーの膝丈しかないチノパンツを履いている。ネクタイは白と紺のストライプで、シルクの光沢が背伸びしている風で可愛らしい。


 一方、高等部の制服は、基本的に同じ色だが、パイピングがないし、チノパンツでもない。勿論、膝丈などでは断じてない。祐兄のすね毛なんて見たくもないし、可愛くもない。


 これが初等部の制服か~女子の制服はもっと可愛いんだろうな~と思っていると、美少年がすっくと立ち上がってぺこりと頭を下げた。


「失礼いたしました、北村先輩。僕は神条真人かみじょう まさとと申します。本日から初等部六学年に通っております」


 あれ、見かけはミケランジェロなのに日本語めちゃくちゃ上手い。敬語もばっちりで、小学六先生の使う言葉じゃないよ。私の幼馴染共に聞かせてやりたい。特に夏彦なんて、ヤクザかってくらい質が悪いし。


 なんて、現実逃避という名の思考の海を漂っていたら、祐兄や玲菜ちゃんたちが、信じられないといった顔をしている。何か変なことを言っていたかな~と思う間もなく、くいくいっと袖を引かれた。


「えっと、真人くんだっけ。何かな?」

「僕の方が年下なんだから真人で良いよ」


 天使の笑顔で微笑まれる。初対面から私を呼び捨てにしているけれど、一応、私が年上だという認識はあるらしい。あ、でも祐兄には北村先輩って言っていたし、玲菜ちゃんたちは『お姉さま』呼びだった。もしかして私だけ呼び捨てですか。そーですか。


「あのね、このケーキ、ナッツを散らすと、もっと美味しくなるよ」

「……!」


 実は、アーモンドを加えるか迷ったのだけれど、最初はシンプルにしてチーズの味を確認したかったから加えなかった。完成形には、もちろんアーモンドダイスを散らすつもりだった。


 この子って一体、ナニモノ?!(;゜Д゜)


 頭の片隅で警報が鳴ったけれど、それでも、誉めて誉めて!とばかりニコニコしている真人君(←やっぱり初対面で呼び捨てはムリッ)を見ていると、背後にぷりぷり揺れている尻尾の幻影が浮かんできて、いつの間にか警報が鳴り止んでいた。


「ありがとう。私もアーモンドダイスを散らせば良かったかなって思ってたところ」


 思わず、フワフワの巻き毛に手が伸びて、気付いたら彼の頭を撫でていた。真人君の目が一瞬、見開かれたけど、次の瞬間、また腰に抱き付かれていた。


 おおう!小型犬に纏わりつかれているみたいで、思わず、ほっこりする。


「ごほん!」


 いつの間にか放っておかれた祐兄が、ワザとらしく咳ばらいをした。


「あ~、神条君?話はまだ終わっていないんだけれども、続けて良いかな?」

「はい、どうぞ」


 真人君は私に抱き付いたまま、顔だけ祐兄に向けた。祐兄の米神が引き攣っているけれど、玲菜ちゃんに宥められ、我慢することにしたらしい。そのまま話を続けた。


「この学園は、途中編入がとても難しいんだ。特に初等部は、ほぼ100%ありえない。それなのに、君はいとも簡単に初等部に編入したと言う。何か理由があるのかな?」

「さあ?僕はお祖父さまに言われて、この学園に通っているだけだから」


 真人君は、こてんと首を傾げた。玲菜ちゃんと佐保子さんが、ユニゾンで可愛い~っ!と悶えている。


「お祖父さまって誰か教えてもらえるかな?」

「はい。お祖父さまは、もぐろふくぞー……」


 ぶふーっ!とお茶を噴いたのは、私と御崎さんだけだった。他のメンバーは、驚愕の顔をしている。あれ、ここって笑う場面じゃない?!お呼びでない?!(/・ω・)/


加茂黒富久蔵かもぐろ ふくぞうって代議士の?」

「そうなのかな。僕はお祖父さまのこと、良く知らないんです。滅多にお会いしませんし」


 あ、ビックリした。喪●福造じゃなくて、加茂黒ね。前世の記憶(仮)に毒されてるかも。こっそり御崎さんと顔を見合わせて反省してみる。


 冷静になってみれば、加茂黒富久蔵というのは、選挙の時期になるとニュースや新聞で良く見かける名前だ。結構な年寄りだと思っていたけれど、小学生の孫がいるなんて初めて知った。まあ、私には関係ないけれど。


 真人君と目が合うと、にっこり天使の笑みで微笑まれた。ちょっと言い出し難いけれど、聞くなら早い方が良いだろう。出来るだけ何気ない風を装いながら真人君に尋ねてみた。


「え~っと、私、真人君と会うのって初めてだと思うんだけど、っていうか、前に会ったかもしれないけれど覚えてないの。出来れば、どこで会ったのか教えてくれるかな?!あ、真人君の印象が薄いとかっていう意味じゃなくて、多分、私の記憶力に問題があるんだと思うの!ごめんなさいっ!」


 聞くは一時の恥とばかり思い切って聞いてみたけれど、話しているうちに段々と自分が酷い人間に思えてきて、心の中ではスライディング土下座をしてしまう私だった。


 だが、真人君は私の愚かな質問にも笑顔で答えてくれた。


「ず~っと前に何度も会ったよ。愛里が覚えていなくても僕はず~っと覚えているから大丈夫!」


 相変わらず抱き付いたまま、私の制服に頬をすりすりした。え~っと、それって私の質問の答になってませんよね。う~ん、こう見えても私は人を覚えるのは得意な方だ。特に、こんな美少年に一度会ったら忘れることはないだろう。


『ず~っと前に会った』という言葉から察するに、前世の記憶(仮)が蘇る前の、本来の愛里ちゃんと出会ったのかもしれない。だとすると、私と真人君は4歳差だから真人君が新生児~1歳ぐらいで出会った?


 そんな幼児期の記憶ってあるの?!と思ったけれど、真人君ならありえる気がした。いっそ、生まれる前、お腹の中にいた頃の記憶もあると言われても素直に信じてしまいそうだった。


 それに、もしも本来の愛里ちゃんと出会ったのであれば、どう頑張っても記憶は蘇らないから、これ以上、追及するのは止めておこう。君子危うきに何とやらってやつだ。


「え~っと、覚えてなくてごめんね。あと、覚えててくれてありがとう」

「どういたしまして」


 うっ!無垢な笑顔って眩しいっ!!(/ω\)


「あと、私を探して高等部の校舎で迷ったって言っていたけど、私に何か用事だったかな?」

「あ、忘れてた!夏彦に愛里を連れてくるよう言われてたんだった」


 ナツヒコ……ナツヒコって夏彦かっ!そう言えば、入学式が終わったら遊ぶ約束してたっけ!!


「うわっ!夏彦の奴、めちゃくちゃ怒ってるよね!祐兄、お説教は帰ったら聞くから先に帰るね!実南、後で連絡するから!じゃあね!」


 私は慌ただしく荷物をまとめるとサロンを飛び出した。後ろから真人君がついて来ているとも知らずに。


誤字発見!ただちに退治いたしました!Σ(・ω・ノ)ノ!


追加で表現を手直ししました。内容は変更しておりません。

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