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遅れてきたヒーロー。(=゜ω゜)ノ

 扉から入って来たのは、祐兄と玲菜ちゃん、それから見たことのない女生徒の3人だった。祐兄は、生徒会のメンバーがいることに気付き、一瞬、足を止めたが、即座に態勢を立て直し、生徒会長へと向かった。


「ここで何をしている、早乙女?」

「いや、ちょっと部屋を間違えただけだ。直ぐに退散する」


 並んでみると、2人共、同じくらいの身長で隙を見せず、対峙している。生徒会長を呼び捨てにするなんて、と思ったけれど、よくよく考えれば2人はクラスメイトだった。それに、生徒会長と風紀委員長、格も同じなのだろう。


 決してケンカ腰ではないけれど、それでも、2人の仲は良くないらしい。……いや、後ろに控える生徒会役員たちと玲菜ちゃんたちも睨み合っていることから、生徒会と風紀委員が犬猿の仲なのかもしれない。


 まあ、私が生徒会に係わることはないだろうから、どうでも良いけれど。


 そんなことを考えながら、立ち去る生徒会のメンバーを見送っていると、生徒会長がくるりと振り返り、ばちっと目が合った。


「1つ忠告しておこう。下級生が上級生に意見を言うのは勿論、大歓迎だ。ただし、その下級生が上級生の話に耳を傾ける気があるのなら、だ。ただの我儘に付き合う気はないからな」


 私と視線を合わせて言い切った後、今度は御崎さんへと視線を向けた。


「君もそう思わないか?御崎愛璃みさき らぶりさん。自分が歌を披露している時に背中を向けられたら良い気分はしないだろう?」


 ああ、入学式に背を向けていたことを根に持っているらしい。おまけに、私と御崎さんの仲違いも狙ってる?!


 正直な話、御崎さんが私から離れ、生徒会長を好きになるなら、それはそれで構わなかった。同じ前世の記憶があるから一緒にいなければいけないとか、友達にならなければいけないなんて道理はないから。


「わ、私!た、確かに入学式のことはショックだったけれど、愛里お姉さまに理由を聞いたら納得できたし、そもそも私の歌がもっと上手ければお姉さまも感動させられたかもしれない。そう考えたら、表向き上手いと褒めても内心でバカにする人たちより、最初から下手だと背を向けて、はっきり言ってくれるお姉さまの方が好きです!」


み、御崎さん。援護してくれるのは嬉しいけれど、『お姉さま』って……あ、実南がニンマリ笑ったっ!祐兄も面白そうな顔してるしっ!


 私の個人的な予測では、ここは笑い或は嘲笑が起きるだろうと思っていたら、意外にも生徒会側から反論が上がった。


「それじゃあ何?生徒会長の挨拶が下手くそだった、もっと上手ければ全員が耳を傾けるって言いたいの?」


 口火を切ったのは緑川棗みどりかわ なつめだった。気持ちは分かるけれど、堂々と『下手くそ』って言うかな。生徒会長の顔が引きつってる……けれど、片割れの緑川千歳みどりかわ ちとせはニヤニヤしてる。もしかして、ワザとからかってるのかも。


 人間関係の綾を見るのは楽しいけれど、御崎さんは失言したとばかり狼狽えている。どれ、私が引き金だったのだから後始末でもしましょうかね。


「新入生諸君、入学おめでとう!私はこの学園の生徒会会長をしている早乙女貴教だ」


 すっくと立ち上がると、生徒会長の声を真似して入学式の挨拶を再現した。彼の言葉はゲームの中で何度も何度も繰り返し聞いた。息の継ぎ方、言葉の溜め方、一言一句、違わず頭の中に入っている。


 尤も、全く同じ内容を喋ったか否かは賭けだったが、1分ほどで会長が耐え切れなくなったようで、さっと手を挙げて遮った。


「私の真似をして何が言いたい?」

「生徒会長の演説は下手くそではなかった、ということです。全て記憶していますから。ただ、私自身、あのような丸テーブルに座るのは初めてだったので、どうして良いか分からず背を向けていたのです。ご無礼をお許しください」

「……」


 生徒会長は、私の健気な謝罪に胡散臭げな視線を向ける。まあ、本当は聞いてなかったし、丸テーブルのマナーも知ってるけど、ここは嘘も方便ってことで。


「お疑いでしたら、全て復唱いたしましょうか?」

「いや、結構だ。次からはマナーの勉強にも力を入れるように」

「了解です」


 生徒会長は、僅かに眉を潜めたが、これ以上言っても仕方ないと悟ったのか、祐兄へと向き直った。


「それよりも北村、何故お前がここに?」

「何故って、私が彼女たちを呼んだからかな。サロンは役職付の生徒しか使えないからね」

「早速、取り巻きを増やすのか。手回しのいいことだ」


 早乙女会長は、私たちが祐兄の取り巻きだと思ったらしい。まあ、ざっと見ても女性ばかりだけれど、実の所、身内が殆どだった。祐兄は、嫌味などものともせず、しらっと切り返す。


「そうだね。彼女たちは風紀委員の傘下に入るから、そのつもりで」

「!!」


 両者、静かに睨み合い、結果、祐兄が勝ったようだ。生徒会長は、「行くぞ」と声をかけただけで退室していった。滅多に怒らない祐兄だけど、一度、臨戦態勢になったら気迫がガラッと変わる。


 ご愁傷様、生徒会長。そして、次は私の番らしい。祐兄の視線がそのまま私へと向けられる。あ~あ、祐兄の説教が始まる……と思って観念していると、突然、名を叫ばれ、どんっと腰の辺りに衝撃が走った。


 何事かと腰の辺りを見下ろすと金色のふわふわしたモノが抱き付いていた。ナニ、コレ?!


 金色のふわふわは、よく見たら金髪巻き毛の美少年だった。ギリシャ彫刻張りに整った目鼻立ちは、そんじょそこらの攻略対象者よりよっぽど麗しい。そして、深いコバルトブルーの瞳で見つめられると、ちょっとドキッとした。


「愛里、やっと見つけた。僕の女神」


 私にだけ聞こえるように囁かれた声。美少年とは間違いなく初対面のはずなのに、何故だか懐かしくて胸が震えた。


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