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ベルサイユ宮殿の食堂はベルサイユ宮殿だった。(´゜д゜`)

 ちなみにシークレットキャラは、音楽プロデューサーらしい。通常版では、どうやって登場させるのか覚えていないそうだが、ファンディスクとやらでは、ヒロインが卒業し、音楽業界へ飛び込んでから出会うらしい。他の攻略者たちは、業界の先輩後輩アイドルという設定。


 高天原学園とは全然違う世界だけれど、某アイドル事務所とタイアップした作品で、攻略対象者たちの声は、実際のアイドルが担当したらしい。そのため、ゲームオタクばかりかアイドルオタクたちも飛びつき、売れ行きはかなり良かったとか。


 御崎さんから、件のプロデューサーに会ったら紹介すると言われたけれど、アイドルとプロデューサーの関係は友達ではなく、仕事上の付き合いだ。そこに、友達として紹介されても、相手も困るだろうし、私もイタイ人になるだろうから、やんわりお断りさせてもらった。


 本音を言えば、『私』という人間と、ゲームの中で『天野愛里』をアテた声優さんは異なる人間であるように、『彼』と彼が吹き替えた音楽プロデューサーは別人である。


 だとしたら、特に興味はないし、会ってみたいとも思わなかった。『あの人』は、既に過去の人になったのだ。


 そんなことを思いながら、ふと携帯を見ると、とっくにお昼の時間を過ぎていた。HRどころか、生徒たちは殆ど帰宅の途に就いているだろう。そして、携帯の着歴とメールボックスには、祐兄と実南から山のように怒りの文章が届いていた。


「うわわわっ!御崎さん、もうHRも終わって解散してるみたい。実南が、鞄を捨てられたくなければ食堂に来いって言ってるよ!」


 真っ青になって声も出ない御崎さんを引きずり、祐兄からもらった校舎案内図を思い出しながら校舎の反対端にある食堂へと向かう。


 結論から言うと、ベルサイユ宮殿の食堂はベルサイユ宮殿だった。


「ふわ~っ!お城の晩餐会みたいですね~!」


 御崎さんが隣で感極まった声をあげる。同じく庶民感覚の私も激しく同意だ。何しろ、ここもまた密な模様を織り上げているシルク絨毯が敷かれ、どこまで続くのか分からない長テーブルには、白いテーブルクロスがかけられ、中央には燭台とテーブルフラワーが整えられている。


 食堂奥にある壇の低い舞台には、グランドピアノに椅子や譜面台も並べられていた。入学式は終わったし、生徒も粗方、帰ったのになぁと思っていたら、夜からは教職員、理事会、高額寄付金者たちの食事会が開催されるらしい。


 後日、私と祐兄の入学により半ば強制的に高額寄付金者となった父から聞いたのだが、上品なクラシック音楽が流れる中、おほほ、うふふの腹の探り合いだったらしい。想像しただけでお腹いっぱいだ。


「誰もいませんね。閉店みたいですし」


 奥の方から食器のぶつかる微かな音や指示を出す怒声が聞こえ、何やら美味しそうな匂いまで漂っているが、目の前に置かれた2本の真鍮製ポールの間に下げられた看板は、『CLOSED』と書かれていた。


「う~ん、ちょっと待って……あ、食堂の向かいにあるサロンⅠって書いてあった」

「ここの扉には、どこにも数字なんてありませんけど?」


 御崎さんは、扉の裏に回って確認している。私も周囲をぐるり見渡すと、廊下の反対側に5つほど同じような木製の扉が等間隔に並び、一番近い扉には『Ⅲ』と金ぴかの数字が埋め込まれていた。


「どうやら反対側みたい」


 正面がⅢとあり、向かって左側の扉がⅡ、右側の扉がⅣとなれば、Ⅱの更に左隣がⅠなのだろう。そう思って見ると他の扉は全て半開きなっているのに、一番左端のⅠだけは閉じられている。


 閉じられた扉の前に立ち、緊張からかごくりと唾を飲む。一瞬だけ、ノックしようかどうしようか悩んだけれど、木製とはいえかなり厚みのあるドアだ。素手で叩いたところで、音はそれほど響きそうにない。


 それに、今更、礼儀違反を指摘された所で、実南のお説教は免れないのだ。だとしたら、手の痛みだけでも回避すべきだという結論に至り、無言のまま勢いよくドアを押し開けた。


 内部は、ベルサイユ宮殿の私室ぐらいだろうか。勿論、王族の『私室』だから間違っても4畳半などではない。ざっとみても十数畳はあるだろう。相も変わらず、艶々したシルク絨毯が敷かれ、ゴブラン織りのソファが要所要所に配置されている。


 正面やや左奥にあるトリプルソファに腰かけ、優雅にティーカップを傾ける実南の姿があった。彼女の横には、ロココ調のワゴンがあり、黒いワンピースに白のエプロンをつけたメイドさんが控えている。


澤木さわきさん。今日もとても美味しいわ」

「お褒めに預かり、光栄でございます」


 午後の柔らかな日差しが差し込み、優雅な光景が展開されている。たった今、入室した闖入者たちに目を向ける様子もない。隣に立つ御崎さんは、居たたまれないのか、もじもじし始めている。ここは、私が口火を切らねばと思った矢先、実南と視線がかち合った。


「あら、誰かと思ったら社会不適合者たちね」

「……不適合者って……」


 御崎さんは絶句しているが、実南相手に弱気は禁物。即座に態勢を立て直し、笑顔で言葉を返す。


「さすが、実南さま。人を見抜く眼力は神様ですら敵いませぬな」

「いえいえ、入学式初日からサボタージュするなんて、不適合者さまの分厚い面の皮には負けますわ」

「いやいや、図らずしてHRをサボってしまいましたが、咄嗟に庇い立て下さいました実南さまの機転には恐悦至極に存じますです、はい!」


 すうっと実南の目が細められた。私とて、伊達に彼女と長年付き合っている訳ではない。お互いに不測の事態が発生すれば、庇うのは当たり前だ。


 だが、彼女の怒り具合から察するに、かなり手強い相手だったのだろう。脳裏に自信過剰のナルシスト、佐野先生の顔が浮かんだ。生徒のためなら自分が悪者になっても構わないと考えるくらいだから、生徒思いであるのは間違いない。


 だが、こうと決めたら梃子でも動かない一途さというか、強情さがある。恐らくは祐兄の名前も引っ張り出して説得に努めたと思われる。そうでなければ、祐兄から届いた大量の不機嫌メールと呼び出しは結びつかない。


 きょろきょろと周囲を見渡すと、カウンターの前に私と御崎さんの鞄が置いてあった。さささっとカウンターへ近づき、バッグを開ける。中に納まっていた温度調節機能の付いた保冷箱を取り出し、実南の前に置いた。


この世界にスマホは存在しない設定です。作者に使用経験がないからではありません。……嘘です。経験ないです。(;´Д`)

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