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恋愛バトルゲームのヒロインはいかがですか?! ^^) _旦~~

「ヒロインVer.2?」

「そうそう!どうせなら新しくゲームを作っちゃえば良いかなって!」


 ここはゲームの世界じゃないけれど、ゲームの世界に見立てることは出来る。御崎愛璃というヒロインと、数えきれないほどの攻略対象者たち。


「数えきれない?!」

「だって、この学校以外にも男性はいるんだし、終了期限もないゲームだもの。一生に出会う男性の数なんて数えきれる?」


 ぶんぶんと首を振る御崎さんは、驚きに目をまん丸くして可愛い小動物のようだった。


「ヒロインの名前は、御崎愛璃。歌が大好きだけど、ちょっぴり恥ずかしがり屋で、自分に自信が持てない女の子、かな?」


 今度は顔を真っ赤にして、こくんと首を上下に振る。ああ、小動物の中でもウサギに似ているかも。


 ウサギ種の中で最小と言われるネザーランドドワーフ。臆病だけど、慣れてくると好奇心も露わにやんちゃ坊主と化す。この子も是非、やんちゃになってもらわねば。


「ただし、このゲーム最大ポイントは、ヒロインが最強になること!」

「さ、最強ですか?!」


 大きな瞳が、これでもかと目いっぱい開かれる。


「最強とまでは行かなくても、それなりにスキルを高くしないと恋愛バトルに生き残れないのよっ!」


 恋と戦争においてはあらゆる戦術が許される。


 というのは、前世の記憶(仮)にある私の『座右の銘』である。この格言は、相手を虜にするためなら騙しても良いとか、なりふり構わず攻めろと解釈されがちだが、そんな事は一言も書いていない。


 恋愛を戦争と同格に例えている所からも、恋愛が戦争並みに高度な駆け引きを要求されるのだと解釈すべきだ。つまり、物理的な武器を持って戦うだけではなく、情報戦、心理戦、天候、ありとあらゆる手段を講じろという意味だ。


「現在、持っている御崎さんの武器は歌だけれど、それだけじゃあ足りないわ。相手を見極めるスキルや、好きでもない男性を躱すスキル、もちろん、意中の男性を振り向かせるスキルも必要でしょ?」

「でも、私、勉強も出来ないし、取り得なんて……」


 こういったスキルは、勉強とは関係ないところで育まれる類のものだ。だが、15歳の少女に伝えても更なる混乱を引き起こすだけだろう。また、学校で学ぶ勉強も、やらないよりやった方が遥か役に立つ。


 私は、どんと彼女の背中を叩いて、けらけらと笑って見せた。


「大丈夫!今すぐに強くなれって言ってるわけじゃないわ。一生かけて強くなれば良いんだもの」


 それでも戸惑っている彼女に、ある歌姫の物語を聞かせてあげた。


「ある所に1人の男と彼を愛しく想う歌姫がいたの。男は、東隣の国に侵略されて植民地になっていた祖国を取り戻すため、兵を率いて戦いに出る。そして、終には隣国の兵士を追い出し、国を取り戻すのよ」


 歌姫は、常に男に寄り添い、歌を聞かせることで兵士たちの士気を鼓舞した。囚われていた王は、男を英雄として迎えたが、正義感が強く、影響力もある男は、ただ、政には向いていなかった。


 平和を取り戻した国で、汚職や不正を断罪する英雄に不満を抱く貴族が増え、王でさえも抑えることが難しくなった。国の再建を図っている最中に内乱が起きるのは好ましい事態ではない。


 悩んだ挙句、王は、西隣の国と同盟を結ぶことを決意した。英雄の死と引き換えに。


「英雄は、政治的手腕を持ち、頭の回転が速い王と仲良くなっていたから裏切られたと憤るのだけれど、王も苦渋の選択だった。もしも英雄が、大人しく王宮を退き、姿をくらませていたら最悪の手段は免れたかもしれない。でも、英雄は悪には屈しないと自分の信念を貫いた」


 御崎さんは、いつの間にか話に引き込まれ、うるうると涙ぐんでいる。私は、何百回と繰り返し見た映像を心に浮かべながら物語を紡いだ。


「かつては自分と共に戦場をかけた兵士たちに囲まれ、英雄は最期を覚悟した。そして、兵士たちが一斉に弓を引いた刹那、英雄の後ろに庇われていた歌姫が前へ躍り出て、英雄と共に短い生涯を終えたの」


 話し終え、辺りは、しんと静まり返った。御崎さんは、堪えていた涙をボロボロ溢しながら、「その話、知ってます」と訴えた。


「それって、『荒野の歌姫』ですよね?ベストセラー小説で、アニメ化された!私、大ファンでしたっ!!小説は疲れちゃって読めなかったけど、アニメは、何度も何度も繰り返し見ましたっ!」

「えっ?!そ、そうなのっ?!」


 御崎さんも転生者だということを頭から忘れ果てていた私は、思わずかっこつけて語っちゃった自分に赤面した。けれど、御崎さんは、そんな私に気付くこともなく、自分が如何に物語が大好きだったか喋り始めた。


 彼女の熱は私にも伝わり、ひとしきり、同じ世界を共有したのであった。


「天野さんっ!!私も歌姫みたいに、最愛の人の傍にずっと居られるよう頑張りますねっ!!」


 2人で語りつくした後、御崎さんはうっとりしながら宣言したが、私の言いたかったことは、全く違う内容だった。


「ごめん、御崎さん。私、あの話は好きだけど、歌姫の取った行動は間違っていたと思う」

「え?!」


 前世でも『荒野の歌姫』は、たった一つの愛を貫いた女性として同じ女性からも絶賛されていたから、御崎さんが意外そうに驚くのも無理はない。


 だが、本当に英雄が好きだったのなら、一人でも生き抜いて、英雄の汚名を晴らすべきだったと思うのだ。まして、その身に英雄の子を身ごもっていたのだとしたら尚更。


「え、あれ?!身ごもっていたシーンなんてあったっけ?!」


 御崎さんは狼狽えているが、確か、2人の死後、王が嘆いたシーンがあったと思う。歌姫自身、妊娠に気づいていなかっただろうというセリフと共に。


「そもそも、歌姫にもうちょっとスキルがあったら、英雄も王も追い込まれずに済んだかもしれない。もうちょっと英雄を宥められたらとか、王との交渉術が上手ければとか。ただ歌うしか出来なくて、肝心なことは人任せのくせして、いざって時にしゃしゃり出てきて死んじゃうなんて、絶対、認めないっ!!」

「……すみません」


 御崎さんが青くなって頭を下げる。あ、別に御崎さんに対する当てつけじゃないから、こっちこそゴメンッ!!


すみません、ちょっとだけ話を足しました。

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