ニューヒロイン誕生っ!( `ー´)ノ
「……それで、17歳で亡くなって、生まれ変わったってわけね」
私は、泣きじゃくる御崎さんを宥めるうち、何故か御崎さんの前世を聞くはめになってしまった。もう、HRには間に合わない。初日からサボタージュ決定である。御崎さんは、HRのことなど脳裏を掠りもしないようで、そのまま前世を思い出した時の状況を話し始めた。
「中学2年の時、体育の授業でソフトボールが頭に当たって、気絶しちゃって、保健室で目が覚めたら、前世で入院していた病室かと思っちゃって、そしたら、わあって全部思い出したの」
その部分は何となく私と状況が似ている。もしや病室って前世の記憶をよみがえらせる何かがあるのか?な~んてボンヤリ考えている間も、御崎さんの回想は続いた。
「でも、その時はゲームの世界だなんて分からなかった。愛里と愛璃で、名前がちょっぴり似ているなぁって、嬉しいなぁって思ったくらいだった」
御崎さんを取り巻く状況に変化が起こったのは、放課後、何気なく歌ったエンディングのテーマ曲『君への想いを歌に』をクラスメートに聞かれたことからだった。
「みんなから誰が作ったのか聞かれたけど、でも前世で好きだったゲームの曲です、なんて言えなくて、そしたら、いつの間にか私が作ったってことになって、話がどんどん広がって、プロにならないかっ誘いまで来て、ふっ、うう~っ」
再び、唇をかみしめて涙をこぼし始めた御崎さんの肩を抱き、落ち着かせる。御崎さんも、ひとしきり泣くとスッキリしたのか、えぐえぐしゃくりあげながらも話を続けた。
「でも、先生が高天原学園に音楽の特待生として受験したらどうかって勧めてくれて……」
「それで、ここがゲームの世界だって気付いたのね」
こくりと頷く御崎さん。ハンカチを差し出すと、思いっきりずびーっとかまれた。
「合格通知が届いた時は、信じられないくらい嬉しかった。だって、だって、大好きなゲームのヒロインになれたんだって思ったからっ、それな……に……」
「いざ入学してみたらデフォルトネームのヒロインがいた、と」
大体のあらましが見えてきて、ふうっと息を吐いた。どうやら彼女は、大好きなゲームを壊さないよう、完璧なヒロインにならなくては!と思い込んでいたらしい。髪を染め、髪型も変え、瞳の色もカラーコンタクトで、パッケージに描かれていたヒロインになりきろうとした。
コサージュを受け取る時も、ゲームを思い出して全員に挨拶をしてまわった。生徒会長から受け取ったのは、結果的に、他の生徒会のメンバーたちの手を煩わせてしまい、「いい加減にしろ!」と叱られ、コサージュを押し付けられたのだと言う。
カトレアクラスでのことも、ヒロインである私が予想外の発言をするので、ライバル意識を燃やして焦っていたらしい。
「ゲームだったら選択肢を選ぶだけだし、失敗したらリセットすれば良かった……けど、だからこそ、学校生活を知らない私でも攻略できたんだよね」
私ってやっぱりヒロインにはなれそうもないね、と自嘲の笑みをこぼす御崎さんは、今にも消えてしまいそうなほど危うかった。健康な少女の面影に、入退院を繰り返した挙句、儚くなった少女の面影が重なる。
意識するより先に体が、御崎さんを抱きしめていた。
「大丈夫!私がきっと御崎さんをヒロインにしてみせるわっ!」
あれ、前回は『みんながヒロイン』とかって言ってなかった?というツッコミが耳に痛いですが、でも御崎さんを放っておくことなんて出来ない!ええ、私が立派に彼女をヒロインにしてみせますとも!
『ヒロインVer2.0』だっ!!