ヒロイン対決っ!?(●´ω`●)
「御崎さん!シークレットキャラが誰か、知っていたら教えて欲しいのっ!」
攻略もせず、答えだけ教えてもらうなんて卑怯だけれど、ゲームがないんだから仕方がない。「お願いします!」と手を顔の前で合わせ、90度に腰を折り曲げ、ぺこりと頭を下げた。
返事がない。
やっぱり初対面で聞くなんて図々しかったかな?
(いやいや、でもやっぱり気になるんだものっ!!)
もし教えてくれるなら私の知っている攻略法、全部伝授しても良いよ。
(逆ハーでも何でも思いのままっ!)
でも、シークレットキャラを知ってるなら攻略法なんてとっくに取得済みかも。
(他に良い取引材料ってないかなぁ?!)
なんて、様々な思いが過ったものの、ふと、あまりに長すぎる沈黙に、恐る恐る顔を上げる。すると、眉間に皺を寄せて、明らかにムッとしている御崎さんの顔があった。
「み、御崎さん?!やっぱりダメ?!……あ、なら良いの!変なこと聞いちゃってごめんね!苦労せずに答えだけ聞こうなんて虫が良すぎるよねっ!今の忘れてっ!」
HRに遅れるから教室へ戻ろうと言って、彼女の手を取った。が、彼女の足が動くことはない。
「御崎さん?!」
「……シークレットキャラを聞いて、どうするつもりなの?きっと……」
低い声で、ぼそぼそ話されたので、最後の方は聞き取れなかった。とりあえず、前半の質問には答えておこう。
「私、シークレットキャラだけ全然、記憶がないの。攻略できなかったのか、忘れちゃったのか分からないんだけどね」
じっと無言で佇む御崎さん。1つの可能性が脳裏を過り、慌てて胸の前で両手を振った。
「あ、別に、シークレットキャラを攻略したいとかじゃなくて、1人だけ分からないと気になるというか、もやもやするというか。それだけだから、もう気にしないで?!」
さ、教室に戻ろうと手を引くと、思いっきり振り払われた。
「本当は、『攻略キャラに手を出すな』って言いたいんじゃないの?!『私がヒロインなんだから』って!!」
突然、怒りを爆発させた御崎さんに、瞬間、私の思考回路が固まる。そして、次の瞬間、カチッとパズルのピースが嵌った。
御崎さんの言った言葉は、そのまま御崎さんの感情を表している。御崎さんがヒロインなんだから攻略者たちに手を出すな、と。
だが、生憎、私は攻略者たちに手を出す気はない。誤解から敵視されるのも面倒なので、早い段階で誤解を解くことにした。
「さっきも言ったけど、攻略キャラに手を出す気はないわ。シークレットキャラに限らず、8人全員ね。だから、御崎さんが彼らと恋愛したければ、ご自由にどうぞ」
至って気軽に言い放ち、肩を竦める。が、御崎さんは疑り深い目で見つめ、「嘘っ!」と叫んだ。
「祐輔様や馨様をとられても構わないのっ?!」
「全然」
間髪入れず答えた私に、御崎さんの言葉が途切れる。
「ど、どうして?!だって……」
「恋愛は自由でしょ。祐兄や馨が誰を選ぼうと、それは私が決めることじゃない。それに、2人は私の所有物じゃないんだから、とるとかとられるとか考えたこともないわ」
彼女が反論する前に、話を続ける。
「あと、ヒロインって何?ここはゲームの世界に似ているけど、ゲームの世界じゃないのよ。私には私の、御崎さんには御崎さんの人生がある。自分の人生の主役は自分だけど、他人の人生の主役にはなりえないわ」
自分の人生の主役って、青春ドラマかっての!口に出すなんて恥ずかし過ぎて死ねるっ!(~_~;)
心の中で大量の汗をかきながらも、動じない風を装った。
「で、でもヒロインのデフォルトネームは……」
「そうね。デフォルトネームは私の名前、天野愛里。でも、名前なんていくらでも変えられる。そもそもゲームの主役は『天野愛里』じゃないわ。『天野愛里』を通してゲームをする『プレイヤー』が本当の主役でしょ?!」
そうなのだ。ゲームなんて所詮は、遊ぶ人ありきの世界。『プレイヤー』が攻略者たちと恋愛する仮想世界。そこに存在する女性は、ヒロインだろうがモブだろうが悪役だろうが、恋愛を盛り上げる添え物に過ぎない。
そんな『添え物たち』がヒロイン争いをしたって無意味というか、だったらいっそのこと、みんなヒロインで良いじゃないかと思うわけだ。
御崎さんに私の持論をつらつら話していると、明らかに動揺した様子で問いかけてきた。
「じゃ、じゃあ、さっきの『嘘の種』って、なんで……」
『嘘の種は良く育つ』という文句は、ゲームの中で使われた言葉だ。悪役令嬢たちが、ヒロインを貶めるために罠をしかける場面でナレーションされる。私の中では、何度も繰り返された『あの人』の声で。
「1つは、あなたがゲームを知っているのか確認したかったから。そして、もう1つは、さっき御崎さんが歌った自作の曲のこと」
私の指摘に、明らかに動揺を見せる御崎さん。そりゃそうだよね。『自作』じゃなくて『盗作』だってバレてるんだもん。
「ああ、別に告発したりしないから安心して?」
だって、証拠がない。前世の記憶(仮)で別の人が作曲してました、なんて訴えたところで下手すれば私の方が病院送りだ。
「ただね、プロのシンガーソングライターとしてやっていくなら1曲だけしか作れないなんて大変だろうなぁと思っただけ」
私の言葉に安堵した御崎さんの顔が、さあっと白くなっていく。告発しないからって許している訳じゃない。私は、最上級の笑みを浮かべて呪いの言葉を紡いだ。
「もっとも、素晴らしい曲が湯水のように湧き出てるとか、学生時代の思い出に1曲だけ歌ってみたかったとか、そんな話なら余計なお世話だったかしらね」
まさか、前世のヒット曲を全て盗作するつもりじゃないわよね、とトドメを刺す。それだけは許さない、とばかりに睨み付けると、御崎さんは、白い顔をわなわな震わせ、ぶわっと涙が溢れたかと思うと大声で泣き崩れた。
誤字など訂正しました。