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新たなる攻略者。(;^ω^)

 退屈だった入学式を終え、教室へ戻るべく廊下を歩いていると、突然、男子生徒が実南の背中にのしかかった。


かおるっ!!重いよっ!!」


 実南は、男子生徒を良く知っているらしく、顔も見ないうちから鬱陶しそうに名前を呼んだ。馨と呼ばれた男子生徒は、怒っている実南を気にかける様子もなく、背中にのしかかったまま手にしていたコサージュを私の方へと差し出した。


 私は彼と初対面だったが、彼のことはイヤという程、知っていた。恐らく、付き合いの長そうな実南よりも、ずっと。


 彼の名前は、乾馨いぬい かおる。猫っ毛で癖のある空色の髪をショートカットにして、毛先をワックスで遊ばせている。オレンジに輝く瞳は、いつでも楽しそうに煌めき、クラスのムードメーカーとなっている。


 つまり、誰にでも気さくに接する反面、本心は誰にも見せない臆病者。


 尤もそれは、あくまでゲーム内での話。そう。彼は私と実南のクラスメイトであり、言わずと知れた七人目の攻略者でもあった。


「お嬢さま、落し物ですよ」


 彼のセリフで我に返ったが、言葉の意味を理解すると同時に、思わず実南と見つめ合ってしまった。何故なら、私も、そして実南も胸にコサージュをつけていたから。馨も気付いたのだろう。あれ?という顔をしている。


「ご覧の通り、私たちの落し物ではないわね!」


 実南が勝ち誇ったように告げる。コサージュ1つで偉そうにしなくても、と思ったけれど、馨はさらりと受け流して説明を始めた。


「君と同じ薄紅色の髪をした女子生徒が、落としたみたいだったから追いかけて来たんだけどね」

「私と同じ髪……って、まさか?!」


 私と実南が同時に同じ人物を思い浮かべた時、後ろから躊躇いがちに声をかけられた。


「あ、あの、それ……」


 振り返ると、御崎愛璃みさき らぶりが立っていた。そして、予想通り、彼女の胸にはコサージュがなかった。


 彼女は、そっと馨の方へ伸ばしかけた手を止めた。何故なら、手の中のコサージュは、生徒たちに踏まれたのだろう。見る影もなく、ボロボロになっていた。


 普通、こんな汚いコサージュ、落とし主に届けないよなぁ。


 実南も同じ感想を抱いたのだろう。馨を見ると、彼もしまったという顔をしている。それは、なにか?私なら汚いコサージュでも構わなくて、御崎愛璃ならダメなのか?!(-_-)/~~~ピシー!ピシー!


 いっそ、馨のコサージュを取り上げて御崎愛璃に渡してやろうかと思ったけれど、ふと、ゲームのスチールが蘇った。


 馨がにっこり微笑んで自らの制服に刺さっているコサージュを、ヒロインの胸に……そして2人の恋が始まるのだった。


 そこまでコサージュにこだわるのか~っとゲンナリしたのは言うまでもない。余談だが、最初に攻略者の誰かからコサージュをもらい、落としたのを別の攻略者に拾われ、つけてもらうと2人の攻略者から愛を囁かれることになる。つまり、私のために争わないでっ!ってやつだ。


 さらに余談だが、馨一筋で進めたい場合は、受付で攻略者が決められずにウロウロしていると、なんと!コサージュが風に飛ばされ、足元に落ちてくるのだ。


 勿論、受付で出席確認しなくていいの?とか、新入生代表で歌うなら欠席はマズイだろ!というツッコミは華麗にスルーされる。


 ここで馨が御崎愛璃にコサージュを渡すと、生徒会長と争うことになって面白そうだなぁと思ったが、実南の強張った顔が目に留まった。


 ああ、そうか。


 馨が余計な行動を起こす前に、私はついっと実南のコサージュに手を伸ばし、ピンを外した。そして、御崎愛璃の胸へつけてやった。幸いにも(?)私と彼女は、ほぼ身長が同じなので、ピンを留めるふりを装って実南と馨に聞かれないよう小声で呟いた。


「嘘の種ほど良く育つ」


 彼女がギクッとしたところを見ると、何が言いたいのか伝わったらしい。


「ちょっと愛里!なんで私のコサージュをとるのよ!」

「だって、汚れたコサージュなんて嫌だし?!」

「私だって嫌よっ!」


 私の思惑に気付かない実南が突っかかって来る。ちらっと馨を見やり、何とかしろ~と念を送ると、察しの良い彼は苦笑しながら実南を私から引き剥がした。


「離してよっ!」

「まあまあ、実南にはもっと良いもんやるからさぁ」


 言いながら馨は自らのコサージュを外し、実南の胸につけた。よし、さすがムードメーカー!さっきまできゃんきゃん騒いでいた実南が真っ赤になって俯いているし。


 後は、事の成り行きに呆然としている御崎愛璃を連れ、「先に行ってるから~」と退散した。これで2人が上手く行ったらコサージュさまさま!


 もう二度とバカにしません、と誓った。


誤字訂正しました。ご指摘、ありがとうございます!(*^_^*)

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