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僕の妹(1)

「こんにちは。君が愛里ちゃんだね。僕は北村祐輔きたむら ゆうすけです。よろしくね」

「は、はじめまして!あ、天野愛里です!よろしくお願いちましゅ!」


 母から聞かされていた女の子は、5歳にしては立派な挨拶をした後、ぺこりと頭を下げた。きっと親に教えられた言葉を繰り返したのだろう。上手く言えずに、赤くなった顔が可愛らしい。


 ちょっと拍子抜けした。


 だって、目の前で母親が亡くなるのを目撃するだけでもショックなのに、家族との思い出の詰まった記憶まで失ってしまうなんて、たった5歳の少女が経験するには辛すぎる。


 TVドラマの見過ぎかも知れないけれど、てっきり、人形みたいに記憶も感情も失くした子供が来るのかと思った。


 あ、誤解されると嫌だから言っておくけれど、TVドラマは母が好きで、つき合わされて見てるだけだよ。僕は、ニュースと『ピタゴ○スイッチ』しか興味ない。あの装置は、いつか自分でも作ってみたいんだ。


 ごほん、ごほん。話が反れたけど、そんな僕の想像を裏切って現れたのは、元気いっぱいの女の子だった。正直な話、無表情の子供が来ても、どう接したら良いのか分からなかったから助かったけどね。


 でも、今から考えると、愛里は、やっぱり普通の子供とはちょっぴり違っていた。


 幼児向けの玩具で遊ばず、家の手伝いや母のお菓子作りを見て喜んでいるような子供だった。


 それに、誰も教えていないのに漢字の読み書きや計算が出来たし、外国語も理解できるようだった。それだけならただの(?)天才児なのかもしれないけれど、妙に大人びたことも知っていた。


 例えば、僕がお弁当のフライを揚げている時、背後をチョロチョロしたかと思うと「揚げたら直ぐに、ちょびっと醤油をつけるの。そうすると冷めても美味しいし、衣がサクサクのままだからお弁当に良いのよ」と言った。


 試してみるとフライと醤油は意外にも相性が良く、ソースをかけた時と違って衣がベッチョリしなかった。どこでそんな知恵を学んだのか聞いても、「う~ん、なんとなく?」と首を捻るだけだった。


 もしかして、亡くなった愛里の母親から教わったのかとも思ったけれど、後に義父となる愛里の父親に聞いても、そんなお弁当は記憶にないと言う。


 他にも洗濯物を干す時は、裏返しに干すと縫い目が外側になって早く乾くとか、ガムが髪の毛に付いた時は油を浸した布で拭くと良いとか、『おばあちゃんの知恵袋』に載っていそうなことばかり知っていた。


 その上、口癖が「最近の子供は!」とか「昔は違ったのに!」とかで、姿さえ見なければ本当にお婆ちゃんと話しているようだった。


 もしかして新種の病気かと心配になって、こっそり母に相談したら大爆笑されたのは忘れ去りたい黒歴史だ。


 それでも小学校に上がると、いつの間にかガキ大将的な存在となって、近所の悪たれたちを従えるようになっていた。『ガキ大将』と言っても某アニメのキャラのように威張り散らすのではなく、公平で理論的で、かつ面倒見が良いから慕われているようだった。


 そして、その頃だったと思う。母の作るお菓子を多くの人に知って貰いたいと絶賛し、お菓子のコンテストに応募するよう母を説得したり、インターネットでの通販サイトも立ち上げてしまった。


 僕も義父である愛里の父も同じ気持ちだったので、一緒に母を説得し、ホームページ作りにも協力した。義父とは、それが切っ掛けで打ち解けるようになり、今では仕事の手伝いもさせて貰っていたりする。


 今考えると、それ以来、僕たちは『家族』になったように思う。と同時に、毎日、次から次へと色々なことが起きた。


 母のお菓子の虜になった玲菜と知り合い、片山建設や鴻池財閥といった雲の上の人たちとも知り合うことが出来た。それから、母にテレビや雑誌の取材が殺到し、義父の会社も経済誌で大きく取り上げられるようになった。


 僕と愛里も、『家族』ということでインタビューを受けたり、写真を撮られた。それを見たアイドル事務所から兄妹デュオでデビューしないかと持ち掛けられたが、丁重にお断りした。


 玲菜と恋人同士になり、高天原学園に通うことになった。そこでは、経済界トップクラスの家の子供たちと知り合ったが、天野の家もまた同等クラスの家となっていた。


 そうそう、母は再婚して天野姓になったが、僕は亡くなった父の名前を受け継ぐことにした。学校で名前が変わったと騒がれるのが嫌だったし、亡くなった父との思い出を名前だけでも残していきたかった。


 それと、義父と母が密かに僕と愛里の結婚を望んでいたという理由もあった。勿論、玲菜と付き合う前のことだけれどね。


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