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自殺ベルト  作者: 悠然
1/3

佐藤大輔

ジリリリリリリリリィィィィィ


目覚まし時計が6畳の部屋に鳴り響く。

布団から手が伸び、目覚まし時計を数回叩いて止めた。


(また・・・始まった)


毎日最初に思うことはこうだった。誰も望んではいないのに朝が来る。

あのままずっと夜で永遠と夢の中に入られたら良かったのに・・・。


今年で24歳になる、佐藤大輔。

なんとなく高校に行き、なんとなく大学に進み、なんとなく就職して働いている痩せ型の男だ。

佐藤はメガネを取り、リモコンでテレビの電源を入れる。


「おすすめの便利グッズを紹介!」


テレビから聞こえる。佐藤にとっては、どうでも良い事だ。

布団から立ち上がると慣れた手つきでトースターを焼き始める。

トースターを焼いている間にヤカンのお湯を沸かす。

窓の外を見ると、今日はとても良い天気だという事がわかる。


窓に反射して映る佐藤の目は遠くを見ている。


「ふぅ・・・」


反射した情けない自分の顔、そして今日がまた始まるという絶望感、同じ日々の繰り返し。

様々な事を打ち消すためのため息だった。


トースターとコーヒーが出来ると、小さなテーブルの上に運んだ。

つまらない朝の番組を見ながら飽きたトーストを食べ、猫舌でもすぐに飲めてしまうような温度の出来立てコーヒーを飲む。




コンタクトを付けて家を出た佐藤は駅のホームで一点を見つめている。

たくさんの人が並んで電車が来るのを待っている。

携帯を触っている人、音楽を聴いている人、新聞を読む人。

電車が来ると並んでいたたくさんの人は電車の小さな入り口に消えていく。

佐藤もその1人だ。


(なんでこんなに人がいつもいるんだ・・・電車をもっと大きくしてくれよ)


佐藤は心の中で毎回思う。スーツを着た佐藤は身体を小さく丸め流れに身を任せる。

電車の扉が閉まると、ゆっくり電車は動き出した。

電車から景色を楽しむ余裕などない。佐藤は足元を見ながら小さく溜め息をついた。



30分ほど電車に揺れ、目的の駅に着いた。

ここから会社まで徒歩15分ほど歩く。佐藤はこの歩く時間が好きだった。

しかしそれと同時に、死刑台にゆっくり近づいていく気分でもあった。

忙しそうに歩くスーツを着た人や眠そうな学生もいる。

道の隅をゆっくり静かに歩く佐藤を次々人は抜かしていく。

右を見ると小さな公園が見えた。いつもこの時間は誰もいないのに今日は親子で滑り台で遊んでいた。

佐藤はその光景をただただ見つめながら歩いた。



気づかないうちに佐藤は会社の入り口前にいた。

佐藤の目の前には大きな会社のビルが門番のように立っていた。

次々いくつかある入り口の自動ドアにスーツを着た人が入っていく。

佐藤の心臓は暴れた。ドキドキというのを通り越してスーパーボールのようにあちこちに弾む感覚だった。

一歩踏み出せば自動ドアは感知して開くのだが、その一歩がなかなか出ない。

手は震えた。頭が真っ白になってその場に倒れそうな気分だった。

一歩下がると、佐藤は大きな門番を背にしてその場から逃げるように早歩きで消えていった。

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