人数は数えない
私の村の外れには、小さな御神体がある。
真っ白な魔石で作られた御神体だ。
この御神体のお陰で私たちの村は、近所のリザードマン達から狙われずに済んでいると言われている。
実際の所どうなのかは知らなかったが、誰も真贋を確かめようとはしなかったし、その術もなかった。
ただ、そういう物であると昔から言い伝えられていたので、定期的にその御神体を掃除して、供物に少しばかりの食糧や工芸品を捧げるのが私たちの村の常識になっていた。
御神体は村の郊外にあるため、昼間にしか行く事は出来ない。
夜に行くには少しばかり危険だからだ。狼などが出る事もある。
しかし、大人は昼の間は仕事で忙しい。
故に、昼間に御神体の掃除や供物を捧げたりする作業はもっぱら子供の仕事であった。
大人からすれば、御神体の近所に子供が集まってくれるので託児所代わりでもあったのだろう。
御神体の所にいくときは、全員白い服を着て、狼の毛皮で作った白い被り物を被る。
真っ白な御神体にあわせるのが昔からの慣例だからだ。
毎日毎日、白い装束を着て白い石を掃除し、供物を捧げて午後には家に戻る。
それが、私たち子供の日課であった。
「今日は掃除終わったら何しようか」
「木の実集めでもする?」
「もう流石に時期じゃないし、別のことしよう」
「でも別の事ってなに?」
「すぐには思いつかないけどまぁとにかく別の事だ」
娯楽の少ない寒村であるが故、いつも会話はそんなものであった。
「じゃあ、そろそろお祭りがあるし、それの準備でもしよう。ちょっと早いけれど」
「ソレは悪くないね、そうしよう」
その提案で、私たちはお祭りの日が近付いている事を思い出て、みんなで笑いあった。
娯楽のない村あるからであろうか、私たちの村では三ヶ月に一回ほどの周期で村総出でのお祭りをする。
丁度、春夏秋冬一回ずつお祭りをするのだ。
一応、この御神体を祀るためのお祭りであるとされているため、誰も彼もが白い服を着て、白い被り物をかぶって飲み喰い、歌い踊るのだ。
お祭りそのものは勿論楽しいが、私たちは既にそれよりも準備の方が面白い事を知っていた。
頻繁にやるが故、幼い内からそういう喜びも覚えてしまったのだ。
そのため、丁度日頃の遊びに飽きた頃、私たちは御神体の回りで早めにお祭りの準備を始めるのだ。
「屋台の骨組み、もう作っちゃおうか」
「当日に出す出し物も少し考えておこう。今度は何をしようか」
「前は何やったっけ?」
「確か歌ったんじゃないっけ」
「それは前の前も同じだ」
「じゃあ今度は踊ろうか」
「同じような気がするけどまぁいいんじゃないかな」
「この前新しいの覚えたから今度はそれにしよう」
私たちの知っている踊りはあまり多くないが、大抵誰か一人くらいは三ヶ月に一度は新しい歌か踊りを覚えて提案してくる。
そして、毎回それで歌い踊るのだ。
それを提案する子供が毎度毎度、普段見かけない顔をしていることは、敢えて誰もいわない。
御神体の事がみんな好きな証拠であった。
「魔王様。まだとっておきのお話があります。聞いては頂けませんか」
「佳かろう……ならばその話を聞くまでは、決して汝を**すまい」