疫病の主
雪解けの季節の頃……俺の街は疫病で全滅した。
たった一人俺だけを除いて、全滅したのだ。
こんな筈じゃなかった。
そんな月並みな言葉が脳裏で延々とループを続ける。
俺は死体の山の中で力なく、愕然と膝を付いて、小さく笑う他なかった。
どうして、こんな事になったのか。
ほんの出来心だったのだ。
毎年毎年稼ぎの少なさを馬鹿にされて、ただほんの少し、みんなよりも少しだけ多くの幸福を望んだだけだ。
三月の頭、少しばかり他の連中よりも金持ちになりたくて、祈りを捧げただけなのだ。
今年だけだっていい、俺の稼ぎを誰よりも増やして欲しいと。
それが、こんな結果に繋がっているのだとしたら……俺は一体何に祈ってしまったというのだろうか。
「こんなこと、俺は望んでいない!」
いくら虚空に吼えても、返事が返る事はない。
ただ、空しく咆哮が天に消えるのみだ。
神を呪う。責任転嫁と分かりつつも、俺は神を呪った。
俺の願いを叶えなかった神を。
こんなこと、神が叶えるはずがない。
悪魔か何かが、叶えたにきまっているのだ。
強欲と我欲の果ての汚れた願望をかなえるのは、いつの時代も悪魔と相場で決まっている。
「競う相手がいないところで一番になったって、何の意味もないだろうが!」
俺はそう吼える。吼えても吼えても、物陰の暗がりから何者かが俺を見るのみだ。
そして、その暗がりから何者かが指を刺す。廃屋をそっと。
そこで、俺はようやく……何よりも重要な事に気が付いた。
死体の山の奥にある、家財の数々……。
そう、疫病で全滅した町人達の財産は、全部そのままなのだ。
誰かが静かに呟いた。
いや、俺が呟いたのかもしれない。
それでも、確かに聞き取れた。
「死人に口なし。そして、死者は物をあの世へ持ち込まない。全て汝の物だ。汝は孤独と引き換えに、我欲を満たす術を得た」
確かに、そう聞こえた。
最早、俺は迷わずに口角を吊り上げて死体の山を漁る。
おそらく、最低最悪の火事場泥棒に転職した日であろう。
後日、俺はどの街も俺がいるだけで疫病で全滅してしまう事に気付いたが……最早後悔はしなかった。
出来るほどの良心も正気……最早持ち合わせてはいなかったのだから。
「魔王様。まだとっておきのお話があります。聞いては頂けませんか」
「佳かろう……ならばその話を聞くまでは、決して汝を**すまい」