過ぎたる力を求めるべからず
「では、儀式を始める」
黒いフードつきのローブを目深に被り、中央に座す老婆はそう呟いた。
禍々しいバジリスクの頭蓋を魔法陣の中心に置き、教会の目を欺くべく、力ある存在を召喚しようとしているのだ。
私はといえば、周囲を取り巻く見習い魔女の一人でしかない。
儀式についてもそれ以上は知らない。
そう、私達は魔女である。
教会から異端者として追われ、命を常に狙われている魔道の使い手だ。
教会の起源については良く知らないし、知るつもりもないが、彼等は私達のような魔女を常に追いたて、見つけ次第、火炙りにしている。
恐らく、彼等の使う神の奇跡とやらと、私達魔女の使う魔術が原理的には同じ物であることを世間一般から隠したいがためなのであろう。
魔道技術の独占を目論む彼等からすれば、私達のような教会に属さない魔道の使い手がいることは何かと不都合なのだ。
しかし、だからといって我々も座してただ死を待つわけではない。
形式ばった彼等の術法よりも、我々の術法のほうがより深く魔道の真理に触れているのだ。
半端者の集まりに過ぎない教会の目を欺くことなど、造作もない。
魔法陣を囲み、私たちは小さな声で祈言を呟き続ける。
そして、その甲斐あってか……次第に蝋燭で照らされていたはずの部屋はいつの間にか闇に包まれ、魔法陣の中心から何者かが我々に語りかけてきた。
暗闇の中でも、その輪郭ははっきりとしている。
角の生えた……巨大な何か。
暗闇の中でも赤く爛々と輝く、吊り上がった瞳は間違いなく人のそれではない。
「悪魔……」
無意識に、私がそう呟けば、それは心底おかしそうに笑ってから答えた。
「如何にも。我は、望みに応じて現世に参じた悪魔だ」
「悪魔よ、貴殿の力を我々に貸して欲しい」
「佳かろう。ただし、供物がなければそれには応じられない。私は悪魔であるがゆえ」
「では、好きな供物を持っていけ。この場の誰もがそれを承知している」
「ほう、好きな供物といったか……では……そうさな」
そういって、悪魔は笑った。そのとき……表が騒がしくなった。
間違いない、この騒々しさは教会の査察だ。
我々が騒然とし、やおら立ち上がり始めると、悪魔は笑った。
「汝等の悲鳴と恐怖……そして、断末魔の叫びを捧げて貰おうか。さぁ、逃げ惑え。最後の一人になるまで。最後の一人には、契約通り私の力を与えよう」
彼はそういって、我々の前から消えた。
彼のいう供物は、そういうことなのか。
悪魔の力に頼ろうとしたことが間違いだったのだろうか。
「魔王様。まだとっておきのお話があります。聞いては頂けませんか」
「佳かろう……ならばその話を聞くまでは、決して汝を**すまい」