満月に照らされて
「なぁ、先生ってどんな話書いてるんだい?」
事後。彼女はそう聞いてくる。
以前、何をしているのか聞かれたとき、うっかり物書きの真似事をしていると答えてしまったせいだ。
「他人が書いたような話だよ」
そう、ベッドの上で背を向けたまま、気のない声で答える。
僕はゴーストライターなので、それ以上の事は言えない。あんまり言うと仕事を失う羽目になる。
今となっては、別に失ってもいい仕事のようにも思うが実際そういうわけにもいかない。
それに、物書きの仕事はどんな仕事であれ、好きなのだ。
好きな事をして金が貰えるのだから根本的に嫌いになれるわけがない。
うんざりすることや、嫌になることは当然あるが、好きなのだ。
なので言えない。
それでも、彼女は豊満な胸を背中に押し付けて、自らの辰砂のように紅い髪を指に絡めながら、僕に擦り寄って聞いてくる。
「それでも先生が書いた話なんだろ? だったら教えてくれたっていいじゃないか。これでも先生のお陰で結構稼がせて貰ってるから、本を買う金くらいはあるつもりだよ? 少なくとも今晩分で十分稼がせて貰ってる」
「そりゃ十分過ぎるくらいに稼いでるだろうね……お前、結構高いからな」
「安売りはしない主義なんで」
「僕とは大違いだな」
鼻で笑って、窓から見える満月を眺める。
こういう日は、決まって彼女を買う。
満月の夜なら、月明かりに照らされて、彼女の肢体がより一層はっきりと見えるからだ。
暗い雨夜に身体を寄せ合うのも悪くはないが、出来れば僕は良く見たいほうなのでこういう日を選ぶ。
尤も、彼女に言うと満月の日は割り増しになるかもしれないので決して言わないが。
「どうしても、教えてくれないの?」
「どうしてもだ。宣伝はあまりしない主義でね」
「宣伝しなきゃ売れないよ?」
「他人が書いたような話なんだから売れても売れなくてもいい」
「妙なところ偏屈だよねぇ」
「よく言われる……それより、料金分まだ楽しんでないからな。そろそろ続きだ」
そういって、はぐらかす様に振り向いて、手首をとる。
しかし、小さく声を漏らして彼女は笑い、僕の唇に手をあてた。
「教えてくれなきゃ、ここからは追加料金」
「酷く阿漕な商売だな、だったら帰るぞ」
「嘘嘘! だったら、これでどうかな、先生これが終わったらあたしに話を書いてよ。短いのでいいから。そしたら、料金まけるよ」
言われて、僕は逡巡したが……まぁそれくらいならいいかと思ってまた溜息をつく。
「わかったよ……じゃあそれで手を打とう。どんなのがいい」
そういうと、彼女は嬉しそうに笑ってこういった。
「あたしにも、希望が持てるような話がいい」
「魔王様。まだとっておきのお話があります。聞いては頂けませんか」
「佳かろう……ならばその話を聞くまでは、決して汝を**すまい」




