君がそう望むから
「あのさ、俺はさ。確かにこれが好きだとはいったよ」
弁当の蓋を開けてうんざりした顔のまま、そう呟く。
「確かに唐揚げは大好物だ。弁当に数個入ってるともっと入らないかなぁとかいつも思うし、手を付けるたびにもっと一杯はいってりゃいいのになぁとかいつもいってるよ」
隣でニコニコと笑っている彼女を見ながらそう続ける。
実際嬉しい。
好物が一杯ならそりゃ嬉しい。普通ならうれしい。
しかし、だ。
「でもさ……何にでも、限度ってモンがあるだろ!? これはどう見てのその限度を力一杯踏み越えている! みろよ、弁当箱一杯唐揚げしかはいってねぇじゃねーか! こんな一面まっ茶色な弁当食い続けたら胃がどうにかなっちまうわ! せめてなんか彩りよくなるようにサラダとか添え物とかいれようよ!?」
「そうなの?」
「そうなんだよ! 少なくとも俺は!」
「でも、ライオンさんは好きなモノしか食べてないわよ?」
「いや、ライオンはそりゃ肉食だから好きなもんしか食えないっつーか……つか、なんでライオンでてきた? 俺とライオンの因果関係は何?」
訝しげな顔で彼女にそう尋ねれば、彼女は小さく微笑んで目を細める。
いつもの仕草だ。
いうと調子にのるので絶対にいわないが、俺は彼女のその仕草が結構好きだ。
そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、彼女は蟲惑的に呟く。
「んーそうねぇ……ライオンさんみたいに優しいところ、かな? あと、私の思い通りになってくれるところ」
「惚れた弱みって奴があるからまぁ後者は納得するとして……前者はなにそれ? 謎掛けかなんか? それとも前彼かなんかの暗喩?」
「あと、そうやってすぐ妬いてくれる所も結構好きかな」
「質問に答えろや!!」
赤面を誤魔化すようについ喚く。まぁいつものことだ。
彼女はどことなく不思議というか捉えどころがないというか、良く分からない。
結構前に動物園で出会ってから、程なくして俺たちは付き合うようになった。
どうして付き合うようになったかといえば、俺が告白したからで。
どうして告白したのかといえば、放っておけなかったからで。
どうして放っておけなかったのかといえば……。
「そういえば、そういうアナタはどうして私に好きっていってくれたの? お弁当を節操なく茶色でしきつめちゃうような女のどこに」
「ひとめぼれ」
「それが嘘と分かる程度にはもうアナタと浅い関係じゃないつもりなんだけど?」
それに対して、つい俺も意地悪に口元を歪めてから、こう呟いてしまう。
「お前がそれを望んだから、かな」
答えとしちゃ、それで十分だろ。
「魔王様。まだとっておきのお話があります。聞いては頂けませんか」
「佳かろう……ならばその話を聞くまでは、決して汝を**すまい」




