食卓を覗きこむ者
猟奇殺人を初めて、もう結構長い事経つ。
そう、巷で噂されている連続殺人鬼とは俺の事だ。
なんでそんな事をしているのかと問われると非常に困るが、まぁ、強いて理由をつけるなら、好奇心からと答える他ないだろう。
その程度には、何の意味も理由も無く俺は犠牲者の悲鳴を聞くのが好きだし、臓物を引きずり出すのが楽しいし、絶望に塗れた顔をした犠牲者の顔を覗きこむ事を愛おしく思っている。
みんなだって、好きな物が好きな理由について、いちいち、突っ込んで聞かれたら、多分最後は答えに窮するだろ?
それと同じ事だ。
とにかく、俺は殺しが好きなんだ。
それ以上の答えは残念ながら持ち合わせていない。
そんなわけで、今日も日課をしようと思う。
せいぜい十五分くらいで済む、簡単で楽しい日課だ。
今日のターゲットはこのレストラン。
クラーケン料理など、野趣溢れる珍味を出す事で有名な高級店だ。
ぼちぼち懐が寂しくなってきたので、趣味と実益を兼ねて今日はここをパーティ会場として選択した。
こう見えて、昔は傭兵なんかしてた俺だ。
素手でだって、そのへんの用心棒なら五人くらいまでは余裕で相手できる。
相手が素人揃いで、更に俺が今みたいにナイフを持っているなら、その十倍だってなんとかなるだろう。
数人騒ぐように、死なないけれど死ぬほど痛い所を刺して喚かせれば、九割はそれで戦意を失う。
あとはもう子羊を追い詰めて殺すのと大差ない。
いつも通りだ。
俺は鼻歌混じりに、レストランへと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」
「ああ、予約はないけれど大丈夫かな?」
「はい、勿論でございます。奥のテーブルへどうぞ」
「見ての通り手持ちもあんまりないけど、安いメニューあるかな?」
「それは勿論。きっとお客様に御満足頂ける料理を出せると自負しております」
「そいつは楽しみだ」
高級レストランのはずなんだけどな、と少し疑問には思ったが……まぁどっちにしろ皆殺しにするのだ。
関係ないだろう。
俺はずんずんと奥のテーブル席にまで進み、テーブルに座ったところで一息ついて、出された食前酒を駆けつけ一杯とばかりに一口飲む。
「!?」
それがいけなかった。
即座に身体の自由が奪われ、視界が横転する。
「こ、これは……!」
テーブルに突っ伏したまま、涎を垂らして身体を痙攣させる。
なんてこった、毒だ。
しかもこいつは……相当強力な麻痺毒じゃねぇか。
どういうことだ?
俺が焦って周囲を見回すと……周囲にいたのは、舌なめずりをする貴族共とシェフ。
「さてそれではお客様! 本日のメニューは殺人鬼のフルコースでございます! 悲鳴を聞きながら十分に御堪能くださいませ! それではまずは、活け造りにさせて頂きます! 今しばらくお待ちください!」
ああ、俺と同じ趣味かよこいつら。
いい趣味してやがるぜ。
「魔王様。まだとっておきのお話があります。聞いては頂けませんか」
「佳かろう……ならばその話を聞くまでは、決して汝を**すまい」




