迷路・2
「そんな…そんなこと、って…」
ルカミアエルはどこか信じられない様子で俯き、弱々しく頭を振る。
「…とにかく、ここは危険だから逃げないとね。後の事は、この街から出たら考えよう」
ドロシーは自分に言い聞かせるように呟く。一見冷静に見えるものの、その耳は少し伏せ気味で、尻尾は忙しなく動いている。
その様子を見てルカミアエルは、「不安なのはドロシーも同じなのだ」ということに気づき、少し落ち着きを取り戻した。
「…私が先頭で行くから、ルカちゃんは後ろを着いてきて」
「それなら、あたしも剣使えるし、魔法だって…」
「大丈夫よぉ、こう見えても私は暗殺者だし、飛び道具もあるから、ね?」
ドロシーはルカミアエルに微笑んだ。
「うん、ごめん…じゃない、ありがとうドロシー」
「どういたしまして。それじゃ、行くよ」
ドロシーが何かスキルを発動したらしく、一気に全身の感覚が研ぎ澄まされ、周りの空気が張り詰めたものに変わる。
街の中を駆け出したドロシーの後を、ルカミアエルは邪魔にならない程度に離れて走り出した。
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ドロシーの気配察知スキルのせいなのか、走りながらでもどこに人間がいて猫などの動物がいるのかが良く分かる。
割と遠くまで察知できるのは正直凄いのだが、その感覚に慣れていないせいか、警戒して思わず剣に何度も手が伸びてしまう。
自分達を追いかけていた彼らはま(・)だ(・)こちらには来られない。一番近くてもおよそ500m以上程離れている。
(これだけ遠くまで気配がわかると、凄いけれど逆に疲れるかも…)
ルカミアエルはそう思いながらも無言でドロシーの後に続く。
ドロシーは人間の気配がない処へ潜るように進んでいく。
どのくらい走っただろうか、漸く街外れの門が見えてきた。
あそこを抜ければ自由だ。
そう思った時だった。
突然、目の前の屋敷辺りから姿は見えないが数人の人間の気配がしだした。
「いまだ、捕らえろ!」
「…!?ルカちゃん、逃げ…」
振り返ったドロシーと見知らぬ人間の叫び声が重なった瞬間、ルカミアエルの意識は途切れた。