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GGO

料理探究家はクエストを放棄したい

作者: 鬼笑

『料理探究家の楽しいひととき』の続編です。


「ダメです」

「そこをなんとかよー」

「無理です」

「そう言わずによー」

「……クエストキャンセルだって言ってんでしょ!」

「そんな怒らずによー」


「くっ、こんなところでストーカークエとか、ついてないっ」




『料理探究家』である私 小々夏ここなつは、アップデート前に『謎の物体』を食わせまくり、ようやくキヨとちぇるに『毒見役』を入手させることができた。

 苦行のせいで口から半分魂が出ていたような気がしないでもないが、称号効果のレシピ判定に加えて、状態異常耐性アップというおまけまでついていたので、よしとして欲しい。

 これで、味覚実装後の味見の辛さも皆で分かち合うことができる、と今度は露店販売用の商品開発をしようと思ったのだが、『謎の物体』を作り過ぎて主要な材料が切れてしまった。そこでしぶしぶ、補充のためにタウンに久々出てくれば、こんなことに…。

 がっくりとその場に座り込んでしまう。


 条件を満たすことで突発的に始まる『強制クエスト』。

 クエストを受けなければ、延々そのNPCに付きまとわれるという、別名『ストーカークエ』だ。

 ログアウトしても、次回ログイン時にどこからともなく再び現れる。そして、付きまとわれる弊害なのか、それとも不具合バグなのか、他のNPCと会話ができない状態になってしまう。


 今も、強力粉が欲しくて雑貨屋に寄ったのに、いつも笑顔で迎えてくれるエイミーが、そっと目をそらして裏に引っ込んでしまった。


 なんだろう…、ストーカーの被害者なのに、冷たい目で遠巻きにされるなんてすっごい理不尽。まるで危険人物を見るかのような対応はやめてほしい。


 ならば、さっさとクエストを消化してしまえばいいと思うだろう。しかし、この強制クエスト、数種類パターンがあるのだが、共通していることが一つ。


『めんどくさい』


 例えば、100か所ほど回るおつかいクエや、多種多様のドロップアイテムや採集アイテムを集めろというクエ、他にもお百度参りを代わりにしてほしいなんてものもあるらしい。。

 どれもかなりの時間を要するクエであるため、報酬もそれなりにいいという話だが、アプデ前に少しでもレシピを考案しようとしている私にはそんな時間はない。


「よーよー姉ちゃん、そんなところに座ってると腰冷やすぜ?」

「うるさい、関係ないでしょ!」

「関係ならおおありだぜ。あんたが俺の女神を救ってくれるんだからな」

「やるなんて言ってないってばっ」


 怒鳴り返す私を、道行く人が遠巻きにしながら通り過ぎていった。



 ※  ※  ※



 結局、やらずにスルーすることはできず、その男と共に遭遇場所である酒場まで戻ることになった。

 男は、ダンといい、酒類関係を購入する行きつけの酒場にいつもいるNPCだった。今日が初対面というわけじゃない。何度も話しかけ、新密度を上げようとしていた相手だった。


 このGGOには、NPCに対して新密度が隠しパラメーターがあるという噂だった。


 その新密度により、対応が変わったりクエストが発生したりするらしい。

 私も行きつけの店では、何かクエストが発生しないかな? お得な情報ないかな? 新しいレシピとかでないかなー?! と下心満載で、話しかけていたりしたわけだが―――。


「ストーカークエを引き当てるとか、下心が過ぎたのかなぁ…」

「あん? 何か言ったか」

「な ん に もっ。それで、何の用なの」

 そう言うと、ピコーンっとメッセージが浮かびあがる。


 クエスト『ダンの初恋』を受諾しました。


 私の顔が引きつったのは仕方がないことだろう。

 もっと言うなら、むさ苦しい40も越えたようなくたびれた親父を、頭の先から爪の先までじっくり見てしまったのは、当然だと主張したい!


 誰もおっさんの初恋とか興味ない。


 ギロリと眼光鋭くダンを睨みつけ、「で、用件は?!」と、八つ当たり気味に酒場のテーブルを叩きながら再度促すと、何故か急に大人しくなったダンが顔を引きつらせながら話し出した。

「俺は、とうとう女神を見つけたんだ…」

「へー」

 どうやら、話を聞くことさせも、かなりめんどくさい作業になりそうだ。


 案の定、ダンの話はあっちへふらふらこっちへふらふら、無意味な装飾語が盛りだくさんだった。何度、お前は夢見る女子か! とツッコミたくなったか。耐えた私、エライ。と現実逃避を兼ねて自分を褒めたい。


 要約すると、『最近酒場におつかいにくる娘に恋しちゃったの、うふふ』らしい。


「だから、どうした」

 勝手にしてくれ、という思いがにじみ出した、私の冷たい相槌にも怯まず、ダンはなおも話を続ける。

「だけどよー、相手の親御さんによく思われてなくて。最近は、おつかいにも来ねーんだよ。見ることもできないなんて、俺はもう死んでしまうっ」

「………当然でしょ。誰が昼間っから酒場に入り浸ってる男と娘を仲良くさせるか。それが嫌だと思うなら汗水流して働け!」


 力の限り叫びたい。

 おっさんの恋愛相談とか心底、興味ない! 


 一体、このクエストは何をさせたいの? 達成条件は何?

 目の前で、でもよーとかだってよーと愚痴るダンを放置して、メニュー画面からクエスト詳細を呼び出した。


『強制クエスト ダンの初恋

 いつも酒場で呑んだくれているダンは、ある日おつかいで酒場にきたサラに恋をします。

 しかし、サラの父親は大激怒。ダンはサラを見ることも叶わなくなってしまいました。

 さぁ、ダンの初恋の行方はいかに!


 達成条件 ???  成功報酬 ???』



 ナニコレ? 行方はいかにって、私が聞きたい。


「なー、聞いてんのかよ」

「はいはい、聞いてる聞いてる。そんで、どうしてほしいわけ?」

「そりゃまー、助けてほしいわけよ。サラはきっと、あの父親に軟禁されてんだよ…」

 俺の女神を救ってくれ、と真剣な顔で頼み込むダンに、ちょっとほだされそうになった。

 しかし、次に吐かれたダンの惚気が、その気持ちを一瞬にして塗り替えた。


「可愛いんだよー、ホント。食べちゃいたいくらいに。ほっぺは赤くてふっくらしてて、何も知らない無垢な瞳でさー」

 その賛辞に、私は嫌な予感がビンビンしてきた。

「ちょっと、サラっていくつよ?」


「え? サラはなー、今年で14歳になる」

「滅べ、ロリコンがぁ!!」

 

 40歳(推定)と14歳。どう考えても犯罪です。

 力の限り叫んだのは、不可抗力として許してほしいんだ、店主よ。




 結局許されず、あまりに騒ぐので酒場からも追い出されてしまった。

 このGGOの世界観で言えば、14歳はすでに結婚可能な年齢。ロリコン、と批難するほどのことではないのかもしれない。しかし、幼さ残る少女がこんなくたびれておやじにっと思うと、いいのかよオイと言いたい。

 すでに心はダンの協力者ではなく、サラの保護者的な立ち位置になってしまっていた。


 酒場から追い出され、サラを今すぐ救出に行くんだとダンが騒ぐので、しぶしぶ自宅を偵察することになった。


「『軟禁』なんてされてるわけないじゃない」

「されてるって! ここ数日監視してるのに、一切姿をみねーんだよ」

「『監視』ね…」


 怪しい男がウロウロしてるから、家から出さないというオチじゃないだろうか。

 一歩間違えて、付き合ってないなんてことになったら、ストーカーだよね。――――付き合って、るよね?

 そう言えば、クエストの説明にもダンの言葉にも、付き合ってるとも両想いとも一切出てこなかった。

「……ダン。ちょっと聞くけど、サラとはどういう関係?」

「知り合い以上友達未満だな!」

 胸を張って言うことじゃないだろう。予想通りの返事に脱力してしまった私は、あることに気付いた。


 このクエストは、実はダンストーカーを撃退しろっていうのが真の目的なのか!?


 贈り物は何がいいかなぁ、と『救出に行く!』と意気込んでいた奴とは思えないほど舞い上がった足取りのダンの背中を、「今なら殺せるやれる」と見つめながら、私は後についていった。



 ※  ※  ※



 花屋を覗き、雑貨屋を覗き、人ごみ溢れる市場を通り過ぎ、ようやく一つの露店で髪飾りを買った。

 その髪飾りを眺めて、本当に嬉しそうに笑うダンの顔を見て、思わずストーカーだということを忘れてしまいそうになる。


 ダンに連れられてきたのは、南区と西区の境くらいにあるパン屋だった。いや、正しくはパン屋を観察できる向かいの路地の陰だった。

 南区は商業の中心で、西区は盗賊などの裏稼業の中心地だった。そのパン屋は、西区の客をターゲットにしているのか、あまり明るい雰囲気ではなかった。

 

「ここでいつも見てるわけか」

「いつもじゃねーよっ。数えるくらいしかまだ来てねーし」


 うん、まだ・・ね。

 堂々と今後のストーカーも予告されたのだが、やっぱり排除すべきだろうか。


「一度客を装って行ったこともあるんだけどよー。ちょうどそのときもサラは店にいなくて、店主に聞いたら警戒されちまったのか『うちに娘はいない』とか言われて追い出されてよー」

「そのボサボサの頭と伸び放題の無精ひげで行ったわけ?」

「それが?」

 それが? じゃなくて。どっからどう見ても、不審人物。まともな親なら娘に近づけるわけないだろう。


「それからずっと、この場所で監視してるわけね」

「だって心配だろー」

「あー、はいはい」

 なんだかんだと、言い訳を続けるダンを無視して、とりあえずパン屋に行って事情を確認しようと路地から一歩踏み出した。

 次の瞬間、ドンっと勢いよく何かがぶつかってきて、路地へと押し戻された。


「きゃぁっ、ごめんなさい!」

 私とぶつかったそれは、小柄な女の子だった。

「サ、サラ!」

 後ろにいたダンが嬉しそうな声を上げ、駆け寄ってくる。そのまま、一緒に倒れていた女の子を立ちあがらせ、「怪我はねーか?」と心配そうに声をかけた。


「あ、ダンさん。どうしたんですか、こんなところで」

「いや、あのよー。最近酒場に来ないから…」


 親に軟禁されてると思って、とは言えないだろう。案の定口ごもったダンの言葉をどう解釈したのか、サラはニッコリ笑って「心配してくれたんですか?」と嬉しそうに言った。

「おぅ。元気なら、それでいいんだ。あとっ、その―――サラに似合いそうなの見つけてよ」

「わぁ、ありがとうございます! あ、家に寄ってもらえればいいんですが、お父さんが…」

「いいっていいって。俺は怪しい奴って思われるらしいしよ…」

「そんなことっ」


 え、なにこの展開。

 もしかして、サラも満更じゃないわけ?

 ダンストーカーを排除すべき、と心が傾いていた私は肩すかしをくらった気分になった。


 とりあえず、地面に転がりながら見る茶番じゃないな、と遠い目をしていると、サラがこちらを振り返った。


「えっと、さっきはごめんなさい」

「あぁ、うん。大丈夫だから」

「そうそう。こいつが情けねーんだよ。仮にも探究者のくせに、か弱いサラがぶつかっただけで倒れるなんてよー」


 悪かったな。弱っちくて!

 ここまで付き合ってきたが、軟禁されているわけでもないのだから、もうこれ以上はいいだろう。


「ダン。会えてよかったじゃない。これで私の手助けもいらないでしょ」

「ああ、付き合ってくれてどうもな!」

「あの、ご迷惑をかけたお詫びにコレをどうぞ」


 家の売り物なのか、焼き立てのパンを差し出された。


 ピローンとメッセージが出る。


『クエスト ダンの初恋 完了(C)

 悩むダンの背中を押し、サラと出会わせた。


 達成条件 ダンと一緒にサラと出会う  成功報酬 焼き立てパン1個』



 強制クエストのくせに、パン1個か!

 しょぼすぎる…。というか、こんな1日で終わるほど短いクエストじゃなかったはずなんだけど。

 不思議に思いながら、「ありがと」とサラから『焼き立てパン』を受け取った。


「じゃぁ、ありがとよー」

「もう面倒かけないでよ」


 手を振るダンにクギを刺して、予定通り買い物をしようと南区の中心へと戻っていった。



「それにしても……ホントに終わったの? ストーカークエなのに、こんな簡単でいいのかな。まぁ、報酬しょぼかったし―――」

 と鞄を開けて中を確認したとき、ふっと視界の隅に移った数字に愕然とする。


「しょじきん、ぜろ…」

 ホームの金庫に入れるのも面倒だ、とお金はすべて持ち歩いていた。なので、もちろんゼロコインなんてありえない。

「いやいやいやいや?! あったよ、200万ほど! 何? バグ????」

 血が通ってないはずなのに、急速に血圧が下がっていくような気分になった。ドキドキと心臓が脈打ち、焦ると同時に急に冷や汗が吹き出る。


 VRの技術すげー。


「じゃなかった! キヨ、ちぇるーーー。へるぷーーーーー!!」


 自分じゃ処理できないパニックの末、私はフレンドチャットの画面を開き、頼れる友達二人に助けを求めた。



 ※  ※  ※



 結果、ちぇるはオフラインだった。キヨはちょうど狩りを終えてホームにいたところだったようで、ヘルプコールに慌てて駆けつけてくれた。

 それまでの経緯を話終えると、ようやく所持金ゼロ状態がバグではないことを教えてもらった。


「クエスト画面開け」

「え? うん」

「現在進行中のクエストを確認しろ」


 そう言われてみると、進行中クエストの一つに見慣れないものがあった。


『強制クエスト2 スリを捕まえろ!

 所持金をすべてすられてしまいました。

 制限時間内にスリを捕まえましょう。


 達成条件 スリの捕獲  成功報酬 所持金 + 賞金200,000

 制限時間 2:38                     』



「ええええ、スリ? スリって誰が?!」

「やっぱりか…。ストーカークエにはいくつか特殊なモノがあるんだ。その一つにクエが簡単に終わったと思ったら、所持金失ったというパターンのがある」

「ナニソレコワイ」

「制限時間内にスリを捕まえられなかったり、気付かずマップを移動すると『クエスト失敗 所持金を失いました』ってメッセージがでるらしい」

「ひ、ひどい」

「ナツも悪い。だから、ホームの金庫に保管しとけって言っただろ」

「だって、面倒で」


 買い物は常に鞄の中の所持金で支払われる。ホームの金庫に分けて預けておいても、いざというときに使えないず、足りなくなったら取りに戻らないといけないという不都合があった。

 サイフ落とすこともないんだし、と全財産を持ち歩いてたというのに、クエストでスリに合う可能性があるなんて知らなかった。


 がっくりと力なく項垂れる私を見て、キヨが「ほら、落ち込んでるな」と声をかける。

「制限時間内に見つければいいんだよ」

 にやりと笑う顔は自信に充ち溢れていた。

 誰がスリかわからない状況で、そんなことを言えるなんて―――。

「きゃー、キヨかっこいいー! 惚れるぅ」

 頼もしいキヨの背中をバンバンと叩いて茶化すと、キヨは「いてーよ、からかうなっ」と照れたように嫌がって逃げた。

 キヨのおかげでパニックも治まったし、サイフを落としたときの泣きたくなるくらいの絶望感もどっかへ行った。

 ゲームなんだから、楽しまなければ損。

 クエストなんだから、必ずヒントは残ってる。

 よし、と気合を入れて顔を上げる。


「捕まえればいいんだよね」

「あぁ。10分以上のログアウトも失敗らしいからな。さっさと探すぞ!」


 制限時間 2:27

完全に趣味で書いています。ので、批判はご遠慮ください。



『クエスト ダンの初恋』


Aルート ダンの甲斐性のなさを説教し更生させる。

     ダンに特技を身につけさせ、就職先を見つける。

     (通常ルート・様々な店と交渉するため、1週間はかかる

      成功報酬は酒場の店主から酒のレシピ)


Bルート ダンの恋愛が上手くいくように、一人でサラのことを調べてくる。

     ストーカーの手伝い(笑)

     (即解決ルート・成功報酬 ダンから酒1杯おごり)


Cルート ダンとサラを出会わせる。(ダンと一緒にサラと出会う)

     (特殊ルート

      成功報酬・焼き立てパン1個<クエストアイテム>

      強制クエスト2『スリをつかまえろ』へ移行)


クエ終了を優先させるなら、やっぱりBルートだったのかもしれません。Cルートは早く終わるけど、スリ(笑)     

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