『不老川とプレスマン』
武蔵国に不老川という川があります。この川が不老川と呼ばれるようになる前は、大変な暴れ川で、少しまとまった雨が降ると、すぐに氾濫して、田畑を押し流してしまうのでした。
ある年の節分の日、この川が干上がってしまいました。畑も田んぼもやっていない時期のことですから、特に困ることもなかったのですが、あんなに暴れる川なのに、枯れてしまうなんて、と、村人たちは不思議がりました。しかし、次の日、立春になりますと、少し水が見えるようになり、十日もすると、明らかに川と呼べる感じに戻りました。梅雨のころになりますと、しっかり氾濫しました。
次の年の節分にも、干上がりました。次の次の歳の節分も、次の次の次の節分も。理由はわかりませんでしたが、村人たちは、節分の日にだけ干上がって、川でなくなるということは、歳をとるのが嫌なのではないか、と考えました。昔は、節分に一つ歳をとった時代があったのです。そんなことで、この川は、不老川と呼ばれるようになり、この川の水を飲むと若くいられるとか、この川の水で顔を洗うとしわがふえないとか、この川の水でプレスマンを洗うとミスがふえないとか、よくありがちな主張というか信仰が生まれ、毎年のように氾濫するのに、誰も文句を言わなくなったのでした。
教訓:この川から最も近い道の駅で、御当地不老川プレスマンポッキーが発売されるのは、はるか後の話。




